京都市交響楽団第686回定期演奏会


   
    2024年2月17日(土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

川瀬賢太郎指揮/京都市交響楽団
石田泰尚(ヴァイオリン)

マルサリス/ヴァイオリン協奏曲ニ調
ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界から」

座席:B席 3階LC2列4番


川瀬賢太郎が指揮する京響定期に行きました。川瀬は39歳。名古屋フィルハーモニー交響楽団音楽監督(2023年4月から)、札幌交響楽団正指揮者(2022年4月から)、オーケストラ・アンサンブル金沢パーマネント・コンダクター(2022年9月から)を務めています。川瀬は神奈川フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者を2014年4月から2022年3月まで務めました。京都市交響楽団特別客演コンサートマスターと首席ソロ・コンサートマスターを務める石田泰尚は、川瀬にとっては神奈川フィル時代の盟友で、本公演では難曲のマルサリスのヴァイオリン協奏曲を演奏します。川瀬を聴くのは、センチュリー豊中名曲シリーズVol.17以来です。

チケットは今年度初めて入会した「セレクト・セット会員(Sセット)」のクーポンを、前月の第685回定期演奏会で使い切ってしまったので、12月27日の一般発売で購入。ただし、あまりいい席がなく、石田を近くで見たいので、NHK交響楽団京都公演以来のひさびさの3階バルコニー席に。ただし、後述するように視覚的にはいい席ではありませんでした。チケットは第685回定期演奏会よりも先に、1月12日に早くにも全席完売しました。本公演の注目の高さがうかがえます。石田のファンなのか女性客が多く、第684回定期演奏会と真逆で、女性トイレが大行列でした。

14:00からプレトーク。川瀬はゆっくり話します。「京響の定期演奏会を指揮するのは2回目で、前回(2017.8.13 第615回定期演奏会)は、ヴェルディ「レクイエム」を指揮した」と自己紹介。本日の公演のプログラムを「隠れたアメリカプログラム」と紹介して、わずか7分で終了しました。各曲の解説は後述します。

プログラム1曲目は、マルサリス作曲/ヴァイオリン協奏曲ニ調。プレトークで川瀬は「動画で知って、石田にメールした。視覚的にも楽しめる作品で、ドラムセットが指揮台の右にある。首席打楽器奏者の中山航介が叩く。後ろからとことこ歩いてくる」と紹介しました。ジャズ・トランペット奏者のウィントン・マルサリスが、スコットランド出身のヴァイオリニスト、二コラ・ベネデッティ(女性)のために作曲し、2015年にジェームズ・ガフィガン指揮のロンドン交響楽団の演奏で初演されました。日本初演は、2021年2月6日に石田泰尚のヴァイオリン独奏、川瀬賢太郎が指揮する神奈川フィルハーモニー管弦楽団の演奏で行なわれました(神奈川フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会みなとみらいシリーズ第365回相模女子大学グリーンホール公演)。トランペット奏者がヴァイオリン協奏曲を作曲したという点でも、どんな作品なのか注目です。4つの楽章からなり、40分程度の作品。
コンサートマスターは泉原隆志。石田泰尚が白ぶちメガネをかけて登場。譜面台を立てて演奏しましたが、私の席から譜面が見えました。私の席からは、コントラバス、ヴィオラ、チェロがよく見えますが、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ホルン、ハープなど、ステージの左半分の楽器は見えないので、前のめりで聴きます。

