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2015年11月21日(土)14:30開演 京都コンサートホール大ホール ウラディーミル・アシュケナージ指揮/京都市交響楽団 ブラームス/交響曲第2番 座席:S席 3階 C3列26番 |
ウラディーミル・アシュケナージが京都市交響楽団を初めて指揮しました。アシュケナージと京響とのつながりはありませんでしたが、広上淳一(京都市交響楽団常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザー)とアシュケナージには浅からぬ縁があります。広上淳一(当時26歳)が優勝した「第1回キリル・コンドラシン国際青年指揮者コンクール」で審査員を務めていたアシュケナージが広上を高く評価。翌年にアシュケナージがピアニストとしてNHK交響楽団と共演した際に、指揮者に広上を指名し、広上はN響を初めて指揮したというエピソードです。今回のアシュケナージの客演は、京響にとっては恩返しの意味合いもあるかもしれません。ちなみに、今回は京響の単独招聘ではなく、アシュケナージは約1週間後に札幌交響楽団を初めて指揮しました(11月27日&28日 583回定期演奏会)。
アシュケナージは今年で78歳です。指揮者としてのキャリアは長く、2014/2015シーズン(=つい最近)までEUユース・オーケストラ音楽監督を、2009年から2013年までシドニー交響楽団首席指揮者&アーティスティック・アドヴァイザーを務めました。現在は、フィルハーモニア管弦楽団桂冠指揮者(2000年〜)、アイスランド交響楽団桂冠指揮者(2002年〜)、NHK交響楽団桂冠指揮者(2007年〜)の称号を得ていますが、常任指揮者のポストは有していないようです。最近リリースしたCDでは、サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団を指揮したショパンのピアノ協奏曲第1番で、トランペットを強調して聴かせる演奏が印象に残りました(ピアノ独奏はインゴルフ・ヴンダー)。
指揮者としてのウラディーミル・アシュケナージは、NHK交響楽団ウラディーミル・アシュケナージ音楽監督就任記念演奏会(2004.10.9)で聴いて以来、約11年ぶり2回目です(ピアニストとしてはウラディーミル・アシュケナージ&ヴォフカ・アシュケナージ ピアノ・デュオで聴きました)。
京響の定期演奏会は4月から隔月で2回公演となり、今回は1日目の土曜日の公演に聴きに行きました。チケットは両日とも完売でした。21日(土)のほうが早く11月8日に完売。22日(日)公演も18日に完売しました。今年度の定期演奏会は一度も完売になっていませんでしたが、一気に両日とも完売しました。アシュケナージの知名度はさすがに高いです。
14:10からプレトーク。アシュケナージが通訳の女性を連れて登場。英語で話しました。低くていい声です。「京都で演奏するのは2回目で、数十年前に来た前回は別のホールだった。京都コンサートホールの建築はすばらしい」と話しました。インターネットで調べたところ、前回はピアニストとして京都会館で演奏したようです。「京都市交響楽団はすばらしいオーケストラで、演奏を楽しみにしている」と話しました。「スピーチは慣れていないが、プレトークを頼まれたので話している」と話すと、客席から拍手が送られました。
「私のキャリアの中で面白いストーリーをお話ししたい。ひとつはピアニストとして、もうひとつは指揮者として」と話し、まず、ピアニストでの話は、「ブラームスのピアノ協奏曲第2番をクレンペラーの指揮でロンドンフィルとリハーサルで演奏したときの話で、第2楽章の真ん中の難しいパッセージでは両手を動かして弾かないといけないが、高齢のため座って指揮していたクレンペラーが体を横に曲げて「大丈夫?」という表情をした。私が弾けると「ブラボー」と言ってくれた。本番はロンドン・フェスティバルホールだったが、今度は小声で「ブラボー」と言ってくれた。クレンペラーはささやくのも上手な指揮者だった」と語りました。
もうひとつは指揮者としてのブラボーの話で、「シベリウスの交響曲第5番をロサンゼルスフィルを指揮して演奏したときに、曲が終わる前の和音が連続する部分で、客が「ブラボー」と叫んでしまった。その客は曲が終わっていなかったことに気づいて「Oops(しまった)」と言った」。「お気に入りの二つの話でした」と話して、締めくくりました。この後にプログラムのチャイコフスキーの交響曲第5番について話しました(後述します)。なお、広上淳一については何も語りませんでした。残念。
