京都市交響楽団第527回定期演奏会


   
      
<京都市交響楽団練習風景公開>

2009年8月7日(金)10:30開演
京都市交響楽団練習場

広上淳一指揮/京都市交響楽団

チャイコフスキー/イタリア奇想曲
チャイコフスキー/スラブ行進曲

座席:自由


<京都市交響楽団第527回定期演奏会>

2009年8月9日(日)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

広上淳一指揮/京都市交響楽団
黒川侑(ヴァイオリン)、河村尚子(ピアノ)

チャイコフスキー/スラブ行進曲
プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番
ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲
チャイコフスキー/イタリア奇想曲

座席:S席 1階 15列27番


京都市交響楽団大阪特別公演で熱演を聴かせた広上淳一が、今年度の京都市交響楽団定期演奏会に初登場です。オールロシア音楽のプログラムで、しかも協奏曲2曲が入っています。先日CDデビューした河村尚子(ひさこ)の演奏にも注目です。



<京都市交響楽団練習風景公開> 2009年8月7日(金)

本番の前々日に、練習場で公開練習が行なわれました。定期演奏会は本番の2日前から練習が始まるようです。往復ハガキで応募したところ、めでたく当選。京都市交響楽団の公開練習はこれまでに何回か行っていますが、広上淳一の練習は初めてです。抜群の指揮テクニックを見せる広上がどうやって練習を進めるか、常任指揮者は他の客演指揮者と練習スタイルが違うかどうか注目です。

いつものように2階のギャラリーから聴きます。団員は音出し練習中でした。夏真っ盛りということで、短パンにTシャツというラフな格好の団員もいました。10:30になって音が鳴り止み、事務局の方から団員に向けて連絡事項。今日の練習は、午前中に、イタリア、スラブ、アンコールの順。午後からはプロコ、パガニーニ。午後も別の公開練習が入っていて、ドイツの少年合唱団が見学に来るとのこと。明日の練習も同じ順番で行なう。明日からNHK「オーケストラの森」の取材が入る。明日の午後はジュニオケ(京都市ジュニアオーケストラ)が練習場を使う。ゲネプロと本番はCDに収録すると連絡しました。この日の連絡事項はやや多め。コンサートマスターの泉原隆志が立ち上がってチューニング。広上淳一が指揮台に登場。坊主頭と言っていいほどの超短髪で丸刈り。ピンク色のポロシャツを着て、メガネをかけていました。練習が公開されると聞いて、ギャラリー席を見上げて少し驚いた表情を見せました。コンマス、サブコンマスと握手して、指揮台に置かれたイスに座りました。

