京都市交響楽団第670回定期演奏会


  
   
2022年8月26日(金)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

準・メルクル指揮/京都市交響楽団

サン・サーンス/交響詩「死の舞踏」
フォーレ/組曲「ペレアスとメリザンド」
ベルリオーズ/幻想交響曲

座席:S席 3階C1列18番



広上淳一が第13代常任指揮者兼芸術顧問を退任した第665回定期演奏会以降、約5ヶ月ぶりに京都市交響楽団を聴きました。2022年度シーズンの定期演奏会も初めてです。

今シーズンの京都市交響楽団は、常任指揮者が33年ぶりに空席になっていますが、7月12日に行なわれた「京都市交響楽団 新常任指揮者就任記者発表」で、第14代常任指揮者に沖澤のどかが就任することが発表されました。任期は2023年4月から3年間です。記者会見がニコニコ動画でオンライン配信されて、てっきり外国人指揮者が就任するとばかり思っていたので、沖澤のどかが登場したときには驚きました。沖澤は「唯一の共演だった第661回定期演奏会が感動的だった」と語りましたが、客席で聴いていた私もまったく同感です。早くも来シーズンが楽しみです。

今シーズンの京都市交響楽団は、2021年度は新型コロナウイルス感染症の影響で休止していた「京響友の会」(定期会員)が2年ぶりに復活しました。また、新しい取り組みとして「フライデー・ナイト・スペシャル」が3公演で設定されました(5月、11月、2023年3月)。2日公演の1日目(金曜日)の開演時間を30分遅くして、19:30から開演、休憩なしの1時間公演です。仕事帰りにも行きやすいことをアピールしていて、料金も25〜35%安く設定されました。翌日の2日目(土曜日)のプログラムと一部異なるのもポイントです。初回の第667回定期演奏会(2022.5.20)は、ニコニコ生放送で無料で配信されました(詳細は後述)。

本公演の指揮は、準・メルクル。ミュンヘン生まれの63歳で、お父様がドイツ人で、お母様が日本人のハーフのようです。現在は、台湾国家交響楽団(NSO)音楽監督、ハーグ・レジデンティ管弦楽団首席客演指揮者、インディアナポリス交響楽団芸術顧問、オレゴン交響楽団首席客演指揮者を務めています。日本のオーケストラへの客演も数多く、京響とは第627回定期演奏会(2018.9.22&23)で初めて共演しました。

今年度から演奏会の前日に、京都コンサートホールでホール練習を行なえるようになったようで、京都市交響楽団のTwitter(@kyotosymphony)にも写真が掲載されています。第663回定期演奏会で井上道義が「京都コンサートホールで練習させてほしい」と話していたのと関係があるのかは分かりませんが、オーケストラにとっては喜ばしいことです。

この日の京都府の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は4147人。過去最多(8月3日)の6891人よりは減少傾向ですが、第7波がなかなか収束しません。消毒と検温の後、チケットに印刷されたQRコードをスタッフがスキャンして入場しました。半券をもぎる必要がなくなって最新鋭の取り組みですが、今年度から紙のチケットではなく、電子チケット(チケットれすQ)も選べるようになったことによるのでしょう。なお、チケットれすQは、手数料が1枚あたり55円かかります。

18:30からプレトーク。準・メルクルが、通訳の女性とともに登場。「みなさん、こんばんは」と日本語で挨拶。メガネをかけて、小さなメモを持って、きれいな英語で話しました。「本日はオールフランスプログラムだが、3曲は密接につながっている。すべて19世紀に作曲されて、文学と深い関わりがある」と話し、 作品やストーリーを詳しく紹介しました。15分で終了。

