京都市交響楽団第688回定期演奏会
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2024年4月13日(土)14:30開演 京都コンサートホール大ホール ペドロ・アルフテル指揮/京都市交響楽団 プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番 座席:S席 3階C2列24番 |
京都市交響楽団の沖澤のどか常任指揮者2年目のシーズンです。今年度から首席客演指揮者にヤン・ヴィレム・デ・フリーントが就任します。
昨年度に初めて入会した京響友の会「セレクト・セット会員(Sセット)」(18,700円)を、今年度も継続しました。対象公演の中から4枚分のチケットが予約できる「クーポンID」がメールで発行されました。一般発売よりも3日前に先行発売されるのが好都合です。紙のチケットが発券されないのが残念ですが、「入場用QRコード」をスキャンして入場します。プログラムには私の名前が掲載されています。
2024-2025シーズン最初の定期演奏会となる本公演の指揮者は、ペドロ・アルフテル。1971年にスペイン生まれ。ニュルンベルク交響楽団首席客演指揮者、バイロイト音楽祭ユースオーケストラ客演指揮者、王立セビリア交響楽団芸術監督、マエストランサ劇場芸術監督を歴任しましたが、現在はフリーのようです。京響を指揮するのは初めてですが、日本では新日本フィルハーモニー交響楽団でスペイン音楽を指揮したことがあります(2017.4.14&15 第6回ルビー<アフタヌーンコンサート・シリーズ>)。
14:00からプレトーク。ペドロ・アルフテルが通訳と登場。アルフテルは白髪で写真よりもまじめそうな風貌です。英語で話しましたが、聞きやすい。各曲の解説は後述します。10分で終了。客の入りは7割ほど。
コンサートマスターは会田莉凡(特別客演コンサートマスター)。その隣に泉原隆志(コンサートマスター)。トロンボーン奏者2名が3月で退団したので欠員の状況です。すなわち首席トロンボーン奏者だった岡本哲が相愛大学音楽学部教授に転出、井谷昭彦は定年で退団しました。本日は出演しませんでしたが、店村眞積は東京都交響楽団ヴィオラ特任首席奏者を3月末で勇退しましたが、京都市交響楽団ソロ首席ヴィオラ奏者は今年度も続投です。半円形の雛壇が客席に近づける広上シフトでした。
プログラム1曲目は、プロコフィエフ作曲/ヴァイオリン協奏曲第2番。ヴァイオリン独奏は辻彩奈。プレトークでアルフテルは「初演はマドリードで行なわれ、自分が30年以上指揮しているオーケストラが初演した(※注 マドリッド交響楽団か?)。第3楽章はスペイン風のダンスでカスタネットを使う。こじんまりして楽しく繊細な曲」と紹介しました。辻が紺色のドレスで登場。辻は27歳で、立命館大学交響楽団第128回定期演奏会以来です。打楽器×2は前の方(コントラバスの左)に配置しました。この曲ではティンパニは使われません。
この作品は京都市交響楽団第527回定期演奏会で聴きました。第1楽章はヴァイオリンソロから始まって、5拍子のモティーフが特徴的。辻はアーティキュレーションをはっきりさせて伸びやかに歌います。第2楽章は音量を抑えて少し神秘的な響き。続けて第3楽章は変拍子の連続で、カスタネットが活躍します。
アルフテルに促されて、辻がアンコール。スコット・ウィーラー作曲/アイソレーション・ラグ~ギル・シャハムのためにを演奏。プロコフィエフとはまったく性格が違う曲。途中でピツィカートもありました。ネットの情報によると、コロナ禍の2020年5月に作曲されたようです。
休憩後のプログラム2曲目は、R.シュトラウス作曲/アルプス交響曲。この作品を聴くのは、京都大学交響楽団第180回定期演奏会「創立90周年記念特別公演」(山下一史指揮)、京都市交響楽団第500回定期演奏会(大友直人指揮)、兵庫芸術文化センター管弦楽団特別演奏会「佐渡裕 アルプス交響曲」(佐渡裕指揮)に続いて4回目でした。京都市交響楽団第651回定期演奏会(2022.11.28&29)でも、サッシャ・ゲッツェルの指揮で演奏される予定でしたが、コロナ禍で来日が不可能となったため、曲目を変更して代役で大友直人が指揮しました。
