東京芸術劇場マエストロシリーズ 井上道義&読売日本交響楽団


  2023年11月18日(土)14:00開演
東京芸術劇場コンサートホール

井上道義指揮/読売日本交響楽団
髙橋絵理(ソプラノ)、林眞暎(メゾソプラノ)
新国立劇場合唱団

マーラー/交響曲第2番「復活」

座席:S席 2階A列31番


 
2024年末での引退を表明している井上道義が指揮する演奏会を、2週間おきに3公演聴く機会に恵まれました。まず、1公演目は、読売日本交響楽団とのマーラー「復活」です。
 
チケットは東京芸術劇場ボックスオフィスWEBで、芸劇メンバーズ先行発売で6月17日に購入しましたが、その頃の井上道義は、結石性腎盂腎炎による入院で、兵庫芸術文化センター管弦楽団第142回定期演奏会「井上道義 最後の火の鳥」を降板したり、井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.1~道義×小曽根×大阪フィル ショスタコーヴィチ&チャイコフスキー~が延期になったりしていたので、本公演もどうなることかと思っていました。その後、「井上道義 ザ・ファイナル PARTⅠ「道義×小曽根×新日本フィル」」(2023.9.17 すみだトリフォニーホール大ホール)で無事に復帰して、10月も大阪フィルと群馬交響楽団で計3公演を指揮しました。本公演は文字通り「復活」の演奏会になりましたが、プログラムで井上道義は「復活と言う名のついた曲をこの時点でやることになるとは世の中不思議すぎる」と認めつつも、「復活と言うのは、キリストの事で死んだのに生き返るということ。安易に復活と言うなかれ。(中略)今回の復活は道義のことではないので皆さん誤解なさらないように」と安易に結び付けるべきではないと綴っています。
 
「東京芸術劇場マエストロシリーズ」は、東京芸術劇場のリニューアル以降、事業提携を結ぶ読売日本交響楽団と東京芸術劇場が開催してきたシリーズで、2012年から毎年1公演が開催されています。過去には、ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(2012年)、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(2013年)、ラドミル・エリシュカ(2014年)などが出演しました(3人とも故人(泣))。井上道義は本公演が最多の4回目の出演で、過去の3回もマーラーを取り上げました。交響曲第8番「千人の交響曲」(2018年)、交響曲第3番(2019年)、「大地の歌」(2021年)は、いずれも声楽付きの交響曲で、本公演の「復活」は、シリーズの完結編とのこと。
 
なお、10月7日に、アルト独唱で出演予定だった池田香織が病気療養のため降板し、メゾソプラノの林眞暎(まえ)が出演することが発表されました。池田はブログで「しばらくのお休みをいただいて治療に専念することになりました」と報告しています。井上道義はブログ「Blog ~道義より~」で、「ALTOソロのベテラン池田香織さんが歌えなくて今回とっても新人で本格的にアルト声を持つわが国では得難い才能の新人、林眞暎(まえ)さんを見付けられたのが幸いだった。教えてくれたのが今回ソプラノソロだった高橋絵里さん! かおりさん!皆で心配してますよ。」と綴っています。
 
東京芸術劇場に行くのは、読売日響第114回東京芸術劇場マチネーシリーズ以来、なんと14年ぶりです。2011年4月から2012年8月まで改修工事が行なわれ、かつての「大ホール」が「コンサートホール」に改称されました。なお、東京芸術劇場の外壁には、読売日本交響楽団の看板が設置されています。
 
この日は渋谷駅の改良工事に伴う線路切替工事で、山手線外回りの大崎駅→池袋駅の全列車がなんと終日運休。大崎駅で湘南新宿ラインに乗り換えて池袋に着きました。東京芸術劇場のX(旧Twitter、@geigeki_info)でも、「本公演は、休憩なし、90分程度の公演となります。開演時間に遅れますと、ご自席までのご案内ができませんので、お時間に余裕をもってご来場ください。」と注意喚起。井上道義もXで「そんなことがあるのか、、、遅れないでな。頼みます。」と驚いていました。
池袋西口公園は2019年に「GLOBAL RING(グローバルリング)」としてリニューアルして、野外劇場もできました。チケットは当日窓口引き取りができました。13時に開場しましたが、ロビーの開場までで、15分ほど待って客席に入れました。当日券も発売されたので、完売にならなかったようですが、1999席ある客席はぎっしりです。2階席でも高さがかなり低く、1階席の中央のような感覚で、視覚的には最高です。改修工事で椅子や通路の色が変わって、シックで落ち着いた雰囲気になりました。
ステージの位置も低く、奥行きが広い。対向配置で左から第1ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、第2ヴァイオリンで、チェロの後ろにコントラバス。コンサートマスターは長原幸太。パイプオルガンは白黒モードの「モダン面」を使用。
 
