京都市交響楽団第699回定期演奏会
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2025年4月19日(土)14:30開演 ジョン・アクセルロッド指揮/京都市交響楽団 チャイコフスキー/幻想序曲「ハムレット」 座席:S席 3階C3列25番 |
沖澤のどかの京都市交響楽団常任指揮者3年目のシーズンがスタートしました。2025-26シーズンプログラムのテーマは「王道!斬新!」。定期演奏会は12月を除く毎月の11公演で、そのうち7公演が金曜夜と土曜昼の2回公演です。2022年度から始まった「フライデー・ナイト・スペシャル」(19:30開演の休憩なし約1時間プログラム)が終了して、金曜夜公演は19:00開演に繰り上がって、プログラムも土曜昼公演と同じになります。9月には沖澤のどかが国内ツアーを指揮します。また、石田泰尚と会田莉凡のタイトルが、特別客演コンサートマスターからソロコンサートマスターに変わります。さらに、特別首席チェロ奏者として森田啓介(ジャパン・ナショナル・オーケストラ コアメンバー)が入団しました(山本裕康との2名体制)。
京響友の会「セレクト・セット会員(Sセット)」は今年度も継続して3年目です。今シーズンからチケット料金が500円値上げされたため、18,700円から20,400円に値上げされました。新たな割引チケット制度として、30歳以下が対象の「U30」がスタートしました。
オープニングを飾る4月定期の指揮者は、ジョン・アクセルロッド。2020年4月から2023年3月まで京都市交響楽団の首席客演指揮者を務めました。首席客演指揮者を退任した京都市交響楽団第676回定期演奏会の後、「「INAMORI ミュージック・デイ 2024」シンフォニックコンサート」(2024.11.3 ロームシアター京都メインホール)を指揮したので、約半年ぶりの指揮です。また再登場してくれるとは意外でしたがうれしい。アクセルロッドは、スイス国立管弦楽団音楽監督兼首席指揮者とブカレスト交響楽団首席指揮者を務めています。
なお、本公演と同一プログラムで、翌日の20日(日)にはふくやま文化ホールリーデンローズ大ホールで「オーケストラ福山定期 Vol.7 京都市交響楽団」が、同じく21日(月)には「オーケストラ福山定期 Vol.7 京都市交響楽団 中学生招待公演」(中学2年生招待公演)が開催されました。この前後に京都市交響楽団以外の指揮はなく、単独招聘です。
京都市交響楽団のX(@kyotosymphony)によると、本公演のリハーサルは、16日(水)から京都コンサートホールで始まりました。第697回定期演奏会と第698回定期演奏会に続いて3ヶ月連続で、京都市交響楽団練習場ではなく、最初から京都コンサートホールで3日間リハーサルが行なわれました。3月11日に行なわれた「2025-26ラインナップ及び70周年事業等に関する記者発表」でも、京都コンサートホールでの練習を増やす意向が示されましたが、松井市長が就任してから目に見える改善です。チケットは前日に全席完売しました。
京都コンサートホールは2025年に開館30年を迎えますが、チケットカウンターの前に大きな看板が設置されました。また、京都コンサートホール1階のカフェが、4月13日(日)から前田珈琲京都コンサートホール店にリニューアルしました。土日のみの営業で、開演2時間前から開店します。せっかくなので赤味噌オムハヤシライスとアイスコーヒーのセットを注文。1550円で京都コンサートホール会員は5%割引でした。支払いは現金かPayPayのみです。けっこう高価ですが、リッチなランチで開演前の楽しみは増えました。お客さんも以前よりも増えたようです。
14:00からプレトーク。アクセルロッドと通訳の女性が登場。アクセルロッドはちょっと太られたようです。低くていい声です。聴きやすい英語でゆっくり話しました。普段のプレトークは10分程度ですが、アクセルロッドはなんと25分も話しました。本公演を「特別なプログラム」と語り、「すべての人類にとってふたつの重要なもの、つまり生と死について、言葉によって音楽が刺激された作品」「今日のプログラムでふたつの生と死を聴ける。シュトラウスにとってはフォーレのレクイエムのようで、チャイコフスキーにとってはただ休むもの」と語りました。また、ハムレットと悲愴の共通点などを語りました。詳細は後述します。
コンサートマスターは豊嶋泰嗣(特別名誉友情コンサートマスター)。その隣が泉原隆志(コンサートマスター)。客演首席ヴィオラ奏者は大島亮(神奈川フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席ヴィオラ奏者)。特別首席チェロ奏者はルドヴィート・カンタ(オーケストラ・アンサンブル金沢名誉楽団員)。
プログラム1曲目は、チャイコフスキー作曲/幻想序曲「ハムレット」。プレトークで、アクセルロッドは「シェイクスピアによってインスパイアされた作品で、ヴェルディの「椿姫」と同じフレーズが使われている。チャイコフスキーは3回ハムレットの音楽を書いた。1回目は演劇の音楽、2回目は本日演奏する作品、3回目は私の考えだが「悲愴」だ」と発言。「生きるべきか死ぬべきか(To be, or not to be)はハムレットを刺激したが、チャイコフスキーも自分に対して問いかけた。オーケストレーションにおいて、ホルンはミュート付きの閉じた暗めの音を出すように指示されている。閉じた暗い音がハムレットでは8小節に渡って呼応し、生きるべきか死ぬべきかが8回問いかけられる」と解説しました。
