京都市交響楽団特別演奏会「ニューイヤーコンサート」


  2021年1月10日(日)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

井上道義指揮/京都市交響楽団
LEO(箏)

伊福部昭/管弦楽のための「日本組曲」から第4曲「佞武多(ねぶた)」
伊福部昭/二十絃箏とオーケストラのための「交響的エグログ」
池辺晋一郎/ワルツと語ろう―オーケストラのために(井上道義委嘱作品)[世界初演]
武満徹/「3つの映画音楽」からワルツ―「他人の顔」より
ドリーブ/バレエ音楽「コッペリア」からワルツ
ハチャトゥリヤン/組曲「仮面舞踏会」からワルツ
チャイコフスキー/バレエ組曲「眠りの森の美女」からワルツ

座席:A席 1階26列23番



井上道義が京響ニューイヤーコンサートを指揮しました。ニューイヤーコンサートで定番のウィンナワルツではなく、日本人を含む作曲家のワルツを選曲したのが井上道義らしいプログラムです。また井上が池辺晋一郎に委嘱した作品「ワルツと語ろう」が世界初演されるのも注目です。長らく京都市交響楽団を聴いていますが、ニューイヤーコンサートを聴くのは今回が初めてでした。
「指揮者 井上道義 オフィシャルウェブサイト」には、「久しぶりの京都・・・・なので楽しく、しかしお客さんが思い出したとき何を聴いたか、いや、楽員さんが何を奏したか、いや、俺も何を振ったか思い出せるプログラム!と思って考えたプログラムだった。」「「高齢の指揮者」道義は、このプログラムがここまで体力と神経を使うモノとは夢想だにしなかった。今もまだヘトヘト。」と綴っています。
なお、「京都コンサートホール コンサートガイド」(2020年12月、2021年1月)のMonthly Columnに、井上道義が「直視すべき「コト」」と題するコラムを寄稿しました。1981年に京響定期を初めて指揮したことから回想し、音楽監督を退任した経緯などが明かされていて興味深い。

入場時にサーモグラフィーで検温し、チケットは自分で切り、プログラムも自分で取ります。ザ・シンフォニーホール(大阪音楽大学第63回定期演奏会)と同じく、京都コンサートホールでもクロークやドリンクコーナーを休止していました。
ホワイエに「京都市交響楽団コンサートスケジュール2021」の冊子が置かれていました。来シーズンは、なんといっても広上淳一が2021年度末で第13代常任指揮者兼芸術顧問を退任するのが衝撃的です。また、新型コロナウイルス感染症における社会状況を鑑み、来年度は定期会員の募集を休止するとのこと。

本公演の一般発売は延期されましたが、11月21日から発売開始。9月に政府の方針で満席までの開催が容認されたことを受けて、3階サイド席(B席、C席)とP席は通常の座席配置(100%)で販売されましたが、それ以外の座席は前後左右を空けた配置です。S席でいい席がなかったので、A席にしました。1月7日にチケットは全席完売になりましたが、けっこう空席がありました。新型コロナウイルス感染症の状況を鑑み、濃厚接触者や体調不良者には払い戻しが可能だったことも関係しているかもしれません。

特別演奏会なので、プレトークはもともとありません。コンサートマスターは、石田泰尚(特別客演コンサートマスター)で、コンサートマスターの泉原隆志は出演せず。また、第2ヴァイオリンの客演首席奏者として、直江智沙子(神奈川フィルハーモニー管弦楽団第2ヴァイオリン首席奏者)が出演しました。笑顔が最高に素敵です。 ニューイヤーコンサートでは、女性メンバーがカラフルなドレス姿で演奏します。着物の人もいました。
弦楽器と打楽器奏者は、マスクをつけている奏者もいればつけていない奏者もいました。金管の前に透明のアクリル板が設置されているものの、弦楽器の譜面台も二人で一人で、第24回京都の秋音楽祭開会記念コンサートに比べると、おおよそオーケストラの通常配置に戻りました。

プログラム1曲目は、伊福部昭作曲/管弦楽のための「日本組曲」から第4曲「佞武多(ねぶた)」。1991年に井上道義が新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮して初演しました。
井上が手を挙げて早足で登場して、すぐに指揮。井上道義はマスクなし。指揮棒なしで指揮台もなし。伊福部らしいメロディーが暗くて重々しい。打楽器がねぶたのリズムを刻みます。井上道義は譜面台の前に移動して、チェロに向かって指揮。演奏が終わると客席を振り向いて、井上道義がマイクで「明けまして」と言うと、団員が全員立ち上がって「おめでとうございます」と言いました。なんとも粋な演出です。

プログラム2曲目は、伊福部昭作曲/二十絃箏とオーケストラのための「交響的エグログ」。箏独奏は、LEO(レオ)。本名は今野玲央で、ハーフ(父がアメリカ人)。東京藝術大学音楽学部邦楽科に在学中です。2020年おおみそかのNHK紅白歌合戦で、ゆずの「雨のち晴レルヤ 〜歓喜の歌 紅白SP〜」の伴奏で出演しました。
コンサートマスターの前に箏が運ばれました。LEOは黒い服に、白い長いレースがついている変わった衣装で登場。楽器の中央ではなく、向かって左側に座って弾きます。この作品のために、ステージの左右に特別に照明が設置されました。LEOはマスクなしで演奏。
休みなしの単一楽章で約30分。やはり琴の音色は新年にふさわしい。楽譜らしきものがないようですが、LEOは暗譜でしょうか。オーケストラは大編成ですがトゥッティでの強奏はなく、箏の伴奏はソロか弦楽器で、箏の音量を配慮して作曲されています。井上道義は楽器に対してのキュー出しが明確で聴きどころが分かりやすい指揮。中盤は金管打楽器が入って盛り上がります。箏の長いソロを経て、ゆっくりしたテンポから小太鼓のリズムにのって盛り上がります。ゴジラやモスラに似た旋律がありました。
演奏が終わると、井上道義とLEOが握手。ひじタッチの予定だったようですが、井上が興奮して握手してしまったようです。カーテンコールの拍手が長く、LEOがTwitterで「今まで頂いた中でも一番に長い演奏後の拍手は一生の思い出です‼」と綴っています。

