井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.2~道義 最後の第九~
2023年12月17日(日)14:00開演 ザ・シンフォニーホール 井上道義指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 アンダーソン/クリスマス・フェスティバル 座席:A席 2階BB列33番 |
「井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン」がいよいよスタートしました。主催はABCテレビで、2024年11月までの全5公演です。いずれも井上道義が2014年4月から2017年3月まで首席指揮者を務めた大阪フィルハーモニー交響楽団を指揮します。
第1回は2023年7月に井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.1~道義×小曽根×大阪フィル ショスタコーヴィチ&チャイコフスキー~が開催される予定でしたが、井上道義の結石性腎盂腎炎による入院のため、2024年3月28日に延期になりました。そのため、Vol.2の本公演からシリーズがスタートすることになりました。
井上道義の第九は、2009年の京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」で聴き、2017年には京都市交響楽団練習風景公開で練習を見学しました。2021年には、合唱団がマスクをつけたまま歌うことに反対して、「井上道義指揮 躍動の第九」(2021.12.12)を降板する事態になりましたが、2022年12月にはNHK交響楽団と5公演指揮しました(NHK交響楽団ベートーヴェン「第9」演奏会)。その後のブログ「Blog ~道義より~」(2022.12.31)では、「道義の第九の演奏会は一旦ここまでで、筆を置きます。広島と大阪がありますが、アンコールだと捉えている。」と綴っていました。「大阪」が本公演です。「広島」とは「夏の第九Hiroshima」(2023.8.19 広島文化学園HBGホール)でしたが、降板しました(代役はアンドリス・ポーガ)。よって、井上が第九を指揮するのは、昨年のN響以来です。2024年12月の引退までまだ1年あるのに、本公演が最後とは驚きです。来年の今頃は第九を指揮しないということは、何を指揮するのでしょうか。なお、井上道義は2024年12月30日(月)の第54回サントリー音楽賞受賞記念コンサート(サントリーホール大ホール)で引退することが1月11日に発表されました。
井上道義は、大阪音楽大学第66回定期演奏会を指揮した後、「服部百音 井上道義指揮 Storia Special Orchestra「Storia Ⅲ」」(2023.12.12 東京オペラシティコンサートホール:タケミツ メモリアル)に出演しました。
チケットは全席完売でした。東京芸術劇場マエストロシリーズ 井上道義&読売日本交響楽団と同様に、アルト独唱で出演予定だった池田香織が病気療養のため降板し、林眞暎(まえ)が出演することが10月10日に発表されました。大阪フィルをシンフォニーホールで聴くのは 大阪フィル×ザ・シンフォニーホール ソワレ・シンフォニーVol.11以来ひさびさでした。本公演で配布されたプログラムは、「第九 de クリスマス ~日本テレマン協会創立60周年記念~」(2023.12.24)と「21世紀の第九」(2023.12.28)との3公演共通で、すごく省力化されています。本公演を「井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン」として聴きたい者にとっては残念。
開演前に「休憩なしの90分公演」とアナウンスされました。開演前にポディウム席に合唱団が入場。左が女声で、右が男声で、女:男は2:1の割合。弦楽器は、左から第1ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、第2ヴァイオリンで、チェロの後ろにコントラバス。コンサートマスターは崔文洙(ソロ・コンサートマスター)。
プログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱付」。すでにポディウム席に入場済みの合唱団に加えて、追加でステージ後方に2列で入場。「最後の第九」をかみしめながらか、井上道義がゆっくり入場。指揮棒を持って指揮しましたが、大振りはしません。エネルギーやパワーは内に秘めたしぶい表現。オーソドックスな解釈で変わったことはしません。新しい発見はありませんでしたが、オーケストラがうまいから特別な演出や小細工をする必要がなかったのかもしれません。上述したブログ「Blog ~道義より~」によると、第九は「たぶん僕のシンフォニー歴史で一番多く振っている」と綴っていますが、それほど「第九」に思い入れがないかもしれません。
