きたまり/KIKIKIKIKIKI新作ダンス公演 マーラー交響曲第2番ハ短調「復活」


  2019年9月22日(日)17:00開演
THEATRE E9 KYOTO

振付・演出:きたまり
出演:山田せつ子、斉藤綾子、きたまり
ヴィジュアル:仙石彬人[TIME PAINTING]

使用楽曲:マーラー/交響曲第2番「復活」
(バーミンガム市交響楽団 サイモン・ラトル指揮/1986年録音盤)

座席:全席自由



きたまり/KIKIKIKIKIKI新作ダンス公演「マーラー交響曲第2番ハ短調「復活」」に行きました。主催はダンスカンパニーKIKIKIKIKIKI。KIKIKIKIKIKIは主宰のきたまりが、京都造形芸術大学映像・舞台学科在学中の2003年に立ち上げました。「キキキキキキ」と読み、名前の由来はいくつかあるそうですが、言いにくい名前を考えたようです。ちなみに、きたまりの本名は北真理子のようです。

その振付家きたまりが、マーラーの交響曲全曲の振付に挑戦するダンス公演で、今回の交響曲第2番「復活」は4曲目で、2年ぶりとなります。これまでに、2016年1月に交響曲第1番「TITAN」、2016年10月に交響曲第7番「夜の歌」、2017年8月に交響曲第6番「悲劇的」を、アトリエ劇研(2017年8月に閉館)で上演しました。マーラーでダンスを踊る理由について、きたまりは「ダンス宣言2016」で、「わかる、わからないの問題ではなく、そこにダンスをせざるえない身体が存在することが、マーラーの交響曲で上演する理由です」と記しています。なお、第2作の交響曲第7番「夜の歌」は、2016年度文化庁芸術祭賞舞踊部門で新人賞を受賞しました。

今回の「復活」は、9月20日(金)から22日(日) の3公演と、9月19日(木)には公開リハーサルが行われました。私が行ったのは最終日でした。9月6日にきたまりのホームページに「新作公演「復活」ご案内文」が掲載されました。キャッチコピーは「いきてしぬ、しんでいきる」。

出演はきたまりを含めて3名。山田せつ子は、きたまりの大学時代の恩師で、かつて京都造形芸術大学映像・舞台学科教授を務め、現在は京都造形芸術大学舞台芸術研究センター主任研究員を務めています。コンテンポラリーダンスの第一人者として評価されているようです。斉藤綾子は前作の「交響曲第6番「悲劇的」」に続いての出演です。きたまりのTwitterによると、リハーサルは4月から始めたようです。

会場は、2019年6月22日に開館したTHEATRE E9 KYOTO(シアター イーナイン キョウト)。一般社団法人「アーツシード京都」が運営しています。京都市内における小劇場の相次ぐ閉館に危機感を持ったメンバーの尽力で開館しました。館長は狂言師の茂山あきら。芸術監督は元アトリエ劇研ディレクターで演出家のあごうさとし。あごうさとしは「100年続くことを目指した」と語っています。支配人は蔭山陽太。蔭山は元ロームシアター京都支配人兼エグゼクティブ・ディレクターで、ロームシアター京都1周年記念 プレイ!シアターロームシアター京都 プレイ!シアター in Summerの「劇場支配人と行く!ロームシアター京都バックステージ」では自らツアーコンダクターを務めましたが、華麗な転身です。

京都駅八条口から徒歩14分で、交通の便はあまりよくありません。鴨川沿いにあり、もともとは不動産会社(株式会社八清(ハチセ))が所有する倉庫だったようです。ネーミングライツを寺田倉庫株式会社(東京都品川区)が取得しています。「E9」は立地している「東九条」から名づけられました。 1階がブラックボックス形式(壁や床などが黒い平面のシンプルな舞台)の約100名収容の小劇場。2階には会員制のコワーキングスペース「collabo office E9」があります。トイレは併設しているカフェ「Cafe & Restaurant Odashi」の中にあり、関係者専用の扉から入ります。
なお、THEATRE E9 KYOTOの北側に、3階建てのホテルが建設される予定ですが、あまり広い土地ではありません。また、2023年には京都市立芸術大学も近くに移転する予定です。

