京都市交響楽団第684回定期演奏会


  2023年11月25日(土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

シルヴァン・カンブルラン指揮/京都市交響楽団

モーツァルト/交響曲第31番「パリ」
ブルックナー/交響曲第4番「ロマンチック」(1888年稿 コーストヴェット版)

座席:S席 3階C2列26番


 
シルヴァン・カンブルランが京都市交響楽団の定期演奏会に客演しました。本公演は土曜日のみの1回公演です。カンブルランは、ハンブルク交響楽団の首席指揮者を務めていて、今年の来日ツアーでも京都コンサートホールで公演を行ないました(2023.7.17)。カンブルランを聴くのは、京都市交響楽団第640回定期演奏会以来です。
 
本公演はモーツァルトとブルックナーのプログラム。10年前なら聴きに行かなかったプログラムで、私も歳を重ねたということでしょうか。ブルックナー「ロマンティック」は、YouTubeのワコーレコードのチャンネル(@WAKOrecord)に掲載された「大阪音楽大学ホルン専攻生による【交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」より抜粋(A. ブルックナー/近藤 望)】」(池田重一指揮、2022.11.19 ザ・カレッジ・オペラハウス「第35回ホルンアンサンブルの夕べ」)の演奏がすばらしく、この作品の魅力にはまりました(抜粋と言っても38分もあります)。

チケットは、第678回定期演奏会第682回定期演奏会に続いて、定期会員の「セレクト・セット会員(Sセット)」のクーポンを使用しました。クーポンIDと会員番号を入力して、発売日の3日前に購入できました。チケット引取方法は、チケットれすQ(電子チケット)のみで、紙のチケットは発券されません。スマートフォンに取得した「入場用QRコード」をスキャンして入場します。

なお、地下鉄烏丸線北山駅の車内アナウンスで、10月1日の始発から、京都コンサートホール館長の広上淳一のアナウンスが流れるようになりました。R.シュトラウス「ばらの騎士」組曲の冒頭に続いて、「京都コンサートホール館長の広上淳一です。クラシック音楽の殿堂、京都市交響楽団でおなじみの京都コンサートホールは、北山駅でお降りください。皆様の御来場を心からお待ちしております」とアナウンスされます。他の駅にはない取り組みで、広上淳一もよく引き受けたものです。

14:00からプレトーク。カンブルランは英語で話して通訳つきです。ほとんどが曲目紹介で、12分で終了しました(後述します)。コンサートマスターは泉原隆志。ソロ首席ヴィオラ奏者の店村眞積がひさびさに出演しました。客は7~8割の入り。

プログラム1曲目は、モーツァルト作曲/交響曲第31番「パリ」。プレトークでカンブルランは「モーツァルト22歳の作品で、交響曲の作曲は17歳から22歳まで5年のブランクがあった。モーツァルトが初めてクラリネットを使った作品で、このあとのモーツァルトにとって重要な楽器になった」と解説しました。
オーケストラは奥まった配置で中編成。京都大学交響楽団第212回定期演奏会で聴きました。3楽章で約18分の作品。カンブルランは指揮棒なしで両腕を動かして指揮。音量は求めませんが、装飾音はやや強め。弦楽器はヴァイオリンからコントラバスまでいいハーモニーで、第1楽章を伸びやかに締めくくりました。第2楽章もよく調和されているという表現がふさわしい。第3楽章は躍動感がありました。京響にはこういう上品な曲が似合います。
休憩は男性トイレが大行列で、 「ブルックナートイレ」と言われる現象が見られました。

プログラム2曲目は、ブルックナー作曲/交響曲第4番「ロマンチック」(1888年稿 コーストヴェット版)。プレトークでカンブルランは、コーストヴェット版について「コーストベット版の校訂は、手直しではないまったく新しい版。調やオーケストレーションは関係ない」「ブルックナーが唯一交響曲にメトロノーム記号を書いた。「アンダンテ」と書かれていたが、以前はどれくらいのテンポか分からなかった」「シンバルが第4楽章に出てくる。楽譜にあるが演奏されなかった。静かに2回シンバルを鳴らすが、日に水をかけてしゅーと煙が出てくるようだ」と身振り手振りを交えて熱く語りました。
ブルックナーの稿について詳しく語るほどの知識はありませんが、本公演で演奏する「1888年稿」は「第3稿」とも呼ばれ、フェリックス・モットル指揮による再演(1881年)が不評だったため、弟子のフェルディナント・レーヴェが改訂した稿で、「レーヴェ改訂稿」とも呼ばれます。ハース版やノーヴァク版に比べると、ブルックナーの意思を反映していない改竄版とされていましたが、近年の研究ではブルックナーが認めた版ということで再評価されているようです。「コーストヴェット版」は、イギリスの音楽学者ベンジャミン・コーストヴェットが2004年に出版しました。