マイナーな作品ですが、プレトークで語ったように、ストーリー性を持たせた演奏でした。京響も好演で、たっぷり歌います。木管楽器は音色をブレンドさせないで生の音を聴かせました。長いパウゼの後、ホルンのミュート付きで弱い音で8回演奏。強奏はよく響いて、打楽器もよく鳴ります。中間部の藤本茉奈美のオーボエは、音色に味がありますが、もう少し抑揚があってもいいでしょう。後半でドラが派手めに鳴り、最後はティンパニが葬送行進曲。アクセルロッドは両足を広げてダイナミックな指揮を見せました。
プログラム2曲目は、R.シュトラウス作曲/4つの最後の歌。ソプラノ独唱は森麻季。森のFacebookによると、国立音楽大学客員教授、東京音楽大学特任教授に加えて、今年4月から母校の東京藝術大学でも教鞭を執るとのこと(職位は不明)。プレトークで、アクセルロッドは「シュトラウスにとって、死は静かな優しいものだった。4曲は人生の4つのステージを表している。「眠りにつくとき」は秋、「夕映えには」は冬で死に向かう季節で、「夕映えに」の最後に「死と変容」のテーマが使われる。シュトラウスは亡くなる前に、彼の妻に「私は正しかった、天国はハ長調」と語った」と解説。「森麻季は天使のような歌声」と紹介しました。
弦楽器も管楽器もそのままの編成。森は水色のドレスで歌います。肌が色白です。大阪音楽大学第64回定期演奏会でも感じましたが、オーケストラの音量が大きく、歌詞が聴こえません。森麻季の声が出ていないのかと感じましたが、そんなことはなさそうで、オーケストラの編成が大きいため、もう少し室内楽的な音楽作りでもよかったでしょう。チェレスタもまったく聴こえませんでした。第3曲「夕映えに」は木管楽器がパイプオルガンのような響きで、歌とオーケストラが比較的いいバランスでした。
休憩後のプログラム3曲目は、チャイコフスキー作曲/交響曲第6番 「悲愴」。プレトークで、アクセルロッドは「チャイコフスキーは二重生活を送っていた。同性愛などの問題を抱えていた。「悲愴」に秘密が隠されていた。ホルンのゲシュトプのブーは問いかけである、悲愴の最後の金属音のホルンは死ぬことを覚悟したのだ」「コントラバスで3連符の葬送行進曲が出てくる。チャイコフスキーがコレラで亡くなったのか自殺したのかは分からない、真実は音楽の中にある」と解説しました。
管楽器と打楽器の人数が減りました。パートごとにくっきりまとまって聴こえるのは、ホール練習の成果でしょうか。強奏は豪快に鳴って、アクセルロッドならもっとアメリカ風のサウンドになると思いましたが、そうでもありません。音がない部分も大事にして、メリハリがついた演奏でした。アクセルロッドはたまに「チィー」というようなうなり声をあげながら指揮しました。
第1楽章は、ファゴットのソロが終わった12小節をフェルマータのように長く間をとりました。19小節(Allegro non troppo)から開放的ではなく、くすんだ奥まった音色。44小節からのフルートはスラーの切れ目が分かるように演奏しました。189小節からホルン×4がベルアップ。299小節のffffは壮絶な音色。その後の第2主題の回想はテンポを揺らしました。第2楽章はやや速めのテンポ。ヴァイオリンはこの楽章ではややトゲトゲした触感でけばけばした音色でした。57小節(con dolcezza e flebile)からはややテンポダウン。82小節から連続する木管楽器はやや巻き気味に演奏するように指揮。第3楽章は196小節でppのファゴットを聴かせるのが斬新。274小節からのティンパニと大太鼓の地響きのような連打の後、283小節から292小節までテンポを落として演奏し、293小節からは速いテンポに一気にギアチェンジするユニークな解釈。同じ音型が続く304小節からは、一度デクレッシェンドしてからクレッシェンドして盛り上げました。指揮が固まったまま、長い間を空けてそのまま第4楽章へ。ヴァイオリンがリードして38小節から盛り上げます。108小節からテンポが速い!。上昇音型に沿ってアッチェレランド。スコアの「stringendo molto」の指示に従ったようですが、ここはじわじわと重々しく演奏して欲しかったのでもったいない。
3曲とも静かに終わる曲でしたが、フライング拍手はありませんでした。カーテンコールでは、アクセルロッドは管楽器奏者を何回も立たせてご満悦のようでした。カーテンコールの最後は、譜面台のスコアを掲げてチャイコフスキーへの敬意を表しました。終演後は1階エントランスで松井市長も見送り。松井市長のX(@matsuikoji)によると、西脇俊隆京都府知事も来場されていたようです。
アクセルロッドはひさびさの定期登場でしたが、オーケストラがよく鳴って、しかも無理なく自然に響きました。本公演のプログラムはあまり色彩感を必要としない作品でしたが、次回はスペインプログラムに期待したいです。なお、キリ番となる次回の第700回定期演奏会は、ハインツ・ホリガーが指揮します。