京都市交響楽団練習風景公開


   
      
2017年12月25日(月)10:30開演
京都市交響楽団練習場

井上道義指揮/京都市交響楽団

ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付」より第4楽章

座席:自由


井上道義がひさびさに京都市交響楽団を指揮しました。井上道義は2014年4月から2017年3月まで大阪フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者を務めていたため、京都市交響楽団の指揮台からは遠ざかっていました。井上が京響を指揮するのは、2013年11月16日(土)に開催された「京都市交響楽団刈谷公演〜名曲コンサート〜」(刈谷市総合文化センターアイリス大ホール)以来4年ぶりです(この後、2014年5月4日(日)に「ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭」(石川県立音楽堂コンサートホール)でも指揮する予定でしたが、井上道義の喉頭ガンの治療により広上淳一が代役で指揮しました)。なお、京響自主公演に絞ると、2013年5月24日(金)開催の「京都市交響楽団第568回定期演奏会」までさかのぼります。
このたび大フィル首席指揮者の3年間の任期を満了して、ひさびさの指揮は、2017年12月27日(水)と28日(木)に行われる京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」。チケットは12月12日に全席完売しました。

井上道義の第九は、2009年の京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」で聴きました。今回は本番は聴きませんでしたが、本番3日前に京都市交響楽団練習場で、毎月定例の「練習風景公開」が行なわれました。京都市交響楽団メールマガジン第141号(2017年10月10日配信)で、曲目は「ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付」(予定)」として案内され、往復ハガキで申し込んだところ、めでたく案内のハガキが届きました。井上道義の練習を見学するのは、2008年2010年2011年に続いて、4回目です。
いつものように2階のギャラリーから聴きます。10:00頃に着きましたが、早くも座席の半分が埋まっていました。「第九」の練習でしたが、合唱団(京響コーラス)はいませんでした。楽器配置は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを左右に分ける対向配置でした。ホルンの後ろにティンパニ、その左にトランペットが置かれているのが珍しい。

10:30に音が鳴りやんで、スタッフから客演奏者の紹介。第1ヴァイオリン(コンサートマスター)と第2ヴァイオリンに一人ずつで、客演コンサートマスターは須山暢大氏でした。今日の練習は、第4楽章、第1楽章、第2楽章、第3楽章、前座の序曲「コリオラン」の順で行うことが伝えられました。須山が立ち上がってチューニング。井上道義が指揮台に登場。長袖シャツにズボンで、団員から拍手で迎えられました。井上はひさびさに京響練習場に戻ってきて感慨もひとしおだったのか、しばらく天井を見上げるなどしていました。「ひさしぶりです」と団員に挨拶。首席フルート奏者で今年2月に大阪フィルから移籍した上野博昭を見つけると、前まで歩いて行って握手。「君はここのほうが合っているよ」と話しました。ふたたび指揮台に戻ると「聞いたところ4年ぶりだそうです」「僕は元気です」「あまり大きな声は出せない」と話しました。上述した病気から復帰したことの報告でしょう。団員を見渡し「みんな少しずつ年取って」と話すと団員から笑いが漏れました。話すことがなくなると「やろうか!」と言って、第4楽章の練習がスタート。

