京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.5「井上道義×ブルックナー交響曲第8番」
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<マエストロ井上道義によるスペシャルトークイベント>
2024年11月22日(金)19:00開演 井上道義、通崎睦美 座席:自由 <京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.5「井上道義×ブルックナー交響曲第8番」> 2024年11月23日(祝・土)15:00開演 井上道義指揮/京都市交響楽団 ブルックナー/交響曲第8番(第2稿ノヴァーク版) 座席:全席指定 3階C1列25番 |
今年12月30日で指揮活動の引退を宣言している井上道義ですが、本公演は引退まであと3公演となりました。井上は9月から11月にかけて、2024年度全国共同制作オペラ 歌劇「ラ・ボエーム」(全国7ヶ所8公演)を完走した後、桂冠指揮者を務めるオーケストラ・アンサンブル金沢(2024.11.9 第487回定期公演マイスター・シリーズ)と、第2代音楽監督を務めた新日本フィルハーモニー交響楽団(2024.11.16 「トリフォニーホール・シリーズ」第659回定期演奏会、2024.11.18 「サントリーホール・シリーズ」第659回定期演奏会)を指揮しました。
本公演は言うまでもなく、井上道義が京都市交響楽団を指揮する最後の演奏会です。井上道義は1990年4月から1998年3月まで京都市交響楽団音楽監督・第9代常任指揮者を務めました。京都コンサートホールの開館や、京響コーラス(当時は京響第九合唱団)の創設など、京都の音楽界に多大な貢献がありました。京都コンサートホールのX(@KCH_Kyoto)によると、井上道義が京都コンサートホールで京都市交響楽団を指揮するのは、オープニング祝賀演奏(1995年10月12日)から数えて本公演で71公演目とのこと。
本公演は「第28回京都の秋音楽祭」の最後を飾る公演で、曲目はブルックナー「交響曲第8番」。京都市交響楽団とは第568回定期演奏会(2013.5.24)で演奏して、エクストンからCD(2枚組)もリリースされています。井上道義のブルックナーは、第7番(井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.4~道義×大ブルックナー特別展×大阪フィル~<ブルックナー生誕200年記念>京都市交響楽団第529回定期演奏会)と第9番(京都市交響楽団第529回定期演奏会)を聴きましたが、第8番を聴くのは今回が初めてです。なお、京都市交響楽団は、第646回定期演奏会(2020.6.26)で、広上淳一(芸術顧問兼第13代常任指揮者)が第8番を指揮する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で中止になりました。広上淳一が国内では初めてブルックナーを指揮する予定でしたが残念。
「京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクト」は、2020年度から年に1回開催されていて、今回で5回目です。聴きに行くのは、Vol.3「天才が見つけた天才たち――セルゲイ・ディアギレフ生誕150年記念公演」以来です。
チケットは全席指定で、一般5,500円、会員5,000円。京都コンサートホール・ロームシアター京都Club先行発売は一般発売の1週間前に発売されました。9月20日に関係者席開放に伴う若干数が追加販売されましたが、すぐに完売しました。2日前の21日(木)から京都コンサートホールでリハーサルが始まりました。以前の京都市交響楽団のX(@kyotosymphony)の予告通り、京都市交響楽団練習場ではなく、リハーサルはすべて京都コンサートホールで行なわれました。
<マエストロ井上道義によるスペシャルトークイベント>
公演前日の22日(金)に「マエストロ井上道義によるスペシャルトークイベント」が開催されました。公演当日のチケットを購入した京都コンサートホール会員を対象とした企画です。当初は1階のカフェ「コンチェルト」が会場で、料金は無料ですが、ワンドリンクの注文が必要でした。定員は30名で、申込多数の場合は抽選でした。応募フォームからチケット座席番号を入力して申し込みましたが、大変多くの応募があったため、8月になって「1人でも多くのお客様が、イベントに参加できるようにとのマエストロのご希望により」、会場が1階カフェから大ホールに変更されて、人数制限がなくなりました。すばらしい。ついでにワンドリンクの注文も不要になりました。