全曲を通じて石田の美音が堪能できました。石田は楽章の間に必ずチューニングして音程を合わせました。京響の伴奏も含めて、日本国内で最高の演奏と言えるでしょう。川瀬のプレトークで紹介されたように視覚的に楽しめる作品でした。打楽器の種類が多いのも特徴で、クラベスなどは一瞬しか使いません。トランペット奏者が作曲したとは思えないほどユニークで、聴きどころも多い作品でした。もう一度聴きたいです。
第1楽章(ラプソディ)はゆっくり始まります。砂の音がする打楽器で伴奏。打楽器奏者に大太鼓を叩きながらホイッスルを吹くという離れ業があります。後半はハープの伴奏で静かに歌いますが、私の席からはハープが見えなかったので、チェレスタのように聴こえました。最後は足踏みの音が伴奏しながら、静かに消えていきます。第2楽章(ロンド・バーレスク)は速いテンポで変拍子の連続。後半は独奏ヴァイオリンのカデンツァ。ティンパニ担当の中山航介がステージ後方から歩いてきて、指揮台右のドラムセットに座って、石田とジョイント。川瀬が指揮台の上から石田の譜めくりを担当しました。中山は最後にシンバルを弓でこすって、ステージ後方に戻りました。カデンツァの最後はピツィカートで演奏。続けて第3楽章(ブルース)は、トランペットとトロンボーンがジャズの雰囲気。トランペットがカップミュートで、動物の鳴き声みたいな音響。第4楽章(フーテナニー)は、手拍子と足踏みで開始。演奏している団員も楽しそうです。テューバが金色のスーザフォンに持ち替えて、トランペット×3とトロンボーン×3と立奏。一列に並んでいるので壮観です。最後はデクレッシェンドの過程ですっと終わります。クラシック音楽ではなかなかない感性です。

拍手に応えてアンコール。J.ウィリアムズ作曲/映画「シンドラーのリスト」からメインテーマを演奏。異例のオーケストラ伴奏つきで、川瀬が指揮。石田組2023/2024アルバム発売記念ツアーのアンコールで聴きましたが、心に染み入るメロディーです。

休憩後のプログラム2曲目は、ドヴォルザーク作曲/交響曲第9番「新世界から」。プレトークで川瀬は「ドヴォルザーク」を「ドヴォルジャーク」と発音。「コロナ期間中に、自筆譜のコピーで練習した。普段といくつか違う音があるが、強いこだわりを持って変えた。例えば第4楽章のシンバルは一拍遅く演奏するが、間違いではない」と説明しました。コンサートマスターは先ほどソロを演奏した石田。今日は独奏だけかと思いきや、一人二役で休憩後はコンマスも務めます。その隣に泉原。私の席からは、川瀬がよく見えて、石田と泉原の後ろ姿もよく見えます。
第606回定期演奏会でラドミル・エリシュカの指揮で聴きましたが、何度も演奏しているから手を抜くということはなく、響きが若々しく、濁らないでフレッシュ。第1楽章は15小節からのフルートとオーボエのメロディーはテヌート気味で演奏。22小節のティンパニは十六分音符を意識せずにそのままトレモロ。177小節の「1でリピート。最後はアッチェレランド気味に速いテンポで締めくくりました。第2楽章はコールアングレのソロがブラボー。第3楽章はやや速めのテンポ。176小節からのフルートとオーボエのメロディーがテヌート気味。第4楽章もやや速め。プレトークで触れられていたシンバルは、「シャン」ではなく「ボワーン」と演奏。313小節からのクラリネットでテンポを落としません。327小節の3拍目と4拍目(「ミーファソ ファーミミ」のファとソは、スタッカート気味に短く切りましたが、スコアにもスタッカートが書かれているので、より強調したということでしょう。最後の小節はpppまでは落としません。

演奏後に、団員の紹介で、1階席で聴いていた京都市長で京都市交響楽団長の門川大作がステージへ。第26代京都市長を4期16年を務めましたが、2月24日に任期満了で退任します。「楽団長として楽団の発展に尽力いただいた」ということで、花束贈呈。門川は「京響は京都の宝」と挨拶し、「松井孝治(こうじ)新市長も聴きに来ている」と紹介。2週間前の選挙で当選した松井が1階席で聴いていました。門川大作のFacebookによると「松井は長年の京響ファン」とのことで、松井のX(@matsuikoji)によると、クラシックの演奏会に足を運ばれているようですね。今後に期待が持てます。終演後は、前回の第685回定期演奏会で解禁となった、団員によるお見送りがありました。

なお、石田泰尚は本公演の4日後の2月21日(水)には、石田組を率いて「越境 BORDER CROSSING 石田組×SUGIZO」東京公演(LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂))に出演しました。その4日後の2月25日(日)には、大阪公演(フェニーチェ堺大ホール)に出演しました。超多忙です。また、11月10日(日)には「石田組 10周年ツアー 日本武道館公演」が開催されます。クラシック音楽のアーティストが武道館で公演することはまずないので、歴史的な快挙と言えるでしょう。

 

(2024.3.25記)


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