事前に発表された演奏曲目は「チャイコフスキー作曲/スラブ行進曲など(予定)」でしたが、事務局からの連絡にあったように、チャイコフスキー作曲/イタリア奇想曲からスタート。
広上の練習のスタイルは、最初に通して演奏はしません。最初から練習を始めて気になったところがあれば演奏を止めて部分的に繰り返します。高関健と同じ進め方です。また、広上は常任指揮者なので団員ともっとフランクに話すのかと思っていましたが、「みなさん」「恐れ入ります」「お願いします」「私が申し上げた」など、意外にもかなり丁寧な話し方でした。オーケストラ全体に聴こえるようにかなり大きな声で話します。広上の分かりやすい指揮を見ればどういう音が欲しいか分かります。オーケストラを歌わせるのが本当にうまい。一緒に歌いながら指揮したり、フレージングを体全体で表現するので、オーケストラは乗せられたように演奏しました。言葉で話すオーケストラへの指示はスコアに書かれた音符にもとづいて、フレーズの性格や音楽の方向性について具体的に細かく説明することが多かったです。さすが東京音楽大学教授です。音符をどのように演奏すべきか一般論を説明するので、団員も他の作品でも応用できるでしょう。このあたりは手兵として京響を育てて生きたいという気持ちの現れでしょう。時折笑わせるような話も交えました。イスに座って指揮しますが、気持ちが乗ると立ち上がって指揮しました。また、広上は指揮しながら「ブラボー」「すばらしい」「うまいうまい」「ワンダフル」と団員の演奏をほめました。演奏が思い通りに進んでいるときは「ごきげんです」と話しました。
指揮する前に「13小節4拍目の十六分音符はそのままの音価で」と指示。指揮しながら、20小節からの弦楽器に「もう少し前に」。76小節からのファゴットとコール・アングレには、立ち上がって歌わせ方を大きな身振りで表現しました。途中で演奏を止めて「ひとつだけリクエストがあります」と言って、94小節(Pochissimo piu mosso)からのコントラバスに「2拍目に入るときに…」と拍の動きについて細かな指示。110小節からのオーボエとクラリネットとファゴットの八分音符の受け渡しは「「ティーヤタ」と最初の音符にエネルギーを入れる。3回繰り返すが山田邦子が3人いると思ってください」と説明。団員の反応が薄かったので「古い?」と聞いて笑わせました。「ちょうと僕と同じ歳なんだな」とボソッと話しました。156小節からの弦楽器のスケールは「かなり早口言葉で作ってください」。180小節から「小島よしおが出てくると思ってください」。205小節は「pを重視してください」。217小節からのチェロに「(二分音符を)少しふくらませてください」。この付近でコントラバス奏者から「書き込みで譜面にf(フォルテ)と書いてあるがどうしたらよいか」と質問を受けましたが、広上は「気持ちは分かる」「意味は分かる」と答えました。341小節から「クラリネットとファゴットが作っている和音のキャラクターはエネルギーを持続したほうがいい」。371小節からのオーボエ二重奏は「右手にアイス、左手にシャーベットを持って、交互に食べる感じで」。終盤は金管楽器と打楽器の音圧がものすごく、圧倒されました。最後まで演奏が終わると「ちょっと惜しいところがあります」と話して、ヴァイオリンの音量をいったん落とすように指示。それ以外にも「少しだけ長めの八分音符」「同じキャラクターですが、ターゲットに持っていく」などと話しました。

「スラブ行きましょう」と話して、11:10からチャイコフスキー作曲/スラブ行進曲の練習。メンバーが入れ替わって、再度チューニング。金管楽器が絶好調で熱演。小太鼓の硬い音色も強烈。広上も指揮しながら大声で叫ぶように指示しました。最後まで演奏した後「すばらしい。どうもありがとうございました」と話し、弦楽器に「2カッコ目でfp<(フォルテピアノクレシェンド)を作ってください」と話しました。「イタリア奇想曲」よりも曲想の変化が少ないためか練習時間は短く、「休憩してください」と話して11:25に休憩に入りました。アンコールの練習が予定されていましたが、午後からになりました。本番のお楽しみということでしょうか。ちょっと残念。午後の協奏曲の練習は、独奏者用の楽屋が用意してあったので、独奏者とあわせて練習が行なわれるようです。アンケートを記入して帰りました。

広上淳一は無駄のない練習でした。濃厚な音色がどうやって作られるのか過程が分かりました。体を使って魅せる指揮でオーケストラを導いていました。演奏を止めて言葉で話す指示は微妙な表現力を要求しました。今回は小品の練習でしたが、交響曲はどのように練習を進めるのか見てみたいです。ちなみに、定期演奏会では「プレトーク」や「レセプション」などのファンサービスがありますが、練習風景公開では挨拶などはなくギャラリーをまったく気にせずに練習を進めました。



<京都市交響楽団第527回定期演奏会> 2009年8月9日(日)

第525回定期演奏会同様、京都コンサートホール1階のチケットカウンターに、当日券を買い求める行列ができていました。完売になることを予想してか「当日券残少」と書かれた貼り紙がされていました。ステージとバルコニー席にテレビカメラが数台設置されていました。NHK教育テレビ「オーケストラの森」で放送されるとプログラムに掲載されていました。