聞き手は木琴奏者の通崎睦美(つうざきむつみ)。通崎は京都出身で、井上との共演機会も多かったようです。
18:30に開場。50人くらいが並びました。明日のチケットを購入した会員が対象なので、入口の名簿で名前を確認。ホール1階席の通路よりも後ろの席に座るように案内されました。通路に丸テーブルとイスが左右に置かれていました。すごく近い距離です。前から4列目(19列)に座りました。ステージには楽器が置かれていますが、団員は帰った後のようで、楽器の音もしませんでした。ブログ「Blog ~道義より~」によると、お客さんは約250人ほどだったようです。
最初にスタッフから「最後に写真撮影の時間を設ける」とのアナウンスがありました。下手の扉から井上道義と通崎睦美が登場。左のイスに井上、右のイスに通崎が座りました。井上は近くで見ても若い。通崎の質問に、井上が答える形で進行。井上は通崎を「むっちゃん」と呼びました。通崎の質問は考えさせられる内容が多かったようで、ときどき井上はまばたきしながら答えました。井上独自の音楽感や考えが炸裂して、若い頃のエピソードが聞けておもしろかったです。
井上はブログ「Blog ~道義より~」に「内容?ふふふ、話せないことは話していないにもかかわらず、相当危ないところまで話したな。来た人との密談。」と書いているので、ここに書いていいのか迷いましたが、少しメモしておきましょう。
引退について、井上は「やりたいことをやった繰り返しになるのが嫌。高齢で指揮する人もいるが、指揮はびしっとしてるべき」と美学を披露。「引退後の予定は何も考えていない」とこれまでの話と同じでした。井上は「マエストロを日本語で巨匠と訳すのはどうなのか」と疑問を呈し、コンクールの後に新聞に「井上がマエストロと呼ばれた」と書かれたという話を披露。「今日も13時から18時まで練習した。今日も体力はギリギリだが、人の前に出ると元気になる」と話しました。
通崎が「77歳ですよね」と確認して、「44歳で京都に来られたが、どう変わったか?」と質問。井上は「頭(髪形)の方は変わってない。心の方も変わってない」。通崎は「私がここにいる理由は、井上に来いと呼ばれたから」と明かし、井上とは35年近い付き合いとのこと。通崎は「エキストラだった大フィルの練習の後に、井上に「ドライブに行かない?」と誘われた。南港に行って京響メンバーに配るシャンパンを取りに行った。私は運搬を手伝った」と話しました。これは貴重なエピソードで、井上は笑いながら当時を思い出し、「シャンパンではなく、シードルをプレゼントした」と補足し、「人を喜ばせるのが好き」と自己分析しました。井上は「指揮しながら踊るのを悪趣味と言われたことがある」とのこと。通崎が「外見で損したことや得したことは?」と聞くと、井上は「損したことはない。普通に振る舞っているが、受けをねらっちゃう」と話しました。
井上は「サービス精神はあるが、自分は楽譜に忠実な指揮者」と断言。「ハイドンやモーツァルトは若い頃ものすごく勉強した。当時は日本であまり振れる指揮者がいなかった」と語りました。自作オペラを井上が譜面を作ったことについて、「楽譜の中に音楽はない。ただの紙。やる(演奏する)人側にあるので、どうやって作るか」と話し、「オーケストラのメンバーは音楽を仕事でやっているが、客席の側の人のために生きようよと話したことがある」とのこと。井上はお客さんからの立場で考えてくれる指揮者ですね。通崎が「細部にこだわるか?」と聞くと、井上は「今日もしつこく練習した。当時の京響の奏者はおっさんばっかり」と振り返り、「レニングラードを京都会館で演奏したときに、ヴィオラパートがいい音がした。虐げられていたのね。当時の練習場は小学校の講堂で、うるさいので落とすように言われるが、本番で演奏する京都会館では聴こえないと言われる。そうなるとオーケストラは生きがいがなくなる」「今は立派なスタジオ(=京都市交響楽団練習場)があるけどダメ。このホールはすばらしいとは思わないが、今でも同じことをやっている」と、要するに練習環境が当時と変わっていないことを指摘。ブログ「Blog ~道義より~」にも、「僕自身があんなに喜んだスバラシイ出雲路橋の練習場こそが問題だったと気づいたのです」「あの古かった木造の小学校の講堂と京都会館の関係は、今も出雲路橋練習場とコンサートホールの関係と似たり寄ったりだったのですから」と綴っています。「松井市長は今までの市長と違ってカッコだけじゃない。実行力がある」と評価しました。
