井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.3~道義×絶品フレンチと和のコラボ×大阪フィル~


  2024年4月6日(土)14:00開演
ザ・シンフォニーホール

井上道義指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団
石丸由佳(オルガン)、林英哲(太鼓)

サン=サーンス/糸杉と月桂樹より「月桂樹」
新実徳英/和太鼓とオルガンとオーケストラのための「風神・雷神」
サン=サーンス/交響曲第3番「オルガン付」

座席:A席 2階AA列22番


「井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン」の第3回公演です。「道義×絶品フレンチと和のコラボ×大阪フィル」と題して、パイプオルガンと和太鼓が共演する作品が選ばれました。チラシのメッセージで、井上は「ザ・シンフォニーホールには、スイス製のパイプオルガンがあるので、それにこだわったライブでこその「全部オルガン付き」のプログラムにしました」と記しています。後述するように、前半の2曲は「新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #07」(2022.5.13&14 すみだトリフォニーホール大ホール)で、井上の指揮で演奏されました。

本シリーズは全5公演で、まずVol.2~道義 最後の第九~が昨年12月17日(土)に開催されました。Vol.1~道義×小曽根×大阪フィル ショスタコーヴィチ&チャイコフスキー~は7月17日(祝・月)に開催される予定でしたが、井上道義の入院のため、振替公演が3月28日(木)に延期して開催されました。平日夜の公演だったのに、チケットは完売したとのこと。その後、井上は3月31日(日)に「千葉県少年少女オーケストラ第28回定期演奏会」(東京芸術劇場コンサートホール)を指揮して、本公演を迎えました。大阪フィルハーモニー交響楽団のX(@Osaka_phil)によると、4月4日から始まったリハーサルはいつもの大阪フィルハーモニー会館ではなく、地域拠点契約を結んでいる八尾市文化会館プリズムホール大ホールで行なわれました。オルガンのためかもしれませんが、気合いが入っています。

13:00に開場でしたが、客席内準備中ということで、しばらくロビーで待機。雛壇最後列の中央に大きな和太鼓が鎮座していました。客の入りは6割程度。コンサートマスターは崔文洙(ソロ・コンサートマスター)。井上道義がゆっくり入場 。全曲指揮台なしで指揮しました。オルガンの石丸由佳はパイプオルガンの右側の壁面にある入口から入場しました。黒い衣装でした。石丸由佳は3月まで新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあ専属オルガニスト(第4代)を務め、4月から所沢ミューズホールオルガニスト(第5代)に就任しました。YouTubeチャンネル「Organist Ishimaru Yuka(official)」(@YukaIshimaruorgan)で過去のライヴ映像などを公開しています。

プログラム1曲目は、サン=サーンス作曲/糸杉と月桂樹より「月桂樹」。パイプオルガンは硬めの音質で、音圧が2階席まで直接的に響きます。京都コンサートホールよりもザ・シンフォニーホールのほうがオルガンと客席の距離が近いからでしょうか。月桂樹という木の名前からは想像できないほどの祝祭的な音楽でした。

井上がマイクでトーク。「サン=サーンスはオルガン弾きだった」と紹介して、「何かが引かれあっているプログラム。例えば男と女」などと説明しましたが、よく意味が分かりませんでした。「林英哲は72歳だけど42歳に見える」と紹介。77歳の井上道義とあまり変わりません。「ウハハハーみたいなオルガンが聴ける」と低い声で大笑いしながら退場しました。

プログラム2曲目は、新実徳英作曲/和太鼓とオルガンとオーケストラのための「風神・雷神」。パイプオルガンと太鼓とオーケストラという変わった編成で作曲する動機は何だったのか気になりましたが、すみだトリフォニーホール開場記念式典(1997.10.22)で、高関健が指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏、鈴木隆太のパイプオルガン、林英哲の太鼓で初演されました。今ではめったに演奏されることはない作品でしょう。

