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2009年12月26日(土)14:30開演 京都コンサートホール大ホール 井上道義指揮/京都市交響楽団 ペンデレツキ/広島の犠牲者への哀歌 座席:S席 3階 C−1列19番 |
2009年の聴き納めは、京響第九コンサート。今年は井上道義の指揮で、なんと2日公演に拡大しました。前座の曲が異なり、25日(金)はベートーヴェン/序曲「コリオラン」。26日(土)はペンデレツキ/広島の犠牲者への哀歌。第九の前座にペンデレツキを取り上げるところが、井上道義らしい。井上道義の第九を聴くのは今回が初めてでした。
客の入りがどうなるか注目していましたが、2日間とも全席完売で当日券なし。26日(土)のチケットは14日に、25日(金)も16日に早くも完売。これまでにないハイペースなチケットの売れ行きでびっくり。京都市営地下鉄の車内に大きな中吊り広告を出したのも効果的だったと思いますが、京都にクラシックファンはこんなに多かったでしょうか。先月の第530回定期演奏会に続いて前売り段階で全席完売とは、最近の京響は勢いに乗っています。
ホールの受付で「途中休憩がない」ことがアナウンスされました。特別演奏会なので「プレトーク」はなし。ロビーで、2010年度の京響自主公演の案内冊子を配っていました。
プログラム1曲目は、ペンデレツキ作曲/広島の犠牲者への哀歌。拍手に迎えられて団員が登場。京響の演奏会で団員登場時に客席から拍手が起こるのは珍しい。それほど期待値が大きいということでしょう。弦楽器のみでの演奏です。井上道義が客席をチラッと見ながら早足で登場。
1959〜60年の作曲で9分程度の短い曲です。「広島の犠牲者」とありますが、広島原爆を描いているわけではなく、初演後に広島の犠牲者に捧げられたようです。冒頭から不協和音が積み重なります。井上道義は腰を使いながら激しいキュー出し。メロディーらしい旋律はほとんどなく、細分化された音程の積み重ねで構成されています。中間部ではチェロが楽器を叩いて音を出す特殊奏法もあります。
井上道義は指揮棒なしで指揮。クライマックスでは指揮台の上で両手を広げて宙を見ながら放心状態。指揮というよりも現代舞踊に近い動きでした。複雑なスコアが読めて、指揮でオーケストラをリードできる井上道義の実力が遺憾なく発揮された演奏でした。他の指揮者がこういう作品を指揮するのはなかなか難しいでしょう。
プログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱付」。合唱団を入れずに第1楽章が始まりました。全体的にやや速めのテンポ。第1楽章冒頭は第2ヴァイオリンの音符の粒がよく聴こえます。
京都市交響楽団の演奏は技術的に安定していて完成度が非常に高い。充実したアンサンブルで、ミスやハプニングがまったくありませんでした。スピード感があって、風通しがよい。逆にうますぎておもしろくないという感じがしないでもなく、欲を言えばもう少し熱っぽいライヴらしさが欲しいです。また、管楽器は2管編成だったのであまり聴こえないのが残念。弦楽器は客演奏者を呼んで増員していたので、管楽器も人数がも少し多くてもよかったでしょう。ティンパニは硬いマレットで重い音がよく響きました。
井上道義はこの曲は指揮棒を持って指揮。譜面台は置かれていましたがスコアは置かれていませんでした。第1楽章の前半はおとなしい指揮でしたが、次第に大きなアクションでキューを出すなどエンジンがかかりました。第1楽章132小節のヴァイオリンのスケールなど、すばやい指揮でスピード感を要求していました。
第2楽章が終わったところで、合唱団が入場。ステージ後方に4列で並びました。男声と女声の割合は、1対2で女声が多い。続いて独唱者4人が下手から登場。オーケストラの後ろに座りました。第3楽章の前に独唱者を入れるのはよくありますが、合唱団もこのタイミングで入れるのは珍しい。
第3楽章はゆっくりしたテンポで穏やかな表情。第2楽章までと表情を切り替えるために、第3楽章の前で間を置いたのでしょう。第3楽章から続けて第4楽章へ。チェロとコントラバスで始まる92小節からのメロディーはヴァイオリンが入ってきても音量は抑えめ。終盤に向けて一気に盛り上げました。
京響市民合唱団の合唱は賞賛すべきレベル。去年の「第九コンサート」よりもずいぶん上達してびっくりしました。プログラムに掲載された出演者の名前を見たところでは、メンバーは大きくは入れ替わっていません。ほぼ同様のメンバーでこれだけ上達した理由は、合唱指揮者が小玉晃に代わったからでしょうか。縦線も揃っていて、声質もパートとしてよくまとまっていて、ほぼ不満のない合唱でした。ブラボー。井上はあまり大きな声で歌わせることはせず怒鳴るような歌声にならなかったのもよかった。595小節からは音量を増して堂々とした歌声でした。欲を言えば、歌声がさらに広がりを持って響けばすばらしいでしょう。今後の成長がさらに楽しみです。指導した小玉晃とヴォイストレーナーは、それぞれ合唱団の前列で合唱に参加していました。第4楽章918小節からの2小節は遅いテンポ。次のPrestissimoを効果的に聴かせるための演出でしょう。
演奏終了後は熱狂的な拍手が送られました。カーテンコールは数回だけで意外にあっさりと終わりました。
去年よりも進化した京響の第九を聴くことができました。ちなみに、2010年の「第九コンサート」はまた1日公演に戻ります。小林研一郎が客演するので、来年も楽しみにして待ちたいと思います。
(2009.12.27記)