京都市交響楽団第691回定期演奏会


  2024年7月27日(土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

沖澤のどか指揮/京都市交響楽団
上原彩子(ピアノ)

プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第3番
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「ペトルーシカ」(1947年版)

座席:S席 3階C2列24番


沖澤のどかの常任指揮者2年目の初めて定期演奏会です。沖澤は4月に関西6オケ!2024で京響を指揮。6月にはNHK交響楽団の定期公演を初めて指揮しました(2024.6.14&15)。本公演の前週には「Noster presents ZERO歳からのみんなのコンサート2024「打楽器で遊ぼう~キッチン・コンチェルト」」で京響を2公演指揮しました(2024.7.20 呉竹文化センター、2024.7.21 西文化会館ウエスティ、チケットは全席完売)。

沖澤は今年度の定期演奏会は、本公演と第695回定期演奏会(2024.11.26)と第698回定期演奏会(2025.3.14&15)の3公演を指揮する予定でしたが、沖澤が11月に第二子を出産予定となったため、第695回定期演奏会は出演を取りやめることが6月28日に発表されました。曲目を一部変更して、代役として鈴木雅明が指揮します。

また、本公演に先立つ7月24日には、沖澤のどかの第14代常任指揮者の任期をさらに3年間(2029年3月31日まで)延長することが発表されました。当初の3年間の任期満了までまだ1年半ありますが、早くもさらに3年引き受けていただけて本当によかったです。記者会見には、京都市交響楽団楽団長の松井孝治市長も同席されました。沖澤は「すべての定期演奏会を売り切れにしたい」「京響を聴くために、「そうだ、京都に行こう!」となるようにしていきたい」と抱負を語りました。松井孝治もX(@matsuikoji)で「練習環境を改善し、関東圏とはひと味違った毛色の演奏会を行う」など今後の展望を述べています。

本公演は金曜日夜の「フライデー・ナイト・スペシャル」はなく、土曜昼の本公演のみでした。チケットは6月3日に早くも完売しました。京響友の会「チケット会員」の「セレクト・セット会員(Sセット)」の「クーポンID」を使用しましたが、4月(第688回定期演奏会)、5月(第689回定期演奏会「首席客演指揮者就任披露演奏会」)、6月(第690回定期演奏会)と本公演と毎月聴いたので、早くも4枚のクーポンを使い切ってしまいました。

開演前のロビーでは、佐々木酒造のお酒「聚楽第 京乃響」が発売されて、行列ができました。オンキヨー株式会社の加振技術で、発酵時に京響の演奏を振動として伝えて作られました。抽選で10名に沖澤のどかのサイン入りプログラムが当たるとのこと。私は日本酒をたしなまないのと、沖澤のどかのサインは2021年度のクラウドファンディングですでに持っているので購入しませんでしたが、3300円で60本が先行発売されて、休憩中に完売しました。オンキヨーの公式ショップでも購入できます。また、京都懐紙専門店の辻徳からアクセサリーが発売されて、女性客が多く購入されていました。

14:00からプレトーク。沖澤は「暑いですねぇ。東北の人間は生きていくだけで必死」と話しましたが、この日の京都の最高気温は36.9℃でした。最初に、2029年3月までの常任指揮者の任期延長を報告して、客席から大きな拍手。また、第二子の出産予定と11月定期の降板も報告しました。「初めて京響を指揮したときは第1子を妊娠していた」と第661回定期演奏会を回想しましたが、この演奏会を聴いた人は客席からチラホラ手が挙がりました(私もその一人)。また、辻徳の髪飾りも紹介。黒色で沖澤の髪も黒いのであまり目立ちませんが、沖澤は「紙布を使ったアクセサリーで、京都らしいものをつけて舞台に立ちたいと思っていた。3月の定期では蝶ネクタイとカフスをつける。軽い」と話しました。佐々木酒造の日本酒については、「(昨年10月の)オーケストラ・ディスカバリーのベートーヴェンの演奏を聴かせた」と紹介。また、この日開幕した「パリオリンピックの開会式を観たが、日本人の感覚からするとかなり攻めている」と感想を語りました。その後は各曲を解説して(詳細は後述)、10分で終了しました。開演前の客席は私語が少なく、期待感からなのかいつもの京響定期よりも少し緊張感がありました。

