京都市交響楽団第664回定期演奏会


     
   
2022年2月18日(金)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

ガエタノ・デスピノーサ指揮/京都市交響楽団
小林海都(ピアノ)

ヴェルディ/歌劇「運命の力」序曲
ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲
チャイコフスキー/交響曲第5番

座席:S席 3階C1列19番



この演奏会は、新型コロナウイルス感染症の影響で、指揮者もソリストも変更になってしまったため、上の画像のように、チラシが3種類も作成されることになりました。間違い探しのようですが、右から左に向かって新しくなります。紆余曲折がありましたが、演奏曲は変更されずに開催されました。

当初、指揮者は原田慶太楼(東京交響楽団正指揮者、サヴァンナ・フィルハーモニック音楽監督兼芸術監督)でしたが、新型コロナウイルス感染症のオミクロン株に対する水際措置の強化に伴い、ガエタノ・デスピノーサに変更されることが、1月7日(Club会員発売日の前日)に発表されました。日本人が降板して、外国人が代役を務めることに少し混乱された方もいたようですが、原田慶太楼はアメリカ在住で、音楽監督兼芸術監督を務めるサヴァンナ・フィルハーモニック(Savannah Philharmonic Orchestra)の演奏会が2月12日にあったため、日本入国条件の2週間隔離の日程確保が困難になったようです。同様に、2月23日(祝-水)の九州交響楽団「第28回名曲・午後のオーケストラ」も降板しました(キンボー・イシイが代役)。なお、2月6日(日)の「マルホンまきあーとテラスオープニング事業」は東京都交響楽団を、2月27日(日)の「上原彩子デビュー20周年 2大協奏曲を弾く!」は、日本フィルを指揮しました。タイミング的にちょっと間に合わなかったようですね。それだけ多忙な指揮者ということでしょう。

代役を務めるガエタノ・デスピノーサ(デスピノーザではなく、デスピノーサ)は、イタリア出身。もともとはヴァイオリニストで、ドレスデン国立歌劇場でコンサートマスターとしてキャリアを積みました。指揮者としてデビューしたのは2008年で、現在ポストは持っていないようです。見た目はもっと年上かと思いましたが、43歳で私と同い年です。
今回の代役で京響は初指揮と思いきや、第605回定期演奏会(2016.9.24-25)を指揮しているので、今回が2回目です。11月に日本に入国済みで、12月にNHK交響楽団で4公演を指揮(山田和樹とワシーリ・ペトレンコの代役)、そのまま日本に滞在して、日本国内のオーケストラを相次いで客演することになり、昨年末には、大阪フィルの「第9シンフォニーの夕べ」を指揮(ラルフ・ワイケルトの代役)。日本で年越しして、1月には読売日本交響楽団を初めて指揮(マリー・ジャコの代役)した後、新国立劇場「さまよえるオランダ人」を指揮(ジェームズ・コンロンの代役)、続いて2月には新国立劇場「愛の妙薬」を指揮(フランチェスコ・ランツィロッタの代役)しました(オーケストラはいずれも東京交響楽団)。なお、本公演の後は、東芝グランドコンサート2022で、ジャパン・ナショナル・オーケストラ特別編成を指揮して、愛知、西宮、東京、川崎の4公演を回ります(ダーヴィト・アフカム指揮 スペイン国立管弦楽団の代替公演)。読売日本交響楽団第31回大阪定期演奏会を指揮したジョン・アクセルロッドとともに、演奏会が中止になるかもしれない危機を救ってくれました(アクセルロッドは、2月11日の東京都交響楽団まで、来日中に21公演も指揮しました)。
ピアノ独奏も変更になりましたが、詳細は後述します。

京都府にはまん延防止等重点措置が発令中で、この日の新規感染者数は2053人でした。チケットの半券は自分でもぎりましたが、クロークや ホワイエのドリンクコーナーは営業していました。

開演前にプレトーク。18:30からスタート。デスピノーサと通訳の女性が登場。「こんばんは」と日本語であいさつ。その後は英語で話しましたが、 日本語への通訳が必要なことを忘れて話を続けたので、通訳の女性が必死にメモしていました。「今回のプログラムは自分で選曲していないが、すばらしくて興味深い 。ヴェルディとチャイコフスキーでユニークで特徴的」と語り、丁寧に作曲家や作品を解説しました。10分ほどで終了しましたが、プレトークでここまでよく話した指揮者は初めてかもしれません。
コンサートマスターは、豊嶋泰嗣(特別名誉友情コンサートマスター)、その左に泉原隆志が座りました。デスピノーサは背が高くてスマート。客の入りは5割程度。

プログラム1曲目は、ヴェルディ作曲/歌劇「運命の力」序曲。デスピノーサは、プレトークで「ヴェルディは作曲のスタイルが変わってきた。この作品は人生の中間に当たる時期に作曲された」と紹介しました。冒頭からいつもの京響と違う響き。シャープな音型で、カンタービレが意識され、響きが重くなりません。音量は大きくなく、軽やかに響きます。

