京都市交響楽団第685回定期演奏会


   
    <京都市交響楽団第685回定期演奏会>

2024年1月20日(土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

沖澤のどか指揮/京都市交響楽団
吉野直子(ハープ)

オネゲル/交響曲第5番「三つのレ」
タイユフェール/ハープと管弦楽のための小協奏曲
イベール/寄港地
ラヴェル/ボレロ

座席:S席 3階C2列24番


<京響友の会会員イベント~沖澤のどか氏と京響メンバーによるトークショー~>

2024年1月20日(土)17:30開演
京都コンサートホール大ホール

沖澤のどか(常任指揮者)、安井優子(首席第2ヴァイオリン奏者)、水無瀬一成(副首席ホルン奏者)、稲垣路子(副首席トランペット奏者)、中山航介(首席打楽器奏者)、naco(司会)

座席:自由



常任指揮者の沖澤のどかが指揮する今シーズン最後の京響定期演奏会は、フランス音楽のプログラムです。本公演は2日公演の2日目で、前日の19日(金)は「フライデー・ナイト・スペシャル」で、本公演のプログラムとはオネゲルとイベールは同じで、タイユフェールの代わりにドビュッシー「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」が演奏されました。ラヴェル「ボレロ」は本公演のみのプログラムでした。

チケットは、第678回定期演奏会第682回定期演奏会第684回定期演奏会に続いて、定期会員の「セレクト・セット会員(Sセット)」のクーポンを使用して、発売日の3日前に購入できました。紙のチケットは発券されません。スマートフォンに取得した「入場用QRコード」をスキャンして入場します。チケットは前日に完売しました。

今年度から京響友の会の「セレクト・セット会員(Sセット)」に入会したので、元日に京響から年賀状が届きました。団員が直筆でメッセージを書いておられるようです。沖澤のどかは前週の1月13日(土)には、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団を初めて指揮しました(第366回定期演奏会、東京オペラシティコンサートホール)。京都市交響楽団第661回定期演奏会で取り上げたラヴェル「ダフニスとクロエ」第1組曲、第2組曲を指揮しました。

本公演のリハーサルは16日(火)からスタート。17日(水)の午前中には京都市交響楽団練習場で、練習風景の一般公開が行なわれました。定員50名で事前申し込みが必要でした。約3年半ぶりの開催とのこと。コロナ禍前は毎月開催されていたので、今後も期待したいです。

14:00からプレトーク。沖澤が「本年もよろしくお願いします」と新年の挨拶。「今日は個人的な話を」と前置きして、「私は今36歳か37歳なんですけど(注:新聞記事によると36歳)、大学4年生のときに金沢で井上道義先生と広上淳一先生の指揮講習会に参加した。その際に井上先生にアシスタントをやらないかと言われたので行ったが、事務局に話は通っておらず、金沢にアパートを借りて事務局員として働いた。楽屋掃除などもしたが、オーケストラの表も裏も知ることができて、感謝している」と裏話を披露。「金沢は第2の故郷だが(京都はホーム)、石川での地震に心を痛めている。少しでも石川のために協力したいので、終演後に表に出てまいりますので、義援金をお願いしたい」と募金を呼びかけました。「今日のプログラムはタイユフェールから考えた」とのことで、10分で丁寧に聴きどころを紹介しました(詳細は後述)。

コンサートマスターは会田莉凡(特別客演コンサートマスター)。その隣に泉原隆志(コンサートマスター)。ソロ首席ヴィオラ奏者の店村眞積が出演しました。店村は2011年6月から務める東京都交響楽団ヴィオラ特任首席奏者を3月末で勇退することが2月に発表されました。まったく見えませんが75歳とのこと。京響では2012年9月からソロ首席ヴィオラ奏者を務めていますが、どうなるでしょうか。本公演はNHK-FM「ブラボー!オーケストラ」の収録でマイクが設置されていました。

プログラム1曲目は、オネゲル作曲/交響曲第5番「三つのレ」。プレトークで沖澤は「オネゲルはどちらかと言うとフランス人よりもスイス人 。冒頭は度肝を抜くような不思議な響きでインパクトがある。第2楽章はシュールレアリスムを音にした。十二音技法を試してみたかったようだ。第3楽章はバルトーク、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチ、9月(第682回定期演奏会)に演奏したコネソンに似ている」と解説しました。京都市交響楽団のX(@kyotosymphony)に投稿されたコメント動画でも「交響曲の一番最初が強烈な金と銀がまじりあったような音がする」と解説しました。
3つの楽章から成る約23分の作品で、「3つのレ」とは各楽章がレの音で終わることに由来します。親しみやすいメロディーがなく、あまり印象に残りませんでした。第1楽章冒頭は不協和音でも濁りません。盛り上がって、トランペット×3が動機を強奏。弦楽器はもっと分厚く聴きたいです。ティンパニが最後に一発だけ。第2楽章も弦楽器はもっとシャープに聴きたいし、中間部はもっとどっぷり浸りたいです。ティンパニが最後に一発のみ。第3楽章はショスタコーヴィチらしいリズムがありましたが、最後は静かに終わりました。

