NHK交響楽団京都公演


   
      
2003年8月22日(金)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

尾高忠明指揮/NHK交響楽団
ルカーシュ・ヴォンドラーチェク(ピアノ)

ベートーヴェン/交響曲第4番
グリーグ/ピアノ協奏曲
ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

座席:A席 3階RD 1列1番


NHK交響楽団は、高校の頃はNHK−FMの定期演奏会生中継をよく聴きましたが、最近はほとんど聴いていませんでした。さすがに知名度が高いオーケストラだけあって、客は約9割の入りでした。

座席は3階の第2バルコニー席でした。ステージにかなり近いので指揮者はよく見れましたが、コントラバスがまったく見えないなどオーケストラ全体が見渡せないのが難点です。必然的によく聞こえる楽器とそうでない楽器があり、ヴァイオリンなどは直接音がよく聞こえました。バランス的にも右耳だけで聴いている感じがして少し落ち着きませんでした。というわけで、今回の演奏評にはあまり自信がありません。ホール後部では違う音響で聞こえたかもしれませんが、どうぞお許し下さい。

今日はなかなか重量級のプログラムでした。まず1曲目は、ベートーヴェン作曲「交響曲第4番」。古楽器奏法などをほとんど意識させない常識的なベートーヴェンでしたが、その分少しおもしろみや工夫に欠けました。やわらかくさわやかな音色であまりトゲトゲしたところがありません。重苦しくならず、適度な軽やかさを感じました。ただし、タテがやや甘いところがあり、流麗すぎるようにも感じました。音の粒やフレーズの終わりなどをもう少し明確に出した方がよいと感じました。尾高は丁寧な音楽作りをしており、指揮法からもそれが伝わりましたが、ベートーヴェンにはあまり向いていない印象を受けました。
第1楽章では、木管楽器の立ち上がりがテンポに対して遅く聞こえてくるのが気になりました。ホールの特性でしょうか。また、サブコンマスの弦が音を立てて切れましたが、ステージ後部に用意してあったスペアを受け渡して冷静に対応していました。
第2楽章は、繊細さが要求される難曲だと感じました。細部のタテや音程など少し気になりました。各楽器の性格に違いが出せればよいでしょう。また、音量的にもそこそこ鳴らしていましたが、もっと落としてもよいと思います。
第3楽章は、アクセントをもっと刺激的にやって欲しいところです。やや安全運転でした。
第4楽章は、アンサンブルはよいですが、スリルを求めたいです。特に弦楽器に活気が欲しい。

休憩後のプログラム2曲目は、グリーグ作曲「ピアノ協奏曲」。ピアノはルカーシュ・ヴォンドラーチェク。ヴォンドラーチェクは、チェコ出身の16歳。照れくさそうにステージに登場しました。彼の音色はアシュケナージに似ている感じで、高音がきれいに響いて軽いタッチでした。ただし、打鍵が強く音の粒が立ちすぎて音響としても大きくきらびやかなので、もう少ししっとりとしたおとなしい表現も必要でしょう。
オーケストラも「さっきのベートーヴェンはなんだったのだろう」と思うほど見違えるようないい演奏でした。力強くはっきりしたクリアなサウンドで、落ち着いた大人のサポートでした。弦楽器が特に素晴らしかったです。オーボエの音程はやや不安定でした。
第1楽章では、ピアノのカデンツァが見事。ここの演奏はすごく難しいんですね。見てよく分かりました。
第2楽章は、曲想に合わせてピアノはもう少し力を抜いて欲しいです。
第3楽章になると、速いパッセージで少しミスタッチがありました。後半の全奏は、オーケストラ(特に金管)が鳴りすぎで、ピアノが聞こえなかったのが残念。
演奏後は、ヴォンドラーチェクに万雷の拍手が送られました。ステージと舞台袖の間を小走りで出入りする様は、若いなと感じました。まさに予想以上の好演で、この演奏会での一番の収穫でした。将来が非常に楽しみなピアニストです。特に座席がピアノを聴くベストポジションでしたので、いい演奏が聴けました。

プログラム最後の3曲目は、ストラヴィンスキー作曲「火の鳥」。1919年版ですので、金管などはあまり増強されていません。テクニック的にはすばらしく、細部の演奏も問題ありませんでしたが、ロシアの作品とは思えないほどよく整理されたクリアな演奏でした。ストラヴィンスキーにしてはあまりにも洗練されすぎていて少し物足りなさを感じました。
「序奏」からまじめすぎ。もっとバーバリスティックなサウンドが可能だと思います。ヴァイオリンの特殊奏法を初めて見ました。
「火の鳥とその踊り」も音色が明るすぎました。
「王女たちの踊り」は、涼しすぎる。もっと図太い濃厚な演奏を望みます。
「カッチェイ王の魔の踊り」になると、金管がよく鳴ってきました。トランペット2本とトロンボーン3本の鳴りがすばらしい。大太鼓も曲想に合わせていて好演。ただし、音量の割にはいまひとつ興奮しませんでした。
「こもり歌」は、弦が素直すぎて、神秘的でエキゾチックな雰囲気が表現できていないのが残念。
「終曲」は、いまひとつ迫力不足を感じました。

アンコールは、エルガー作曲「野生の熊(子供の魔法の杖第2組曲第6番)」。イギリス音楽を得意とする尾高ですが、やはりこういう舞曲系の速い作品は得意なのでしょう。演奏後は、「もう寝る時間です」というジェスチャーをして退場しました。

尾高忠明は、オーケストラとは一定の距離を置いているように思いました。演奏後にソロ奏者を立たせるようなことは少なかったですし、握手もコンマスとサブコンマスしかしませんでした。指揮も小振りで、オーケストラが合わせやすいかどうかはあまり意識していないようでした。正攻法の指揮者ですが、個人的にはもう少し迫力のある表現を求めたいです。次回はぜひイギリス音楽を聴いてみたいです。

NHK交響楽団は、ドイツ系のもっと重い音色なのかなと思いましたが、意外に明るい音色が聴けました。音楽監督デュトワの影響でしょう。弦楽器は特にすばらしいと思いました。来年からは、アシュケナージが第2代音楽監督に就任しますので、またどんな音色が聴けるか楽しみです。指揮者によって柔軟な演奏が可能なオーケストラという印象を持ちましたので、定期演奏会などそれ以外の指揮者でも聴いてみたいです。

なお、今回の演奏会は聴衆マナーが非常に気になりました。「火の鳥」の途中でケータイが鳴ったり、拍手が明らかにフライング気味だったり、ペーパーノイズが多かったりと、全体的にワサワサした雰囲気だったのが大変残念です。今回の入場料が比較的良心的な設定だったので、初めて演奏会に来られた方が多かったのかもしれませんが、これはなんとかしなければならない問題であると指摘しておきます。

(2003.8.26記)



都響プロムナードコンサートNo.305 京都市交響楽団第457回定期演奏会