お客さんの入りは7〜8割程度。平日夜公演だった第664回定期演奏会に比べるとお客さんもだいぶ戻ってきたようで、ポディウム席はほぼ満席でした。当日券やU22チケット(22歳以下が対象)も発売されましたが、今年度は後半券の設定はないようです。1階席の1列目も発売されました。京都市交響楽団第665回定期演奏会で広上淳一が披露した、半円形の雛壇が客席に近づけるフォーメーションは、本公演では採用されず、いつも通りの配置でした。
団員の入場時に客席から温かい拍手。コンサートマスターは、石田泰尚(特別客演コンサートマスター)。左隣にコンサートマスターの泉原隆志が座りました。弦楽器と打楽器奏者はマスクするかどうかは自由のようです。準・メルクルは全曲譜面台なしで指揮(ゲネプロの写真には、譜面台とスコアがありました)。メガネはかけていませんでした。

プログラム1曲目は、サン・サーンス作曲/交響詩「死の舞踏」。プレトークで、メルクルは「フランス革命の100年後に作曲されたが、フランス革命で人間はみな同じというメッセージが発せられたのと同じく、人は死んでしまえば貴族も市民も同じというメッセージが込められている」と語りました。オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69「オルガニスト・エトワール「大平健介&長田真実」」でオルガン連弾版を聴きましたが、原曲を演奏会で聴くのは初めてかもしれません。
やや速めのテンポ。石田泰尚のソロが大活躍。風貌に似合わず、繊細な音色です。メルクルは音量のコントロールが巧みで、何を聴かせたいかがはっきりしています。101小節(largamente)からのメインテーマもあまり濃厚になりません。121小節からのシロフォンが強め。133小節でトランペットのクレシェンドさせるなど、スコアにない細かな仕掛けを作りました。416小節(Animato)から倍速でたたみかけます。

プログラム2曲目は、フォーレ作曲/組曲「ペレアスとメリザンド」。プレトークで、メルクルは「「ペレアスとメリザンド」に刺激されて、ドビュッシー、フォーレ、シェーンベルク、シベリウスが10年の間に作曲した。京響の木管楽器はすばらしい」と語りました。
第1曲「前奏曲」から、がっちりした造型で分析的に聴かせます。第2曲「糸を紡ぐ女」は、ヴァイオリンのパートをはっきり聴かせます。有名な第3曲「シチリア舞曲」も速めのテンポ。第4曲「メリザンドの死」は、コントラバスのピツィカートをよく響かせて、フランス音楽とは思えないほどシンフォニック。

