関西フィルハーモニー管弦楽団第354回定期演奏会「グロリオーザ…ローマの栄光&神尾真由子の十八番」


  2025年4月29日(祝・火)14:00開演
ザ・シンフォニーホール

藤岡幸夫指揮/関西フィルハーモニー管弦楽団
神尾真由子(ヴァイオリン)
関西フィルハーモニー合唱団(男声合唱)

ヴォーン・ウィリアムズ/揚げひばり
プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第1番
レスピーギ/交響詩「ローマの噴水」
伊藤康英/管弦楽のための交響詩「ぐるりよざ」〔オルガン入り特別版〕【初演】

座席:S席 2階BB列21番


2025年4月から関西フィルハーモニー管弦楽団の総監督・首席指揮者に、藤岡幸夫が就任しました。本公演はその就任披露演奏会となります。藤岡幸夫は2000年1月から関西フィルハーモニー管弦楽団正指揮者に、2007年4月から首席指揮者に就任しました。今年度で26年目のシーズンで、異例の長期に渡る関係が続いています。今年度から首席指揮者に「総監督」が加わったことになりますが、総監督というポストは日本のオーケストラでは初めてで、AKBグループを思い出してしまいました。毎日新聞の記事によると任期は5年のようで、藤岡は「地域に密着し、企業や自治体との絆を深め、楽団の経営をしっかりやっていく立場になる」と説明しています。また、オーケストラの待遇改善にも意欲を見せています。なお、藤岡は2019年4月から東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の首席客演指揮者も務めています。

関西フィルハーモニー管弦楽団は、2011年度から昨シーズンまでオーギュスタン・デュメイが音楽監督を務めていましたが、今シーズンから名誉指揮者に就任しました。また、首席客演指揮者の鈴木優人に次ぐポストとして、アーティスティック・パートナーにリオ・クオクマンが就任しました。また、2023年8月に亡くなった飯守泰次郎が永久桂冠名誉指揮者に、フレンド・オブ・サチオに山田和樹が就任しました。山田和樹は、バーミンガム市交響楽団音楽監督に加えて、2026/27シーズンからはベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者兼芸術監督に就任します。今年6月にはベルリン・フィル定期演奏会にデビューするなど、大活躍中です。藤岡幸夫のX(@sacchiy0608)によると、山田和樹とは小林研一郎門下の弟弟子で、山田和樹が関西フィルを指揮した際に、山田が関西フィルのすばらしさに、「フレンド・オブ・サチオというポジションを作って就任する」と自分で宣言したとのこと。藤岡は「色々やります🥰」と綴っているので、山田が関西フィルを指揮することがありそうですね。

関西フィルは、「第九」特別演奏会関西6オケ!2024で聴きましたが、定期演奏会は初めて聴きます。関西フィルハーモニー管弦楽団のX(@kansaiphil)によると、4月26日(土)から門真市民文化会館ルミエールホール大ホールでリハーサル。本公演のチケットは4月22日に全席完売しました。ファミリーマートで発券(手数料は150円)。

13:40からプレトーク。ロビーに案内が掲示されていましたが、予告のアナウンスなしにスタート。藤岡は今年で62歳ですが、若く見えます。「毎回定期演奏会ではプレトークをしている。26年目のシーズンで、4月から肩書きが変わって総監督になった。偉くなったとは思ってない。ギャラも変わってないが、責任が重くなった。身を粉にして頑張る」と話しました。スポンサーへの謝辞で締めくくって、15分で終了。各曲の紹介は後述します。すぐに予ベルが鳴りました。

最前列の第1ヴァイオリンとチェロのイスをステージ前方のギリギリまで近づけるセッティングです。団員の入場時には拍手がなく、コンサートマスターの木村悦子の入場時に全員が起立して拍手。カメラが設置されていましたが、藤岡が指揮&司会として出演しているBSテレビ東京の「エンター・ザ・ミュージック」の収録が行なわれました。

