石田組2023/2024アルバム発売記念ツアー


2023年5月4日(木・祝)14:00開演
京都コンサートホール大ホール

石田泰尚(ヴァイオリン)、塩田脩(ヴァイオリン)、村井俊朗(ヴァイオリン)、佐久間聡一(ヴァイオリン)、竹内弦(ヴァイオリン)、山本翔平(ヴァイオリン)、 小峰航一(ヴィオラ)、萩谷金太郎(ヴィオラ)、多井千洋(ヴィオラ)、門脇大樹(チェロ)、北口大輔(チェロ)、松尾美弦(チェロ)、米長幸一(コントラバス)

ホルスト/セントポール組曲
レスピーギ/リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲
バルトーク(ウィルナー編)/ルーマニア民俗舞曲
シルヴェストリ(松岡あさひ編)/バック・トゥ・ザ・フューチャー
チャップリン(松岡あさひ編)スマイル
レッド・ツェッペリン(近藤和明編)/カシミール
ローリング・ストーンズ(松岡あさひ編)/悲しみのアンジー
クイーン(松岡あさひ編)/輝ける7つの海
ディープ・パープル(近藤和明編)/紫の炎

座席:S席 1階11列24番


石田組のコンサートに初めて行きました。石田泰尚(神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ソロ・コンサートマスター、京都市交響楽団特別客演コンサートマスター)が「組長」として主宰する弦楽アンサンブルです。石田の「普段の活動で溜まったものを発散する場にしたい」という思いで、2014年に結成されました。来年で結成10周年です。メンバーは「組員」と呼ばれ、在京のオーケストラのメンバーを中心に、60人ほどの組員がいるとのこと。公演ごとに石田が組員を招集するので、演奏曲目やメンバーが変わります。

今回は、ニューアルバム「石田組2023・春」(2023年4月26日発売)を記念したツアーで、本公演の前日の兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールからスタートして、2024年3月まで全国28公演。このうち、北海道、秋田、仙台、福島、京都、佐賀、熊本、鹿児島では初めての公演となります。本公演はまさに満を持しての京都公演となりました。前日の兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールと同じプログラムでメンバーも同じです。

ロビーで、ニューアルバム「石田組2023・春」が販売されました。購入すると石田泰尚サイン入りのポストカードがもらえました。サインは直筆ではないようです。石田の全身の大きな写真も登場しました。

今回は1階席にしました。客の入りは8~9割ほど。女性が多い。メンバーが登場。黒服でマスクなしでした。左から第1ヴァイオリン3、第2ヴァイオリン3、チェロ3、コントラバス1、ヴィオラ3の順で、チェロ以外は立奏です。チューニング。照明は暗めで、雛壇には何も乗っていませんが、半円形状に上げていました。

全体を通して、指揮者なしでもアーティキュレーションが緩くなったり、ダラダラしたりすることはなく、シャープでメリハリと躍動感があるアンサンブルを実現しています。石田が弾いているときのアクションは大きく、両肩をテンポに合わせて揺らしたり、各パートの近くまで行って音を聴くようなしぐさをしたりして、メンバーと意志疎通していて、スタンドプレイに走りません。第1ヴァイオリンのメロディーを合わせるときは、石田は後ろを振り向いて他の二人とアイコンタクトを取ります。

プログラム1曲目は、ホルスト作曲/セントポール組曲。チェロとコントラバスが存在感があります。第1楽章「ジグ」の最後はアッチェレランド。第2楽章「オスティナート」と第3楽章「間奏曲」は繊細。第4楽章「フィナーレ(ダーガソン)」は速めのテンポで躍動感があります。ウエスティ音暦おとごよみ 〜弦楽の調和〜などで聴いたことがありましたが、こんなに面白い作品だったとは気がつきませんでした。

そのままプログラム2曲目は、レスピーギ作曲/リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲。石田組のデビューアルバム「THE 石田組」(2017年)に収録されていて、以前からのレパートリーのようです。第1楽章「イタリアーナ」は前曲とは打って変わってリラックスした温かな響きで、滑らかな運弓。第2楽章「宮廷のアリア」はじっくり聴くと長い。第3楽章「シチリアーナ」に続いて、第4楽章「パッサカリア」では石田が身を乗り出しながら弾きました。

休憩後のプログラム3曲目は、バルトーク作曲(ウィルナー編)/ルーマニア民俗舞曲。もともとはピアノ曲ですが、後にバルトークが管弦楽に編曲しました。後半の照明は前半より明るい。石田は「欲望」や「愚痴」と書かれた赤いデザインの服に着替えて登場。第1曲「ジョク・ク・バータ 杖踊り」、第2曲「ブラウル 飾り帯の踊り」、第3曲「ぺ・ロック 踏み踊り」、第4曲「プチュメアーナ 角笛の踊り」、第5曲「ポアルカ・ロマネアスカ ルーマニア風ポルカ」、第6曲「マヌンツェル 早い踊り」、第7曲「マヌンツェル 早い踊り」から成りますが、休みなく続けて演奏。長い曲かと思っていたので、あっという間でした。バルトーク特有の4拍目のアクセントが楽しめます。ラストはスリリングで、おもしろく聴けました。