京都市交響楽団はほとんどブルックナーを演奏しないオーケストラで、定期演奏会でブルックナーを最後に取り上げたのは、ラルフ・ワイケルトが指揮した第639回定期演奏会(2019.10.11)で交響曲第4番「ロマンティック」(ノヴァーク版第2稿)を演奏して以来です。その後、第646回定期演奏会(2020.6.26)で広上淳一(第13代常任指揮者兼芸術顧問)が、交響曲第8番(ハース版)を指揮する予定でしたが、残念ながらコロナ禍で中止になりました。私も某大学のオーケストラで20年以上前に聴いただけです。木管楽器はフルートはピッコロが追加されて3人ですが、それ以外は各2人。金管楽器はホルン×4、トランペット×3、トロンボーン×3、テューバで、弦楽器はエキストラで増強しました。
京響が普段演奏しないブルックナーでしたが、かなりがんばって、大健闘でした。この作品は合わせなければいけない箇所が多く、ずれると目立ってしまいますが、きっちり合わせていました。弦楽器が主体で比重も大きく、強奏で金管楽器に塗りつぶされることもありません。明るい音色で堅苦しくなく、いろいろ聴きどころは多い演奏でしたが、コーストヴェット版によるものかカンブルランの解釈なのかは初心者には分かりません。最後まで集中力を切らさずに演奏しました。

第1楽章冒頭のホルンソロはすごい高音から始まります。首席ホルン奏者の垣本昌芳は以前は金髪でしたが黒髪になっていました。51小節に向けて徐々に加速。ティンパニは打点を強調。金管楽器のコラールはオルガンのような響きがして、思わずパイプオルガンを何回か見てしまいました。冒頭の同じテーマが何回も現れますが、楽器のコンビネーションの違いを楽しめました。第2楽章は217小節のテューバの登場に向かってアッチェレランド。229小節からのティンパニがマーチ風。
第3楽章は、27小節からのトロンボーンは短く切り、その後のティンパニの打点が大きい。木管楽器の彩りもいい。1888年稿ではダ・カーポ後のスケルツォがカットされて、パウゼが挿入されたように聴こえます。ホルンとトランペットの掛け合いは意外に複雑なリズムで、最後はティンパニが打点をさらに強く叩いて、演奏もギアチェンジしたように聴こえました。
第4楽章の冒頭は、惑星の公転をイメージするのですが、チェロとコントラバスの四分音符は弱めで、43小節でティンパニがトレモロではなく、四分音符を二発聴かせました。50小節の二分休符はフェルマータのように取らずに短い。76小節の3拍目で、ついにシンバルが一発。その後のシンバルは、最後に盛り上がる前に小さく二発。意外な場所で、カンブルランがプレトークで語った「日に水をかけてしゅーと煙が出てくる」はうまい表現だと思いましたが、正直シンバルはなくてもいいように感じました。最後のティンパニは、十六分音符を強調して、燃料を補給するかのようでした。
最後の音が鳴った後に、ポディウム席からすぐに拍手。もう少し余韻を楽しみたいのに残念。カーテンコールでは「ブラボー」が出ました。
 
京響のブルックナー演奏史に残る演奏だったと言えるでしょう。期待以上に完成度が高く、カンブルランの手腕は見事でした。さすが読響を一流のオーケストラに仕上げたことはあります。今後も定期的に呼んでほしいです。この後、カンブルランは桂冠指揮者を務める読売日本交響楽団で2公演を指揮しました(読売日本交響楽団第667回名曲シリーズ(2023.11.30 サントリーホール)、読売日本交響楽団第633回定期演奏会(2023.12.5 サントリーホール))。
 
本公演に先立つ11月21日に京都市交響楽団の2024-25シーズンのプログラムが発表されました。昨年の記者発表は沖澤のどかが出席してニコニコ動画でオンライン配信されましたが、今回は中継はなし。沖澤がリモートでの出演だったからかもしれません。本公演のロビーでプログラムの冊子が配布されました。来年度も定期演奏会は金曜夜と土曜の昼に公演日を集約して、金曜夜の「フライデー・ナイト・スペシャル」は6公演が開催。常任指揮者2年目の沖澤のどかは、定期演奏会を3回(4公演)と、「ZERO歳からのみんなのコンサート2024」を2公演指揮します。第691回(2024.7.27)の上原彩子とのプロコフィエフ「ピアノ協奏曲第3番」とストラヴィンスキー「ペトルーシカ」や、第698回(2025.3.14&15)のR.シュトラウス「英雄の生涯」が注目です。2024年4月から首席客演指揮者に就任するオランダのヤン・ヴィレム・デ・フリーントは、定期演奏会4回(2公演)を指揮します。古典派と現代曲を組み合わせるユニークなプログラムです。第13代常任指揮者兼芸術顧問を退任した広上淳一が、京都市交響楽団第665回定期演奏会で演奏予定だったマーラー「交響曲第3番」をついに指揮します(第692回、2024.8.23&24)。2024年12月で引退を表明している井上道義はショスタコーヴィチのチェロ協奏曲を指揮します(第690回、2024.6.21&22)。その他にもペドロ・アルフテルが指揮するR.シュトラウス「アルプス交響曲」(第688回、2024.4.13)や、準・メルクルのラヴェル「ダフニスとクロエ」全曲(第697回、2025.2.15)、ガエタノ・デスピノーサが指揮する「第九」など、注目公演が多いです。今年度は初めてチケット会員(セレクト・セット会員(Sセット))になりましたが、来年度も継続する予定です。
 
なお、本公演のロビーになぜか「大阪フィルハーモニー交響楽団第575回定期演奏会」のチラシが置かれていました。井上道義が大阪フィルを指揮する最後の定期演奏会で、京響とはまったく関係がないので不思議に思いましたが、その理由は「井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.2~道義 最後の第九~」で明かされることになりました。
 

(2023.12.24記)

 

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