日本舞踊×オーケストラVol.2


   
      

2014年12月13日(土)18:30開演
東京文化会館大ホール

構成・演出:花柳壽輔
指揮:園田隆一郎
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団

葵の上(源氏物語より)
 音楽:黛敏郎/「BUGAKU」より第2部、「呪」(箏:萩岡未貴、萩岡信乃)
 振付:藤蔭静枝
 出演:市川ぼたん、花柳寿楽、藤間恵都子、花柳大日翠、坂東三信之輔 他 群舞20名

ライラックガーデン
 音楽:ショーソン/詩曲(ヴァイオリン:三浦章宏)
 振付:五條珠實
 出演:藤間蘭黄、水木佑歌、尾上紫、花柳源九郎 他

いざやかぶかん
 音楽:ガーシュウィン(ボーエン編曲)/「ポーギーとベス」組曲より「キャットフィッシュ・ロウ」
 振付:若央りさ
 振付補:花柳達真
 美術:横尾忠則
 出演:轟悠 他 総勢41名

パピヨン
 音楽:ドビュッシー/夜想曲
 振付:花柳壽輔
 衣裳:森英恵
 出演:花柳壽輔、麻実れい

ボレロ
 音楽:ラヴェル/ボレロ
 空間構成・振付:アレッシオ・シルヴェストリン
 振付:花柳輔太朗
 出演:吉田都、日本舞踊家男性群舞34名

座席:S席 1階 18列12番


オーケストラを伴奏に日本舞踊が披露されるコンサートが開催されました。名付けて「日本舞踊×オーケストラ」。東京文化会館の主催公演で、舞台芸術創造事業として位置づけられています。「Vol.2」とあるように今回は第2弾で、第1弾となる「日本舞踊×オーケストラ −伝統の競演−」は、2012年12月7日(金)に開催されました。演目は「レ・シルフィード」、「ロミオとジュリエット」、「ペトルーシュカ」、「牧神の午後」、「ボレロ」で、「ボレロ」では野村萬斎が出演しました。また、2013年10月3日 (木)には「日本舞踊とオーケストラ −新たなる伝統へ向けて−」が開催されました。演目は「ペトルーシュカ」、「展覧会の絵」(清姫)、「プレリュード」(沈める寺)、「ボレロ」。「プレリュード」(沈める寺)では坂東玉三郎が特別出演しました。その模様の一部は、NHK-Eテレ「にっぽんの芸能」(8月29日22:00〜)で放送されました。

今回のVol.2は、2日公演(13日(土)、14日(日))に拡大されました。ひさびさに東京まで出向き、初日の公演を聴きに行きました。今回も構成・演出は、花柳壽輔(花柳流四世宗家家元)。今回の出演者は日本舞踊だけでなく、宝塚歌劇団(轟悠、麻実れい)やバレエ(吉田都)など実に多彩な顔ぶれです。チケットは東京文化会館チケットサービス(インターネット)から購入しました。

東京文化会館は、 2014年6月から約半年間、改修工事のため休館し、2014年12月3日からリニューアルオープンしました。天井の耐震性向上や舞台装置の更新などが行なわれたようですが、エントランスの雰囲気などは改装前と変わっていません。東京文化会館小ホールには小林道夫チェンバロ演奏会で入ったことがありましたが、大ホールは今回が初めてでした。大ホールのロビーが広くてびっくり。

座席は1階席の通路より少し前でした。客席はほぼ満席で、客層は女性が多い。和服姿のマダムが多く見られました。ホール前に掲示された案内によると、今日の公演は休憩2回を含み、21:20終演予定で約3時間の長丁場でした。今回もNHK-Eテレ「にっぽんの芸能」で放送される予定で、客席にテレビカメラが入っていました。
オーケストラは開演前から音出し中でした。オーケストラピットにいるので、座席から奏者の姿はまったく見えません。チューニングの後、客席が暗くなって、指揮者の園田隆一郎が登場。客席からは顔だけ見えました。

