京都市交響楽団第663回定期演奏会


   
   
2022年1月22日(土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

井上道義指揮/京都市交響楽団
上野通明(チェロ)

シベリウス/交響詩「フィンランディア」
シベリウス/交響曲第7番
エルガー/チェロ協奏曲
エルガー/序曲「南国で」

座席:S席 3階C1列19番



2022年の聴き始めは、京響定期です。指揮は井上道義。オーケストラ・アンサンブル金沢の桂冠指揮者を務めています。
前半がシベリウスで、後半がエルガーというプログラムです。なお、井上道義の指揮で「フィンランディア」も「交響曲第7番」も、15年前の京都市交響楽団第497回定期演奏会のオール・シベリウス・プログラムで聴きました。
2日公演の1日目です。前日は大雪警報が発令されるほどの大雪で、ホール前のプロムナードには、雪が解けずに残っていました。

オミクロン株の急拡大で、この日の全国の感染者は初めて5万人を超え、京都府も1533人と1日当たりの感染者数は5日連続で過去最多を更新し、まん延防止等重点措置が適用される水準に近づきました(1月27日に発令されました)。当日券が発売され、クロークも営業していました。

開演前にプレトーク。14:00頃の予定でしたが、14:10からスタート。井上道義が登場。マスクなしで話します。「冬にぴったりのプログラム。エルガーがいたイギリスに住んたことがあるが、今の季節は暗い」と語りました。シベリウスについては、「シベリウスはうつ病になって、呑んだくれになってしまった。フィンランドは作曲家へのサポートが手厚いので、晩年は作曲しなくなった」と語りましたが、井上もシベリウスの生き方に共感するところがあるのでしょうか。交響曲第7番は「トロンボーンが冬の太陽を歌い上げる」と語り、実際にメロディーを歌い、「孤独と自然の癒しが音になっている」と解説。エルガーのチェロ協奏曲は「渋い曲」、序曲「南国で」は「暖かい太陽」と解説しました。「たってのお願い」ということで、「京都にいた頃、今の(京都市交響楽団)練習場はできて喜んで、このホールができてもっと喜んだが、今の練習場は整理整頓できていないし、 ここ(京都コンサートホール)で練習させてほしい。ここで音を作って、個性を作るのがオーケストラにとって重要なので応援してほしい。広上くんはここの館長だし」と呼びかけました。最後に「京都のお客さんに分かってもらえると思って今日のプログラムを作った。いろんな事情で満席にならないのは残念だけど、来なかった人はどうでもいいんで、来た人のために演奏します」と力強く宣言して、10分ほどで終了しました。

コンサートマスターは会田莉凡(特別客演コンサートマスター)、その左に泉原隆志が座りました。客の入りは4割程度。井上道義は、指揮台なしで、譜面台を置いて指揮しました。なお、ブログ「Blog 〜道義より〜」によると、オーケストラの配置は、「開館当初のオリジナルな並び=京響のサイズに合わせた椅子の置き方だった」とのこと。

プログラム1曲目は、シベリウス作曲/交響詩「フィンランディア」。井上は指揮棒を前に突き刺すような指揮で、シャープな音型でアクセントも強め。132小節からの賛歌はフルートとオーボエが絶品。156小節からのティンパニはppp(Bass Drum, using the timpani sticks=ティンパニのスティックを使って大太鼓を叩く)で、録音だと聴こえないほどですが、やや大きめに演奏。井上は指揮台がないので団員の近くまで近寄って指揮。両腕を大きく使いました。

プログラム2曲目は、シベリウス作曲/交響曲第7番。上述したように京都市交響楽団第497回定期演奏会でも聴きましたが、井上はよほどこの作品が好きらしく、NHK交響楽団6月公演(2021.6.5&6)や、東京芸術劇場presents読売日本交響楽団演奏会(2022.1.28)でも取り上げられました。私も大好きな曲です。音量を抑えて、水墨画のようなモノトーンの音色で、弦楽器の音色もいつもより冷たい。後半は快速テンポで、抵抗なくスイスイと進みます。487小節からヴァイオリンの旋律をじっくり強調。最後は両腕で祈るような指揮でしたが、すぐに拍手が起きてしまいました。もっと余韻を楽しみたかったです。残念。

