オーケストラ・ファムファタール第3回演奏会 関西公演


  2023年12月24日(日)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

木下麻由加指揮/オーケストラ・ファムファタール

ワーグナー/ワルキューレの騎行
大森愛弓/静御前 -女神となった者-(委嘱新作・関西初演)
ホルスト/組曲「惑星」

座席:指定席 3階C1列25番



2023年の聴き納めは、オーケストラ・ファムファタール(L'orchestre de femme fatale)の第3回演奏会に行きました。通称は「強い女オケ」で、女性のみで構成されるアマチュアオーケストラです。
このオーケストラの存在を知ったのは、X(旧Twitter)の【強い女オケ】L'orchestre de femme fatale(@tsuyoigirls)の「ラストコンサート 東西2公演開催決定」の投稿(2022年12月30日)でした。2023年12月の演奏会を最後に活動を終了することと、関西に加えて関東でも団員を募集し、東西で2公演行なうことが告知されました。

 
オーケストラ・ファムファタールは常設のオーケストラではなく、演奏会ごとにメンバーを募集する、言わば寄せ集めのオーケストラです。ホームページ(https://lorchestre-de-femme-fatale-1.jimdosite.com/)で紹介されている「コンセプト」によると、「ファムファタール」とは「魔性の女」や「運命の女」の意味とのこと。第1回演奏会は、2021年4月3日(土)に東リいたみホール大ホールで開催されました。テーマは「女」で、ビゼー「アルルの女」と「カルメン」の抜粋や、リムスキー=コルサコフ「シェエラザード」などを演奏。第2回演奏会は、2022年9月17日(土)に豊中市立文化芸術センター大ホールで、「愛と死 ―L'amour et la mort―」をテーマに開催され、チャイコフスキー「白鳥の湖(抜粋)」「ロメオとジュリエット」「悲愴」を演奏しました。指揮はいずれも木下麻由加。なお、YouTubeチャンネル「強い女オケ L'orchestre de femme fatale」(@lorchestredefemmefatale8450)で、第2回演奏会の様子を視聴できます。

そして第3回の本公演のテーマは、「運命の女神」でした。上述したように、これまでは関西公演だけでしたが、今回は初めて関東公演が行なわれました。関西公演は12月24日のクリスマスイブの昼公演という日程が強い。後述するように、本公演のために新曲を委嘱する気合いの入りようです。Xに掲載された「L'orchestre de femme fatale 第3回演奏会 ラストコンサート 団員募集要項」によると、応募条件は「「強い女」になりたい方」「自分が過去最高に美しくなる衣装&化粧で舞台に立ちたい方」「練習に最低半分以上参加できる方 ※ただしセクション練習および本番直前練習への参加を必ず含む」「オーケストラや吹奏楽等への参加経験がある方」「本番へ向けて個人練習に意欲的に取り組んでいただける方」「LINEグループでの連絡が可能な方」「新型コロナウイルス感染予防対策にご協力いただける方」です。参加費は30,000円前後で、定員を超過した場合は、選考を実施する可能性があるとのこと。なお、関東と関西の両公演にエントリーすることも可能でした。

第1次募集(4月1日~10日)は過去参加者を対象に行なわれて、関西公演のトランペットとバストロンボーンはこの時点で締め切り。第2次募集(4月21日~30日)は新規参加者を対象に行なわれました。第2次募集でも定員に達しなかったパート(ヴァイオリンとチェロとコントラバス)のみ第3次募集(5月11日~31日)が先着順で行なわれました。練習日程は、7月から12月までの土日の全12日行なわれました。練習場所は、福島区民ホール、淀川区民ホール、すみのえ舞昆ホールなどでした。基本的には夏オケ(第42回全日本医科学生オーケストラフェスティバル)と同様に、個人練習が重要になります。7月9日の惑星弦トップ練習からスタート。note(https://note.com/tsuyoigirls/)で練習風景などがレポートされました。

続いて、7月から「惑星」の「海王星」に出演する女声合唱団員の募集を開始しました。10月から12月までの土日で8日の練習(うち2日はオケ合わせ練習)が組まれ、半分以上出席するようにとのこと。練習場所は、大阪フィルハーモニー会館スタジオ1、湊区民センター松竹梅、西成区民センター、大淀コミュニティセンターなど。参加費は5,000~10,000円程度でした。

これまでの2回に続いて、本公演も指揮する木下麻由加は、奈良女子大学管弦楽団常任指揮者、近畿大学文化会交響楽団常任指揮者、神戸学院大学管弦楽団常任指揮者を務めています。Xやnoteでは「まゆかさん」と書かれています。

チケットは、早くも7月15日から発売開始。全席指定の1500円で、teket(テケト、https://teket.jp/474/22677)から座席が指定できました。京都コンサートホールの座席図がそのまま表示されて、座席が選択できるとはすごいシステムです。クレジットカード決済もできて便利。