プログラム2曲目は、ラフマニノフ作曲/パガニーニの主題による狂詩曲。ピアノ独奏は、三浦謙司の予定でしたが、居住しているベルリンで新型コロナウィルスに感染したため、来日が不可能となり、2月5日に小林海都(かいと)に変更することが発表されました。小林は26歳で、京響とは初共演とのこと。デスピノーサと小林は、昨年12月にNHK交響楽団定期演奏会で、バルトーク「ピアノ協奏曲第3番」を共演しました。また、このラフマニノフのパガニーニラプソディを1月に小泉和裕の指揮で演奏しました(名古屋フィル)。デスピノーサはプレトークで「ジャズの影響が見られる」と紹介しました。
小林のピアノは、ショパンのようなタッチで、即興的な部分があり、拍感が弱く、響かせすぎません。あまり打鍵に力を入れないで、難しくなさそうに弾きます。デスピノーサは、ずっと後ろを向いて指揮しているので、小林とほとんどアイコンタクトをとりません。ピアノ独奏がオペラ歌手のような感覚でしょうか。
この作品は、広上淳一が頻繁に指揮していて、京響で聴くのは実に4回目(京都市交響楽団第527回定期演奏会オーケストラ・ディスカバリー2012 〜こどものためのオーケストラ入門〜 「名曲のひ・み・つ」第1回「作曲家に隠された真実(作曲家編)」京都市交響楽団大阪特別公演)でしたが、響き方が全然違ってびっくり。ホルンをまったく聴かせないのと、事故が起こりやすい第22変奏も打楽器は控えめ。あまりロシア音楽らしくありませんでしたが、指揮者とピアニストの相性はよさそうでした。第18変奏は聴いたことがないくらいの速いテンポ。第24変奏はオーケストラ伴奏の情報量が多い。最後のピアノの一音は長め。
デスピノーサと小林が一緒に登場して、デスピノーサが下手側の前方客席に座って、小林のアンコールを聴きました。スクリャービン作曲/24の前奏曲から第9番を演奏。ゆったりしてやや暗めの曲でした。

休憩後のプログラム3曲目は、チャイコフスキー作曲/交響曲第5番。京都市交響楽団で聴くのは、ウラディーミル・アシュケナージが指揮した第596回定期演奏会以来でした。
デスピノーサはフレーズを歌わせて、音楽の流れを作るのがうまい。それぞれのメロディーがオペラのアリアのように聴こえました。テンポを遅くしそうなところを速く演奏して、いつも聴いている演奏がモタモタ聴こえるほどテンポ感がいい。個々のメンバーよりもセクションでまとまった音が響いて、金管楽器は大きな音量で頑張って吹きませんが、管楽器の響きも融合されています。最後列に、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバを一列で並べたいつもとは違う配置が影響しているかもしれません(いつもはホルン4を前後で各2にしている)。弦楽器と木管楽器もうまくハモって、和音がよく響きました。
第1楽章冒頭のクラリネットは、5小節と6小節の間に間を空けるのがユニーク。以降の小節も同じで、テヌートがついている四分音符と、付点二分音符を吹き分けたいということでしょうか。38小節からのAllegro con animaはややゆっくりしたテンポで始まりましたが、80小節からのヴァイオリンの上昇と下降のスケールを利用して加速。同様に、363小節からのトロンボーンと、445小節のテューバの音型を利用してテンポアップしましたが、スコアに指示はありませんが、作為的ではなく自然な流れでした。テューバ(読売日本交響楽団の次田心平)がよく響いて、266小節などよく目立ちました。491小節からの終結部はフルートが活躍。ティンパニが加わる直前の532小節でリタルダント。最後の小節はコントラバスを響かせました。第2楽章のホルンソロはやや抑制的。第3楽章のホルンのゲシュトップはかわいさすらありました。
第4楽章は、58小節からのAllegro vivace (alla breve)は、スコアの指定はfですが、mpくらいの音量から始めて次第に盛り上げます。オーボエがメロディーを歌う82小節からはやや速め。フルートがメロディーを歌う128小節からも速めのテンポを維持。テンポがよく、思わず頭を動かしながら聴きたくなりました。 ヴァイオリンの合いの手で、151小節のクラリネットが息漏れの音が聴こえるほど強調。471小節のフェルマータは、けっこう間がありましたが、拍手は起こらず (めでたし)。502小節でリタルダンドして、503小節でクライマックスを築きました。

カーテンコールでは、最後にデスピノーサが客席に降りてきて、客席前方を左右に歩きながら拍手してオーケストラを称えました。意外な行動にオーケストラもびっくり。ひさびさに時間差退場が行なわれ、アナウンスにしたがって退場しました。クローク前が混雑するからでしょうか。なお、ソリストのアンコール曲は、配布(スプリング・コンサート)や掲示(第661回定期演奏会)が行なわれたことがありましたが、今回は何もなく、京都市交響楽団のTwitterで発表されました。

デスピノーサはいつもの京響とは違う響きを引き出しました。今度は自分でプログラミングして、また京響を指揮して欲しいです。大フィルの「第九」も聴いておいたほうがよかったかもしれません(後悔)。

なお、原田慶太楼は、残念ながら今回は京響を指揮できませんでしたが、3月に「オーケストラ・ディスカバリー2021「発見!もっとオーケストラ!!」第4回「オーケストラ・ミーツ・シネマ」」、9月に「第26回京都の秋音楽祭 開会記念コンサート」、12月に「オーケストラ・ディスカバリー2022「ザ・フォース・オブ・オーケストラ」第3回「オールウェイズ・ストリングス」を指揮します。

(2022.3.5記)


第5回京都市立芸術大学サクソフォン専攻生によるアンサンブルコンサート「Saxtation」 京都コンサートホール バックステージツアー