休憩後のプログラム3曲目は、エルガー作曲/チェロ協奏曲。チェロ独奏は、上野通明(みちあき)。当初は、ズラトミール・ファン(2019年のチャイコフスキー国際コンクールのチェロ部門で史上最年少で優勝したアメリカ人)が独奏を務める予定でしたが、新型コロナウイルス感染症のオミクロン株に対する水際措置の強化に伴い、海外アーティスト等の日本への入国制限の緩和が現時点で見通せないため、2021年12月14日に上野への変更が発表されました。上野は2021年10月のジュネーブ国際音楽コンクールのチェロ部門で日本人で初めて優勝しました。まだ26歳の若さです。
上野はモジャモジャパーマの髪型で、演奏台の上で演奏。井上はその右隣に譜面台を置いて指揮しました。井上がプレトークで話したように、確かに冬に聴くのにふさわしい暗さ。32小節のpoco allargandoでテンポを落としました。休みなく第2楽章へ。独奏チェロはかなり高音を使うので、京都市交響楽団第598回定期演奏会で演奏されたヴィオラ版が編曲されたのもうなずけます。第3楽章から休みなく第4楽章へ。
上野のチェロは、アゴーギクがユニーク。オーケストラに埋没しませんが、もう少し力強く弾いてもよかったでしょう。まだ若いので、将来が有望です。ブログ「Blog 〜道義より〜」で、井上道義は「急遽頼んだ上野通明君は、本物だ。これから大いに伸びる」と絶賛しています。なお、2日目のほうがコミュニケーションが取れたいい演奏だったとのこと。
演奏後はアンコールを演奏してもよいくらいの大きな拍手でしたが、アンコールはなし。このプログラムだとエルガー以外の作品を演奏するのは不似合いと思ったからでしょうか。

プログラム4曲目は、エルガー作曲/序曲「南国で」。序曲というタイトルですが、20分程度で意外に長い。この作品も井上のお気に入りなのか、来月に東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会(3公演)でも指揮します。エルガーがイタリア旅行中に作曲されました。「ドン・ファン」に似た開始で、ところどころリヒャルト・シュトラウスに似た響きがします。演奏は一転して明るい音色で、シンフォニックに響きました。中間部で長いヴィオラソロがあります。後半はハープの伴奏が「南国にて」のタイトルにふさわしく、鉄琴(グロッケンシュピール)が活躍しました。

井上道義は、2021年12月に、ブログ「Blog 〜道義より〜」に、「道義は2024年12月をもって引退を決めました。(中略)脳も身体も元気でない長生きというのも俺は嫌なのだ。ごめん。決めた。」と書き込み、突如引退を宣言しました。冗談と思っていたらどうやら本当らしく、朝日新聞へのインタビューでも、「ヨボヨボと指揮台に立ち、それでもみんなに気遣われ、立派だなんて褒められる。そんな自分は僕自身が見たくない」と語っています。当初から新型コロナウイルスについてTwitterで積極的に発信している一方で、ザ・シンフォニーホールでの「井上道義指揮 躍動の第九」(2021.12.12)が、「クラシック音楽公演運営推進協議会が定める「新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」にある合唱団の飛沫対策に関して、指揮者と演出上の合意を得ることができなかったため出演が不可能」となり降板しました(現田茂夫に変更)。「Blog 〜道義より〜」で、「実はずっと以前からマスクで合唱をやるというような(特に第九のような喜びに満ちていなければならない作品ならなおさら)まるで弦楽器に弱音器を付けてスフォルツアンドを連打するような愚挙だ。そんなことは例え大金をつまれても私には出来ない!」と説明しています。昨年の冬は一度も「第九」を指揮しませんでした。コロナ禍における演奏の在り方も、引退の判断につながったのかもしれません。
とは言え、2月には「エレクトラ」特別演奏会(指揮:セバスティアン・ヴァイグレ)が公演中止になった代わりに開催された「特別演奏会」を指揮しました。2017年に限定発売されて完売した「ショスタコーヴィチ交響曲全集 at 日比谷公会堂」が再発売されたのはうれしかったです。残念なことに、来シーズンは、京都市交響楽団の自主公演には登場しません。もっと京響を指揮して欲しいですね。

京都コンサートホール プロムナード

(2022.2.11記)

京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」 京都市交響楽団第663回定期演奏会