井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.4~道義×大ブルックナー特別展×大阪フィル~<ブルックナー生誕200年記念>


  2024年7月7日(日)14:00開演
ザ・シンフォニーホール

井上道義指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団

モーツァルト/交響曲第25番
ブルックナー/交響曲第7番(ノヴァーク版)

座席:A席 2階BB列33番


「井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン」の第4回公演です。本シリーズは全5公演で、Vol.2~道義 最後の第九~が昨年12月17日(土)に開催され、Vol.1~道義×小曽根×大阪フィル ショスタコーヴィチ&チャイコフスキー~の振替公演が3月28日(木)に延期して開催されました。さらにVol.3~道義×絶品フレンチと和のコラボ×大阪フィル~が4月6日(土)に開催されました。

本公演の「Vol.4~道義×大ブルックナー特別展×大阪フィル~<ブルックナー生誕200年記念>」では、モーツァルトとブルックナーの交響曲が演奏されました。「大ブルックナー特別展」と名付けられていますが、井上が大阪フィルの首席指揮者を務めていた頃に、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで指揮した「大ブルックナー展」との関連性を持たせたいという意図があると思われます。「大ブルックナー展」(全6回)では、第1回(2015年1月)で「第8番」、第2回(2015年6月)で「第7番」、第3回(2015年12月)で「第4番」、第4回(2016年6月)で「第1番」、第5回(2017年1月)で「第5番」、最終回(2017年5月)で「第9番」で取り上げられました。本公演はこれに続く「特別展」ということでしょう。
本公演のチラシの井上道義からのメッセージには「基本石造りの教会で一生活動したアントン・ブルックナーは、自分の作品が東洋の湿気に満ちた真夏の空気の中、長々と座わって聞いてくれる人がいるなんてこれっぽっちも考えなかったに違いありません。(略)寿司を真夏に食べられるのに等しい出来事。さらに小さな再生装置で、今やどんな曲でも無料で聞くことさえできる世の中だ。でも、本当のブルックナー音楽の体験は、きっと一生のうち何回か、聞く人が本当に求めている時に、、、いやきっと考えもせず求めもしない、偶然聴いた名演!での感激でその人の宝物になると思えます。遅咲きだった朝比奈隆と、戦後の平和の中で私が通って来た道は180度違うと思えますが、同じような得難い刻印された時が残るように僕自身も祈っています。」とのメッセージを寄せて、朝比奈隆の名前を挙げて抱負を語っています。

井上道義のブルックナーは、京都市交響楽団第529回定期演奏会で「第9番」を聴きました。大阪フィルのブルックナーは、尾高忠明指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団「未完の交響曲シンフォニーで「第9番」を聴いたばかりです。なお、尾高と大フィルは2023年1月に録音した「第7番」のCDを今年1月にリリースしました。また、今年開催される「シンフォニストの理想を求めて~モーツァルトとブルックナー」で、第0番、第2番、第1番を指揮して、ブルックナー交響曲の全曲演奏を達成する予定です。

チケットは全席完売。大フィルでは珍しく、メンバー入場時に客席から拍手。コンサートマスターは崔文洙(ソロ・コンサートマスター)。第1ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、第2ヴァイオリンの対向配置で、コントラバスはチェロの後ろ。ステージにマイクが立っていて、カメラもあったので、録音や録画がされたようです。

プログラム1曲目は、モーツァルト作曲/交響曲第25番。中編成のため、照明を中央にしぼりました。大阪交響楽団第129回名曲コンサート「モーツァルト・ア・ラ・カルト」(夜の部)とは違って、テンポが速く、躍動的でスピード感があり、訴えかけてくるような演奏。第1楽章の冒頭はヴァイオリンのシンコペーションよりも、ヴィオラの四分音符を聴かせました。井上道義は指揮台なしで指揮しました。

第1楽章が終わると、井上が譜面台に置かれていたマイクを持って、客席を振り向いて話しました。「指揮者が途中で話すのは趣味が悪いが、3日前にまた腎臓結石ができた。ブルックナー聴きに来たんでしょ。ブルックナーに集中させてほしい。今から20分休憩させてください」と話して退場。客席からは拍手。モーツァルトはわずか10分で終了しました。前週のショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲」の指揮(東京と大阪)で疲れが出たでしょうか。まったく体調不良を感じさせないパワフルな指揮で、すごくいい演奏だったので本当に残念です。第2楽章から続きが無性に聴きたくなりました。指揮者なしで演奏することもできたと思いますが、さすがにそういう判断はできなかったということでしょう。井上が指揮できなかった曲として伝説になってしまうでしょうか。ブログ「Blog ~道義より~」では「25番のシンフォニーは、息切れ極致の77歳ジジイは1楽章(ホルンの四人難曲をすっきりと吹いた)だけで逃亡したのだった」と綴っています。