通崎から、京都市長選挙に立候補しようとした話。これは井上の著書『降福からの道』にも書かれていますが、より詳しい話があり、「二階さん(当時は新進党)に小池百合子さんに連れられて行った。当時の首相は細川さんで、彼は焼き物にはまっていた。いろんな人に止められた。妻にも止められた。自民党から出るつもりはなく、京都は共産党が強いので新進党から出るつもりだった。結果的にやりたいことができないと思った」と回想しました。また、「京都は古いものに寄りかかりすぎていると思う。京都に来た観光客は、現代アートや現代の建物は見ない。京都は見られるように作られている。音楽は京都に生きない。ここに聴きにくる外国人はいない」と語りました。「京都に対する憧憬はすごいが、住んでる人はどうなの? 蜃気楼みたいに近づくほどいなくなっちゃう」とも語りました。
通崎は「井上は当時堺町三条のアパートに住んでいた。当時の京響は演奏を間違えないかヒヤヒヤして聴いていた」と振り返りました。当時の京響の演奏レベルからすると私も共感しました、井上が海外のオーケストラではなく京都に来た理由については、「言葉ができないから。英語は大したことない。小澤さんよりはまし。外国に行くと孤独を感じる」「新日本フィルで音楽監督はウソだった。小澤征爾が創立指揮者で、選曲についていろいろ言われた。自分のオケじゃなかった。勝手にやめた。やめた理由はボレロで奏者にプレッシャーをかけすぎてボロボロになった。失敗をスルーできない。広上くんとは違う」。通崎は「ブライトンホテルのロビーでボレロを演奏したことがある」と語りました。
井上は「お客さんのことを信じてない。拍手はシャワーだと思っている。音楽は主観で、自分がどう思ったかが大事」と語りました。通崎は「私のコンサートで井上が一番前に座っていた。アンケートにも井上道義と記名されていた」というエピソードを披露。通崎が「自分が指揮した演奏の感想を聴きたい友達はいるか?」と聞くと、井上は「10人くらいいる」と答えました。誰なのか気になります。なお、「奥さんとは仲いいが、別居している」と明かしました。また、井上は「姿はその人のすべてを表す」と話し、「ラ・ボエームのオーディションは森山(開次)さんと選んだが、写真で分かる。奥さんも写真で言い当てる」と話しました。やっぱり見た目は大事ですね。
通崎は「井上の直感力に助けられた」として、「着物でクラシック」のエピソードを紹介。通崎は「100万円の衣装が着られたが、自前の着物があるので断ったが、井上から「その予算でロビーに展示すればいいんじゃない」とアドバイスしてくれた。それがきっかけで書く仕事を始めた」と語りました。沖澤のどか(京都市交響楽団常任指揮者)について、井上は「10年前くらいに金沢の指揮者講習に来た。モーツァルトの音がしたので可能性があると思った。副指揮者になって欲しかったが、そんな金がないと言われた。自分が金を払うと言ったら、あなたのオーケストラではなく県のオーケストラだと言われた。事務員として雇ったが、目利きがある」と誇らしく話して、客席から拍手。この話は沖澤も京都市交響楽団第685回定期演奏会のプレトークで話していました。
通崎が「そろそろ締めに」と話して、明日のブルックナーの話題に。井上は「喉が痛い、腰が痛い、腎臓が痛んでいる」と話しました。このトークも後半はスタミナが落ちたようです。ブルックナー「交響曲第8番」について、井上は「CDが出ていて、いい演奏」と語りました。「コンサートホールで練習する第1回の試み」と語りましたが、京都コンサートホールのXによると、21日(木)から京都コンサートホール大ホールでリハーサルが始まり、いつもの京都市交響楽団練習場では練習しませんでした。井上は「スタジオではダメだが、N響や都響でもやっていない。東京交響楽団はミューザ川崎で練習している」と解説しました。井上は「隣の資料館(京都府立総合資料館)がやっとなくなった。跡は公園になるようだが、変なものが建たないように祈っている」とホールの周辺について話し、ホール内部については「反響板が必要。そうすれば後ろの席まで聴こえる」と指摘しました。「ブルックナーはいいホールでないと楽しめない。彫刻を作るつもりで練習した。ブルックナーは音楽を作った人で、神の譜面を書いているわけじゃない。音楽家の生きがいを守る音楽。空中の城を作るような音楽。ヨーロッパの文明はいいところに行った」とユニークな考えを披露しました。
最後に写真撮影。京都コンサートホールのXに、井上と通崎がお客さんを背景にして撮影した写真が掲載されましたが、私もばっちり写っています。人生最高の1枚かもしれません。しばらくして、井上は「撤収します」と話して、20:05に終了しました。スタッフから「明日はカーテンコールで特別に写真撮影が可能」とのアナウンスがありました。