太鼓の林英哲が登場。林英哲は芸術文化センター管弦楽団第41回定期演奏会「岩村力×林英哲 和洋の響宴」以来です。石丸が白い衣装に着替えて登場。白装束で、頭に風神のような装飾品をつけていました。本公演に向けての井上道義からのメッセージに「オルガニストの石丸さんには、衣装でも一発勝負してもらうつもり。ふふふ。」と記していたので気になっていましたが、かわいいコスプレでした。石丸のX(@yupi_maru_)によると、衣装は武田久美子が制作したとのこと。武田久美子のInstagram(@kumikotakeda_works)によると、「井上マエストロからのイメージは「石丸さんが風神、白くたなびく衣装で」とのことでしたので、ワンピースに飾り帯を制作して和洋折衷、ひらひらと風を感じる衣裳にしました」と綴っています。
林の太鼓の一撃からスタート。そんなに強く叩かなくても、すごい波動で客席に響きます。弦楽器の不協和音で緊張感が高まり、オーケストラの全奏をオルガンが引き継ぎます。オルガンの椅子の下になんと扇風機が置いてあって、風神をイメージして石丸のスカートが風でヒラヒラする細かな仕掛け。中間部は静まって、オルガンとは思えないような鳥の鳴き声や、篳篥みたいな和楽器の音色が聴けて、パイプオルガンの多様な魅力が聴けました。オーケストラの伴奏では、木魚のような東洋的な打楽器も使われました。座っていた林が上着を脱いで立ち上がり、右手で太鼓の縁をたたき、次第にオーケストラとともに盛り上がって異常なボルテージに。パイプオルガンと和太鼓の長いソロに突入。ステージの照明が落とされて、太鼓に赤のスポットライト、パイプオルガンに白のスポットライト。石丸は複数の鍵盤を同時に押さえて、楽器が壊れるのではないかと思うような弾き方で、身体ごと左右に動いて、とりつかれたように一心不乱に弾きました。上述した新日本フィルとの演奏がYouTubeにアップされていますが、生演奏でしか味わえない緊迫感や迫力がありました。ブログ「Blog ~道義より~」に本公演の演奏の一部が掲載されていますが、新日本フィルとの演奏よりも激しい。こんなパイプオルガンの弾き方は初めて見ました。この部分は即興演奏ということで楽譜がないのかもしれませんが、オルガンと太鼓で息の合った演奏でした。オーケストラが加わり、最後は林が「イー」と叫び、団員が「ヤー」と叫んで終わり。もう1回聴きたいです。林は72歳には見えませんでした。新実徳英はブログで「一昨年に続く<風神・雷神>、井上道義=林英哲=石丸由佳、素晴らしい成果! 堪能しました。 白川静流に言えば「神と共にある狂気」、その実現でした。」と綴っています。

林がアンコール。林英哲作曲/宴を演奏。「うぉー」と歌いながら叩きます。演奏が終わると、井上が「今のは英哲さんの宴(うたげ)という作品でした」と紹介しました。井上が「今日は新実さんが来てる」と紹介して、1階席で聴いていた新実がステージへ。新実は桐朋学園大学院名誉教授を務めています。78歳ですが、お元気そうでした。
休憩中に和太鼓が撤去されました。雛壇ごと電動で下ろして、10人がかりで動かしました。なかなか見られない光景でした。

休憩後のプログラム3曲目は、サン=サーンス作曲/交響曲第3番「オルガン付」。この作品を聴くのはひさびさで、京都市交響楽団第530回定期演奏会以来です。石丸は黒い衣装に戻りました。井上は指揮棒なしで指揮。チラシのメッセージで「サン=サーンスの交響曲は、世の中で作曲家の意図から遠い、メカニカルな演奏が多いけれど、今回は「祈り」のシンフォニーであることをしっかりと刻印したいと思います。」と記し、ブログ「Blog ~道義より~」でも「「アメリカンな映画劇場での電気オルガン音楽」のような〈ディズニーランド風なハ長調の出現イメージ〉とかを聞きたくて来る人も多く思え・・・・そこに竿を刺す難しさを思ったのだ。」と綴り、どんな演奏になるか期待していましたが、個性的な演奏ではなく、期待外れ。第1楽章の前半はテンポが不安定。コンサートマスターの崔はときどき腰を浮かせて立ち上がるような姿勢で演奏しました。第1楽章の後半でオルガンが登場。第2楽章の後半のオルガンは、京都コンサートホールよりもドイツ風で硬めの音色。金管楽器が全開で、井上はオルガンの石丸にも見えるように腕を回転して指揮しました。最後のフェルマータが長い。15:50に終演しました。