まず、「軍楽隊はGから入って」とステージに登場するタイミングを指示。「本当なら舞台裏に置きたいけど、スコアにはそう書かれてないので」。ちなみに、合唱団は第3楽章の前に入れるとのこと。冒頭から練習。指揮台に置かれた椅子に座らず立って指揮しましたが、たまに座りました。一回止めると、「8小節からのチェロとコントラバスのレチタティーヴォは、「そうじゃない、そうじゃない、そうじゃない」と乱暴に弾いてほしい。優しいので打楽器的に」「44小節からディミヌエンドしたら音符を長くする」「61小節のディミヌエンドは楽譜に書いてあるところから1小節早くしてほしい」「65小節はノンヴィヴラートで始めてください」など、いきなり時間を取って音符単位で細かく指示して反復練習。「Fisをダウンで弾く」などボウイングも指示しました。また、冒頭のトランペットに「ソソドドミミ」と歌って、音符を追加して、ふたたび冒頭から練習。「30小節からのコントラバスはppだけど、お客さんに分かるくらい強くほしい」「48の前はあまり遅くしません」「62の前はppじゃなくてpでいい」。83小節からのトランペットとティンパニには「独立しないで、こちら(チェロとコントラバス)のテンポに合わせて」。81小節と91小節の管楽器には「四分音符が短い」と叫びました。92小節からは弦楽器のメロディーを指揮しながら、他の楽器への指示を話すという離れ業を披露。演奏を止めて座ろうとしましたが、指揮台の椅子を自分で交換。背もたれのある灰色の椅子から、赤の丸椅子に変えました。Cの第2ヴァイオリンとヴィオラには、「最初5小節くらい頑張ってお客さんが聴いてくれたら、あとはもういいから」。205小節のヴァイオリンは「オーボエにまじりたい」「さらに弱くする」。
208小節から一気に331小節に飛びました。合唱団の比重が大きい部分は、今日は練習せずにホールで調整するということでしょう。ステージ下手に配置された軍楽隊は、大太鼓、シンバル、トライアングル、ピッコロの編成で、ピッコロがいるのが珍しい。しかも立って演奏しました。おそらく2009年の京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」ではなかった演出です。井上は「ピッコロはお客さんに振り向いてもらえるように、オクターヴ上がる351小節から強く吹く」と指示。トランペットの四分音符+八分音符+四分音符の音型は、「付点音符に近い」「軽い感じで」。
Mに飛びましたが、合唱団なしで聴くのは斬新でした。550小節などのティンパニとトランペットは、「小節の頭を補強してほしい。2拍目、3拍目はあまりいらない」。N(井上はナポリと呼びました)に飛んで、「合唱団が90人しかいないらしいので、バランスが取れない」と言いつつも、618小節からのヴァイオリンに「タイだけど拍節がほしい」。同じくチェロとコントラバスには「なだらかになりすぎ。ヴァイオリンと一緒に動きたい。3拍子感覚で。浮遊した感覚がほしい」。656小節からのヴァイオリンの八分音符の連続には、「田舎の祭りの感じ。大げさに。お祭り感覚で。後半の音符はなくてもいい」と歌って指示。スピード感を重視したいということでしょう。ヴァイオリンがうまくいくと、他の楽器に向けて「みんなこれに合わせる」と話しました。ピエトロ(P)からのヴィオラは、「楽譜にスラーが付いていなくても同じで」。また、「付点二分音符は付点がなくてもいい」。
851小節に飛んで、880小節からの管楽器の「「ペ」(=二分音符)は、四分音符。短くていい」。トロンボーンにも「全部四分音符でいい」。またヴァイオリンには「もっと飛び跳ねて」。916小節のヴァイオリンは「四分音符は弾き切って」。最後まで演奏すると、「ちょっと休んだほうがいいかな」と話し、11:20に休憩に入りました。11:35から第1楽章の練習が始まりますが、練習風景の公開はここまで。

井上道義の練習は見ていて楽しいです。楽器配置もユニークでした。一回演奏を止めると、団員への指示が多く、早口で話しました。最初のあいさつで「あまり大きな声は出せない」と話しましたが、練習を進める上では問題なく、全身を使った指揮で、ダンサーだったことを思い出しました。ディミヌエンドの開始位置や音符の長さなど、楽譜の指示を変えることが多い。また、今回は合唱団が多くないことを念頭に置いた音楽づくりで、スピード感を持ってリズミカルに聴こえるように調整していました。なお、指揮台に置かれてあった座席配置図を見て、団員を名前で呼びました。今までも置かれていたのかもしれませんが、これまで練習風景公開で座席配置図を使った指揮者はいませんでした。なお、京都市交響楽団のFacebookに、この日の練習風景の写真がアップされていました。

ちなみに、私は聴きに行きませんでしたが、本番の演奏では1日目と2日目で演出が違ったようです。例えば、合唱団と独唱の入場は、1日目はこの日の練習で話していたように第3楽章の前でしたが、2日目は前座のショスタコーヴィチ作曲/ジャズ組曲第1番の後で井上道義がトークしている間に入場して第1楽章から座っていたようです。また、2日目のショスタコーヴィチでは照明をピンク色にしたり、2日目はバスの独唱と同時に客席の照明を明るくして一体感を演出したり、井上の楽しいアイデア満載だったようです。井上道義オフィシャルウェブサイトには、「今日は文句なく長年の井上の履歴、京響の積み重ねが一体となったものとなった。」と書かれていて、演奏も満足できたようです。

井上道義は、大阪フィルハーモニー交響楽団首席指揮者を今年3月末で退任しましたが、オーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督も2018年3月末で退任します。常任ポストがなくなって、これからどのように活動するのか注目ですが、朝日新聞のインタビュー記事では、「今後、別のオケから声がかかったら?」の質問に対して、「やりたくない。やりたいことは全部やっちゃった」と語り、父の人生を描いたオペラを作曲中であると語っています。大フィル首席指揮者就任以前は、京都市交響楽団には年に1回必ず自主公演を指揮していましたが、2018年度の自主公演には残念ながら登場しません。京都コンサートホール2018年度主催スケジュールを見たところ、「第22回京都の秋音楽祭開会記念コンサート」(2018年9月16日(日))を指揮するようで、少し安心しました。今回の第九公演が早々に完売になり、1日目の公演には門川大作京都市長(楽団長)も来聴したようで、井上道義に対する京都市民の期待はとても大きいと言えるでしょう。今後も個性的な演奏会に期待します。

京都市交響楽団練習場

(2017.12.29記)


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