プログラム1曲目は、ヴォーン・ウィリアムズ作曲/揚げひばり。ヴァイオリン独奏は、神尾真由子。神尾は2019年度から東京音楽大学教授を務めていて、今年で38歳です。神尾を聴くのは、都響プロムナードコンサートNo.337以来15年ぶりでした。プレトークで、藤岡は「今日の前半は神尾真由子ワールドが堪能できる。揚げひばりは僕が大好きな曲で、神尾さんにお願いだから弾いてくださいとお願いした。イギリスでは人気のある曲で、世界大戦前に作曲された。戦争を予感させる悲しい曲で、今の時代に合ってる」と紹介しました。神尾真由子はInstagram(@kamiomayuko)に「まだ2回しか演奏したことがない」と綴っていて、演奏機会が多い作品ではないでしょう。また、リハーサルの映像も投稿されました(ジーパン姿が意外すぎる)。
神尾は白いドレスで登場。ゆっくり歩いて、女王のような貫禄があります。神尾は譜面台付きで演奏。最初と最後の弱音での歌わせ方が伸びやかで絶品です。藤岡は指揮棒なしで指揮して、ゆったりと音楽が流れました。

プログラム2曲目は、プロコフィエフ作曲/ヴァイオリン協奏曲第1番。第2番は京都市交響楽団第688回定期演奏会などで聴きましたが、第1番は初めて聴きます。プレトークで藤岡は「揚げひばりとほとんど同じ時代に作曲されたが、普通とは違う印象がする。ゆっくり→すごく速い→ゆっくりの3楽章で、オーケストラのいろんな楽器からいろんな音がする。最後は静かに終わる」と聴きどころを解説。へんてこりんな曲なので、演奏がうまくないと様にならない作品です。神尾の演奏がハイテンションですばらしい。本公演のサブタイトルが「神尾真由子の十八番」と名付けられましたが、神尾真由子のInstagramでは「得意曲の一つ」と紹介していて、第2楽章のリハーサル映像では「腕がメガ忙しい🥵」と紹介しました。
第1楽章は、神尾が弾く弓の圧力が強い。ひざを屈めて弾いて、暴れ馬のようなアクションで見せます。ハイヒールでしたが、強奏ではのけぞって、両足を広げて踏ん張ります。第1楽章は長い。第2楽章はフルートが高音を吹き捨てます。短い楽章。第3楽章は神尾がしっとり歌いましたが、また盛り上がって秘められたパワーが爆発します。

拍手に応えて、神尾がアンコール。シチェドリン作曲/バラライカを演奏。ヴァイオリンをギターのように構えて、弓は使わないでピツィカートとバンジョーのようにかき鳴らします。神尾は楽譜を見ながら両肩を揺らして陽気に演奏。ヴァイオリンの表現の幅を聴かせる意外性のある選曲でした。アンコール後に何の曲だったのか、団員が楽譜の回りに集まっていたのが珍しい。休憩中の男子トイレは、最後尾が1階のチケットカウンターまで続く大行列。ここまで長い行列は初めてでした。

神尾真由子はぜひ京響にも来てほしいと思いますが、京都市交響楽団第567回定期演奏会(2013.4.14)で尾高忠明の指揮でブラームスのヴァイオリン協奏曲を共演したことがあります。また、今年10月には京都コンサートホール大ホール(!)で、ヴィヴァルディとピアソラの四季を演奏します。

休憩後のプログラム3曲目は、レスピーギ作曲/交響詩「ローマの噴水」。プレトークで藤岡は「関西フィルとは初めてやる。理由はいい曲なのに、お客さんが入らないから。ローマの匂いがするが、第2楽章と第3楽章は噴水よりも海の神話の話。ステージ裏で鐘を叩くので、距離感を演出したい」と話しました。
ホルン×4を指揮者の正面(ティンパニの前)に配置。第1部「夜明けのジュリアの谷の噴水」は、木管楽器のソロはよく目立ちます。「大阪4オーケストラ活性化協議会 2022−2023 シーズンプログラム共同記者発表会」(2021.11.17)で、藤岡は「よく歌うオーケストラ」をセールスポイントとして語っていましたが、確かにその通りです。第3部「昼のトレヴィの噴水」から、パイプオルガンが加わって、みんなで頑張りますが、もう少し交通整理してもいいでしょう。第4部「黄昏のメディチ荘の噴水」のチャイムは、プレトークで予告したように下手口で演奏。ハープやチェレスタなどの細部を聴かせます。337小節からチェレスタの連打がこんなに聴こえるのは珍しい。344小節からのppもまだまだエネルギッシュな音色で、夕暮れらしくありません。チャイムはかなりの回数叩かれました。カーテンコールではチャイム奏者が下手から登場。

