INAMORI ミュージック・デイ
2023年11月3日(祝・金)14:00開演 京都コンサートホール大ホール 坂入健司郎指揮/京都市交響楽団 林光/吹きぬける夏風の祭 座席:全席指定 3階C1列26番 |
公益財団法人稲盛財団が主催する「INAMORI ミュージック・デイ」に行きました。稲盛財団は、京セラ株式会社創業者の(故)稲森和夫が1984年に私財を投じて設立しました。現在は稲森和夫の長女の金澤しのぶが理事長を務めています。
「INAMORI ミュージック・デイ」は昨年から始まり、今回が2回目です。プログラムによると、毎年11月3日の「文化の日」に、国内外で活躍する若手音楽家を招聘して、ロームシアター京都と京都コンサートホールでコンサートを交互に開催するとのこと。昨年は、2022年11月3日に、ロームシアター京都メインホールで、杉本優が指揮する京都市交響楽団と、ヴァイオリンの周防亮介が出演しました。稲盛財団は他にも京都賞を主催しています(第21回京都賞記念ワークショップ 思想・芸術部門シンポジウム「アーノンクール イン 京都」を参照)。
本公演の指揮は坂入健司郎。慶應義塾大学経済学部在学中に、藤岡幸夫のアシスタントを務め、卒業後はぴあ株式会社に勤務。2008年から東京ユヴェントス・フィルハーモニーを結成し、音楽監督を務めています。また、2016年からは川崎室内管弦楽団の音楽監督も務めています。35歳で、京都市交響楽団とは「オーケストラ・ディスカバリー2023 「みんな集まれ、オーケストラ!」第1回 J.S.バッハ・アンド・ヒズ・タイム」(2023.6.18)」を指揮しました。京都市交響楽団Twitterに、2日前から行なわれたリハーサルの写真が掲載されました。
チケット代は、全席指定で2000円で、京都コンサートホールClub会員の割引はありませんでした。11月なのになんと25℃を超える夏日を記録するほど暑く、客の入りは8割くらい。ポディウム席の発売はありませんでした。
定期演奏会と同様に、13:30からプレトークが行なわれました。坂入健司郎とチェロの佐藤晴真が登場。坂入は明るいいい声です。この「ミュージック・デイ」のスクールコンサート&レッスンの取り組みで、10月31日に京都府立西舞鶴高校に車で1時間かけて行ったと報告。坂入が吹奏楽部にレッスンして、佐藤は体育館でソロで演奏したとのこと。制服を着た同高校の部員が客席で聴きに来ていました。坂入は本公演を「フランスにフォーカスしたプログラム」と紹介しました。作品の解説は後述します。プレトークは10分で終了しました。
コンサートマスターは泉原隆志。その隣が客演アシスタント・コンサートマスターの林七奈。林は大阪交響楽団コンサートマスターで、つい5日前に滋賀銀行創立90周年記念ガラ・コンサートに出演していたのでお忙しいです。演奏は数台のカメラで撮影されていました。
プログラム1曲目は、林光作曲/吹きぬける夏風の祭。1985年の京都市委嘱作品で、プレトークで坂入は「ミュージック・デイの定番の京都にちなんだ作品。人の熱気が風となって聴こえるおもしろい曲で、響きがフランス的」と紹介しました。なお、本作品の初演は、京都市交響楽団第279回定期演奏会(1985.12.26 京都会館第一ホール)で、指揮は小林研一郎(第8代常任指揮者)でした。中間部のイングリッシュホルンのソロがフランス音楽らしい響き。今の京都の夏は殺人的な暑さで吹く風も熱風ですが、この曲の雰囲気では当時はそれほどでもなかったのでしょう。祭の太鼓やお囃子はなく、打楽器はあまり使われず、にぎやかさはありません。坂入は律儀に拍を振りました。
プログラム2曲目は、サン・サーンス作曲/チェロ協奏曲第1番。チェロ独奏は佐藤晴真。2019年にミュンヘン国際音楽コンクールのチェロ部門で、日本人として初めて優勝して、現在はベルリン芸術大学に在学中です。プレトークで佐藤は「サン・サーンスはエッジの利いた作曲家」と紹介し、動物の謝肉祭のブラックジョークなどを紹介。「休みなく演奏されて最後はみんなで輪になって踊る」と解説しました。初めて聴く曲で、3つの楽章が休みなく演奏されます。佐藤は演奏台の上で演奏。佐藤の演奏は初めて聴きましたが、なめらかな運弓で聴きやすい。重くならずに軽い響きが作品にあっています。オーケストラは古典派の音楽のようで、第2楽章は室内楽的で透明感のある響き。癒し系のサウンドで、うとうとしそうになりました。
拍手に応えて佐藤がアンコール。J.S.バッハ作曲/無伴奏チェロ組曲第1番よりサラバンド。ごつごつしないバッハでした。
休憩後のプログラム3曲目は、ラヴェル作曲/道化師の朝の歌。プレトークで坂入は「もともとはピアノ曲。舞台はスペインでファゴットソロがちょっとおしゃろなラブソングを歌う」と解説しました。この曲を演奏会で聴くのは初めてでしたが、京響の演奏がうまく、色彩感が鮮やか。ファゴットソロは音量が大きい。
プログラム4曲目は、ラヴェル作曲/古風なメヌエット。この作品ももとはピアノ曲。いつもの京響よりもよく鳴って、ステージと客席の間にヴェールがなく、ダイレクトに聴こえます。坂入の指揮は派手なアクションはありませんが、ラストは堂々と締めくくりました。
プログラム5曲目は、ラヴェル作曲/ボレロ。小太鼓はホルンの前(クラリネットの左)に置く珍しい配置。福山直子がストイックに叩きます。サックスはファゴットの右(テューバの前)に配置。もう1台の小太鼓は最後列の雛壇で演奏。演奏は音量を抑えて慎重に進み、ややおとなしい。滋賀銀行創立90周年記念ガラ・コンサートのほうが熱狂的な盛り上がりでおもしろかったです。なお、ボレロは京都市交響楽団第685回定期演奏会(2024.1.20)で沖澤のどかの指揮で聴きます。
カーテンコールで坂入が「本日はご来場いただきありがとうございましたアンコールにもう1曲。ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌ」と紹介して、 ラヴェル作曲/亡き王女のためのパヴァーヌを演奏。アンコールに一番繊細で神経を使う曲でした。終演後にロビーで二人のサイン会が行なわれました。
坂入健司郎は音楽大学出身ではないため、いろいろ言われることもあるようですが、京響を的確に指揮しました。また京響を指揮してほしいです。
上述したように、「INAMORI ミュージック・デイ」は毎年11月3日の文化の日に開催して定例化していきたいとのことです。会場は隔年で交代するとのことなので、来年はロームシアター京都ですね。