本公演は「THEATRE E9 KYOTO」オープニングプログラムのひとつで、チケットはTHEATRE E9 KYOTOのホームページから申し込めて、クレジット決済か当日現金精算が選択できました。前売券は3日間とも完売。当日券は若干枚数ありましたが、座席ではなく、通路に座るとのこと。なお、川沿いということで、蚊が多く、ホワイエでは虫除けスプレーが自由に利用できました。
16:20から受付開始。入場券と引き替えました。16:40に開場。会場内は階段状にイスが6列に並べられていて、70席ありました。後列のほうが位置が高く、座席の1列目はステージと同じフロアです。後述するように、ステージには出演者が出入りする入口は3ヶ所ありました。
上演時間は約90分で、途中休憩なしのアナウンスがありました。使われる録音は、ラトル指揮/バーミンガム市交響楽団盤。この録音は初めて聴きます。なお、楽曲アドバイザーとして、田中宗利(関西グスタフ・マーラー交響楽団音楽監督)がクレジットされていました。

開演ブザーはなく、そっと始まりました。白の上下の服の女(山田せつ子)がゆっくり左奥から入場しました。山田せつ子は短髪パーマで裸足。けっこう年長でした。ゆっくり中央まで歩いて、しばらくすると第1楽章の音楽が始まりました。ゆっくりした動きで、空中を浮遊するように両手両足をゆっくり動かしました。照明はスポットライトのみ。身体がすごく柔らかい。骨がないような、無重力空間にいるような、上から身体を吊られているような所作です。このように見せることができるのは、技術力が高いからでしょう。流れるような動きでしたが、次第に少しずつ鋭角的な動きになりました。音楽が速いテンポになっても、ダンスのテンポはあまり変わりませんでしたが、208小節頃から少し左右の動きやステップも出てきました。254小節頃から初めて背を向けました(それまではずっと客席を向いて踊っていました)。立ったまま激しく上下に揺れ出しました。325小節からの金管強奏は、すごく重くゆっくりとリタルダンド。362小節頃から後ろを向いて座り込みました。ステージを縦横無尽に活用して、392小節頃から照明が明るくなり歩きだしました。最後は客席に近い右手前の扉を開けて退場。建物の外に出ました。しばらく扉は開けっ放しで、虫の音が聴こえました。

しばらくすると、違う女性(斉藤綾子)が右奥の扉を開けて入場。長い髪をポニーテールにしています。ゆっくり中央に歩きます。左奥からもう一人(きたまり)が登場。お団子ヘアでした。二人とも裸足で白い服ですが、衣装のデザインは3人とも違いました。斉藤綾子のほうが、きたまりよりも背が高くすっとした体型で、ダンサーらしい。
第2楽章が始まるまで時間がかかりましたが、おそらくマーラーの指示通りに、第1楽章と第2楽章の間に少なくとも5分の休止を置くねらいがあったと思われます。実際に5分だったかどうかは分かりませんが、扉が閉まって第2楽章が開始。二人ともスカートのポケットに両手を入れて、ゆっくりスキップ気味に、時には大股で歩きました。対角線上に二人が左右対称の動き。「おお神よ」と言わんばかりに、両手を広げて下から上に動かしました。神に仕えるような動きですが、動きそのものはシンプルで難しくありません。

斉藤が退場して、第3楽章はきたまりのソロ。腕の曲げ伸ばしや膝の屈伸などの動きで、同じ動きが組み合わされています。初めてバックのスクリーンに模様が投影されました。灰色のような色調で微妙に色合いが変わりますが、座席の左後ろでヴィジュアルの仙石彬人がOHPを駆使して、水を垂らしたり影を作ったりしていました。仙谷はOHPを用いたヴィジュアルによるライブパフォーマンス「TIME PAINTING」で活動しているようです。OHPは3台ありました。212小節からの速いテンポで飛び跳ねて、少しダンスらしくなってきました。動きもすばやくなり、スクリーンも激しくなってきましたが、TIME PAINTINGはダンスよりも動きが少ないほうがいいです。最後はきたまりが床に倒れました。