開演前の14:10からプレトーク。広上淳一が青いTシャツで登場。「京響の宣伝をしに参りました」と話し、これから行なわれる定期演奏会を紹介。9月の田村響について「期待の新人。すばらしいピアニスト」と紹介。10月は「井上先生の渾身のブルックナー。9番を指揮されるのは初めてかもしれません」。広上が指揮する11月は「アブデル・ラーマン・エル=バシャは大変立派なピアニスト。ベートーヴェンのトリプルコンチェルトはめったやらない作品。演奏する機会がない」。ニューイヤーコンサートは「指揮は新人の川瀬賢太郎にお願いしました。若手指揮者で最も期待されている。菊池洋子はモーツァルトを得意とするピアニスト」。1月は「外山先生が久しぶりの登場。リプキンは大変おもしろいチェリストと聞いています」。広上が指揮する3月は「東京公演に持っていく。私と京響のサウンドがある程度できあがって欲しいという希望を込めて選曲した。シューマンのホルン協奏曲はめった演奏されないが美しい曲」と紹介しました。
続いて、この日の演奏会のプログラムについて「前半と後半にコンチェルトがある。ソリストを存分に味わえる」と説明。黒川侑について「京都生まれ。日本の音楽家が期待している逸材」と話しました。広上が共演するのは初めてとのこと。「19歳でプロコフィエフの2番を弾くのはなかなか大変」と話しました。河村尚子は「テクニックもすばらしいが、美しいピアノの音色(おんしょく)が魅力」と話しました。
8月に定期演奏会を開催していることについて、「ヨーロッパでも8月はお休みですが、京響はなんとがんばっておりまして」とアピール。「夏は暑いですが、私は雨男ですから今日は(雨が降って)ちょっと涼しい。コンサート日和」と話し、「楽しいプレゼントも用意していますので、最後までお楽しみください」と話しました。客の入りはほぼ満席。

プログラム1曲目は、チャイコフスキー作曲/スラブ行進曲。練習場と違って、京都コンサートホールは残響の間接音が多くなります。小太鼓の硬い音色や金管楽器の鳴りといった演奏の特徴は練習の方がはっきり感じられました。トランペット4本は絶好調でしたが、弦楽器や木管楽器はもう少し音量がほしいです。音色が融合されていますが、もう少し個々の楽器の音色を聴かせて欲しい気もします。広上の指揮も練習とは振りが異なり、ジャンプしたりしました。

プログラム2曲目は、プロコフィエフ作曲/ヴァイオリン協奏曲第2番。ヴァイオリン独奏は黒川侑。黒川がゆっくりした足取りで登場。風貌はまだ少年です。黒川は両足を広げて、右腕に力を入れて演奏しましたが、あまり大きな音が出ません。もう少し音量が欲しいところです。また、オーケストラに遠慮しているのかちょっとせせこましい。もっとたっぷりのびのび歌って欲しいです。テクニックはあるので、表現力が課題でしょう。伴奏がすばらしかっただけにもったいない気がします。
京響の好サポートが光りました。広上が積極的にリード。黒川のヴァイオリンに合わせて、音量は控えめですが、表情が多彩で雄弁な伴奏でした。広上の「うん」といううなり声が何回か聴こえました。プロコフィエフがソヴィエトに帰国した後の作品ですが、予想していたよりも難解で、特に第3楽章の変拍子は広上の指揮を見ているだけで大変そうでした。

休憩後のプログラム3曲目は、ラフマニノフ作曲/パガニーニの主題による狂詩曲。ピアノ独奏は河村尚子。黒色のドレスに白色のスカーフ?を腰に巻いたような変わったデザインのドレスで登場。CDジャケットの写真から清楚なイメージを持っていましたが、大きなアクションで弾きます。イメージと違ったのでびっくり。強弱や緩急も大胆につけます。広上の指揮に合わせようという気はさらさらなく、指揮よりも速く弾いたりかなり暴走気味の演奏でした。即興的な感覚で弾いたりするので、共演する指揮者は大変でしょう。まさに「競争曲」で、手に汗握りました。広上がプレトークで触れた河村の音色は、透明感があって美しい。特に高音がきれい。硬いタッチで音符の粒立ちがはっきりしています。アシュケナージに似ているように感じました。第7変奏などの静かな部分もかなり大きい音量で演奏しました。有名な第18変奏も速めのテンポ。
オーケストラは河村に主導権を取られてやや崩壊気味。特に第22変奏の練習番号64で金管楽器の入りがズレました。
演奏終了後は、盛大な拍手が送られました。河村は白いスカーフを片手に持って振り回すようにして退場。なかなかの大物ぶりです。今後も注目したいピアニストです。