ブログ「Blog ~道義より~」によると、「終わってみれば熱が出たようになり喉が痛くて次の日のゲネプロは長く出来なかった」とのこと。公演前日の夜遅くにこんなイベントを開催していただいて感謝しかありません。京都コンサートホールスタッフとの信頼関係があってこそでしょう。素晴らしい夜になりました。
<京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.5「井上道義×ブルックナー交響曲第8番」>
14:15に開場。開場前にスロープの1階まで長い行列ができました。本公演限定のコラボ商品として、京都生まれのデニッシュ食パン専門店「ANDE」(アンデ)の「本公演オリジナルラベル」のデニッシュ缶が限定100セットが販売されました。ラベルに井上道義の顔写真が印刷されています。缶入りで賞味期限が1年6ヵ月で、非常食としても備蓄できるとのことで、メープル味のショコラーデ味のセット(税込1,050円)を購入しました。賞味期限は2026年5月です。いつ食べましょうか。
ホワイエには「2/FaithCompany」の全面協力で、「井上道義 音楽生活写真展 Voyage(ヴォワヤージュ) ー音楽という名の通行手形―より」の写真パネルが10数点展示されました。2024年度全国共同制作オペラ 歌劇「ラ・ボエーム」の東京公演の前後の9月17日(火)から29日(日)まで、東京芸術劇場のギャラリー1で開催されて、13日間の会期中に4000人を超える来場者があった写真展からの抜粋です。井上道義自らのメッセージ入りで、残念ながら撮影禁止でしたが、ウィーン・ムジークフェラインで京都市交響楽団をリハーサルで指揮する写真や、燕尾服で桂川に入った写真など、貴重な写真もありました。企画してくれた京都コンサートホールのスタッフに拍手。「Voyage -音楽という名の通行手形-」のX(@Voyage09170929)で流れている写真もありますが、やはりこれは写真集で発売してほしいですね。また、京都ブライトンホテルからの「感謝」と書かれた花が置かれていました。前日のスペシャルトークイベントでも話題に出ましたが、さすが一流ホテルです。
2階席1列中央にカメラを置いたスタッフが座っていましたが、プログラムに挟まっていた「本日の公演について」によると、KBS京都が収録していて、2025年1月3日(金)21:00~23:00に放送予定とのことです。井上が京響の音楽監督を務めていた頃には、KBS京都が「京の響」という番組で、京都会館での京響の演奏会が放送されていたことを思い出しました。また、井上道義の京都最終公演のため、特別にカーテンコールでの写真撮影が可能とのこと。
プログラムに掲載された「井上道義氏と京響が歩んだ革新の道」が名文です。執筆者は産経新聞社の安田奈緒美(大阪編集局報道本部部長)で、井上道義や京響をよく分かっている人が書いてくれて、人選も含めて素晴らしい。プログラムにメンバー表が掲載されているのもポイントが高い。この演奏会の意味を事務局が分かっている証拠です。コンサートマスターは会田莉凡(特別客演コンサートマスター)、左隣は尾﨑平(アシスタント・コンサートマスター)。ヴィオラのトップ(客演首席奏者)は、鈴村大樹(パシフィックフィルハーモニア東京ヴィオラ特別首席奏者)。コントラバスを雛壇の最後列の正面(クラリネットの後ろ)に配置。弦楽器は客演奏者が多めで、ハープも3人とも客演でした。金管楽器は上手の雛壇最後列に固めて、左からトランペット、トロンボーン、テューバ。その前にホルン×8が横一列に並びます。そのうち左の4人ががワーグナーテューバ持ち替え。CDに収録された第568回定期演奏会の配置に比べると、コントラバスは同じですが、ホルンは下手で、ティンパニは上手に配置されていたので、少し変わりました。上述のテレビ放送用なのか、ステージにマイクが立ててありました。半円形の雛壇を客席に近づける広上シフトでした。
開演前の放送で「余韻を楽しむため、フライング拍手は禁止」という異例のアナウンスが流れました。上述したCDにフライングでブラボーが入っていることもあるでしょうか。開演前は私語がなく静まり返っていて緊張感がありました。スーツケースを持っている人がいて、他府県から遠征してきた方も多いようです。