コンサートマスターは泉原隆志。隣に客演アシスタント・コンサートマスターの赤松由夏(関西フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスター)。石田泰尚(特別客演コンサートマスター)が今年度の定期演奏会にはまだ出演していませんが、石田組の結成10周年ツアーや日本武道館公演(2024.11.10)の準備で忙しいのかもしれません。また、2025年4月1日から横浜みなとみらいホール「プロデューサー in レジデンス」第3代プロデューサーに就任することが発表されたので、京都に来る機会がさらに減ってしまうかもしれません。首席ヴィオラ奏者だった小峰航一が6月で退団して7月から東京フィルハーモニー交響楽団首席ヴィオラ奏者として移籍したので、ソロ首席ヴィオラ奏者の店村眞積がひさびさに出演しました。指揮台の横に踏み台がありました。

プログラム1曲目は、プロコフィエフ作曲/ピアノ協奏曲第3番。ピアノ独奏は上原彩子。プレトークで沖澤は「プロコフィエフは大好きな作曲家で、ピアノ協奏曲第2番で修了試験を受けて、論文を書いた。パンチや毒が効いているところがある。京響の瞬発力や鳴らすところを鳴らすのに合っている」と話しました。関西6オケ!2024の「ロメオとジュリエット」組曲からセレクション」に続いてのプロコフィエフです。

上原彩子はおそらく京響定期に出演するのが今回が初めてです。オレンジ色のドレスで登場。京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.3「天才が見つけた天才たち――セルゲイ・ディアギレフ生誕150年記念公演」で聴きましたが、同じ京響でもオーケストラの響きが軽くてびっくり。上原彩子は前のめりの姿勢で、たまにお尻を浮かせながら弾きました。オーケストラに溶け込んでいましたが、もっとバリバリ弾いてもいいでしょう。ちなみに使用したピアノは、デビュー20周年×ザ・シンフォニーホール開館40周年 上原彩子プレミアム・リサイタルと同じくスタインウェイでした。
第1楽章のカスタネットとタンバリンは、第2ヴァイオリンの後ろに配置。237小節からの木管楽器のハチャメチャ感がいい。打楽器の強烈な一撃で締めくくりました。第2楽章は不思議な浮遊感。最後の大太鼓を強調。mpですが、こんなに打楽器を強調するとは意外でした。第3楽章は上原が本領発揮。テンポが速く、147小節からの中間部は優雅に歌います。ただし、後半は京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.3「天才が見つけた天才たち――セルゲイ・ディアギレフ生誕150年記念公演」もそうでしたが、同じパッセージの繰り返しで無機質に感じてしまうので、せっかく上原が弾くなら、もう少し変化がある作品の方がよかったです。

拍手に応えて、上原がアンコールドビュッシー作曲/「子供の領分」から「ゴリウォーグのケークウォーク」を演奏。まさかのフランス音楽とは意外な選曲でした。上原のドビュッシーは初めて聴きましたが、粒がはっきり聴こえました。上原は、今年3月から「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会」に挑戦中で、レパートリーを広げています。今後の活躍がますます楽しみです。

休憩後のプログラム2曲目は、ストラヴィンスキー作曲/バレエ音楽「ペトルーシカ」(1947年版)。プレトークで沖澤は「ペトルーシカは、春の祭典やプルチネルラのいいとこ取りで、抽象性、風刺、創造性がある。ストーリーはドラえもんで言うと、のび太がバレリーナ、しずかちゃんがペトルーシカ、ジャイアンがムーア人。ペトルーシカは人間ではないが、命を吹き込まれる」と分かりやすく説明。「ストラヴィンスキーのごちゃごちゃした感じのおもしろさと精緻さをリハーサルで突き詰めていった」と語りました。沖澤は昨年10月に東京交響楽団とこの作品を指揮しました(「名曲全集 第192回」 2023.10.7 ミューザ川崎シンフォニーホール)。京響では第658回定期演奏会で大植英次の指揮で聴きました。上原が使っていたピアノを撤去して、別のピアノを搬入して、指揮者の対面に設置。ピアノの長尾洋史は昨年の東京交響楽団でも演奏しました。3管編成で大編成ですが、これでも4管編成の1911年版よりは縮小されています。

