京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.3「天才が見つけた天才たち――セルゲイ・ディアギレフ生誕150年記念公演」

  
    2022年11月6日(日)14:00開演
京都コンサートホール大ホール

パスカル・ロフェ指揮/京都市交響楽団
アレクセイ・ヴォロディン(ピアノ)、石田泰尚(ヴァイオリン)

ストラヴィンスキー/「火の鳥」組曲(1919年版)
プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第3番
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェヘラザード」

座席:S席 3階C1列21番


 
パスカル・ロフェ(Pascal Rophé)が京都市交響楽団を初めて指揮しました。ピアニストのパスカル・ロジェ(Pascal Rogé)とは別人です。京都市交響楽団第658回定期演奏会を指揮する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための入国制限の影響で来日できず、大植英次が代役で指揮しました。今回が3年ぶりの来日です。パスカル・ロフェは、当初は広上淳一の後任の次期常任指揮者に目されていたようでしたが、「京都市交響楽団 新常任指揮者就任記者発表」(2022.7.12)で沖澤のどかが登場した時には本当にびっくりしました。
ロフェは、2014年から2022年までフランス国立ロワール管弦楽団の音楽監督を務め、2022年9月からクロアチア放送交響楽団の音楽監督に就任しました。
 
ちなみに、「京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクト」は今回が3回目で、Vol.1「佐渡裕指揮バーンスタイン《交響曲第3番「カディッシュ」》」(2020年11月22日)は新型コロナウイルス感染症の影響で公演中止になってしまいましたが、Vol.2「ショパン!ショパン!!ショパン!!!」(2021年11月20日)は無事に開催されました。
Vol.3の今回は、「天才が見つけた天才たち――セルゲイ・ディアギレフ生誕150年記念公演」と題して、ディアギレフの生誕150年を記念して、ディアギレフに存在を見出された3人の作曲家の作品が取り上げられました。演奏される作品とディアギレフには関係はないようです。「火の鳥」組曲が前座という重量級プログラムで、 S席6,500円、A席5,500円の2種類だけで、価格設定が高め。コンサートマスターは、特別客演コンサートマスターの石田泰尚。客の入りは6割ほど。前列は石田のファンの女性が陣取っていました。パスカル・ロフェは全曲指揮棒なしで指揮しました。
 
プログラム1曲目は、ストラヴィンスキー作曲/「火の鳥」組曲(1919年版)京都市交響楽団×石橋義正 パフォーマティブコンサート「火の鳥」よりも色彩感覚が豊富で、冒頭の「序奏」から、低弦からいつもの京響では聴けない響き。「火の鳥のヴァリアシオン」は、楽器の生音がせずに、フランス音楽風。「王女たちの輪舞」はハープを強調。「魔王カッシェイの凶悪な踊り」は色彩感が飛び出してくる。「終曲」のラストは、Allegro non troppo(7/4拍子)は速いテンポ。続く、Doppio valore Maestoso.は短くマルカート気味に。期待以上の演奏で、ロフェの指揮で、京都市交響楽団第658回定期演奏会で演奏されるはずだった「ペトルーシカ」を聴きたいですね。
 
プログラム2曲目は、プロコフィエフ作曲/ピアノ協奏曲第3番。ピアノ独奏は、アレクセイ・ヴォロディン。ロシア出身で、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団来日公演に出演したエリソ・ヴィルサラーゼに師事したとのこと。ロフェとヴォロディンは仲が良いようで、KAJIMOTOのTwitter (@Kajimoto_News) に二人で京都観光を楽しんでいる写真が掲載されました。メガネはかけずに演奏。第1楽章は、映画「蜜蜂と遠雷」を思い出しました。オーケストラとピアノの方向性がマッチしていて、重々しさはありません。ヴォロディンは前かがみにならず、淡々と弾きます。大変な難曲のはずですが、難しそうに見えないので、かえって物足りなく感じてしまいました。オーケストラは明るい音色で色彩感があります。カスタネット、タンバリン、大太鼓を演奏する打楽器奏者を、トロンボーンの前(ファゴットの横)で演奏しました。第2楽章は、主題を演奏する木管楽器とピアノのかけあいがうまい。第3楽章の冒頭は、長唄「越後獅子」に似ていますが、その後は同音の連符が続くなど、単調に聴こえてしまいました。
ヴォロディンがアンコール。ショパン作曲/12のエチュードOp.25-1。音符を密集させずに、軽々と弾きました。
 
休憩後のプログラム3曲目は、リムスキー=コルサコフ作曲/交響組曲「シェヘラザード」。ヴァイオリン独奏は、石田泰尚。ロフェはこの曲のみスコアを譜面台に置いて指揮しました。 石田はいつも以上に繊細な音色で、音量よりも音色を重視。インタビューで「最初のソロでいかにお客さんの気持ちを掴むかで勝負が決まります」「シェヘラザードの最初のソロで、お客様とステージを一つにできたらいいなと思います。とにかく綺麗な音が響くように演奏します」と語っていましたが、まさにその通りの演奏。この作品を聴くのは京都市交響楽団第511回定期演奏会「第12代常任指揮者就任披露演奏会」以来でしたが、当時よりもアンサンブルが充実してよく響いて、京響の進化を知れて感慨深い。
第1楽章「海とシンドバッドの船」は、ソロチェロが目立ちます。休みなく、第2楽章「カレンダー王子の物語」へ。木管楽器がほれぼれするほどうまい。コントラバスもよく効いています。第3楽章「若い王子と王女」 は、69小節(Pocchissimo più mosso)からはかわいらしい。中間部の行進曲が小気味いい。第4楽章「バグダードの祝祭、船は青銅の騎士の乗った岩で難破」は、打楽器の色彩感がよい。
カーテンコールでは、ロフェに指示されても石田泰尚がなかなか立たないで、ロフェに拍手を浴びせるパフォーマンスもうまい。また、オーケストラ全員で後ろのポディウム席を振り返りました。
 
