京都市交響楽団第529回定期演奏会


   
      
2009年10月30日(金)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

井上道義指揮/京都市交響楽団

モーツァルト/交響曲第36番「リンツ」
ブルックナー/交響曲第9番(ノヴァーク版)

座席:S席 3階C‐1列30番


井上道義が指揮する京都市交響楽団定期演奏会は、プログラムがユニークなので毎回楽しみにしています。今回は大曲「ブルックナー作曲/交響曲第9番」に挑戦します。
客の入りは9割ほど。平日の公演にしてはよく入りました。今年度から導入された半額で購入できる「学生券」効果で、若い人の姿も多く見られました。また、「後半券」でブルックナーだけを聴く人もいました。

18:45からプレトーク。井上道義がグレーのスーツ姿で登場。「大したことは話しませんが」と前置きして、「今日のプログラムは「リンツ」というキーワードを中心にした」と紹介(プログラムの解説文(山本美紀)にも書かれています)。「ブルックナーはなぜかじじいが振る。じいさんの指揮者が合ってる。若い人が振ると変な感じになる」と話し、「今じじいに入りつつあるので、こんな曲もいいかな」と選曲した理由を説明。「こんないい曲は僕も一生のうちにそんなにやりません」と話しました。京都市交響楽団第527回定期演奏会の広上淳一のプレトークでは、「井上道義がブルックナー交響曲第9番を指揮するのは初めてかもしれない」と話しましたが、どうやら初めてではないようです。
話題は変わって、今月9日に亡くなった元京都市交響楽団コンサートマスターの工藤千博との思い出話。プログラムにも訃報が掲載されました。井上は産経新聞の記事を持って、「工藤君は同級生で、16歳のときから知っている」「教えるのがうまくて、神尾真由子などを育てた」などと紹介。客席に座っていた奥さんのまちえちゃん(小栗まち絵)を立たせて紹介。その後、話は飛躍して「若いときは時間が立つのが早かった。それは毎日発見があったから」「自分の殻を破って欲しい」「オーケストラの団員にどんどん仕事させてください。ついてこれない人はクビにしたらいい」と話しました。トーク中も「そこ何かもめてますか?」と言って、席がダブっているという客の話に顔を突っ込んだりしました。井上道義はやはりトークがおもしろいですね。

プログラム1曲目は、モーツァルト作曲/交響曲第36番「リンツ」。中編成での演奏。対向配置で、左から、第1ヴァイオリン8、ヴィオラ4、チェロ4、第2ヴァイオリン6。コントラバスはチェロの後ろに2。コントラバスの隣はティンパニという具合に、密集して座りました。また、ステージレイアウトがかなり変わっていて、団員がいない後ろのステージの床を雛壇の最も高い位置まで上げました。オーケストラは半円形の壁をバックにして演奏する感じです。今まで見たことがないレイアウトでびっくり。
演奏は、技術的に完成度が高い。まったくと言っていいほどアンサンブルが乱れません。細部も丁寧に演奏。一体感があるよくまとまったサウンドで、各楽器の音色がよく融合されています。
井上道義は指揮台なし、指揮棒なしで指揮。譜面台には小さな本?(ポケットスコア?)が置かれていましたがまったく見ません。表現がよく練れていて、メリハリがはっきりしています。見ていて楽しい指揮で、片足で立って踊ったりします。第1楽章や第4楽章は勢いがありました。ただ、反復記号はスコアどおり行なっているようで、第2楽章は長く感じました。

休憩後のプログラム2曲目は、ブルックナー作曲/交響曲第9番(ノヴァーク版)。休憩中に上げていたステージの床を下ろした後、イスや譜面台を乗せて再び上昇させて雛段にするという作業が行なわれました。楽器配置は、指揮者正面の後列中央にコントラバス。コントラバスを中央に持ってきたのはしっかり聴かせたいからでしょう。最後列右側に、トランペット、トロンボーン、テューバ。最後列左側は、ホルンとワーグナーテューバを配置しました。弦楽器はこの曲は、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラの順でした。
全体的に遅めのテンポ。先月に読売日響第114回東京芸術劇場マチネーシリーズで、スクロヴァチェフスキ指揮の格調高い名演を聴いて間もないので、どうしても聴きくらべてしまいましたが、ブルックナーをライフワークにしているような読売日本交響楽団とは演奏経験の差が出てしまいました。井上道義はプレトークでも話したようにあまり指揮していませんし、京都市交響楽団にとってもこの間常任指揮者を務めている大友直人や広上淳一は積極的にブルックナーを演奏しているわけではありません。躍進著しい京都市交響楽団がどう聴かせるか注目していましたが、しびれる瞬間もありましたが、やや雑然としていて交通整理が必要な部分もありました。どういうわけかあまりブルックナーの音楽に聴こえませんでした。理由はよく分かりませんが、金管楽器がやや弱いからかもしれません。すべてを制圧するくらいのパワーが欲しいです。少し上品すぎるのかもしれません。特にホルンはもっと深く朗々と響かせて欲しいです。また、全体的にメロディーの歌い方も浅い。もっと深く刻んで欲しいです。
井上道義はこの曲は指揮台と指揮棒を使いました。前曲のモーツァルトに比べると、拍通り振るだけで、動きを抑えた指揮。指揮棒からは主義や主張があまり感じられません。プレトークの話を借りるなら、井上道義はまだじじいになっていないということでしょうか。
第1楽章7小節から始まるトランペットとティンパニの八分音符+四分音符ですが、四分音符もスタッカートのように短めに処理。第1楽章最後の四分音符は余韻をつけてやわらかく終わりました。第3楽章は終盤からテンポを速くしました。76小節と206小節のフェルマータは長めにとりました。

演奏終了後は、井上道義が客席の小栗まち絵に花束贈呈。その後、客席からステージに戻ろうとしましたが、井上道義がステージに上がれなかったので客席がどっと沸きました。カーテンコールでは井上がわざわざ客席に下りてステージに上り、まだ衰えていないことをアピールしているようでした。終演後は、演奏を終えた団員が1階入口付近で来場者をお見送り。お疲れ様です。

(2009.10.31記)


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