京都市交響楽団第682回定期演奏会


  2023年9月23日(祝・土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

沖澤のどか指揮/京都市交響楽団

ベートーヴェン/交響曲第4番
コネソン/管弦楽のための「コスミック・トリロジー」(日本初演)

座席:S席 3階C3列25番


 
今年度から京都市交響楽団第14代常任指揮者に就任した沖澤のどかが、第677回定期演奏会「常任指揮者就任披露演奏会」に続いて、今シーズン2度目の登場です。沖澤のどかが京都市交響楽団を指揮するのは、まだ本公演で4回目です(第661回定期演奏会第677回定期演奏会「常任指揮者就任披露演奏会」が2公演)。本公演の翌日には、東京公演「沖澤のどか常任指揮者就任披露東京公演」がサントリーホールで開催されました。東京公演は、~広上淳一 京響常任指揮者ファイナルコンサート in 東京~「京都市交響楽団 東京公演」(2021.11.7 サントリーホール)以来で、2年ぶりです。
本公演は、日本初演のコネソンの作品を含む意欲的なプログラムで、チラシには「ベートーヴェンと宇宙三部作で未知との遭遇⁉」と宣伝されました。
 
チケットは、第678回定期演奏会に続いて、定期会員の「セレクト・セット会員(Sセット)」のクーポンIDと会員番号を入力してオンライン購入。発売日の3日前に購入できました。チケット引取方法は、チケットれすQ(電子チケット)のみなので、紙のチケットは発券されません。スマートフォンに取得した「入場用QRコード」をスキャンして入場します。チケットは8月28日に全席完売しました。今年度の京響定期は、第677回「常任指揮者就任披露演奏会」(2日公演のうち、2023.4.15)、第678回(2023.5.20)、第680回(2023.7.15)が完売で、売れ行き好調です。
 
14:00からプレトーク。沖澤は「ぎっしりです。京都コンサートホールは舞台が広いホールですが、ところせましと並んでいます」と、まずステージ後方の打楽器群を紹介しました。「どうしてベートーヴェンの4番を選んだかと言うと、コネソンが先に決まっていて、これに合う交響曲としてひらめいた。序奏が宇宙的な広がりがある」と説明。「B-Dur(ベードゥア)で始まる」と紹介して歌ってみせて、「どこに行くか分からない、無重力に感じる。方向が見えてきたときに爆発的エネルギーがあり、壮大さや無重力感がベートーヴェンとコネソンとの共通点」と語りました(各曲の解説は後述します)。「今日は売り切れだそうで」と完売を喜んでいました。スラスラと話したのに、「本当にトークが苦手」と謙遜しましたが、「昨日おいしいラーメンを並んで食べた(麺屋猪一)。お高いラーメンを見て、ひとつの宇宙だなと思った」とちゃんとオチをつけて、12分で終了しました。

コンサートマスターは、石田泰尚(特別客演コンサートマスター)。その隣に泉原隆志(コンサートマスター)。石田の後ろが会田莉凡(特別客演コンサートマスター)で、上述の東京公演以来となるコンサートマスター3人が揃い踏みでした(厳密には、特別名誉友情コンサートマスターに豊嶋泰嗣もいます)。石田泰尚が沖澤のどかの指揮で演奏するのは初めてです。オーケストラの配置は半円形の雛壇が客席に近づける広上シフトでしたが、翌日の東京公演のサントリーホールのレイアウトに合わせたのでしょう。
 
プログラム1曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第4番。プレトークで沖澤は「100年以上前の作品だが、ミニマル・ミュージックにつながると言われている。第4楽章の速いテンポは、新幹線やリニアと言われている現代社会よりも、作曲当時は相当速く感じられたはず」と説明しました。
沖澤はちゃんと3人のコンサートマスターと順番に握手。ホルン×2、クラリネット×2、ファゴット×2、トランペット×2、ティンパニが一列で並び、その前にフルート(意外にも1人でスコア通り)とオーボエ×2の配置。
演奏は残念ながら、これまでに聴いた沖澤の指揮の演奏では一番完成度が低い。おそらくコネソンの練習に時間を取られたようで、ベートーヴェンは前座扱いになってしまったようですね。音量よりも緻密さを重視して、あまりホールに響かずにこじんまりしていました。また何年かしてから聴きたいですね。
第1楽章の序奏は、管楽器が弱奏ですが、プレトークで話したように、これを「宇宙的な広がり」と感じたなら、普通の感性ではありません。テンポは淀みがない。第2楽章も癖がない流麗な響き。50小節からティンパニが強打。第3楽章は速いテンポ。第4楽章は第677回定期演奏会「常任指揮者就任披露演奏会」での「イタリア」も速かったですが、京都市交響楽団第533回定期演奏会で聴いた広上の指揮よりもだいぶ速くて、シャープ音符は短くスタッカート。66小節からは、sfの四分音府を左腕で殴るように指揮。
 