なお、本公演に先立つ関東公演は、2週間前の12月10日(日)に板橋区立文化会館大ホールで行なわれました。指揮は湯川紘惠で、曲目は1曲目がスメタナ「わが祖国」より「シャールカ」で、他の2曲は本公演と同じでした。なお、関東公演には、過去最高の720名の来場者があったとのこと。メンバー表を見ると、関東公演にも関西公演にも両方出演された方もいました。ちなみに、湯川紘惠は2022年からNHK交響楽団指揮研究員を務めていて、「NHK交響楽団11月定期公演Aプログラム」(2023.11.25&26 NHKホール)を指揮する予定だったウラディーミル・フェドセーエフが体調不良で来日を見合わせたため、代役で湯川が後半のチャイコフスキー(フェドセーエフ編)/バレエ組曲「眠りの森の美女」を指揮しました。ちなみに、2022年6月に発足した日本初の女性のみのプロのクラシックオーケストラである「東京女子管弦楽団」の常任指揮者は、湯川紘惠が務めています。

京都市営地下鉄烏丸線の北山駅に、本公演のポスターが掲示されていました(デザインは、うじうじこ)。teketで表示されたQRコードを読み取って入場。ホワイエには関東公演を指揮した湯川紘惠からの花が飾られていました。ちなみに、湯川はこの日は第45回習志野第九演奏会(市川文化会館大ホール)で、習志野フィルハーモニー管弦楽団を指揮しました。客は4割程度。カメラで撮影されていました(関係者用でしょうか)。プログラムのメンバー表によると、メンバーは120名。ハープ×2とオルガンとチェレスタは賛助でした。
 
メンバーが入場。ニューイヤーコンサートのようなカラフルなドレスや着物の人もいました。これは舞台衣装の規定が「自分が最も輝ける服装」であることによるでしょう。指揮の木下麻由加は短髪で、コートのような襟の立った黒いロングジャケットを着て、宝塚歌劇団の男役のようです。木下麻由加のX(@Nielsensaikoooo)によると、愛型女帝というブランドのようです。

プログラム1曲目は、ワーグナー作曲/ワルキューレの騎行。オーケストラの音量が控えめで、人数の割には音が飛んできません。ソリストに配慮したのかもしれませんが、もっと自己主張してもいいでしょう。
ステージ前方にソリストが8人並びました。黒いドレスを着て、槍を持って歌います。8人にはそれぞれ役名がついています(ゲルヒルデ、ヘルムヴィーゲ、オルトリンゲ、ヴァルトラウテ、ジークルーネ、ロスヴァイセ、シュヴェルトライテ、グリムゲルデ)が、衣装だけでは違いは分かりません。もともと女声8人で歌われるようで、本公演にぴったりの選曲です。声楽が加わるとは思っていなかったので、華やかなオープニングでした。

管楽器のメンバーが交代して、プログラム2曲目は、大森愛弓作曲/静御前 -女神となった者-。オーケストラ・ファムファタールの委嘱作品で、関東公演で世界初演されました。本公演は関西初演です。なお、仮題は「静御前の伝説」でした。
3楽章から成ります。なかなか完成度が高い作品で、本公演だけでなく、他のオーケストラでも取り上げて欲しい作品です。第一楽章「雨を呼ぶ舞姫」は、鳥の鳴き声のような笛(鳥笛)や、拍子木や神楽鈴などが使われます。途中でメンバーが歌います(歌詞はなし)。女性オーケストラにふさわしい演出です。第二楽章「宴」は、華やかな3拍子。ただし、人数の割には音が飛んでこないのが残念。第三楽章「女神となった者」は、大太鼓とホルンのソロで戦闘モード。ハープソロとヴァイオリンソロの後、ふたたびコーラス。強奏では金管楽器はもっとパワフルでもいいでしょう。
演奏後は客席で聴いていた作曲者の大森愛弓を木下が紹介。1階席の後方に座っていたようでしたが、残念ながら3階席からは見えませんでした。