第1楽章は315小節頃からチェロに向かって指揮。538小節の最後でフルートの高音を強調。最後の八分音符は長め。第2楽章は383小節からの「1はなし。ティンパニがマレットを2本ずつ持って4本で叩きました。珍しい。Trioの後の3回目のスケルツォは、表情を変えたいようで、踊るように指揮。第3楽章の前に、独唱の四人が入場。合唱団とオーケストラの間に座りました。第3楽章は指揮棒なしで、ゆらゆらと揺れるような指揮。無理のないテンポ設定です。続けて第4楽章は、92小節の前で間を開けて、チェロのメロディーを開始しました。スコアではpですがやや大きめ。その後の弦楽器のアンサンブル温和な表情。208小節で合唱団が起立。同時に下手から打楽器3人とピッコロが入場。杉尾真吾のバリトンソロがよく響きます。合唱団は約130人の大人数ですが、歌詞がハキハキ聴こえて好印象。表情豊かで鳥肌が立つことがあり、実力は京響コーラス以上でしょう。330小節のフェルマータは長め。上述したようにピッコロがトライアングルの左で立って吹くのは、2017年の京都市交響楽団練習風景公開と同じです(後述するYouTube動画では、当日のゲネプロ前に言われたとのこと)。916小節からはゆっくり堂々と演奏。
カーテンコールでは、合唱指揮の福島章恭が登場しました。井上道義がマイクなしで挨拶。「第九が最後なだけで、大フィルとのシリーズはあと4回ある」とシリーズを紹介した後、「これ! 定期演奏会来ない?」と、大阪フィルハーモニー交響楽団第575回定期演奏会(2024.2.9&10)のボードを持ちながら宣伝。「スウェーデンから60人の合唱団(オルフェイ・ドレンガー)が来る。3年前から延期で、呼ぶだけで1000万円かかる。飛行機代が値上がりして大変。 ぜひ聴いてほしい」とボードを掲げて何回も回転。目が回るんじゃないかと心配になるほどでした。京都市交響楽団第684回定期演奏会でもチラシが置かれていましたが、こういう事情だったようです。「合唱団にもう一度拍手」「今日の大フィル最高、うまい」と賞賛して、15:35に終演。合唱団が退場しているときに、井上が下手の舞台袖に上着を脱いで出てきました。ブログ「Blog ~道義より~」で、井上は「打ち止めは、結果も心もすっきりと終わった。意外ともいえる大フィルの前向きな整った力演(略)、そしてやはりこういう曲には天下一品のシンフォニーホールにおいて、道義は心の底から毎秒毎秒音楽に集中することができた。(略)そう。思い残すことのない節目の日となった。感謝します。」と綴りました。
「井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン」全5回の1回目が終了しましたが、この後は、Vol.1「~道義×小曽根×大阪フィル ショスタコーヴィチ&チャイコフスキー~」の延期公演が、2024年3月28日に、Vol.3「~道義×絶品フレンチと和のコラボ×大阪フィル~」は2024年4月4日に、 Vol.4「~道義×大ブルックナー特別展×大阪フィル~〈ブルックナー生誕200年記念〉」は2024年7月7日に開催されます。 Vol.5の日時はまだ発表されていませんが、2024年11月にベートーヴェン「田園」と「運命」を指揮する予定です。
なお、大阪フィルハーモニー交響楽団チェロ奏者の庄司拓が、YouTubeチャンネル「千里音楽園 チェロサローネ1000」(@salone1000)に掲載した動画「【本番茶飯事④特別号】井上道義さんインタビュー:フルート井上登紀インタビュー:オーボエ大島弥州夫」が興味深い。本番当日のゲネプロ前に、井上道義の楽屋でインタビュー。引退する理由について、井上は「のどの手術をしてから声の質が治らない。こんな声しか出ない。合唱練習でも音程が出ない。指導にならないので、がっかりしている」「オペラ(A Way from Surrender ~降福からの道~)にやりたいことはすべてぶちこめた。いいものができて満足して、心が終わちゃっている。これから自分を鼓舞するものがない」と語っています。また、「大フィルは保守的になってはいけない。大フィルこそ日本一とんがったオーケストラであってほしいけど、今逆になっている」と語り、「こういうものもあるんだよ」と、大阪フィルハーモニー交響楽団第575回定期演奏会(2024.2.9&10)について、「世界最高の男声合唱団といっしょにやる。ショスタコーヴィチの15の交響曲で1番の名曲、これを聴かないとショスタコーヴィチを聴いたことにならない。これが最後の定期演奏会」と語りました。続いて、フルート奏者の井上登紀へのインタビュー。打楽器の横で演奏することは「当日のリハーサルで言われた」とのこと。配置替えは今回で2回目とのこと。