休憩後のプログラム3曲目は、ベルリオーズ作曲/幻想交響曲。プレトークで、メルクルは「当時はこんなに大きなオーケストラの編成はなかった。ハープ2、チューバ2、バスーン4、ティンパニ4が必要」と語りました。オフィクレイドは、本公演ではワーグナーチューバで演奏。京響のテューバ奏者は欠員なので、この日は二人とも客演奏者でした。
この作品については、読売日響第160回東京芸術劇場名曲シリーズでのカンブルランの名演が忘れがたいですが、指揮者の個性が出やすい作品かもしれません。京都市交響楽団がこの作品を演奏するのは今年2度目で、「《身近なホールのクラシック》京都市交響楽団特別演奏会」(2022.5.14 箕面市立文化芸能劇場大ホール)で、三ツ橋敬子が指揮しました(当初はパスカル・ヴェロの予定でしたが、陽性の疑いが判定されたため来日できず)。最近演奏して慣れているのか、完成度が高い演奏でした。個々のメンバーのレベルが高いし、安定していて、メルクルのリクエストにも応えられています。メルクルはドイツ風のアプローチでしたが、譜面台が前にあったら邪魔になったと思うほど、指揮棒をよく動かします。
第1楽章「夢と情熱」は、冒頭の弦楽器から音符の長さに気を使って、慎重に細かな表情づけ。10小節のチェロの6連符も大きく聴かせます。前半の静かな部分で、客席から携帯電話のアラーム?がしばらく大音量で鳴り響きました。携帯電話抑止装置が作動しているはずなのに困りますねぇ…。410小節からヴァイオリンをきっちり聴かました。439小節(animez)からテンポアップ。
第2楽章「舞踏会」は速めのテンポ。パートごとにきっちり聴かせます。174小節からの再現部では、チェロとコントラバスのピツィカートを聴かせます。232小節のパウゼを印象づけます。
第3楽章「野の情景」では、オーボエ独奏は、スコアには「derrière la scène(舞台裏で)」の指示ですが、おそらく3階席左のバルコニーの通路で演奏。私の席からは見えませんでしたが、イングリッシュホルンとの距離感を演出したかったのかもしれません(オーボエ独奏は、その後オーケストラには戻らず)。メルクルもたまに左後ろを見ながら指揮しました。ティンパニ2台を4人で叩きました。演奏中に移動した2人が立ったまま叩きますが、視覚的にもおもしろい。
第4楽章「断頭台への行進」は、速めのテンポでまさに行進曲。ティンパニは硬めのマレットを使用。ファゴットの4人が活躍します。77小節での繰り返しはなし。122小節でリタルダント。139小節から速いテンポに戻って、スコアにはない速度の変化をつけました。170小節からのラストのファンファーレは整った響きですが、スコアがffではなく、fであるのを尊重したようです。
第5楽章「ワルプルギスの夜の夢」は、 冒頭のコントラバスの動機は、前半の音符を長めに演奏して、少しいやらしい表情。5小節と16小節のコントラバスとコントラバスの6連符もすごい音響効果で、当時の感覚からすると相当斬新だったと言えるでしょう。40小節(Allegro)からの木管楽器ははしゃいだ音色で、宴会の浮かれた表情 にふさわしい。102小節からのClochesは、コントラバスの後ろに大きなカリヨンが2つ置かれました。スコアに指示はありませんが、カリヨンが舞台裏ではなくステージに置かれるのは珍しい。カリヨンの音程は高い。127小節からの「怒りの日」はテヌート気味に演奏。強奏は金管楽器がいつもよりよく鳴って、よくまとまっています。414小節からも「怒りの日」のメロディーよりも、メルクルはヴァイオリンの細かな音符をきちんと指揮しました。

カーテンコールでは、メルクルがステージに第3楽章のオーボエ奏者を連れてきました。コンサートマスターの石田泰尚と何回も握手。コロナ禍以降では、ひじタッチやグータッチやがほとんどでしたが、すっかりwithコロナに移った感じです。規制退場もありませんでした。

京響はひさびさに聴きましたが、整ったアンサンブルが聴けました。メルクルは細部まできっちり聴かせるので、オーケストラにとってはよいトレーニングになったことでしょう。ちゃんと対応できているオーケストラもすごい。同じフランス音楽でも、第661回定期演奏会の沖澤のどかとは異なるアプローチでした。メルクルは指揮後にオーケストラに礼をするなど、礼儀正しい。

なお、上述したように、「フライデー・ナイト・スペシャル」の初回となった第667回定期演奏会(2022.5.20)は、ニコニコ生放送で配信されることが5月17日に発表されました。無観客ライブ配信となってしまった京都市交響楽団第656回定期演奏会以来の配信です。ナビゲーターの羽田優里奈が進行。19:00から指揮者のヤン・ヴィレム・デ・フリーントがステージ上でプレトーク。プログラム1曲目は、モーツァルト作曲/セレナード第12番。木管楽器8名だけの演奏で、フリーントも指揮台なしでイスに座って指揮。プログラム2曲目は、モーツァルト作曲/フルートとハープのための協奏曲。独奏の上野博昭(フルート)と松村衣里(ハープ)のインタビュー(事前収録)や、曲間には演奏事業部長の川本伸治のインタビューや、翌日(2日目)に演奏するシューベルト作曲「交響曲第8番「ザ・グレート」」のホール練習の様子も紹介。客席固定カメラのチャンネルも用意されました。配信映像を見たところでは、お客さんの入りが少なくてさみしかったですが、ニコ生の視聴者数は1万人程度いて、ギフトを贈っている人もいました。


チケットカウンター横に設置されたトリックアート

(2022.9.6記)


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