アシュケナージが小走りで登場。プログラム1曲目は、ブラームス作曲/交響曲第2番。私はあまり聴かない曲で、演奏会では初めて聴きましたが、アシュケナージの感性がよく表れたいい選曲でした。オーケストラは大編成でしたが、演奏は室内楽的で、強奏でも大きな音量を求めません。音量よりも繊細な表情や柔らかい音色を重視していました。京響から上品さを引き出しました。ただし、金管楽器は弱奏が不安定で、第1楽章33小節からのトロンボーンの和音が汚くて残念。また、第1楽章350小節からのチェロとコントラバスのメロディー(cantando)ももっと流れてほしい。第2楽章も少し表面的で、もっと濃厚な音圧でもいいでしょう。第3楽章はフルート(清水信貴)の柔らかい音色が印象に残りました。第4楽章は終盤に勢いがあって集中力のある演奏でした。
アシュケナージの指揮はほぼ立ち位置は変えずに、腰を曲げたり、肩を上下させたりする動きが多い。自分から積極的にテンポを作り出すような指揮ではなく、アンサンブルはオーケストラに任せているという感じでした。
休憩後のプログラム2曲目は、チャイコフスキー作曲/交響曲第5番。プレトークでアシュケナージは「終わりから2分半ほど前に、フィナーレに近いような和音になる。ときどき終わったと思って拍手やブラボーを叫ぶ人もいるが、京都では起こらないでしょう」と話しました。「何の曲だったか忘れたが、曲の途中で拍手が起こったので、お辞儀をしてそのまま帰った指揮者もいるらしい」とのこと。「万が一、今日拍手やブラボーと叫ばれても私はやめません」と話のオチをつけて、拍手のなか退場しました。
この曲は京都市交響楽団第562回定期演奏会(2012.10.28)でアレクサンドル・ラザレフの指揮によって演奏され、強烈なインパクトのある名演でしたが、今回も京響が健闘しました。
テンポが遅い部分(第1楽章冒頭や第4楽章冒頭)は、テンポが一定ではありませんでした。逆に言うと、アシュケナージの指揮は形式に当てはめることなく、自由や自発性を追求した演奏で、即興的とも言えるテンポの揺れが見られました。NHK交響楽団ウラディーミル・アシュケナージ音楽監督就任記念演奏会では、主旋律を演奏している楽器のほうばかりを向いて指揮していましたが、今回は伴奏にも気を配っていました。
第1楽章68小節からのティンパニ(強弱記号=f)が、第562回定期演奏会でラザレフに比べてソフトでびっくり。デュナーミクが狭く感じましたが、次第にエンジンがかかってきました。309小節からの四分音符+八分音符の音型はマルカート気味に短めに演奏。第562回定期演奏会でラザレフはテヌートで演奏したので、軽く感じました。487小節からのコーダは速いテンポ。第2楽章はホルンソロがすばらしい。107小節のフェルマータはパウゼのように長く取りました。第3楽章は速めのテンポ。28小節からなどのホルンのゲシュトップを強調するのは。第562回定期演奏会のラザレフと同じです。第4楽章は58小節(Allegro vivace(alla breve))から速めのテンポ。アクセルを踏みっぱなしで疾走しました。151小節からと401小節からのクラリネットの合いの手を強調。プレトークで話した471小節のフェルマータで拍手は起こりませんでした。金管楽器の強奏をバリバリ言わせました。
カーテンコールでは、NHK交響楽団ウラディーミル・アシュケナージ音楽監督就任記念演奏会では奏者を個別に立たせることはありませんでしたが、今回は数人を立たせました。なお、NHK交響楽団首席チェロ奏者の藤森亮一氏(斎藤ネコカルテットのメンバーとして、椎名林檎と共演)が「客演首席奏者」として一列目で演奏していました。藤森は京都市立堀川高等学校音楽科(現:京都市立京都堀川音楽高等学校)出身で、師事した上村昇(ソロ首席チェロ奏者)が招いたのかもしれません。カーテンコールではアシュケナージと言葉を交わしていました。
アシュケナージは強烈な個性がなく、オーソドックスな解釈でした。オーケストラをコントロールするタイプの指揮者ではないので、演奏の完成度はオーケストラのアンサンブル力に左右されるのかもしれません。上述したCD(サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団を指揮したショパンのピアノ協奏曲第1番)もオーケストラの特性によるものでしょう。棒振りは硬く、アインザッツが少し揃っていない部分もありましたが、京都市交響楽団との相性は悪くないでしょう。演奏前後にオーケストラに一礼するなど、謙虚な姿勢が垣間見れました。