休憩後のプログラム3曲目は、ホルスト作曲/組曲「惑星」。木下が衣装チェンジ。ベルサイユのばらのオスカルのような緑色の服でした。演奏は女性しかいないことがハンディに思えることはありませんでした。寄せ集めのメンバーで、よくこのレベルまで仕上げてきたものです。気持ちが揃っていて、ぞくぞくしたところがありました。金管楽器は立ち上がりの音色が汚いのが気になりましたが、もっとバリバリ吹いてもよかったでしょう。
第1曲「火星」は速めのテンポで、細かな音符で難しい部分もテンポを落とさず強気の指揮。小太鼓が5拍子を叩き間違えましたが、木下がなんとか補正しました。金管楽器はそこそこ音を外しました。ラストは壮絶な音の塊で、和音バランスとかは関係なし。第2曲「金星」はフルートが4人もいました。第3曲「水星」は速めのテンポについていけていました。練習の成果でしょう。第4曲「木星」はやや速めで、木下はスイスイと進めました。弦楽器は比較的しっかりした演奏。第5曲「土星」は、19小節からのチェロの音程がヤバイ。53小節のフルートからゆっくりしたテンポ。77小節からのチャイムがフライングで早く叩いてしまいひやひやしましたが、木下が機転で乗り切りました。打楽器はミスするとすごく目立つので、重要性を思い知りました。第6曲「天王星」は、シンバルなどの打楽器が入り損なって盛大に落っこちました。オルガンの221小節のグリッサンドがこんなにはっきり聴こえた演奏は初めてでした。第7曲「海王星」は速いテンポで感傷的になりません。50小節(Allegretto)からゆっくりしたテンポ。女声合唱はステージの舞台裏ではなく、もっと客席に近い場所から聴こえました。おそらく2階席の左右両サイドの通路でしょうか。ちょっと張り切りすぎの歌声でしたが、ちゃんとデクレシェンドを繰り返して、左右同時にきれいに終わりました。女声合唱がどうやって指揮を見ていたのかは謎ですが、おそらくモニターが設置してあったのでしょう。
演奏後は女声合唱がステージに登場。メンバー表によると合唱は38人。オーケストラと同じく色とりどりのドレスでした。

合唱メンバーがポディウム席の中央に移動して集結。「ワルキューレの騎行」のソリスト8人もポディウム席の最前列に並んでアンコール。まさかのベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱付き」(マーラー編曲版)より第4楽章(編曲:江川優里、下田雄史)を演奏。今日「第九」が聴けるとはまったく思いませんでした(上述したXやnoteにまったく第九の気配がなかった)。しかもカットなしの第4楽章をフルで演奏。休憩前に「後半は長時間のプログラムになるので、お手洗いは休憩中にお願いします」というアナウンスがあったのはそういうことだったのかと気づきました。
楽譜を持って歌います。女声のみですが、男声パートもそのまま歌いました。4人の独唱パートは、ソリスト8人で分担。女声だけで第九を聴くめったにない機会でしたが、悪くありません。ポディウム席の前にマイクを立てて、スピーカーからも流しました。239小節のバス合唱の歌い始めの「Freude!」が、女声が歌うと超高音でびっくり。 
オーケストラは「惑星」よりも自信なさげで音程が不安定。なお、マーラー版で演奏した理由は、管楽器が増強されていて、演奏できるメンバーが多くできるからのようですが、違いは分かりませんでした。
ラストコンサートは「海王星」でしんみりと終われなかったようですね。団長のX(もっさん💃強い女オケ団長 (@mossan_yanen) )にも「何がなんでも強い女オケで第九がやりたかったんです。」と綴っています。ちなみに、関東公演のアンコールは、小諸鉄矢作曲(山田雅彦編曲)/アニメ「セーラームーン」より「ムーンライト伝説」でした。カーテンコールでは木下からチェロを演奏した団長に大きな花束が渡されて抱き合いました。Xの投稿を見ているときから団長はどういう人なのか気になっていましたが、清楚な女性といった印象でした。16:55に終演。本公演の来場者は約930名だったとのこと。
 
プログラムによると、第1回から第3回までの参加者(団員)総数は約370名を数えるとのこと。常設オーケストラでもないのに、すごい大所帯で、すごいスケールとなりました。コロナ禍と重なってしまったことを感じさせないような楽しい写真集がプログラムに掲載されています。まさにアマチュアオーケストラの歴史に残る大事業と言えるでしょう。団長のマネジメント能力に拍手。本公演で活動を終了する理由について「強い女オケの団員たちとやりたいことはすべてやりきったから」と語っているので、第4回の演奏会はなさそうですが、運営のノウハウやここで築いた人脈を生かして誰かが引き継いで継続してほしいと感じます。演奏は少し不完全燃焼と思われる部分もあったので、リベンジを果たしてほしいです。
なお、2月16日にXに「#強い女オケ 活動終了のご報告」が投稿されました。「第3回東西両公演のチケット売上から必要経費を差し引いた余剰金が約71万円も発生したので、石川県令和6年能登半島地震災害義援金などに全額寄付したとのこと。赤字にならず、マネジメント的にも成功してびっくりです。
 

地下鉄北山駅のポスター 湯川紘惠からの花 アンコールの掲示 京都コンサートホールのイルミネーション

(2024.2.12記)
(2024.2.24更新)

 

井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.2~道義 最後の第九~ 兵庫芸術文化センター管弦楽団第147回定期演奏会「佐渡裕 マーラー交響曲第9番」