プログラム2曲目は、タイユフェール作曲/ハープと管弦楽のための小協奏曲。プレトークで沖澤は「今回初めて指揮する作品で、吉野直子との共演も初めて」「かわいらしいが、トゲや不協和音もある作品」と解説。「タイユフェールはフランス6人組で紅一点で、記者会見では言っていないが、各シーズンのプログラムに最低女性の作曲家を取り上げたい」とのこと。
ハープが搬入されて、オーケストラは中編成でこじんまり。オーボエがいないので、クラリネットでチューニング。吉野がキラキラのドレスで登場。吉野の演奏を聴くのは初めてでした。3つの楽章で約17分の短い作品ですが、ハープは細かな音符が多く、両手をフル活用で、休みがほぼありません。吉野直子もなんと初めて演奏する作品ということでしたが、暗譜で演奏しました。譜めくりの時間がないほど忙しいからでしょう。カデンツァは、ハープは弦楽器だということを忘れるほどいろんな音が出せます。第2楽章はひとつのテーマをオーケストラが受け渡していき、ハープは伴奏。第3楽章は繊細な表現で、オーケストラも健闘。ハープはこんなに表現力が豊かな楽器だったんですね。ハープの魅力を再発見しました。拍手に応えて吉野がアンコール。トゥルニエ作曲/朝にを演奏。すばらしい。

休憩後のプログラム3曲目は、イベール作曲/寄港地。プレトークで沖澤は「1920年代のパリ。「ミッドナイト・イン・パリ」の映画で描かれた時代で、ダリ、ピカソ、シャネルなどいろんな人が集まってきた。ベートーヴェンの普遍性とは異なり、個人的な作品で、新婚旅行の印象を描いた」と解説。3つの楽章から成り、打楽器が9人もいて、ハープ×2、チェレスタと大人数です。第1楽章「ローマ、パレルモ」はヴァイオリンの線が細い。第2楽章「チュニス、ネフタ」はオーボエの物憂げなメロディーが最高。第3楽章「バレンシア」は強奏でもべた塗りにならず理性的で、各楽器をきちんとはっきり聴かせる京響らしい演奏。

プログラム4曲目は、ラヴェル作曲/ボレロ。プレトークで沖澤は「当時はとんでもなく革新的な作品。バレエでは機械の歯車で表現されることもある。ラヴェルは速いテンポを嫌ったので、テンポ60を再現したい」と語りました。小太鼓を第2ヴァイオリンとチェロの間(フルートの前)に移動。三方を透明のアクリル板で囲いました。INAMORI ミュージック・デイと同じく福山直子が演奏。スコアでは「Tempo di Bolero, moderato assai ♩=72」の指示があるので、沖澤の話の通りなら、スコアよりも遅いテンポになりますが、実際に1秒1拍くらいのやや遅めのテンポ。前半はハープを聴かせました。サクソフォンはファゴットの右に配置。149小節からの不協和音は強調しません。291小節からの追加の小太鼓は雛壇最後列で演奏。293小節からのトランペットのメロディーはあえて抑えて吹きました。最後まで淡々としていて、指揮者とオーケストラの駆け引きは少ないストイックな演奏でした。

カーテンコールではソロを担当した奏者を順番に立たせました。沖澤がマイクを持ってアンコール曲目を紹介。徳山美奈子作曲/交響的素描「石川」~加賀と能登の歌による~第2楽章「山の女」山中節よりを演奏。オーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督を務めていた岩城宏之の委嘱で2000年に作曲されました。民謡がオーボエとチェロのソロで歌われます。16:40に終演。

終演後に、1階の通路で団員が募金の呼びかけ。沖澤のどかも募金箱を持っていました。コロナ禍前は終演後に団員のお見送りが行なわれていましたが、コロナ禍後に初めて復活しました。ロビーでのレセプションの復活にも期待したいです。2日間の公演と京響団員一同からで、約162万円が集まったとのこと。


