京都市交響楽団×石橋義正 パフォーマティブコンサート「火の鳥」
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2021年1月17日(日)14:00開演
ロームシアター京都メインホール
園田隆一郎指揮/京都市交響楽団
演出:石橋義正
振付:藤井泉
ストラヴィンスキー/交響的幻想曲「花火」
花園大学男子新体操部
ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
茉莉花(コントーション)、池ヶ谷奏、薄田真美子、斉藤綾子、高瀬瑶子、中津文花、松岡希美(ダンス)
ラヴェル/ボレロ
アオイヤマダ、徳井義実
ラヴェル/歌曲集「シェエラザード」
森谷真理(ソプラノ)
ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
茉莉花(コントーション)、池ヶ谷奏、薄田真美子、斉藤綾子、高瀬瑶子、中津文花、松岡希美(ダンス)
座席:S席 2階1列25番
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石橋義正が演出を担当する演奏会「パフォーマティブコンサート「火の鳥」」に行きました。プログラムによると、今年はストラヴィンスキー没後50年ということで、「バレエ団「バレエ・リュス」の精神にインスパイアされ、音楽・舞踊・美術を融合させたこの「パフォーマティブ・コンサート」は、「火の鳥」などその時代に生まれた5つの名曲それぞれに、個性的な演出を凝らします」とのこと。本公演は「ロームシアター京都開館5周年記念事業」の一環で開催されました。開館してからあっという間に5年が経ちました。
演出の石橋義正は、
映画「ミロクローゼ」で監督・脚本・美術・編集・音楽を務めるなど多才な活動を展開していて、現在は京都市立芸術大学美術科構想設計専攻教授(専門:映像メディア)を務めています。プログラムに石橋が各シーンの試みを記した「Director's note」に掲載されました。その中で「人間の身体の可能性、さらにDVM(鈴木泰博の超低周波)のようなテクノロジーを加えることによって、演出効果を超え、今後の新しい芸術表現のあり方を問いたいと思った」と記しています。指揮の園田隆一郎は、
日本舞踊×オーケストラVol.2でも指揮を務めました。
チケットの発売は9月の予定でしたが延期され、10月17日に会員対象の先行発売が開始。政府の方針で満席までの開催が容認されたことを受けて、前後左右の席を空けない通常の座席配置で販売されました。
1月13日に二度目の緊急事態宣言が発令されてから、初めての日曜日でした。メインホールの入口で消毒と検温。チケットは手袋をしたスタッフがもぎりました。オペラグラスは無料で貸出できましたが、ほとんど借りられていなかったようです。
客席は8割の入りで、当日券も約30枚販売されました。オーケストラは音出し中でしたが、ステージには中幕が下りていて、姿は見えませんでした。チューニングの後、客席の照明が真っ暗になって開演。
プログラム1曲目は、ストラヴィンスキー作曲/交響的幻想曲「花火」。中幕があがると、ステージ後方のステージよりも一段高い台の上で、大編成オーケストラが演奏しました。オーケストラピット内で演奏しなかったのは、ピット内が密になるからでしょう。オーケストラの照明が暗くてよく見えませんでしたが、何ヵ所かにマイクを立てていて、音量を増やしていました。指揮の園田隆一郎は大きめの動きで指揮。指揮者の譜面台の左横に小さなモニターカメラがあり、ステージの様子が分かるようになっていました。
ステージの後ろ半分が上述したオーケストラのスペースなので、ダンサーが踊るスペースはステージの前半分です。銀色のボディースーツを着た花園大学男子新体操部の6名が踊ります。倒立や空中での回転、バトンを持って踊るなど、花火をイメージした動きで、アクロバット的な動きも激しい。ときどき「スッ」という声を出していましたが、タイミングを合わせるためでしょうか、よく動きが揃っています。石橋義正の「Director's note」によると、「ダイナミックな跳躍を見せるために、床全面にバネが付いた競技用のタンブリングゾーンをアクティングエリアに敷き詰めた」とのことですが、ステージの床に細工を施していることは客席からは分かりませんでした。オーケストラが乗っている台の側面にスクリーンがあり、赤色と白色の照明が映りました。
