読売日響第160回東京芸術劇場名曲シリーズ


   
      
2009年4月18日(土)18:00開演
東京芸術劇場大ホール

シルヴァン・カンブルラン指揮/読売日本交響楽団

ラモー/歌劇「ダルダニュス」組曲から
ラヴェル/組曲「クープランの墓」
ベルリオーズ/幻想交響曲

座席:A席 2階 E列21番


2010年4月から読売日本交響楽団第9代常任指揮者就任するシルヴァン・カンブルランが、一足早く予告編のように登場です。現常任指揮者のスクロヴァチェフスキはドイツ音楽を得意としていて、フランス出身のシルヴァン・カンブルランは好対照です。オーケストラの方向性を変えてしまうほどの意外な後任人事と言えるでしょう。現在はバーデンバーデン&フライブルクSWR(南西ドイツ放送)交響楽団の首席指揮者を務めています。読売日響とは初めて指揮した2006年以来の共演で、今回はベートーヴェンとフランス音楽の2つのプログラムが用意されました。読売日本交響楽団からどんな響きを引き出すか聴きたかったので、後者の演奏会を選択しました。
客の入りは9割程度。客席にテレビカメラが複数台配置されていました。テレビで放映されるようです。

プログラム1曲目は、ラモー作曲/歌劇「ダルダニュス」組曲から。オーケストラは中編成での演奏。カンブルランが早足で颯爽と登場。こんなに早足で出入りする指揮者も珍しいです。上下とも黒一色の服装で、髪型はオールバック、後ろでしばっています。メガネをかけていました。演奏は優雅で華やかですが、型もしっかりあります。弦楽器と管楽器の響きが融合されていました。木管楽器が控えめですが、バランスもいい。低音を聴かせるところは、読売日響の長所を生かしていると言えるでしょう。演奏にごまかしが効かない作品ですが、技術的な完成度が高い。1曲目から期待以上の演奏でした。初めて聴きましたがいい曲ですね。気に入りました。プログラムに掲載されたインタビュー記事では、カンブルランはラモーをフランス音楽の起源と考えているようで、作品に対する愛情も感じられました。
カンブルランの指揮はとても身軽です。両足を広げて、体重を左右に移しながら指揮しました。アクションも大きい。今年で60歳ですが、写真から想像するよりも指揮する姿が若いです。誤解を恐れずに言えば、ポップスオーケストラの指揮者のようです。
なお、プログラムに別紙が挟み込まれていて、都合により曲目に一部変更が生じたことが書かれていました。よく見ると、最後の9曲目として演奏される予定だった「陽気なロンド」(第1組曲第5曲)が減ったようです。「都合」の詳細は不明ですが、せっかくなので聴きたかったですね。

プログラム2曲目は、ラヴェル作曲/組曲「クープランの墓」。オーケストラの人数が少し追加されました。音符の粒をはっきり聴かせます。もう少し響きがやわらかくてもいいかと思いましたが、和音が鮮やかに決まった瞬間が何度かあってゾクッとしました。弦楽器は芯のある響きでしたが、木管楽器はやや自信なさげ。

休憩後のプログラム3曲目は、ベルリオーズ作曲/幻想交響曲。この作品がこんなに魅力的に響きとは思いませんでした。まさに名演。強奏の一体感が見事。よくそろっています。どの楽器も表情がいきいきしています。弦楽器の澄んだ音色もすばらしい。1つの楽器のようです。弦楽器のすばらしさは、つい先日の京都市交響楽団大阪特別公演で聴いた京都市交響楽団に勝るとも劣りません。また、細かいところにも目が行き届いていて、新しい発見がいくつもありました。
第1楽章冒頭は休符のフェルマータをしっかり長くとります。ピツィカートも大きく聴かせます。410小節からの再現部のクライマックスは、フレッシュなスピード感がありました。第2楽章は冒頭は2台のハープがきらびやか。ワルツの流れもいい。120小節からのフルートの背景の弦楽器を大きく聴かせました。第3楽章冒頭のオーボエは、下手の舞台裏で演奏。続くヴァイオリンの和音が美しい。第3楽章にこんなに聴きどころが多いとは知りませんでした。ティンパニの雷鳴は、やや大きめに聴かせました。コールアングレもやや大きめ。大太鼓奏者2名がゆっくり近づいて、ティンパニ2台を4人で叩く様子は視覚的に見るとおもしろいですね。第4楽章は、ステージ最後列に配置された打楽器のパワーが十分。まさに息を呑む演奏でした。強奏でも音が荒れることはありません。なお、スコアどおり反復記号で繰り返しました。第5楽章は、金管楽器と打楽器がますます元気。鐘は下手の舞台裏で演奏。楽器の形状は見えませんでしたが、音程が高く大きな音量で叩かれました。ピッコロとフルートの高音を大きめに聴かせるのも効果的。

演奏終了後は、聴衆から熱狂的な拍手。拍手の大きさからして、聴衆も大いに満足したようです。拍手に応えてアンコール。サティ作曲/「ジムノペティ」からを演奏。3曲あるうちの第1番を演奏しました。編曲者名は発表されませんでしたが、ドビュッシーの編曲かもしれません。ハープから始まるセンスのいい編曲でした。演奏会の最後もフランス音楽で締めました。

終演後、カンブルランのサイン会が大ホールのロビーで行なわれるとのこと。参加は自由で、CDを購入しなくてもプログラムにもサインOKということなので、せっかくの機会なので参加することにしました。50人ほどが行列を作りました。しばらく経ってからカンブルランが着替えて登場。女性の通訳も同伴していました。カンブルランは疲れも見せず高い声で陽気に話しました。サイン会は初めて参加しましたが、無言でサインしてもらう人もいれば、熱く語りかける人など、さまざまでした。写真撮影にも「フォト?」と言って、気軽に応じていました。ファンサービスに積極的で好感が持てます。
私はプログラムのカンブルランのページにサインしてもらいました。「I came from Kyoto City」と話したところ、びっくりしてくれました。調子に乗って、カンブルランとツーショットで写真撮影。また「来年5月の大阪公演(常任指揮者就任披露公演)も楽しみにしています」と通訳を介して話したところ。「Oh, Next year!」とがっちり握手してくれました。普段英語を使うことはないので、ボキャブラリーの少なさを実感しました。これを機に英語を勉強しましょうか。

2時間の演奏会が本当にあっという間でした。カンブルランはスクロヴァチェフスキに比べると知名度は高くないかもしれませんが、今後の共演が大いに楽しみです。読売日本交響楽団は大変有望な指揮者を迎えることができたといえるでしょう。次回の指揮は常任指揮者に就任する2010年4月の予定です。常任指揮者就任披露公演(仮称)は東京に加えて大阪でも行なわれます。曲目は、モーツァルト作曲/交響曲第41番「ジュピター」とストラヴィンスキー作曲/バレエ音楽「春の祭典」が予定されていますが、待ち遠しいというよりも来年まで待てないですね。今回の演奏会がCD化されればぜひ買いたいです。

(2009.4.23記)


東京芸術劇場



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