パスカル・ロフェは、京響のよさを引き出してくれる指揮者で、初共演とは思えませんでした。ただし、金管楽器を中心にいつもの京響ならもう少し精度の高い演奏ができるはずなので、その点は残念。なお、ロフェは、来年5月に九州交響楽団の定期演奏会を指揮します。


翌日の11月7日(月)の14:00から、「京都市交響楽団 2023-24シーズン公演ラインナップ記者発表」が、ニコニコ動画で配信されました。ニコニコ動画での配信は、昨年度に続いて2回目です。2023年4月から第14代常任指揮者に就任する沖澤のどかが登壇し、来年度のプログラムを説明しました。なお、沖澤は前日の演奏会を客席で聴いていたようです。定期演奏会の開催日が1日公演は金曜日、2日公演は金曜日と土曜日に集約されるのが特徴で、日曜日の開催がなくなったのは残念。また、今年度から始まった「フライデー・ナイト・スペシャル」(休憩なし・約1時間プログラム)は、今年度の3回から来年度は6回に増えます。
2020年度から首席客演指揮者を務めているジョン・アクセルロッドは、今年度末で退任するとのこと。常任指揮者が不在の今シーズンを支えてくれたので、退任は残念です。また、第667回定期演奏会(2022.5.20-21)を指揮したヤン・ヴィレム・デ・フリーントが、2024年度から首席客演指揮者に就任することが発表されました。司会はYouTuberのnaco。一般からの質問は受け付けないとのことでしたが、登壇者の手元のタブレットでコメントが読めたようです。また、nacoは運営しているYouTube「厳選クラシックちゃんねる」で、11月20日(日)に「【気まぐれライブ】京都市交響楽団の来シーズンラインナップから個人的推し公演を決める!」で、ラインナップを紹介しました。個人的推し公演は、沖澤のどかが指揮する第682回定期演奏会(2023.9.23)に決まりました(翌日の東京公演と同じプログラム)。
 
また、第673回定期演奏会の1日目(2022.11.18)がニコニコ生放送でライブ配信されました。今年度から始まった「フライデー・ナイト・スペシャル」の2回目で、第667回定期演奏会(2022.5.20)に続いてのライブ配信です。今回はタイムシフトはなし(アーカイブに残らない)で、ライブ配信のみでした。19:00から配信開始。指揮者はリオ・クオクマン。マカオ出身で、香港フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を務めています、ナビゲーターは、5月と同じく羽田優里奈。19:00からリオ・クオクマンがステージ上で英語でプレトーク。最後に客席に対して「質問はありませんか?」とよびかけ。一問答えました。その後は、事前に収録したクオクマンのインタビュー映像や、京都市交響楽団練習場や前日の京都コンサートホールでの練習の映像、ステージ・マネージャーの日高成樹へのインタビュー映像などが流れました。この日から来シーズンのプログラム冊子が配布されたとのこと。開演前に、ドラマ「のだめカンタービレ」ED曲などを京都市交響楽団が演奏」のようなプッシュ通知が表示されました。京都市交響楽団第656回定期演奏会もそうでしたが、ニコニコ生放送は呼び込みがうまいですね。
19:30に開演。コンサートマスターは泉原隆志。プログラム第1曲は、ガーシュウィン作曲/ラプソディー・イン・ブルー。クオクマンが弾き振り、ピアノは屋根(=蓋)なし。クオクマンはピアノパートがないときは、立ち上がって指揮しました。また、フルートの左に、バンジョーがいました。ピアノを撤去するまでの間、舞台袖でニコニコ生放送のコメントを見て喜んでいる団員の様子が映りました。
プログラム2曲目は、R.シュトラウス作曲/歌劇「ばらの騎士」組曲。クオクマンは譜面台なしで指揮。プログラム3曲目は、ラヴェル/バレエ音楽「ラ・ヴァルス」。いい演奏でしたが、ロンドン交響楽団 日本ツアー2022で聴いたのでさすがに分が悪い。コメント数は前回よりも多く約3900で、約9000人が視聴したようです。ギフトを贈っている人もいました。1時間公演の予定が、少しオーバーして20:50頃に配信終了。アンケートでは、「1 とても良かった」が93.5%を占め、満足した人が多かったようです。
 

(2022.12.6記)

 

大阪交響楽団第124回名曲コンサート「トルヴェール・クヮルテット結成35周年記念」(夜の部) JUN'ICHI'S Café~京都コンサートホール館長の音楽談義~Vol.3「広上淳一館長の『音楽づくり』に迫る」