3曲ともパイプオルガンを活かした選曲でしたが、新実徳英の「風神・雷神」のインパクトが強すぎて、他がかすんでしまいました。ブログ「Blog ~道義より~」で、井上は「石丸由佳さん、立派に今日、3種類のオルガン曲の表現を使い分け成功させた。特にパイプオルガンの風神では衣装、オドロオドロシイ表現が鬼女のようで、心の中で大笑いして指揮をしました。」と絶賛しました。ただし、「先週のチャイコフスキーの4番+小曽根のショスタコーヴィチ2番はロシアスクール、井上も大満足、ご満悦、自画爺さん!!だった大フィルだったが、サンサーンスという微妙にフレンチ、微妙に古典的な作品では、そうはいかない面があった。」と綴っていて、本公演のサン=サーンスの演奏には満足はしていないようです。

「井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン」(全5回)の3回まで終了しましたが、Vol.4「~道義×大ブルックナー特別展×大阪フィル~〈ブルックナー生誕200年記念〉」は7月7日に開催されます。 Vol.5は11月30日にベートーヴェン「田園」と「運命」を指揮します。

 

なお、4月17日(水)13:00~13:30放送のテレビ朝日系の「徹子の部屋」に井上道義が出演しました。6月にN響とショスタコーヴィチのコンサートで共演するヴァイオリニストの服部百音と二人で出演。井上は「N響とやるのはこれが最後になる」と話しました。6月29日の東京公演はすでに売り切れですが、6月30日の大阪フェスティバルホールはまだ残席があるとのこと。服部は「ライヴ録音する」と紹介しました。黒柳徹子は「二人の年の差は53歳」と強調。日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト2007 コンサート8での井上と黒柳のツーショット写真も紹介されました。
服部百音は、服部克久(祖父)と服部隆之(父)との写真や、小泉純一郎元総理を特別ゲストに招いて、井上が指揮した「Storia Ⅲ」(2023.12.12)から、バーンスタイン「セレナード」とパガニーニ「無窮動」の抜粋が放送されました。また、スタジオで、クライスラー「レチタティーヴォとスケルツォ」よりスケルツォを演奏。井上は服部百音を「徹子さんよりもしゃべる」「めちゃくちゃしゃべるでしょ。変わりもんですよ」と話しましたが、服部が「そういう先生がいちばん変わり者だと思いますよ」と言い返すと、井上は「それは分かってる」というすごいやりとり。井上が自作したオペラで、指揮・脚本・作曲・演出・振付を務めた「A Way from Surrender ~降福からの道~」の映像も紹介され、「本当の父はアメリカ兵だったことを、音楽家なんだから、なんか作品にしたいと思って、ちゃんとしたオペラができた」「父親が死んじゃった後に聞いたんですよ。父親にありがとうとひとことから言ってから彼に死んでもらいたかった。つらくて言いたかった。だから音楽にした「今の世相も批判したくて書いた」「愛することは許すことということを音楽にしたかった」と語りました。最後に黒柳から「どうして指揮者をやめようと思ってるの?」と聞かれた井上は「声がダメなんですよ。しゃべりにくい。練習できない。体力ない指揮者は使い物にならない」と話しましたが、聞きやすいいい声でした。
ブログ「Blog ~道義より~」で、井上は「90歳の徹子さん・・・と、77歳の道義を前にして、モネちゃんは同じくらい濃い化粧まるでクレオパトラ!(中略)言いたいことを言い切り立派なもの。」と綴っています。

 

ザ・シンフォニーホール

(2024.4.27記)

 

Kyoto Music Caravan 2023「スペシャル・コンサート」 京都市交響楽団第688回定期演奏会