続けて第4楽章。右手前の扉から山田せつ子が出てきました。スクリーンは黄色や赤の果実の種子を映し出しました。山田がゆっくり歩き、照明が明るくなってきました。プレパラートのようなものが映写されました。山田ときたまりの二人が立ち上がって向かい合いました。

続けて第5楽章。スクリーンが赤に染まりました。絵の具が下から上に流れていきます。山田ときたまりの二人が座ってそれを見ています。仙谷がたまにスプレーを吹きかける音が聴こえました。78小節頃から斉藤綾子が左奥から入場して、初めて3人がステージに。スクリーンには色水がどんどん追加されて即興的な表現。143小節頃から3人ともゆっくり円形に歩きました。191小節頃の猛烈クレシェンドからスクリーンを点滅させると、急に回るように走り出しました。3人とも思い思いのバラバラの動きですが、山田が他の二人に指揮するような動きも見せました。山田と斉藤の衣装が赤くなりました。スクリーンだけでなく、白い服の色も変わりました。衣装を白にしたねらいもそこにもあるでしょう。
402小節から強奏で、斉藤が狂ったかのように高速で回転を続けました。目は回らないのか448小節までずっと回転しましたが、疲れたようでへたりこみました。その様子を山田ときたまりは両側の壁に座って見ていました。
合唱団が歌いだす472小節からは、山田が第1楽章と似た動き。スクリーンも白くなって影絵みたいですが、焦げたような甘い臭いが漂いました。仙石が何か薬品を使ったのかと思いましたが、仙谷のTwitterによると、紙を燃やしたようです。きたまりも立ち上がって歩きだしました。3人にそれぞれ与えられたキャラクターはあるのかは分かりませんでした。512小節からはきたまりが踊りました。独唱がはじまる602小節から斉藤が踊りました。それを山田ときたまりが両側で見ています。
合唱団は男声が強め。TIME PAINTINGは大胆に模様を操作しましたが、予想以上にダンスの動きが少ないこともあり、ちょっと表現を頼りすぎかもしれません。ゆっくりスクリーンに向かって3人で歩きました。パイプオルガンがよく鳴りました。 712小節からは小川のせせらぎのように水と光の反射でキラキラと光りました。金管楽器の内声の鳴りがすごい。クライマックスは、最後まで三人がゆっくり歩くだけ。敬虔なこの作品では、無駄な動きは不要ということでしょうか。最後の一音でステージが明るくなり、一気に真っ暗になりました。
カーテンコールは千秋楽にしては短めと言えるでしょうか。18:40に終演しました。

コンテンポラリーダンスというと、勅使川原三郎や菅原小春のような激しい動きをを予想していたので、意外でした。「復活」は厳かな作品だから動きを少なくしたのかもしれません。ダンスの基本動作は、楽章が変わってもあまり変わりませんでした。また3人で一緒に踊るのは第5楽章の途中からでした。これもコンテンポラリーダンスの新しいスタイルと言えるかもしれませんが、観客はどう評価したでしょうか。また、海外の人が見たらどう思うか気になるところです。ラトル盤は情熱的に鳴って、よかったです。
仙石彬人の「TIME PAINTING」は斬新でしたが、なかったとしてもマーラーの世界は表現できたでしょう。TIME PAINTINGに表現をゆだねるのではなく、ダンスでマーラーを表現してほしかった気がします。 マーラーの交響曲全曲のうち、これで第1番「TITAN」、第2番「復活」、第6番「悲劇的」、第7番「夜の歌」の4曲を演じました。いずれも標題付き交響曲を取り上げていますが、次は「大地の歌」でしょうか。また、せっかくなので、もう少し広い会場で上演してもよいと思います。

THEATRE E9 KYOTO THEATRE E9 KYOTOの北側の土地 終演後のTHEATRE E9 KYOTO

(2020.1.15記)


第3回大植英次による中学・高校吹奏楽部公開レッスン&コンサート チャペル・コンサート・シリーズ2019 Vol.2「冨田一樹オルガンソロコンサート」