京都市交響楽団第658回定期演奏会
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2021年7月18日(日)14:30開演
京都コンサートホール大ホール
大植英次指揮/京都市交響楽団
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「ペトルーシカ」(1947年版)
ミュライユ/シヤージュ(航跡)
ドビュッシー/交響詩「海」
座席:S席 3階C1列19番
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大植英次が京都市交響楽団を初めて指揮しました。本公演はもともとパスカル・ロフェが指揮する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための入国制限の影響等により、大植英次に変更して開催されることが6月10日に発表されました。
パスカル・ロフェは昨年の第647回定期演奏会(2020年7月25日(土)・26(日))でラヴェルとデュティユーを指揮する予定でしたが、渡航制限等のため来日が不可能となり、秋山和慶に変更して開催されました。そのため、2年連続で指揮台に立つことはできませんでした。
大植英次は2003年度に大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽監督に就任(
大阪フィルハーモニー交響楽団第368回定期演奏会「大植英次音楽監督就任披露演奏会」)し、2013年度からは桂冠指揮者に就任しました。これまで京都市交響楽団を指揮したことは一度もなかったので、まさかの人選でしたが、2日公演で集客が期待できる指揮者を考えたのでしょう(ちなみに、広上淳一も京都市交響楽団常任指揮者に就任してから、大阪フィルを指揮したことはありません)。当初のプログラムから、曲目の変更はありませんでした。大植英次がフランス音楽を指揮するのは珍しく、初めて指揮する京響とどのような化学反応が起こるか期待大でした。
ちなみに、大植英次はコロナ禍の代役で、二期会「フィデリオ」(東京フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者ダン・エッティンガーの代役)、札幌交響楽団第634回定期演奏会(首席指揮者マティアス・バーメルトの代役)、東京交響楽団では名曲全集第167回と東京オペラシティシリーズ第120回(音楽監督ジョナサン・ノットの代役)を指揮しました。
チケットは6月から100%の座席で順次発売。7月11日に京都府のまん延防止等重点措置が解除されました。祇園祭の山鉾巡行は2年連続で中止になりましたが、四条通りの人はずいぶん増えました。京都コンサートホールもクロークとホワイエのドリンクコーナーの営業がひさびさに再開されました。
14:00から
プレトーク。2019年度まではプレトークは、開演時間の20分前でしたが、今年度は開演の30分前で、10分早くなりました。密を避けて早めにホールに来てほしいということなのでしょうが、ソワレの
第657回定期演奏会もそうでしたが、客席はガラガラでした。大植英次が登場。「とても変わったプログラムだが、共通点はある」と話し、「3曲はフランスでつながっている」と説明しました(各曲の詳細は後述)。京都市交響楽団の印象について、「すばらしい演奏を楽しめた。みなさんと分かち合いたい」と話しました。早口だったので、わずか5分で終了しました。退場時に、雛壇の階段を上るのが「きつい」と漏らしました。確かに、ザ・シンフォニーホールやフェスティバルホールは床面がフラットですね。
2日公演の2日目ですが、客の入りは2割ほど。当日券と学生券も発売されて、開場前にチケットカウンターに行列ができました(後半券の発売はなし)が、
第657回定期演奏会と同じくらいの少なさでした。
コンサートマスターは、特別名誉友情コンサートマスターの豊嶋泰嗣。豊嶋の隣に、コンサートマスターの泉原隆志が座りました。大植英次の指揮台は、いつもの踏み台付きの指揮台でした。
プログラム1曲目は、
ストラヴィンスキー作曲/バレエ音楽「ペトルーシカ」(1947年版)。この曲がメインではなく、前座なのがすごいプログラムです。プレトークで大植は「ストーリーはピノキオの反対。ピノキオは亡霊になって人間になる。ロシア音楽なのにパリで初演された」と紹介しました。京都市交響楽団のInstagramに掲載された大植英次のメッセージ動画によると、今年はストラヴィンスキー没後50年とのこと。大植英次のストラヴィンスキーは、
大阪フィルハーモニー交響楽団第377回定期演奏会で「春の祭典」を聴きました。
大編成での演奏ですが、1947年版は三管編成なので、これでも1911年版よりは小さい。ピアノ(佐竹裕介)が指揮者の対面(第2ヴァイオリンとチェロの間)に配置されました。ピアノは打楽器と一緒に最後列に配置されることが多いですが、プレトークで大植は「もともとピアノ協奏曲として構想された」と語っていたので、ピアノを中央に持ってきたのは、作曲の経緯を意識したのでしょうか。
第1場「謝肉祭の日」から第4場「謝肉祭の日の夕方とペトルーシカの死」まで続けて演奏。フランス音楽らしい明るさがある作品ですが、色っぽさがなく、響きも堅め。中音がもう少し豊かに響いてほしいです。技術的には難しいらしく、木管パートが珍しく苦戦していました。第4場「謝肉祭の日の夕方とペトルーシカの死」の、タンバリンへの「Hold Tambourine close to the floor and let it fall flat」の指示は、直前に女性が上手から入場して、ヴィオラの後方で、かがんだ姿勢でタンバリンを床に落としました。ここで演奏したのは、観客に注目させるためでしょう。第1トランペットのハラルド・ナエスのソロはブラボー。