プログラム1曲目は、葵の上(源氏物語より)。音楽は黛敏郎作曲/「BUGAKU」より第2部、「呪」。緞帳が上がって、舞台には3名。中央に白装束で烏帽子をかぶった光源氏(花柳寿楽)、左に赤色の着物の葵の上(市川ぼたん=市川海老蔵の妹)、右には桃色の着物の六条御息所(藤間恵都子)。黛敏郎の「BUGAKU」はニューヨーク・シティ・バレエからの委嘱で作曲したバレエ音楽です。第2部冒頭は打楽器アンサンブルから始まりますが、途中でパウゼを挿入しました。しばらく光源氏がソロで踊って退場。葵祭りの仕丁役の男20名が大きな車輪が二つ転がしながら登場したのは、源氏物語の「葵」巻との関連でしょう。黒子役の男が出てきて、それぞれ葵の上と六条御息所の背後から人形浄瑠璃のように操りました。第1部のテーマが回帰したところで、3人で踊りました。音楽が終わり、暗幕が下りた後、舞台上手横で箏の二重奏(萩岡未貴、萩岡信乃)が演奏されました(曲目不詳)。暗幕の前に、横川の聖(坂東三信之輔)が登場。続いて、巫女(花柳大日翠)が「イヨー」「ハッ」などの声を上げました。
暗幕が上がると、舞台には布を垂れ下げた几帳が置かれていました。光源氏が畳に座った状態で葵の上を抱いています。その後立ち上がって踊りました。オーケストラのための「呪」(※「しゅ」と読みます)は、1967年に作曲され、この東京文化会館大ホールで初演されました(森正指揮/NHK交響楽団)。フルート独奏から始まって盛り上がっていきます。最高潮に達したところで、六条御息所が横川の聖にやられました。横川の聖は狂言のような動きを見せました。音楽が終わり、暗くなって、ふたたび箏の二重奏(曲目不詳)。メインの3人が扇子を持って踊りました。緞帳が下がって終演。カーテンコールは出演の5名が緞帳の前に出てきて拍手を受けました。

客席が半照になって、しばらく間がありました。プログラム2曲目は、ライラックガーデン。音楽はショーソン作曲/詩曲。ヴァイオリン独奏は三浦章宏(東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター)。プログラムの解説によると、バレエ「ライラック・ガーデン(リラの園)」(アントニー・チューダー振付、1936年初演)の日本舞踊化とのこと。緞帳が上がると、鹿鳴館の女6名がドレスを着て踊っています。そして、袴を着た男爵(藤間蘭黄)と着物を着た伯爵令嬢(尾上紫)が登場。その後、男爵の愛人(水木佑歌)と書生(花柳源九郎)が登場し二人で踊りました。終盤で男爵と伯爵令嬢の前で、書生が持った花が手から落ちました。最後は天井から花びらが降りました。身分階級と男女の恋愛関係が視覚的に分かるストーリーでした。カーテンコールでは緞帳が再び上がって拍手を受けました。ショーソンの音楽は、はかなさを感じるメロディーがいい。音楽と舞台の動きがよく合っていました。

プログラム3曲目は、いざやかぶかん。音楽はガーシュウィン作曲(ボーエン編曲)/「ポーギーとベス」組曲より「キャットフィッシュ・ロウ」。プログラムの解説によると、「歌舞伎の祖・出雲阿国を主人公にした」とのこと。轟悠がお国と山三(さんざ)の二役を演じます。1曲目は華やかな幕開け。お国(轟悠)が着物を着て踊ります。最初に轟にスポットライトが当たっただけで客席から拍手が送られました。ファンが多いようです。ホリゾントには美術を担当した横尾忠則が描いた浮世絵風の色鮮やかな絵が次々と映しだされました。轟悠は宝塚歌劇団出身。軽やかでシャープな動きで、品がありますが、日本舞踊のゆったりとした動きとは異にします。続く「サマータイム」のメロディーはヴァイオリン独奏が演奏されました。前半は轟は扇子を持って集団と踊りました。中盤では着替えて再登場。客席からまた拍手。おそらくこちらが山三役でしょう。水色の房を持って、はんてんのような上着を羽織りました。その後、騎馬戦の騎馬役になっていったん退場しました。集団は何人かのグループごとに次々と登場しました。パンフレットによると、お国歌舞伎の女(8名)、遊女歌舞伎の女(10名)、若衆歌舞伎(6名)、野郎歌舞伎(4名)、傾(かぶ)く男(6名)、傾く女(6名)。ステージ左右の花道に出てきたり、山賊のような衣装で踊ったり、ハリセンのような白い羽根をもって踊ったり、歌舞伎の見得のようなポーズをしたり、次から次へとめまぐるしく入れ替わりました。最後の曲の前で、轟が暗い中そっと客席中央の通路に登場。スポットライトを浴びたときには、びっくりしました。かっこいい粋な演出でした。最後は天井から銀紙が降りました。カーテンコールでは拍手が鳴りやまず、轟悠は緞帳の前まで出てきました。