プログラム2曲目は、ドビュッシー作曲/牧神の午後への前奏曲。白と黒の縞模様の衣装を着た茉莉花が、円い台に乗ったまま中央から移動。茉莉花は「コートーション」のパフォーマーで、中国雑技団のように体が柔らかく、両足が顔のところに届きます。茉莉花がパン(牧神)の役でしょうか。ステージではピンク色のタイツの6名の女性ダンサーが踊ります。彼女たちはニンフ(水の精)の役でしょうか。石橋義正の「Director's note」によると、テーマは「生殖」で、「将来、人は有性生殖をしなくなるという仮説を元に、牧神とニンフのそれぞれが分裂などの生殖行動を行なう様を描く」と記しています。ダンサーのオレンジ色の髪が少し東洋的な雰囲気で、二人一組で身体を絡ませあうのがちょっとエロティック。
紗幕が降りて、映像が映写されました。
なお、この6名のダンサーは公募で選ばれ、4月にロームシアター京都のホームページに掲載された募集要項によると、参加条件は18歳以上の女性で、クラシックバレエの基礎があり、ダンサー、パフォーマーとして活動されている方でした。ちなみに、出演料はリハーサルと本番を含めて、交通費込みで20万円(+宿泊補助費10万円)でした。なお、6名のうち、斉藤綾子は
きたまり/KIKIKIKIKIKI新作ダンス公演 マーラー交響曲第2番ハ短調「復活」に出演しました。
プログラム3曲目は、ラヴェル作曲/ボレロ。チュートリアルの徳井義実の出演は、追加キャストとしてチケット販売後の11月に発表されました。徳井は京都市生まれで花園大学中退。2019年に税金の申告漏れが報道されて以来、一時活動を自粛していました。お笑い芸人の本公演への出演は意外でした。アオイヤマダは女性で、ダンサー、モデル、表現者として活躍しています。
四角形が左右に動く映像が紗幕に映写され、紗幕の後ろに人物のシルエットが透けて見えました(後述の「CURTAIN CALL」のアーカイブでは、紗幕の後ろにいるアオイヤマダの表情が見えます)。紗幕が上がると、アオイヤマダが中央で、美容室にあるようなイスに座っています。赤い服に白い髪(「CURTAIN CALL」のアーカイブで見ると、金髪に近い)。後方から美容師のようなベストを着た徳井義実が登場。美容師の役柄のようです。アオイヤマダに化粧するが嫌がられ、その繰り返し。オーケストラの照明が明るくなっていき、アオイヤマダの髪を触ったり、アオイヤマダも背伸びしたり立ち上がったり動きが激しさを増していきます。レーザー光線の演出もきれい。徳井義実がドライヤーでアオイヤマダの髪を乾かすような動きを繰り返すと、アオイヤマダの顔が溶けてドクロになりました。「CURTAIN CALL」のアーカイブで見ると、顔がアオイヤマダとそっくりで、よくできています。溶けていく様子がグロテスク。最後はアオイヤマダからスモークが発射されて、オーケストラの側面に「intermission」の文字が流れて幕が降りました。石橋義正の「Director's note」によると、「特殊メイクアップアーティストのJIROに相談し、シリコンラバーヒーターを使用し、内側から溶けていく方法を何度も実験。ゼラチンで作った顔が最短3分間で溶解する様になった」とのこと。徳井が持っていたドライヤーの熱ではなく、内側から溶けていたんですね。
休憩後のプログラム4曲目は、ラヴェル作曲/歌曲集「シェエラザード」。ソプラノ独唱は森谷真理。スカートの部分がすごく膨らんでいる巨大な衣装で歌います。紅白歌合戦の小林幸子のようで、上部にはスカイツリーのような飾り物が天井から吊るされていて、先端に孔雀の羽根のようなオブジェがついていました。胸元にピンマイクがありました。
スモークがステージの左右から客席に流れこんで、2階席から1階席が見えなくなるくらい大量でした。第1曲「アジア」、第2曲「魔法の笛」、第3曲「つれない人」の全3曲を歌いましたが、演出としてはレーザー光線くらいで、ダンスはなく、単調で長く感じました。モニターがあるので、日本語訳詞があってもよかったでしょう。
歌い終わった後は衣裳の上の部分が天井に上がっていき、巨大衣装の本体はスタッフが3人がかりで移動させ、森谷は手を振って退場しました。
プログラム5曲目は、ストラヴィンスキー作曲/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)。石橋義正の「Director's note」には、「バレエ組曲のストーリーを解体し、「牧神の午後〜」のシーンの続きとして構成。復活の象徴として火の鳥をとらえる」と記されています。