大植英次の指揮は意外にも大振りしません。客席からは気がつきませんでしたが、京都市交響楽団のTwitterに掲載された写真を見ると、眼鏡をかけて指揮していました。気になったのは、今日が2日目の公演なのにソロやデュオなどの目立つ部分で縱線が合っていないところがいくつかありました。普段の京響ならあり得ないことですが、大植の指揮が合わせにくいのか、大植との初共演の作品としては難易度が高かったようです。なお、休憩中に漏れ聞いたところでは、昨日よりは今日のほうがいい演奏だったようです。
休憩後のプログラム2曲目は、ミュライユ作曲/シヤージュ(航跡)。トリスタン・ミュライユは1947年のフランス生まれ。1985年に京都信用金庫が創立60周年記念行事として委嘱した交響的三部作「京都」の1曲で、ミュライユ「シヤージュ」、マリー・シェーファー「香を聞く」、武満徹「夢窓」の順に、小澤征爾指揮の京都市交響楽団が初演しました。大植はプレトークで「シヤージュとは目覚めるという意味で、石庭の印象をもとに作曲された」と解説しました。「航跡」という邦題からは、飛行機や船をイメージしてしまいますが、石庭の波紋の意味のようです。
引き続き大編成での演奏で、通常のチューニングに続いて、管楽器だけ低い音程でチューニング。プログラムの解説によると、4分の1音低くチューニングされるとのこと。バスドラムなどの打楽器が木魚のように連打し、波が次々と押し寄せます。管楽器が躍動感ある激しい動きで、同音を演奏して、波紋が広がるような響き。フルートが尺八のような息の入れ方でした。後半は管楽器と鍵盤楽器が重なって、鳥のさえずりのように聴こえましたが、管楽器の音程を変えた効果があったかはよく分かりませんでした。京都らしい作品かは微妙
ですが、演奏の完成度は高かったです。
プログラム3曲目は、ドビュッシー作曲/交響詩「海」。大植英次がこの曲を指揮したことは少なく、少なくとも大阪フィルの定期演奏会では指揮したことがありません。
第592回定期演奏会のジョン・アクセルロッドの開放的でスケール感のある演奏が印象に残っていますが、後述するように大植はスコアに忠実な演奏で、ヴィブラートも多くなく、ドイツで実績を積んできた大植ならではのアプローチで、堅実に聴かせました。おそらく大阪フィルハーモニー交響楽団よりも精密なのが、京都市交響楽団らしいと思いました。
第1楽章「海の夜明けから真昼まで」は、72小節からのトランペットが聴こえないほど小さいと思ったら、スコアでは確かにpでした。132小節からのハープの音符をはっきり聴かせます。137小節のコントラバスのピツィカート(arrachez)にキュー出し。ここを強調する指揮者は珍しく、ドイツ仕込みです。
第2楽章「波の戯れ」は、191小節からヴァイオリンのメロディーをスタッカート気味に演奏しましたが、ここもスコア通りでした。251小節からのハープとサスペンテッドシンバルも丁寧に演奏。
第3楽章「風と海との対話」は、56小節からのオーボエのメロディーをゆっくりテンポを揺らしながら演奏。同様に159小節からもねちっこく、三連符でタメを入れる感じです。237小節からトランペットのファンファーレはなし。その後はテンポを落とし、258小節からトランペットのコラールが厳かに聴こえました。278小節からは速いテンポ。
カーテンコールでは、大植英次が指揮台の上で両手を広げて拍手に応えました。エンターテイナーですね。終演後は場内アナウンスにしたがって時差退場でした。
大植英次は代役での指揮で、しかも初めて指揮する京都市交響楽団との共演で、レパートリーがあまり広くない大植にとっても本公演は挑戦だったことでしょう。代役を引き受けてくれて感謝です。機会があれば、次回は大植が得意なプログラムを指揮してほしいです。
ちなみに、7月21日(水)に「大阪フィルハーモニー交響楽団神戸特別演奏会」を指揮する予定だった尾高忠明(音楽監督)が体調不良のため医師の指示により出演を見合わせることになったため、桂冠指揮者の大植が指揮することが7月19日に発表されました。1週間で3公演というハードスケジュールとなりました。また、9月24日(金)と25日(土)には、ハインツ・ホリガーの代役で、「すみだクラシックへの扉第1回」で新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮することが決まっています。
客の入りは今回もさびしかったです。京都市交響楽団の定期演奏会は、第564回(2013年1月)から第579回(2014年5月)まで連続完売記録を続けていたのに、これだけ空席が多いのは信じられません。ご年輩の方が外出を自粛している影響が大きいでしょうか。4月の
スプリング・コンサートが満席だったのは、小曽根真ファンが多かったということだったのかもしれません。
なお、昨年10月にクラウドファンディングで3万円で購入した「2021年度シーズン定期演奏会全公演の指揮者・ソリストのサイン入りプログラム」が、まだ届きません。3ヶ月ごとに、開催が終了した公演のプログラムを計4回発送することになっていました。4月〜6月のプログラムがそろそろ届くでしょうか。
(2021.7.24記)