井上道義が元気に登場。天井が高く、容量が大きいホールなので、打楽器と管楽器が強く聴こえて、弦楽器はもう少し厚みが欲しい。対向配置のため、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが離れていますが、 こうして見ると、第1ヴァイオリンは第2ヴァイオリンと一緒ではなく、第1ヴァイオリンだけ別のメロディーを演奏することが多いことが視覚的に分かりました。演奏は気合いが入りすぎているのか、アインザッツはバラツキが見られました。また、トランペットがやや弱々しい音色で残念。
 
第1楽章からゆっくりしたテンポ。井上道義の動きが大きく、ぶったぎったり、指揮棒ごと突き刺したりで、自ら躍動感を作り出します。途中から指揮棒を使わずに指揮。最初のクライマックスを迎える41小節は、井上道義が左手を上にかかげて、冒頭だけで目頭が熱くなりました。イングリッシュホルンとバスクラリネットが演奏する151小節から丁寧に描きます。244小節から打楽器を派手に鳴らします。第1ヴァイオリンのメロディーが繊細で線が細い(京響以上)。304小節からのチェロとコントラバスのカチャカチャ(mit dem Bogen geschlagen)は、井上は両ヒザをガクガク震わせました。
 
第2楽章の前に合唱団が入場。約80名でステージ後方に4列で並びました。左が女声で白服、右が男声で黒服。オルガン奏者も入場しましたが、第5楽章の最終盤まで出番がないので、オルガン鍵盤の前の椅子ではなく、横に置かれた椅子に座りました。続いて、独唱二人も入場。中央ではなく、雛壇の左(ホルンの右で、グロッケンシュピールの前)に座りました。珍しい配置です。井上は指揮台の下に置いてあったペットボトルの水をひと飲み。

第2楽章は冒頭で、弦楽器の三連符の16分音符が乱れました。ラスト二発のピツィカートは、最高の音色を聴かせました。第3楽章は聴きどころがなく、少し散漫な演奏に感じましたが、もともとそういう音楽なのかもしれません。井上は指揮棒ありで指揮。休みなく第4楽章へ。3小節からのトランペットはスラーを切って演奏。アルトの林が譜面台の楽譜をめくりながら歌いました。
休みなく第5楽章へ。43小節からのホルンは下手舞台裏で演奏。84小節からはさらに遠いところに移動したようです(芸が細かい)。打楽器奏者2名が下手からステージ登場して、第1ヴァイオリン後方に置かれた小太鼓2台を演奏。この作品は意外にも第5楽章の160小節まで小太鼓の使用がないんですね。190小節からの打楽器クレシェンドは6人で演奏。壮観です。小太鼓の2名は終わると、舞台裏に戻りましたが、こういう演出は初めてでした。273小節からピッコロの高音を強調するのが、井上らしい。343小節からの別動隊は、下手舞台裏で演奏。379小節からのトロンボーンが強力。454小節からのトランペットは舞台裏の左右に配置(第2トランペットだけが右だったかもしれません)。合唱は厳かに始まり、楽譜を持って座ったまま歌いました。640小節から起立。オルガンも着席しました。舞台裏にいたトランペット×4が2階席左の前の扉(2-L1扉)から入場して立って演奏。舞台裏にいたホルン×4もステージに入場して立奏。672小節から10人で演奏。708小節からベルアップ!

最後の音符の後に、井上が「はぁ」と息を漏らすように両手を拝むように重ねました。井上道義のほっとしたような表情は初めて見ました。客席から盛大な拍手。合唱指揮の三澤洋史が井上と抱き合いました。井上は舞台裏にいた小太鼓二人もステージに連れてきました。二人はなぜかハンマー(木槌)を持っていて、井上の頭を叩くようなパフォーマンス。井上はステージ上で華麗にくるりと一回転しました。ちょっと痩せたかもしれませんね。自分で指揮台を移動して、前のスペースを確保。
合唱団退場後に井上が一人でステージへ。ブラボーとスタンディングオベーション。指揮台の上でダンスして、元気なところを見せました。井上道義のブログ「Blog ~道義より~」では、「背中の爺さま向けの落下防止バーでバレエの基本をやってみた」と写真付きで解説しています。15:45に終演。なお、井上道義のブログ「Blog ~道義より~」では、「足腰が怪しくなり始めて終楽章おわり数分は深呼吸、深呼吸、深呼吸でした」と綴っていますが、そんな風には見えませんでした。
 
なお、ブログ「Blog ~道義より~」で、「道義最後の「復活」」と書いているので、本公演が「復活」を指揮する最後の演奏会だったようです。聴けてよかったです。
 
 

池袋西口公園「GLOBAL RING」 東京芸術劇場 「芸劇×読響」の看板 東京芸術劇場1階アトリウム コンサートホール入口1階

 

(2023.12.12記)

 

大阪交響楽団第129回名曲コンサート「モーツァルト・ア・ラ・カルト」(夜の部) アンサンブルSAKURA第40回定期演奏会