響きが軽く、フランス音楽のような明るさで、京響からこんな響きが出るとは思いませんでした。特定の楽器を突出させませんが、チェレスタやハープなどの目立たないパートを聴かせてガチャガチャ感を醸し出しました。ハープはフルートの左でよく聴こえました。沖澤は立ち位置を変えずに変拍子を的確に指揮。テンポの切り替えが難しいですが、オーケストラがよく指揮棒についてきています。それでも難曲のようで、縦線が少し乱れたところがありましたが、バランスを含めて沖澤のイメージ通りの演奏ができたのではないでしょうか。休みなく続けて演奏するので、集中力が必要ですが、京響ならこのくらいできて当然とも思えました。
第1場「謝肉祭の日」は、練習番号2からチェロとコントラバスがゴリゴリ弾きます。練習番号7からはあまり内声を聴かせません。場面転換の連打はティンパニが演奏。最後までクレシェンドせずに一定の音量でした。第2場「ペトルーシカの部屋」に続いて、第3場「ムーア人の部屋」は、練習番号128からの打楽器が荒々しい。練習番号135からのトランペットソロテンポが速い。ハラルド・ナエスにブラボー。練習番号158からのティンパニの一撃が強烈。第4場「謝肉祭の夕方とペトルーシカの死」は、弦楽器が小川のせせらぎのように穏やかな表情。練習番号188からのクラリネットのsoliの後の管楽器のザワザワ感が最高。あまり原色感は出さずにモヤモヤした響きで、人の声に聴こえることがありました。練習番号240からのトロンボーンとテューバが笑ってしまうほど超速く、まるで機関銃みたい。タンバリンの「Hold Tambourine close to the floor and let it fall flat」は雛壇最後列で曇った響きで、大植英次(第658回定期演奏会)のように目立たせることはしません。最後のトランペットソロはゆっくり演奏。その背景は何の音か分からないほどブレンドされていて、これは沖澤ならではの響きで、プレトークで話したリハーサルで突き詰めたのはこのあたりでしょうか。沖澤はカーテンコールの最後は少しお疲れの表情でした。終演後に団員によるお見送りが1階行なわれましたが、松井楽団長(京都市長)がいてびっくり。松井孝治のX(@matsuikoji)によると、東響でも沖澤のペトルーシカを聴いたとのこと。

沖澤はこのあとフェスタサマーミューザKAWASAKI2024に初登場して、読売日本交響楽団を指揮(7月31日)。その後は、首席客演指揮者に就任したセイジ・オザワ 松本フェスティバルを指揮します(8月10&11日の「オーケストラ コンサート Aプログラム」と、8月25日のOMFオペラ 「プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」」)。11月にも来日して、日本フィルハーモニー交響楽団を指揮する予定でしたが、出産のため降板し、代役でパヴェウ・カプワが代役を務めます(2024.11.29&30 第766回東京定期演奏会)。さらに、2025年1月にも来日して読売日本交響楽団を指揮する予定でしたが、代役でアラン・ブリバエフが指揮します(2025.1.26 第139回横浜マチネーシリーズ)。ほとんど2ヶ月に1度のペースで日本のオーケストラを指揮する予定が組まれる多忙なスケジュールで、改めて京響との任期を延長してくれたのはよかったです。また、2025年6~7月には沖澤が芸術総監督を務める「第1回青い海と森の音楽祭」が開催されることが6月6日に発表されました。青森県三沢市出身の沖澤が「故郷の青森にもっと音楽を届けたい」という思いで実現しました。特別編成の「アオモリ・フェスティバル・オーケストラ」を指揮する予定です。

 

辻徳(左)と聚楽第 京乃響(右) 加振酒先行販売完売(左)とソリストアンコール(右)

 

(2024.8.12記)

 

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