石田がまた着替えて、黒地に白い模様の服で登場(後述のDVDと同じ服です)。マイクを持ってMC。いい声です。「初めての京都公演。京都でやりたいと思っていました。ありがとうございます。京都で毎年やりたい」と話して、客席から大きな拍手。左から順番に組員の紹介。石田は原稿なしでメンバーのフルネームや所属が言えるのがすごい。まさに組長です。家族のエピソードなどを話して笑わせました。塩田脩(ヴァイオリン)は東京都交響楽団第1ヴァイオリン奏者。村井俊朗(ヴァイオリン)は、石田が「京都市立堀川音楽高校をそれなりの成績で卒業」と紹介しました。佐久間聡一(ヴァイオリン)は元広島交響楽団第1コンサートマスター。竹内弦(ヴァイオリン)は広島交響楽団第2ヴァイオリン首席奏者。山本翔平(ヴァイオリン)は東京都交響楽団第2ヴァイオリン副首席奏者。小峰航一(ヴィオラ)は京都市交響楽団首席ヴィオラ奏者で、石田は「京都のスター」と紹介。萩谷金太郎(ヴィオラ)は東京都交響楽団ヴィオラ奏者。多井千洋(ヴィオラ)は東京交響楽団。門脇大樹(チェロ)は元神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席チェロ奏者。北口大輔(チェロ)は日本センチュリー交響楽団首席チェロ奏者。J.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲」を自らチェロ独奏に編曲して演奏していますが、石田組は初参加とのこと。松尾美弦(チェロ)は神奈川フィルハーモニー管弦楽団チェロ契約団員で、石田は「お父さんも伯父さんもチェリスト」と紹介しました。米長幸一(コントラバス)は神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席コントラバス奏者です。所属しているオーケストラやポジションを聞くと、一流の奏者ばかりです。

MCが小峰航一に交代。小峰は石田組に初参加とのこと。ヴィオラの3人でトーク。萩谷も多井も京都市交響楽団に在籍したことがあり、萩谷は2013年度に1年間契約団員で、多井は2014年から2016年まで在籍していました。二人とも「京都市交響楽団のときの小峰さんは怖かった」と話しました。小峰がニューアルバム「石田組2023・春」の宣伝と、今後の大阪公演と滋賀公演を紹介しました。

プログラム4曲目は、シルヴェストリ作曲(松岡あさひ編)/バック・トゥ・ザ・フューチャー。この曲からは石田がセンターに移動して演奏。意識的なのか、ヴィオラに接近しながら演奏しました。編曲がよいからか、弦楽器だけなのに管楽器のような響きがしてくるのが不思議でした。

礼もしないで続けて演奏。プログラム5曲目は、チャップリン作曲(松岡あさひ編)/スマイル。石田はのぞきこんだり、顔を付き出したりして、アンサンブルを整えました。

プログラム6曲目は、レッド・ツェッペリン作曲(近藤和明編)/カシミール。デビューアルバム「THE 石田組」に収録されています。石田のソロは歌うようです。弦楽器のアンサンブルとは思えないほどのかっこよさです。

プログラム7曲目のローリング・ストーンズ作曲(松岡あさひ編)/悲しみのアンジーは、バラード。プログラム8曲目のクイーン作曲(松岡あさひ編)/輝ける7つの海に続いて、プログラム9曲目は、ディープ・パープル作曲(近藤和明編)/紫の炎。この曲もデビューアルバム「THE 石田組」に収録されています。石田が最初に「せーの」と言ってから演奏がスタート。伴奏と対旋律を聴かせて、テンポが速い。アレンジがよくできています。難しいパッセージもよく揃っていて、メンバーの技術力があってなせる業です。

拍手に応えてアンコール。J.ウィリアムズ作曲(松岡あさひ編)/シンドラーのリストを演奏。ヴァイオリンソロのメロディーがしっとり。

メンバー全員がTシャツに着替えて再登場。「京響×SOU・SOU」コラボTシャツに似ていますが、表面の数字が青字になっていて、裏面は縦書きで「石田組」がバックプリントされています(後述のDVDでも着ています)。石田はSOU・SOUがお気に入りのようです。石田が「まだ弾きます」と言って、 アンコール2曲目は、オアシス作曲(松岡あさひ編)/ホワットエバー。第2ヴァイオリンの竹内弦が途中で雛壇に上がって、客席に手拍子を促しました。

再入場。石田がマイクで「まだ弾きます」と言って、メンバーをもう1名紹介。「京都市交響楽団首席打楽器奏者 中山航介」と紹介して、中山がプロヴァンス太鼓を腰から巻いて登場。コントラバスの左で立って叩きました。衣装も他のメンバーと同じでした。ビゼー作曲(松岡あさひ編)/ファランドールを演奏。最後はテンポアップして、煽り気味にたたみかけます。中山はこの1曲だけの出演でした。