プレトークでアルフテルは「20世紀の交響曲で最も重要な曲のひとつ。100個以上の楽器がある。山に登って家に帰るまでシュトラウス少年が14歳の実際の経験に基づいている(※注 プログラムの増田良介の解説では15歳)。それは恐怖を感じる嵐だった。二つ目の解釈は、夜から始まり夜に終わるが、同じ夜ではない。今咲いているサクラも同じで(アルフテルはサクラと日本語で言いました)、今年のサクラと昨年のサクラは違う。最後の夜を聴くみなさんは違う聴衆だ」と哲学的な話。「人間は自然よりも強い。最後は自然は人間を上回ることが分かる。これは今の世界の重要なテーマ」と述べました。
演奏が始まる前に、ポディウム席の後ろのパイプオルガンの前に、左からトロンボーン×2、ホルン×9、トランペット×2が整列。雛壇の最後列には左から、ハープ×2、カウベル、サンダーマシン、ティンパニ×2、ウィンドマシン、オルガンが並びました。テューバは2人います。4管編成で、団員はおそらく全員が出演して、新シーズンのオープニングにふさわしい。
日本のアルプス交響曲の演奏史に刻まれる名演でした。スペイン人のノリで打楽器が大きいと思ったら予想が外れて、オーケストラがバランスよく鳴って、外面的な効果に頼りません。管楽器も打楽器も抑制された響きで、弱奏で管楽器を弱く吹くのは技術的に難しいですが、京響ならクリアーできました。強奏でも音を外すなどのミスはまったくなし。期待以上の演奏で、京響の技術力の高さを証明しました。このままCDにして欲しいです。弦楽器はたっぷり歌わせて、音色にも一体感があります。京響の長所を活かした澄みきったアルプスでした。このような大規模の作品は、2022年度から前日にホールリハーサルができるようになったのも、演奏の完成度の向上に大きく寄与しているでしょう。
2「日の出」の弦楽器がうまい。3「登り道」の最後で、上述したパイプオルガンの前に整列したバンダに照明がつきました。スコアには「hinter der Scene(舞台裏)」「Jagdhörner von ferne(遠くから)」と書かれているので、客席からは見えないことが多いですが、あえて見せる演出でした。なお、スコアではホルンはさらに多い12人ですが、これでも壮観でぜいたくです。バンダは終わると左側から退場。バンダの出番はこれだけで、この後ステージに戻ることはなく、カーテンコールにも登場しませんでした。4「森へ入る」後半の弦楽四重奏のあとは、純粋にうまいし聴かせます。9「山の牧場で」のカウベルは、ハンガーかけのようなものに大小の大きさのカウベルが吊ってあって、ハンガーかけごと揺らして鳴らしました。速めのテンポでスイスイ進んで、13「山の頂で」の充実感はなかなか聴けないレベルで、まさに最高の演奏。14「幻影」の終わりの強奏でもここまでヴァイオリンが聴こえる演奏は珍しい。18「嵐の前の静けさ」で、ようやく2人目のティンパニの出番。ウインドマシンによる風はけっこう強めに吹きます。19「雷雨と嵐、下り坂」はオルガンがやや大きい(もう少し小さいほうが好みです)。サンダーマシンがド派手に鳴りました。21「余韻」のフルートのメロディーの後が最高で、感極まりました。まさに京響でしか聴けない演奏でした。22「夜」の後に長い沈黙のあと拍手。カーテンコールもアルフテルは謙虚な姿勢でした。
ペドロ・アルフテルは京響と初共演なのに相性抜群でした。京都市交響楽団の首席客演指揮者を2名体制にするなら間違いなくアルフテルを選ぶべきで、スペイン音楽やマーラーを聴きたいです。毎年来てほしいです。次にいつ京都に来られるか今すぐに確認してほしいくらいです。もし沖澤の推薦でアルフテルが呼ばれたのなら、沖澤も京響のキャラクターをよく理解していると言えるでしょう。
なお、広上淳一は3月末で京都コンサートホール館長を退任して、新設の京都コンサートホールミュージックアドバイザーに就任しました。10月1日から地下鉄烏丸線北山駅の車内アナウンスで、広上淳一のアナウンスが流れましたが、この日に乗ったところ流れませんでした。「京都コンサートホール館長の広上淳一です」という部分が4月以降は使えなくなってしまったということでしょう。地下鉄でアナウンスが使われたのはわずか半年間だけでした、残念。