休憩後の後半はワルツ5曲。指揮台が設置されました。プログラム3曲目は、池辺晋一郎作曲/ワルツと語ろう―オーケストラのために。井上道義が委嘱した作品で、本公演が世界初演です。ソリストやオーケストラではなく、指揮者が作品を委嘱するのが珍しい。池辺晋一郎がプログラムに寄稿していて、「畏友・井上道義君からの依頼を受けたものの、困った。ワルツを、どういうモチベイションで書けばいい?(中略)語り合ってみたら、とても楽しかった!」と記しています。
演奏前に井上道義がマイクで解説。「お正月に凧上げしなくなった。お祭りで踊らなくなったが、日本製のワルツをお願いした。シュトラウス風のワルツで、第1ワルツから第5ワルツまであるようなワルツ。今日の出演料は、全部池辺さんに持って行かれます。池辺さんを分かろうと、3日間の練習をがんばりました。5番ワルツは5拍子になっている」と解説しました。
約12分の作品で、冒頭は左に置かれたハープと右に置かれた大太鼓で「キュイ」という音を出す特殊奏法からスタート。京都市交響楽団オフィシャルブログ「今日、京響?」によると、くしゃくしゃにした紙をハープの弦に下から上に勢いよく擦って音を出したようです。フルートとクラリネットが超速いパッセージを演奏。1番ワルツは弦楽器。2番ワルツは木管楽器。3番ワルツはヴァイオリンソロから始まり各楽器のソロ。第4ワルツは小太鼓、木琴、鉄琴、ウッドブロック、トライアングルなど打楽器が活躍。第5ワルツは5拍子で、第1ワルツに戻って終わりますが、ワルツ間の接続がいまひとつ。メロディーもあまり親しみやすくありません。
カーテンコールで、池辺晋一郎が客席からステージに登壇。「井上にワルツを書け書けと言われたが、なぜワルツを書くかモチベーションが上がらなかった。京都とは関係ないと言われた」と爆弾発言。井上は「ワルツと語ろう」というタイトルを知って、「この人はワルツと話すんだと思った」と話しました。 「指揮者 井上道義 オフィシャルウェブサイト」には、「僕は色んなところで今まで晋一郎さんと接点があり、今回、いまワルツを書ける作曲家はこの人しかいない!と心底思い、委嘱した。御正月にやるコンサートに、これからも繰り返し聞きたくなる、池照るワルツ!!(原文ママ)」「これからのニューイヤーコンサートに良く取り上げられる作品になって欲しいので、初演演奏練習ではホントに全身全霊、彼を理解しようとしたし楽員さんと良い演奏を残したくがんばった。」「ただ、僕にはワルツは踊るモノだが池辺さんには『語る』モノだとワカッタのが相当ショックだった。」と記しています。なお、「OEK×京響《和洋の響》 GOLD LINE 〜金糸が古都を繋ぐ〜」(2021.2.14 石川県立音楽堂コンサートホール)でも広上淳一が指揮します。

プログラム4曲目は、武満徹作曲/「3つの映画音楽」からワルツ―「他人の顔」より。弦楽器だけで演奏。 武満らしい和音は出てきません。パイプオルガンに顔の絵が映る光の演出がありました。

プログラム5曲目は、ドリーブ作曲/バレエ音楽「コッペリア」からワルツ。弦楽器と管楽器の音色がうまくブレンドされて、ウィンナワルツらしい。パイプオルガンの左側に、バレリーナのシルエットが映る演出。

すぐに、プログラム6曲目のハチャトゥリヤン作曲/組曲「仮面舞踏会」からワルツ。中間部は管楽器を浮き立たせました。パイプオルガンに光で仮面が映る演出。 

すぐに、プログラム7曲目のチャイコフスキー作曲/バレエ組曲「眠りの森の美女」からワルツ。音量は落としめで、優雅なメロディーが楽しめました。

カーテンコールの途中で照明が暗くなって、井上が「たそがれだ」と言いながら入場しアンコール。マーチ風の作品で、徐々に照明が明るくなり、最後は客席も全照に。最後に井上が「今の曲は僕が書いた曲でした」と明かしました。京都市交響楽団ブログによると、井上道義作曲/オペラミュージカル「降福からの道」からポルカ。2020年に完成した自伝的オペラミュージカルからの1曲だったようで、まだこのミュージカルは初演されていないので、本邦初公開でしょうか。

終演後は時間差退場でしたが、あまり守られていません。ソーシャルディスタンスに対する観客の意識も緩くなった気がします。

なお、京都市交響楽団では10月9日からクラウドファンディングを実施し、目標額(500万円)を超える5,937,000円を達成しました。「常任指揮者兼芸術顧問広上淳一のサイン入り指揮棒&色紙(直筆)」(3万円)と「2021年度シーズン定期演奏会全公演の指揮者・ソリストのサイン入りプログラム」(3万円)を購入しました。まだ届いていませんが、楽しみです。

(2021.2.13記)


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