<京響友の会会員イベント~沖澤のどか氏と京響メンバーによるトークショー~>

終演後に「京響友の会会員イベント」が開催されました。会員限定のイベントで、招待状が11月に「2024年度「京響友の会」継続のご案内」に同封されて届きました。毎年行われているようですが、私は今年初めて友の会に入会したので初参加です。事前申し込み不要で、参加費は無料でした。しばらくロビーで待機して、17:00にホールに再入場。招待状を渡して、ホール内は自由席で、200人くらいが集まりました。

17:30に開演。司会はYouTuberのnaco。直接では初めて見ました。足が細い。昨年も司会を務めたとのことで、「沖澤さんとは逆で 、私は金沢が実家で、京都は第2の故郷。国際会館駅の近くに6年間住んでいた」と自己紹介。沖澤のどかが私服で登場。続いて、安井優子(首席第2ヴァイオリン奏者)、水無瀬一成(副首席ホルン奏者)、稲垣路子(副首席トランペット奏者)、中山航介(首席打楽器奏者)も私服で登場して、6人でのトークショー。事前にWebで受け付けた質問や、招待状の裏面に記入された質問に答えました。私も質問を送信しましたが、採用されませんでした。残念。

沖澤は「本番で全部出し切るので、今は脳みそが働いていない」と言いつつ、「ボレロは京響を誇りに思った。指揮者はあまりすることはない曲。N響で1回目で、今日は2回目だったが、今日はよかった」と自画自賛。安井優子は「流れが自然で退屈しなかった」。稲垣路子は「珍しく全ノリだった」。 中山航介は「タイユフェールは大きなティンパニだと音圧がかかるので、小さなティンパニ2台で演奏したが、本当は4台でやるので音を変えまくった」と今日の演奏会を振り返りました。本日のフレンチプログラムについて、沖澤は「タイユフェールを紹介したかった。オネゲルの5番はお客さんが入らないと事務局に言われる曲で、ボレロをやったらお客さん入るかな」とプログラム決定過程を紹介。
「お客さんの様子を見て演奏を変えることはあるか?」の質問には、沖澤は「テンポは変わらないが、盛り上がり方を変えることもある」と答えました。中山は「打楽器は得意な楽器と不得意な楽器ははっきりある」と話し、「9月の定期演奏会(第682回定期演奏会)で演奏した短い線路みたいな楽器の詳細が知りたい」という質問には、「アンビル。まさに線路。強烈な音がする」と叩いてみせました。「京響の色は変わったか?」の質問に、沖澤は「色は増えた。リハーサルから柔らかい音が出て、言う前から色が多かった。コネソンをやったので何でもできる」と答えました。「指揮棒を使うことのメリットとデメリットは?」については、沖澤は「メリットは動きが拡大して見える。デメリットは荷物が減る」と答え、「合唱は棒なしでやる。変拍子やオペラは棒があったほうがいい。左手はヴァイオリンのボウイングの邪魔をしないようにしている」と話しました。
「いつかは実現したいプログラムは?」は、水無瀬は「全部違う調でやって、どれだけ違和感があるか試したい。モダン楽器と古楽器を一晩で聴きくらべしたい」というユニークな構想を披露。稲垣は「バッハが好きなのでクリスマスオラトリオ」。中山は「最近バズったカーゲルのティンパニ協奏曲。頭から突っ込んでいく」。安井は「ヘンゼルとグレーテルのオペラ」。沖澤は「オペラはドビュッシーのペレアスとメリザンドをやりたい」と話しましたが、客席の反応はあまりよくありませんでした。「来期のおすすめの曲は?」は、安井は「沖澤さんは知らない曲を持ってきてくださる。スプリングコンサートのリオ・クオクマンのオルガン付き」。中山は「アルプス交響曲。やったことがない」。稲垣は「マーラー3番。やったことがない」。水無瀬は「やりたい曲に当たらないことがある(本番に出ない)」という違った角度からコメント。沖澤は「プロコフィエフがやりたいが、上原と叶う。ペトルーシュカも期待感が高まった」「ヴァイオリンのジョシュア・ブラウンはいい音がする。日本に来たことがない。前半のブラームスは交響曲第3番がよかったのでその流れで」「新作はどんな曲か楽しみ。英雄の生涯は金字塔でオーケストラにとって大事な曲」とコメント。ちなみに、昨日と今日の公演を2日とも聴いた人に挙手してもらいましたが、10人くらいで思ったよりも少ない。
「終演後の声かけは何を言っているのか?」の質問は、「おつかれ、よかったよ」など。沖澤は「明日も公演があるときは、ソリストとはここがこうだったとか言うことがある」とのこと。「げんかつぎジンクスは?」は、安井は「本番30分前に寝る。頭を空にする」と意外な行動。沖澤は「逆に何か決まったことをつくらないようにしている」。水無瀬は「ゲネプロがよかったときは本番が悪い」。中山も「ゲネプロはいまいちのほうが本番はいい」。稲垣は「本番で持っていけるようにゲネプロは吹きすぎない」と話しました。沖澤は「それぞれのやり方がある。ゲネプロでバランスの調整とかは言わない」と話しました。「この楽器がしたい」は、中山は「ホルン」、安井は「ティンパニ」、水無瀬は「チェロ」、稲垣は「ヴァイオリン」、沖澤は「バリトン歌手」。「友達になってみたい音楽家は?」 に沖澤は「ドヴォルザークなら話ができる。ベートーヴェンはおそれ多い」。水無瀬は「内声楽器が多い作曲家のエルガーやシューベルトに苦言したい」。安井は「シューベルトサロンに行きたい」。稲垣「ハイドン。どうやってユーモアをひらめいたか聞きたい」。中山は「ドヴォルザークとスメタナ。打楽器の譜面が分からないので、ロールか16分音符か聞いてみたい」。「魔法を使えるなら?」の質問に、沖澤は「飼い猫と話したい」。安井は「どの人種でも話せるようになりたい」。水無瀬は「本番の失敗やってもーたーの記憶を消したい」。稲垣は「マウスピースを削るが一番いい状態にしてほしい」。中山は「すぐに移動したい」。日本とドイツの聴衆の違いについて、沖澤は「ベルリンは学生が多い。リハーサルに小学生が来る。ドイツはペトルーシュカのファゴットのブで演奏会中に笑いが起きてノリが軽い。日本は演奏会前に静かになるのがすばらしい」。安井は「オーケストラ・ディスカバリーの司会がM1で優勝した人を呼びたい」。水無瀬は「練習場を改築して1階から練習を見学できるようにしたい」(←ぜひお願いします)。 稲垣も「もっと楽器の近くで聴けるコーナーを作る」。中山は「ファンタジアのアニメから入る」などと話しました。最後に、稲垣が「音を外しても温かい目で見守ってください」。沖澤は「直接お話しできる場をつくりたい」と話して、18:35に終了しました。