休憩後のプログラム2曲目は、コネソン作曲/管弦楽のための「コスミック・トリロジー」。日本初演です。ギョーム・コネソンは、1970年生まれのフランスの作曲家です。「宇宙三部作」のタイトルの通り、3部から構成されて、作曲された年もバラバラです。すなわち、第1部「スーパーノヴァ(超新星)」は1997年作曲、第2部「暗黒時代の一条の光」は2005年作曲、第3部「アレフ」は2007年の作曲です。通常は「アレフ」を第1部に、「スーパーノヴァ(超新星)」を第3部に配置して演奏されるようですが、本公演では作曲順に演奏するとのこと。演奏時間は約45分です。
プレトークで、沖澤は「ドイツに渡った2016年頃に現代音楽音楽祭にいやいや参加して譜読みしたが、すごくいい曲だった」「ソロだけではなく、一人一人がずっと難しいので、客演のオーケストラでは引き受けてもらえなくて、ポジションを持ったらと思っていたが、京都で叶った」と説明。「参考に練習場に2枚の絵を貼ったら、誰かがマグネットを動かしたらしくて、惑星のひとつになって感動した」というエピソードを紹介しましたが、フランス語が分からないと理解しにくい。「ミニマル・ミュージックとは車のウィンカーがずれていく感じで、トランス状態になる」と分かりやすく説明。中間部は「武満徹、メシアン、ドビュッシー、ラヴェルがうまく混ざっていて、コラージュに思える。凍りつくような音やアイシーな音」。アレフは「日本で検索するとあまり好ましくない結果が出てくる」と言って笑わせました。

最後列に、左からハープ、チェレスタ、ピアノ、鍵盤楽器×4、チャイム、ドラ、大太鼓、ティンパニが並んで、打楽器奏者は10人ですが、管楽器は三管編成で、それほど多くありません。演奏は相当練習しないと無理で、よく間違えないで演奏できて指揮できると感心しました。この作品を客演で本当に提案したならすごい。また、これまでの京響では聴けなかった音色の連続で、鳥肌が立ちまくりでした。沖澤は京響にはなかった色彩感を持ち込んだと言えるでしょう。オーケストラを自分の色に染めるには、誰も演奏していない作品を指揮するのは効果的で賢明な選択です。ただし、旋律の魅力よりも打楽器を用いた外面的な効果が多く、メロディーは魅力的ではありませんが、吹奏楽に編曲したら、吹奏楽コンクールの自由曲の定番になりそうです。
 
第1部「スーパーノヴァ(超新星)」は、冒頭からいきなり宇宙に連れて行かれました。チェレスタがホルスト「惑星」の「海王星」のような音型。フルートもフワフワしたような雰囲気を醸し出して、拍子や小節の感覚がなくなります。盛り上がっては収まってを2回ほど繰り返して、ついに爆発。ビッグバンでしょうか。これはすごい強奏で、その後は、謎の変拍子が連続して、ヴァレーズに似た響き。強奏のあとバスッと終わります。なお、第1部は、第1楽章「いくつかの円」と第2楽章「脈動星」の2つの楽章から成るらしいですが、続けて演奏されるようで、切れ目は分かりませんでした。演奏が終わると、沖澤はスコアを譜面台の右横に置かれた小さな譜面台に置きました。つまりスコアは3冊ありました。
第2部「暗黒時代の一条の光」は、ゆったり始まって、徐々に盛り上がります。後半は盛り上がって、ラヴェルに似た響き。盛り上がったところで突然パウゼ。最後はフルートが音階を上げていき、ヴァイオリンとピアノだけが残って、宇宙の彼方に消えていきそうな終わり方です。
第3部「アレフ」は、テンポは速いですが、軽やかな響き。打楽器が大活躍で、楽器の種類が半端なく多く、ウッドブロック(木魚?)やムチも登場。シロフォンが速いパッセージで大忙しで大変。リズムがすごく難しく、ゴチャゴチャやっているところに、突然ぶちっと終わります。客席からの拍手が早すぎて残念。カーテンコールでは、トランペット(ハラルド・ナエス)とトロンボーン(岡本哲)が、おでこの汗を拭くようなパフォーマンスをして笑わせました。
 
翌日の東京公演は、京響友の会会員を対象にあっせん販売が行なわれ、友の会事務局に電話すると20%割引で購入できました。なお、沖澤のどかは、10月6日に京都市交響楽団のX(旧Twitter)に掲載されたメッセージ動画で、本公演と東京公演を振り返り、「とても挑戦的なプログラムで、ベートーヴェンの4番もすごく歯切れのあるいい演奏になったと思いますし、前半の時点でお客様がすごく熱い拍手を下さって、とても感動的な演奏会となりました。また、後半のコスミック・トリロジーの日本初演は、間違いなく大成功と言っていいと思います」と語っています。
 
沖澤は翌週の10月1日(日)には、「オーケストラ・ディスカバリー2023 「みんな集まれ、オーケストラ!」第2回 ベートーヴェン、ザ・マスター・オブ・リズム」を指揮しました。ポディウム席が自由席として追加されましたが、前日に全席完売しました。その後は「ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集 第192回」(2023.10.7 ミューザ川崎シンフォニーホール)で、東京交響楽団を初めて指揮して、オール・ストラヴィンスキー・プログラムを演奏、さらに翌週の「県民音楽のひろば 群馬交響楽団クラシックコンサートin富岡」(2023.10.14 かぶら文化ホール)では、亀井聖矢とラヴェル「ピアノ協奏曲」を共演します。おそらく群馬交響楽団を指揮するのも初めてです。ベルリンに在住されていますが、今回は4週間程度の日本滞在のようです。
京都市交響楽団との次回の共演は、来年1月の第685回定期演奏会(2024.1.19&20)を指揮します。
 

(2023.10.8記)

 

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