「序奏」で、茉莉花が「牧神の午後への前奏曲」と同じ衣装で、オーケストラピットからエレベーターで登場し、ブリッジしながら移動しました。続いて「王女たちの踊り」のオーボエのメロディーのところで、オーケストラピットから他の6人の女性ダンサーがエレベーターに乗って登場。「牧神の午後への前奏曲」と同じ衣装ですが、今度は照明が白いので白く見えます。茉莉花がエレベーターで消えました。「魔王カスチェイの凶悪な踊り」では、6人がステージに溜まっていたスモークがなくなるほどの激しい動き。一人を五人で持ち上げるなど「春の祭典」に近い踊りもありました。「子守歌」では中央で6人が円になり、座って上下したり。サークル状に回りました。
休みなく「終曲」へ。上から吊られたステンドグラスが赤く光りました。テンポが早くなってからレーザー光線。最後は手と足で千手観音のように6人が配置しました。
カーテンコールでは5曲に出演した全員が登場。指揮者の園田と石橋と振付の藤井泉も登場しました。15:50に終演。アナウンスにしたがって、時間差で退場しました。
ダンスや振付に音楽との関連性がもっとあったほうがよかったでしょう。また、ステージ演出も、椎名林檎のライヴのように、奈落やレーザー光線などのホールの装置や照明をもっと活用してもよかったでしょう。衣装もシンプルながらユニークでしたが、担当した川上須賀代(大阪成蹊大学芸術学部准教授)のコメントがプログラムになくて残念。新型コロナウイルスの影響で、ステージ演出にも変更が生じたと思われますが、開催できてよかったです。
本コンサートの全編の映像は、クラシック専門ライブストリーミングプラットフォーム「CURTAIN CALL(カーテンコール)」で無料で公開されました。3月25日から1ヶ月間の期間限定ですが、もう一度見られるのはありがたい。オーケストラへのクローズアップはほとんどなく。「ボレロ」の小太鼓がどこで叩いていたかも分かりません。マイク位置のせいか、トランペットがあまり聴こえません。終演後のカーテンコールは収録されていません。
なお、『ロームシアター京都開館5周年記念誌』が刊行され、ホール内でも販売されました(税込2750円)。内容は、「ロームシアター京都カラーグラビア」、「リニューアルオープンまでの経緯」、「ロームシアター京都の施設・設備・サービス」、「ロームシアター京都の利用状況と運営体制」、「小澤征爾、松本功(ローム株式会社 代表取締役社長 社長執行役員)からのお祝いメッセージ」、「ロームシアター京都自主事業記録写真カラーグラビア」、「創造現場としてのロームシアター京都」、「ロームシアター京都5年の記録[催物データ]」、「京都会館条例・京都会館条例施行規則」、「支援・協力企業からのお祝いメッセージ」から構成されています。
施設来場者数(賑わいスペース事業入店者数を含む)は2019年度までの累計で2,199,170人で、「京都府内で唯一の2,000人収容の劇場で、ポピュラー音楽のコンサート会場としての需要が高い」と分析されていて、実際にメインホールでの利用は「ポップス・演歌・歌謡曲」が最も多く、「講演会・シンポジウム等」、「クラシック音楽」が続きます。
新型コロナウイルス感染症の影響で中止となった催しは、2020年2月から9月までの200件を超えたとのこと。開館後の裏話も書かれていて、トイレが240基もあることや、メインホールとサウスホールの客席の一部は開館後に見やすさを考慮して設置位置の微修正が行われたこと、演劇公演のリハーサルでノースホールのスプリンクラーが作動して大量の水が放水されたこと、吉例顔見世興行では特別体制を取り客席内での飲食を許可したことが書かれています。
アーティスト・クリエイターからのメッセージでは、広上淳一が「シュークリームの話もしました」と書いていますが、なんのことかよく分かりませんでした。
ロームシアター京都オープニング事業検討委員会委員長を務めた小澤征爾からのお祝いメッセージも掲載され、ロームシアター京都をホームグラウンドと語っています。ユリイカ百貨店代表のたみおが
ロームシアター京都1周年記念 プレイ!シアター」の劇場ツアー「BACK STAGE TRAVELING!」について記し、
寒川晶子 トイピアノ・ミニコンサートと
寒川晶子ピアノコンサート 〜未知ににじむド音の色音(いろおと)〜に出演した
寒川晶子もメッセージを寄せています。また、オープニング事業の「フィデリオ」を指揮した下野竜也と、演出を担当した三浦基が「京都の劇場文化のつくり方―プロデュース・オペラ「フィデリオ」から考える」と題する対談が掲載されています。三浦基は2020年4月にロームシアター京都の館長に就任予定でしたが、ハラスメント問題に対する意見が挙がり、
就任が撤回されました。巻末の「ロームシアター京都5年の記録[催物データ]」は開館からの開催記録が掲載されていて資料として貴重ですが、出演者名や演奏曲目までは掲載されていません。