なお、翌日の1月21日(日)には、「京都市交響楽団 福山演奏会」(ふくやま芸術文化ホール(リーデンローズ)大ホール)で、本公演と同じ曲目を演奏しました。なお、公益財団法人ふくやま芸術文化財団は「オーケストラ福山定期」として、京都市交響楽団と広島交響楽団の演奏会を開催します。2024年度は、第690回定期演奏会(井上道義指揮)、第693回定期演奏会(阪哲朗指揮)、第698回定期演奏会(沖澤のどか指揮)と同じ曲目が翌日に聴けます。福山市と府中市内の中学2年生全員(約5500人)が招待される公演もあるとのこと。うらやましいですね。ふくやま芸術文化ホール(リーデンローズ)大ホールは2003席もあります。福山駅からは徒歩で25分かかるようですが、金曜土曜の都合がつかない場合は聴きに行ってもいいかもしれません。

沖澤は、1月29日(月)から2月2日(金)まで、京都コンサートホール大ホールで「京都市小学生のための音楽鑑賞教室」を1日2回の10公演を指揮しました。続いて、2月7日(水)には「京都市中学生のためのオーケストラ入門」の2公演を指揮しました。その合間に、1月23日(火)には、京都市立堀川音楽高校を訪れて、合奏の授業でオーケストラを指導(曲目はワーグナー「タンホイザー」序曲)。また、1月31日には京都市立芸術大学の新キャンパスを訪問しました。本公演後も長い間京都に滞在したようです。

沖澤は「第1回(2023年度)毎日芸術賞ユニクロ賞」を受賞しました。40歳未満の若手アーティストを選出して、今後の活躍を後押しする目的で今年から新設されました。京都市交響楽団第677回定期演奏会「常任指揮者就任披露演奏会」京都市交響楽団第682回定期演奏会の翌日の東京公演が評価されたようです。2月8日の贈呈式にはビデオメッセージを寄せたとのこと。おめでとうございます。また、2月22日には、沖澤がセイジ・オザワ松本フェスティバル首席客演指揮者に就任することが発表されました。2月6日に亡くなった小澤征爾が生前に指名していたとのこと。引く手あまたですばらしいです。

 

(2024.3.10記)


兵庫芸術文化センター管弦楽団第147回定期演奏会「佐渡裕 マーラー交響曲第9番」 京都市交響楽団第685回定期演奏会