京都市立芸術大学第173回定期演奏会 大学院オペラティックコンサート「椿姫」


   
       2024年2月18日(日)14:00開演
京都市立芸術大学堀場信吉記念ホール

小﨑雅弘指揮/京都市立芸術大学アカデミーオーケストラ(大学院管弦楽団)
京都市立芸術大学大学院音楽研究科修士課程声楽専攻生
今井伸昭(演出)

ヴェルディ/オペラ「椿姫」

座席:全席自由


京都市立芸術大学は2023年10月1日に沓掛キャンパスから新しい崇仁キャンパスに移転しました。門川大作京都市長や西脇隆俊京都府知事などが出席して、移転オープニングセレモニーが開催されました。総事業費は約270億円です。

こけら落としコンサートとして、11月2日(木)に「オーケストラ協演の夕べ」が、阪哲朗(指揮専攻教授)の指揮で堀場信吉記念ホールで開催されました。入場無料ですが、申し込みフォームからの申し込みが必要でしたが、申し込み初日で定員を大幅に超える申し込みがあり、最終的には3000名を超える申し込みがあったとのこと。抽選の結果、残念ながら落選のハガキが届きました。

京都市立芸術大学は例年2月にオペラ公演を開催しています。聴くのは、第151回定期演奏会 大学院オペラ公演「カルメン」以来です。第168回定期演奏会 大学院オペラ公演「修道女アンジェリカ/カヴァレリア・ルスティカーナ」(2022.2.12&13)が、新型コロナウイルス感染症拡大の状況を考慮して中止になってしまったのが今でも残念です。本公演は第151回定期演奏会 大学院オペラ公演「カルメン」とは異なり、「オペラティックコンサート」と題していて、演奏会形式での上演でした。その理由について、大学院オペラ統括を務める小濱妙美(声楽専攻教授)は、プログラムに「移転後間もないこの時期にはまだ本式の舞台を組むのは難しいという判断」と記しています。本公演も入場は無料ですが、申し込みフォームから申し込み。1回の申し込みで受け付けは1名でしたが、1月26日にめでたく入場券のハガキが届きました。

第151回定期演奏会 大学院オペラ公演「カルメン」は2日公演でダブルキャストでしたが、今回は1日公演で、キャストが幕によって入れ替わります。声楽専攻の大学院生全員が出演して、主役のヴィオレッタ(ソプラノ)が6人で、アルフレード(テノール)とジェルモン(バリトン)はそれぞれ3人で、フローラ(メゾ・ソプラノ)とガストン子爵(テノール)は2人で交代して出演します。また、男声の脇役には学部2回生、3回生や修了生も出演しました。ほぼカットなしでの演奏とのこと。

新キャンパスは東西に長く、A棟からJ棟までありますが、堀場信吉記念ホールはJR沿いではなく、塩小路通り沿いのA棟にあります。京都市バス「塩小路高倉・京都市立芸術大学前」のバス停が最寄りで、京都駅からA棟まで徒歩6分です。沓掛キャンパスに比べると、一気に交通の便がよくなりました。なお、堀場信吉は物理化学者で京都帝國大学教授で、京都市立音楽短期大学(京都市立芸術大学音楽学部の前身)の初代学長を4期13年に務めました。その功績を称え、ホールに名を冠したとのこと。なお、堀場製作所を創業したのは信吉の子の堀場雅夫で、信吉は堀場製作所とは直接的には関係ありません。また、現在の堀場製作所会長の堀場厚(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団理事長)は信吉の孫にあたります。

13:00開場で、全席自由で先着順の入場。大階段を上って3階へ。エントランスは狭く、3階のフロアをぐるっと一周するように行列ができました。入口で入場券のハガキを渡して中へ。エントランスが3階席で、1階席まで階段で降りていく変わった形状のホールです。2階席はなく、天井が高い。座席は約800席。講堂兼音楽ホールで、入学式や卒業式もここで行なわれます。沓掛キャンパスの講堂と違って、緞帳や幕はありません。3階席と4階席の左右に、バルコニー席(縦列で1席ずつ)がありましたが、本公演では開放されていませんでした。ほぼ満席でした。このホールの問題点は、トイレの数が少ないことで、1階席右前方の男子トイレは、大1と小1しかなく、休憩のたびに行列ができました(女子トイレも同様)。なお、3階席後方のトイレに行くまでの廊下から、ガラス張りの指揮レッスン室が見えました。開演前の予ベルは、ロームシアター京都と同じでしょうか。