プログラム4曲目は、チャイコフスキー作曲/イタリア奇想曲。ピアノを脇に下げた後、指揮台の右横にキーボードが設置されました。もちろんチャイコフスキーでは使わないので、アンコール用です。弦楽器が潤いのある音色で軽く響きます。木管楽器は明るい音色で雰囲気を作ります。金管楽器は京都コンサートホールはまろやかに響くため、練習場のほうが直接音で聴けたので興奮が弱くなってしまったのが残念。練習ではなかった400小節にシンバルの一発が入ったので叩き間違えたのかと思いましたが、あとでスコアを見たらちゃんと音符が書かれていました。

演奏終了後に、広上が挨拶。「プレトークで言い忘れましたが、今日はレセプションがあります。飲めますので、団員と楽しいお話を」。「楽しんでいただけましたでしょうか?」と言うと、客席から大きな拍手。「暑い中お越しいただきましたので」と話して、アンコール。「年末の第九(特別演奏会「第九コンサート」)のときに「篤姫」をやらせていただきましたので、今回は「天地人」。(テレビ収録があるからといって)NHKにそそのかされているわけではないです」と言って笑わせました。「広上/京響で大河のテーマをやるという噂を広めたい。大好きな人は今晩8時から見てください。たった5秒だけピアノがありますので私が弾きます」と話し、大島ミチル作曲/「天地人」テーマ曲を演奏しました。冒頭から金管楽器が輝かしい。ティンパニ2台も迫力があります。テレビで聴くよりも躍動感が段違い。中間部では広上が指揮しながら指揮台を降りて、キーボードを弾きましたが、私の席からはまったく聴こえませんでした。この作品が一番よい出来でした。

終演後に、大ホールホワイエでレセプションが行なわれました。第511回定期演奏会「第12代常任指揮者就任披露演奏会」のような団員による楽器演奏はなし。アンコールを聴いて満足して帰ったのか、集まった客は150人ほどでした。新井浄シニアマネージャーがマイクを持って挨拶。「今日の演奏会は30日(日)21:00からの「オーケストラの森」で1時間放送される。この日はどのテレビ局も総選挙の開票速報をやっているので、専門家によると視聴率アップが見込める」と話しました。その後しばらくしてから、黒川侑が登場。マイクで挨拶した後は、あっという間におばさま方にとり囲まれて、サイン会&写真撮影会に発展。河村尚子と広上淳一も少し遅れて登場。広上は「客席を満席にしたい。お友達一人でいいから誘ってください」と話しました。せっかくの機会なので、河村尚子にパンフレットにサインしてもらいました。実物は写真よりも美人でした。「また京都に来てください」とお願いすると「ぜひ」と応じてくれました。続いて、広上淳一のサインももらいました。メガネをかけていました。「リハーサルを見学させていただきました」と話すと「楽しかったですか。リハーサルは工場だからね」と話してくれました。また、「定期演奏会の2回公演をぜひ実現したい。そのためには口コミで広めていただくことが必要。大河のテーマ曲は毎年やります」と話しました。広上氏のサインは、縦書きで「広上淳一」、横書きで「Junichi Hirokami」と書いてくれました。最後に、新井氏から定期演奏会のチケットが2ヶ月連続で完売したことが報告されました。京響始まって以来の快挙ではないでしょうか。「学生券」や「後半券」を導入したことも大きいでしょう。広上が目指す2回公演の実現に近づいているようです。

京都市交響楽団はどの楽器もさらにレベルアップしています。完成度が上がっている分、逆に細かな部分が気になってしまいました。本番ではミスがいくつかあったので、さらに安定感のある演奏に期待したいです。広上淳一が常任指揮者を務めている間はまだまだ伸びそうですが、3年間の任期のうち早くも半分が経過しました。広上淳一は他の国内オーケストラへの客演も多いので、もっと京響との共演機会を増やして欲しいです。また、これだけの実績を上げているわけですから、そろそろ常任指揮者の任期延長の検討もお願いします。

黒川侑(中央の黒Tシャツ) 河村尚子と広上淳一 河村尚子 広上淳一

※演奏会当日に多大なご尽力をいただきました京都コンサートホールの職員の方に心より感謝を申し上げます。

(2009.8.11記)




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