プログラム4曲目は、伊藤康英作曲/管弦楽のための交響詩「ぐるりよざ」〔オルガン入り特別版〕【初演】。この作品は、神奈川フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会みなとみらいシリーズ第358回で聴く予定でしたが、コロナ禍で中止になってしまいました。吹奏楽版はOsaka Shion Wind Orchestra第138回定期演奏会で聴きました。プログラムの解説によると、2008年に男声合唱付きの現在の管弦楽版が初演されましたが、本公演では藤岡の提案で「パイプオルガンを加えた特別版」が初演されました。また、男声合唱が加わる演奏も、日本初演の九響スペシャル「20世紀音楽・知られざる名作集」(2008年4月28日 アクロス福岡シンフォニーホール 下野竜也指揮、九州交響楽団、九響合唱団)以来のようです。
プレトークで藤岡は「神尾真由子さんはこの曲を知らなくて、ご利益のある温泉みたいな名前と言っていた。ローマの噴水とカップリングでやりたかった。グレゴリオ聖歌から始まる。合唱団があそこ(下手袖)に並ぶ。合唱団を後ろに配置しなかったのは、横にしたほうが聴こえるから。どの楽章でも合唱が出てくる。最初は吹奏楽のために作曲されて、関西フィルの楽団長を務めた手塚さん(手塚裕之)が、海上自衛隊佐世保音楽隊の初演でクラリネットを吹いていた。伊藤康英さんは今日は東京で本番があるので来られていないが、初日と3日目のリハーサルに日帰りで来てくれた」と説明。伊藤が本番に立ち会ってくれたら最高でしたが、この日は創価グロリア吹奏楽団第38回定期演奏会(文京シビックホール)を客演指揮したようで、残念。

男性合唱の関西フィルハーモニー合唱団が登場。ステージの左の花道近くから2列で並びました。プログラムには50名超と書かれていますが、プログラムに名前が記載されているのは42名(テノール18名とバス24名)です。楽譜を持って歌います。
第1楽章「祈り」が、チャイムとグロッケンシュピールとヴィブラフォンで始まるのは吹奏楽版と同じです。10小節からトロンボーンと同じメロディーを、男声合唱がユニゾンで歌います。弦楽器のメロディーは、やや遅めのテンポ。強奏では弦楽器が聴こえません。120小節からはオーボエと第1ヴァイオリンとヴィオラとチェロの4人で演奏。ここは吹奏楽版よりも弦楽器のほうがいいです。弦楽器のピツィカートも効果的。184小節で拍子木とドラが決まりました。
第2楽章「唄」は、ヴィオラの後ろに座っていた龍笛の山本恵子が立ち上がりました。緑の着物で、黒い烏帽子をかぶっています。パイプオルガン(客演奏者の久保田真矢)が加わって、龍笛とヴァイオリンのコラボ。合唱が「あー」でハーモニーを聴かせます。途中から吹奏楽版にはない部分(50小節ほどある)に入り、トロンボーンのメロディー、トランペットソロの後、篠笛が変調しますが、盛り上がって異次元に行ってしまいましたが、鈴で落ち着きを取り戻します。最後は魚板を叩いて終わり。龍笛の出番は第2楽章だけなので着席しました。
第3楽章「祭り」は、22小節からのメロディーは、弦楽器で弾くにひさわしい。63小節からの最初のメロディーはトランペットとトロンボーンで演奏されるところを、この特別版では男声合唱とパイプオルガンで演奏。打楽器もシャープでアグレッシブで、ハープ×2も目立ちます。166小節から男声合唱がメロディーを歌い、パイプオルガンも加わります。伊藤本人がゲネプロに立ち会っていたら、この男声合唱とパイプオルガンのバランスについてアドバイスがあったでしょうから、本人がいなくて残念でしたが、泣ける演奏でした。
カーテンコールでは、客席から合唱指揮(コア・マイスター)の畑儀文がステージに登場しました。

前半は神尾真由子の怪演を堪能しましたが、「ぐるりよざ」はそれがかすむほどの熱演でした。関西フィルは藤岡の指揮棒にしっかりついていって、一心同体のアンサンブルでした。

 

ザ・シンフォニーホール プレトークの案内 ソリスト・アンコール

(2025.5.18記)

 

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