演奏は、ホール練習の成果が生かされたすばらしい演奏で、京都市交響楽団が期待以上の最高のパフォーマンスを聴かせました。特に第1楽章がすばらしく、涙で前が見えなくなりました。見通しがよく澄みきった音響など、随所に京響の特質が活かされています。ホール練習のおかげで、今まで聴いたことがない京響に出会えました。楽章の途中でチューニングをしませんでしたが、この作品の雰囲気を損なわないようにしたのでしょう。しかし、こんな名演でも第3楽章と第4楽章は長すぎると感じてしまいました。コントラバスを雛壇の後ろに置いたのが効果的でよく響きます。お客さんも集中して聴いていて、こんなに観客ノイズが少ない演奏会は読売日響第114回東京芸術劇場マチネーシリーズ(スクロヴァチェフスキが指揮したブルックナー「交響曲第9番」)以来です。井上道義の指揮台はなし。譜面をめくりながら指揮して、立ち位置を変えません。腕を高く振り上げる井上独特の指揮法が見られました。
第1楽章冒頭の弦楽器のメロディーのアーティキュレーションをはっきり。その後は、のびやかで無理のない歌い方で、最初の強奏で泣けました。369小節からの「死の告知」は壮絶ですが、うるさくなりません。
第2楽章冒頭のヴィオラとチェロは、3拍子のフレーズを意識(スラーがついているように聴こえました)。京響のよさが活きていますが、強奏はブルックナーファンなら物足りなく感じるかもしれません。53小節からのティンパニは、スタッカートがついていない四分音符をアクセントのように強く叩くのは、CDと同じです。Trioのハープは可憐。弦楽器も管楽器もよく調和されています。
第3楽章の冒頭は、スコアではppですが、音量が大きめ。弦楽器のハーモニーが最高で、オーケストラの一体感が抜群。トロンボーンソロのあとの165小節からはオルガンのような響き。223小節からのコントラバスが行進のよう。ティンパニが入る239小節は身震いがしました。丁寧でじっくりした演奏で、強奏は荒々しさがありません。なお、トライアングルとシンバルの出番は、全曲を通しても239小節と243小節だけです。終盤は天に召されそうな雰囲気です。CDよりもゆったりした演奏でした。
第4楽章は、111小節から自然とメロディーが沸き上がる雰囲気がすばらしい。183小節からはティンパニと金管楽器がよく鳴ります。トロンボーンとテューバの裏でヴァイオリンがよく聴こえます。437小節から再び冒頭のメロディーに回帰しますが、ヴァイオリンが磨かれた音色で大健闘。647小節からティンパニが主導するように盛り上げて、691小節からやや速めのテンポでトランペットが軽やか。
カーテンコールでは、男性から花束贈呈。井上は驚いた表情を見せました。頭部がよく似ていので、広上淳一かと思ったら、今年4月から京都コンサートホール館長に就任した鷲田清一だったようです。井上と長く話し込んでいました。その後、井上道義が客席に起立を促して、スタンディングオベーションに。これまで京都では見られなかった光景です。オーケストラが退場した後も拍手は止まず、井上道義が会田莉凡と上野博昭(首席フルート奏者)と手をつないで登場。会田莉凡が笑顔で腕を回して、客席にブラボーを煽っていました。どうしてこのような展開になったのかの経緯は、井上道義オフィシャルウェブサイトのX(@michiyoshi_web)の動画で確認できます。なお、昨日たっぷり話したからか、井上からの話はありませんでした。また、定期演奏会終演後に見られる団員による見送りもなし。
16:45に終演。京都会館時代の京都市交響楽団からは聴けなかった名演で、ここまで京響を育ててくれて感謝しかありません。井上道義オフィシャルウェブサイトのXには「1990年から240回以上の指揮をして、京響に育ててもらった。ありがとう。」と感謝の言葉が綴られました。井上から率直な感謝が示されるとは予想外で、この言葉にも泣けました。
京都市長で京都市交響楽団の楽団長の松井孝治も来場していて、松井のX(@matsuikoji)に掲載された井上のサイン色紙の写真には、「待ちに待った本当の市長! 松井孝治様へ 私とは時代がずれましたが「今!の京都」にして下さい。」と書かれています。京都コンサートホールの改修などに尽力していることに対する評価でしょう。井上はブログ「Blog ~道義より~」で、「昨日京響はブルックナーで超素晴らしい「音」を出せた。」と各楽器ごとに絶賛して、「複雑な思いで僕は真に最後の京都体験は有終の美??を飾ったのだった。」と結んでいます。
松井市長の尽力によって、京都コンサートホール大規模改修工事に本格的に着手されることになりました。パイプオルガンのオーバーホールや、大ホール内のエレベーター新設、1階の女子トイレの個室増設などが計画されています。2024~2025年に基本設計、2026~2027年に実施設計、2028~2030年に施工の予定です。
(2024.12.15記)