再入場。石田が「全員疲れてますけど、もう1曲やります」と言って、アンコール4曲目は、クィーン作曲(松岡あさひ編)/ボーン・トゥ・ラブ・ユー。弦楽器とは思えないグリッサンドの特殊奏法から始まりました。これだけ速いパッセージをスラスラ弾けるとは石田は天才です。最後は雛壇に全員が整列して礼。16:15に終演しました。

クラシック音楽ファンとしては、前半のほうが楽しめました。後半はロックのノリで、弦楽アンサンブルの可能性を切り開いていく姿勢がすばらしい。編曲もすばらしく、ファンが増えているのもうなづけます。ちなみに、多くの編曲を提供している松岡あさひは男性です。ぜひ毎年京都で公演して欲しいです。京都市交響楽団のメンバーが加わるのもうれしい。むしろ京都コンサートホールの自主公演として開催してもよいように思います。ちなみに、石田は翌日はサントリーホール大ホールで「石田泰尚 & 實川風 デュオ!~ J. S.  バッハ & ピアソラ de こどもの日~ 」に出演しました。石田は今年で50歳ですが、非常に活動的です。

今回のツアーでは、 近畿圏では、大阪フェスティバルホール(8月16日)と、滋賀びわ湖ホール(11月26日)が開催されます。大阪公演ではヴィヴァルディ「四季」が、滋賀公演ではシューベルト「死と乙女」が演奏予定で、どちらも大変気になります。なお、東京サントリーホール(8月13日)と大阪フェスティバルホール(8月16日)では、石田組初めての女性メンバー(東京フィルハーモニー交響楽団首席ヴィオラ奏者須田祥子)が出演予定です。

ニューアルバム「石田組2023・春」は、石田泰尚スペシャル 熱狂の夜〔第4夜:アンサンブル〕「四季」(2022.8.19 ミューザ川崎シンフォニーホール)のライヴ録音です。演奏会のタイトルになっているヴィヴァルディ「四季」は残念ながら収録されていません。CDと本公演で共通する曲は、「輝ける7つの海」「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「スマイル」「ルーマニア民俗舞曲」「ファランドール」です。本公演とメンバーはかなり違いますが、石田泰尚(ヴァイオリン)、塩田脩(ヴァイオリン)、多井千洋(ヴィオラ)、米長幸一(コントラバス)の4人は同じです。レインボー「キル・ザ・キング」が最高にかっこいい。生で聴きたいです。

特典DVD(約33分)には4曲が収録されていますが、同じ日のライヴ映像なので、演奏はCDと同じで、石田組のYouTubeチャンネル(@ISHIDAGUMIVEVO)に掲載されている映像と同じです。「Behind the Scene」に、当日の舞台裏の様子が収録されているのが貴重です。ゲネプロでは、石田が楽器の配置を調整したり、テンポを合わせたり。休憩中もメンバー間で意見交換をしています。最後に石田は「バミらないと」と言っています。開演前の舞台袖では「お辞儀するから(立ったまま)待ってて」とメンバーに言って、メンバーが入場してかなり間を置いてから石田が入場。演奏後の舞台袖では、撮影用のパフォーマンスかもしれませんが、笑顔と大きな拍手でメンバーを迎え入れています。
なお、アルバム発売を記念して、タワーレコード4店舗で石田泰尚の等身大パネルが設置されました。タワーレコード梅田NU茶屋町店で確認しました。

また、石田は2022年6月に初の著書となる『音楽家である前に、人間であれ!』(音楽之友社)を刊行しました(本公演のロビーでも発売されました)。神奈川フィルや京響のファンはぜひ読まれることをお勧めします。「決してファッション好きではない」「面倒くさがり屋なので自分の直感を信じたい」「最初のヴァイオリンの先生が国立音楽大学の卒業生だった。自由な校風は僕にピッタリ」「今の野望は武道館か横浜アリーナ」「長渕剛の大ファン」「お兄さんがいる」「練習する曲を予定表に書き込んでおく」「本番前にも30分くらい楽屋で寝る」「石田組で遅刻なんかしたらもうその人は呼ばない」「いわゆる親友のような存在はいない」「得意な曲は一曲もない」「好きな作曲家はマーラーとブルックナーとブロッホ」「一発勝負が好きなのでライブ盤にこだわりたい」「年下でも最初は敬語で話す」「沼尻さんは頭がいいし耳がいい」など、意外に思えることが書いてあっておもしろい。なお、書名の「音楽家である前に、人間であれ」とは本人の言葉では言っていません。緊急アンケート「あなたにとって、石田泰尚とはどんな人間ですか?」には、川瀬賢太郎、﨑谷直人、山本裕康、直江智沙子、矢部達哉などがコメントしていて、本公演に出演した米長幸一も回答しています。巻末には年表も掲載されています。

 石田組(京都コンサートホール) 石田泰尚等身大パネル(タワーレコードNU茶屋町店)

(2023.5.17記)

 

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