演奏会形式なので、いつもならピットにいるオーケストラがステージ上で演奏。総勢48名で二管編成。京都市立芸術大学アカデミーオーケストラ(大学院管弦楽団)という名前ですが、大学院生は11名だけで、学部生のほうが多い。中央に弦楽四部、左に木管とホルンが、右にコントラバス、トランペット、トロンボーン、テューバ、打楽器が配置されました。中編成ですが、人数以上にすごく響きました。いいホールです。なお、ハープの松村多嘉代(客演)はステージにいませんでしたが、本人のX(@Xiksa)によると、1曲だけバンダで出演したようです。まったく気づきませんでした。

第151回定期演奏会 大学院オペラ公演「カルメン」では、日本語字幕(縦書き)が舞台の左右にプロジェクタで投影されましたが、本公演は日本語字幕がありませんでした。その代わりに「日本語訳」の冊子(25ページ)が配られました。対訳・制作は大学院オペラティックコンサート出演学生有志で、日本語の訳詞のみが記載され、イタリア語の歌詞の記載はありません。

字幕なしはきついと感じましたが、ストーリーはよく分かりませんでしたが、演奏も歌唱もいいので純粋に音楽として楽しめました。指揮者の小﨑雅弘(京都市立芸術大学非常勤講師)は指揮台から後ろを振り向いて、歌手とアイコンタクト。オーケストラはフルートが上手でしたが、二人とも大学院生でした。演出は今井伸昭(京都市立芸術大学非常勤講師)。

第1幕の前奏曲からスタート。合唱団がステージ後方にひな壇×2に左右から入場。合唱は全員学部生で22名。上が白が下が黒で地味な衣装です。暗譜で歌って、談笑などは演技しました。第2景でさっそく有名な「乾杯の歌」があります。続いて、ステージ前方(オーケストラの前)に歌手が登場。ヴィオレッタは赤いドレス、フローラが青のドレスで、キャストが変わっても衣装の色は統一されていました。第3景でアルフレードとヴィオレッタの二重唱。第4景で合唱団が再入場。第5景で2人目のヴィオレッタ(冨田菜織)に交代。1人目のヴィオレッタ(香坂柚津希)も魅力的でしたが、違う魅力があって、のびやかで高音の伸びがすばらしい。有名なアリア「花から花へ」を歌います。アルフレードは下手の舞台裏で歌いました。

休憩15分の後、第2幕。小道具として手紙を書くための丸い机が上手舞台袖に置かれました。2人目のアルフレードの竹岡大志がうまい。第4景から登場した3人目のヴィオレッタは、声楽専攻教授の小濱妙美。ピンクドレスを着ています。65歳で今年度で退官しますが、さすがにうまい。言葉がはっきり聴こえて、圧巻の歌唱。相手のジェルモンも声楽科教授の久保和範でした。ヴィオレッタとジェルモンで長い二重唱。2人目のジェルモン(佐貫遥斗)もいい声。オーケストラがチューニングして、第2幕第2場。2人目のフローラ(二俣結貴)が登場。合唱団の女性(ジプシーの女たち)がタンバリンを叩きながら歌いました(リブレットに指示あり)。4人目のヴィオレッタは最後には倒れました。第2幕は長い。

20分休憩の後、第3幕。前奏の間に5人目のヴィオレッタ(佐藤もなみ)が下手から白い服でヨタヨタと歩きます。せきをしたり床に倒れたり。本来はベッドで寝ている設定で、歩くことはないのでこの演技は大変でしたね。アリア「過ぎし日よ、さようなら」を柔らかい声で歌いました。歌い終わって拍手が起こっても床に突っ伏したままで、プロ意識を感じました。上手の舞台裏から合唱がバッカス祭の歌声が聴こえると退場して、6人目のヴィオレッタ(濱野萌々子)に交代。3人目のアルフレードと二重唱。ヴィオレッタは元気よく歌いましたが、最後は倒れて死にました。

カーテンコールの後、16:50に終演しました。キャストが衣装を着たまま、エントランスでお見送りがありました。十分楽しめましたが、次回以降は舞台装置付きのオペラ公演を期待したいです。

なお、崇仁キャンパスのB棟の地下1階には、笠原記念アンサンブルホール(大合奏室)もあります。また、C棟3階の伊藤記念図書館(付属図書館)は14万冊の蔵書があり、京都市民なら利用できるようですが、土日は休館しているようで残念。C棟1階の芸術資料館は、2024年4月にリニューアル予定とのこと。
余談ですが、移転した京都市立芸術大学沓掛キャンパスの跡地は、民間から活用する事業者を募集したものの、結果的に辞退されたため、現時点で未定のようです。

京都市立芸術大学A棟 A棟大階段 堀場信吉記念ホール外観 堀場信吉記念ホール入口 堀場信吉記念ホールのプレート ステージのモニター映像 本日の公演

 

(2024.4.6記)

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