25分間の休憩後のプログラム4曲目は、パピヨン。音楽はドビュッシー作曲/夜想曲。3曲からなりますが、第1曲「雲」と第3曲「シレーヌ(海の精)」が演奏されました。プログラムに掲載された花柳壽輔の解説によると、「蝶々から発想して日本の古典舞踊の代表作「保名(やすな)」という作品に結びつきました」とのこと。出演は花柳壽輔と宝塚歌劇団出身の麻美れい。振付は花柳壽輔が自ら担当しました。衣裳は森英恵(もりはなえ)。森泉の祖母に当たります。緞帳が上がると、白い蝶が飛んでいます。よく見ると、黒子役が棒のようなもので動かしていました。よくできています。保名(花柳壽輔)が登場。だいだい色と青色の着物を着ています。蝶を捕まえようとしますが捕まえられません。しばらくすると床に倒れてしまいました。ステージ左奥のスロープの上に蝶の精(麻美れい)が登場。白いドレスの裾を持ってひらひらさせて、蝶の化身のような仕草を見せました。手足が驚くほど細い。ゆっくり保名に近づきました。第3曲「シレーヌ(海の精)」は女声合唱(新国立劇場合唱団)が舞台右横で立ちました。黒い衣装で譜面を持って歌いました。大きな声を出そうとしているのか少し頑張りすぎで、声が硬かったのが残念。保名はヨタヨタと歩きました。舞台後方に黒子が動かしている多くの蝶が現れました。蝶の精がスロープを上がっていき、保名が裾を持ってヨタヨタと追いかけ、ひざまづいた保名が蝶の精を抱きしめ、緞帳が下りました。ゆったりしたテンポのなかで、大きな動きが少ない演目でした。この曲はオーケストラがいい出来でした。

15分間の休憩後のプログラム5曲目は、ボレロ。音楽はラヴェル作曲/ボレロ。ボレロは2012年の「日本舞踊×オーケストラ −伝統の競演−」、2013年の「日本舞踊とオーケストラ −新たなる伝統へ向けて−」でも上演されました。これについて、花柳壽輔は「坂東玉三郎から毎回ボレロを違うバージョンでやったらどうかというアドバイスがあった」と記者会見で語りました。今回出演する吉田都は元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル。「吉田都 初のボレロ」の触れ込みで、今公演最大の目玉のようです。『音脈』vol.56で、花柳壽輔は吉田都のファンと明かしています。振付の花柳輔太朗がプログラムに寄稿した解説によると「コンセプトは天の岩戸伝説です」とのこと。
緞帳が上がると、ステージを取り囲むように、袴姿の男34名が取り囲んでいました。客席からは「うわー」の声が漏れました。暗めの照明のなかで男が立ち上がり、ゆっくりと所作を始めたところで、演奏開始。テンポはやや速めで、途中まで小太鼓にマイクがつけられていました。オーケストラピットの中では、小太鼓が聴こえない可能性があったからでしょうか。後ろの幕が開き、吉田都が階段を下りて、白幕の後ろで踊りました。吉田の衣裳はスリットがたくさん入った紫色のスカートでした。長い髪を後ろで束ねています。吉田都は小太鼓のリズムとは関係なく、流れるように踊ります。ステップしたり、回転したり、ポーズを決めたり、ほとんどアドリヴのように見えました。笑顔が素敵でした。年齢の話は失礼になるでしょうが、とても49歳には見えません。曲が進むにつれて、ジャンプが長く高くなったり、回転が増えるなど、アクションが大きくなりました。白幕が上がって、吉田都は前に進み出て、常にステージ中央で踊りました。前述の解説に従えば、吉田都はアメノウズメノミコトで、男は周囲でかしずいているということでしょう。男は座り位置を変えるなど小さな動きでしたが、次第にしゃがんだ男を飛び越えるなど動きが大きくなりました。ただし、少し人数が多すぎる気がしました。ホリゾントが黄色の照明になり、最後は吉田は白い羽織を着て、階段を上がりました。カーテンコールでは、吉田都が和服に着替えた花柳壽輔を呼び寄せて、指揮者の園田隆一郎も登場しました。21:10に終演。終演後はクロークが大混雑でした。

日本舞踊をしっかり観たのは今回が初めてでした。素人には日本舞踊は上手下手の見分けがつきませんでした。日本舞踊とオーケストラとの融合がコンセプトで、宝塚歌劇団やバレエとのコラボレーションも見られましたが、1曲目の「葵の上(源氏物語より)」で演奏された箏の二重奏が、もっとも日本舞踊と合っていました。結局のところ日本舞踊には邦楽器の伴奏が一番ふさわしいと感じました。どの演目も舞台セットはいたってシンプルでした。

(2015.1.18記)


東京文化会館 東京文化会館



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