休憩後のプログラム2曲目は、ブルックナー作曲/交響曲第7番(ノヴァーク版)。指揮台が設置されました。井上は譜面台にポケットスコアを置いて指揮。ワーグナーチューバ×4は、雛壇最後列の右(トロンボーン×3とテューバの後ろ)に配置。
濃密にゆったりしたテンポでじっくり聴かせます。さすが大フィルと言える演奏で、オーケストラにブルックナーが染み付いていて、聴かせどころが分かっているようで、余裕があります。言い方を変えれば、指揮者が誰でもフォーマットは決まっていて、確信を持って演奏できるようです。楽章によってあまり表情は変わりません。井上の師のチェリビダッケのようにテンポが遅くなることはありません。強奏もおだやかでしたが、金管楽器は十分すぎるほどの音量でかなり強力で、フェスティバルホールではなく、ザ・シンフォニーホールでは直接的に響きすぎました。上述の「大ブルックナー展」について、井上はブログ「Blog ~道義より~」で「兵庫のホールはブルックナー向けだと感じたのは間違えがなかった」と綴っていましたが、その通りでしょう。第2楽章はヴァイオリンが伸びやかで神々しい。ノヴァーク版なので、シンバルとトライアングルが演奏。ティンパニも豪快。第3楽章の前に床に置かれていたペットボトルの水を飲みました。第3楽章はティンパニがやや大きい。第4楽章は弦楽器のまとまりはすごくいい。

カーテンコールでは井上はちょっと泣きそうな顔を見せました。井上の体調を考慮してか、早めに客席の照明が全照になりましたが、拍手とブラボーが続き、井上は花道まで下がってオーケストラに拍手。15:50に終演しました。井上が最後に出て来て拍手を受けました。

井上道義の体調が心配になりました。ブログ「Blog ~道義より~」では、3日(水)に尿路結石発作が痛くなって入院し、4日(木)の大フィルの練習はキャンセルしたことが明かされています。練習が1日少なくなったので、モーツァルトを削ったというのが経緯でしょうか。また「コンサートの後、西ノ宮の病院に帰り、爆睡。」と報告しているので、入院されているようですね。KAJIMOTOのX(@Kajimoto_News)では「本人ブログにて記載があります通り、尿路結石の症状が出たため、医師との相談のもと、病院との往復をしながらの出演となりました。ご理解いただきました関係各所の皆様に心より御礼申し上げます。」と綴っています。
翌週の20日(土)は神奈川フィルとの最後の共演(神奈川フィルハーモニー管弦楽団みなとみらいシリーズ定期演奏会第397回)でしたが、KAJIMOTOのX(@Kajimoto_News)では「尿路結石の影響により体調不良が続いていますが、強い思いで最後までやり切りました」と報告されていますが、ブログ「Blog ~道義より~」では「今も日赤の窓は雷鳴と閃光。ゆっくり書きます。、また。」と一行書かれているだけです。どうやらまだ入院されているようですね…。昨年も兵庫芸術文化センター管弦楽団第142回定期演奏会「井上道義 最後の火の鳥」を降板したり、井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.1~道義×小曽根×大阪フィル ショスタコーヴィチ&チャイコフスキー~が延期になったりしましたが、今秋に指揮するオペラ「ラ・ボエーム」はブルックナーよりも演奏時間が長いので、大丈夫でしょうか。モーツァルトが第1楽章だけになったので返金しろとかクレームを言っているようなお客さんはいないようでしたが、美談にしてはいけない話です。

KAJIMOTOのXによると、本公演は引退まであと17公演で、ブルックナーは京都市交響楽団と「第8番」を指揮するのみです(2024.11.23 京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.5「井上道義×ブルックナー交響曲第8番」)。京響とはどんなブルックナーになるでしょうか。「井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン」(全5回)も残すところは、「Vol.5【最終回】~道義のベートーヴェン!究極の「田園」「運命」×大阪フィル~ ありがとう道義!そして永遠に!」(2024.11.30)のみとなりました。チケットはまもなく発売されます。

 

ザ・シンフォニーホール 開場

(2024.7.21記)

 

京都大学交響楽団第215回定期演奏会 京都市交響楽団第691回定期演奏会