京都市交響楽団第677回定期演奏会「常任指揮者就任披露演奏会」
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2023年4月14日(金)19:30開演 京都コンサートホール大ホール
沖澤のどか指揮/京都市交響楽団
モーツァルト/歌劇「魔笛」序曲 メンデルスゾーン/序曲「ルイ・ブラス」 メンデルスゾーン/交響曲第4番「イタリア」
座席:S席 3階C2列14番
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京都市交響楽団の第14代常任指揮者に、沖澤のどかが就任しました。任期は2023年4月から3年間です。広上淳一(第13代常任指揮者兼芸術顧問)が2022年3月に退任して以降、1年間の空位を経ての就任です。京響の常任指揮者としては初めての女性で、35歳での就任はハンス・ヨアヒム・カウフマン(第2代常任指揮者)と並んで最年少タイです。沖澤が京響を初めて指揮した
京都市交響楽団第661回定期演奏会がすばらしく、アンケートに「沖澤を次期常任指揮者の最有力候補としてリストアップしてほしい」と書いて送ったら、2022年7月12日に行なわれた「京都市交響楽団 新常任指揮者就任記者発表」で沖澤が登場したので、本当に驚きました。沖澤は記者発表で「おもしろい企画とかびっくりするような何かを持ち出しても、その瞬間は盛り上がるかもしれませんが、長いスパンで考えてオーケストラに何か貢献できるとしたら、音楽で一緒に成長することだと思う」と語っていたのが印象的でした。ベルリン在住で、2022年3月には、助手を務めた首席指揮者キリル・ペトレンコの代役でベルリンフィルを指揮しました。なお、本公演の1週間前には「青森県出身 沖澤のどか 待望の凱旋公演!」と題して、山形交響楽団の八戸公演と青森公演を指揮しました。
メディアからも注目が高く、沖澤は多くのインタビューに答えています。大きな目標はオペラ(「ばらの騎士」)を指揮したい、委嘱作品を再演したい、京都市交響楽団とヨーロッパツアーを行ないたいなどと語っていました。また、YouTubeチャンネル「厳選クラシックちゃんねる」の動画「世界のマエストロ沖澤のどかが指揮者として大切にしていること/京都市交響楽団常任指揮者としての想い」でnacoのインタビューを受けています。そこでは「指揮者として大切にしていることは、その場にいる音楽家から出てくる音によく耳を傾けること」「指揮者として譜読みの時間はすごく大事なんですけども、それと同じくらい、きちんと休むってことが大事と思っている」と語り、夫と娘さんの話もされています。
本公演は「常任指揮者就任披露公演」として開催されました。今年度の京響の定期演奏会は、日曜公演がなくなって、金曜と土曜の2回公演か、土曜の1回公演に集約されましたが、今回は14日(金)夜と15日(土)昼の2回公演で、14日(金)は、昨年度から始まった「フライデー・ナイト・スペシャル」として開催されました。休憩なしの約1時間プログラムで、昨年度の3回はニコニコ生放送で観ていたので、ホールで聴くのは初めてです。「フライデー・ナイト・スペシャル」は広報を強化したようで、わざわざリーフレットが作成されるほどの力の入れようです。15日(土)の2日目の公演は、なんと3月6日に早くも完売しました。できれば2日目に行きたかったのですが、椎名林檎のライブとかぶったので断念しました。
ちなみに、京都市交響楽団の指揮者陣としては、先月退任したジョン・アクセルロッドに代わって、2024年4月からは首席客演指揮者にヤン・ヴィレム・デ・フリーント(第667回定期演奏会 2022.5.20&21を指揮)が就任予定です。なお、コンサートマスター(泉原隆志、豊嶋泰嗣、石田泰尚、会田莉凡)の4名は同じです。
今年度から初めて京響友の会「チケット会員」に入会しました。今年度から新設された「セレクト・セット会員(Sセット)」(18,700円)が自由度が高くて使い勝手がよく、約15%安いとのこと。京都市交響楽団のホームページの入会申込みフォームから送信すると、対象公演の中から4枚分のチケットが予約できる「クーポンID」がメールで発行されました。対象公演とは、定期演奏会(金陽・土曜)、第九コンサート、ニューイヤーコンサートのS席で、一般発売の3日前に先行発売されるのがすごくいい。しかし、金曜日の「フライデー・ナイト・スペシャル」は、土曜日よりもチケットの価格が安い(S席では1500円も違う)ため、ここでクーポンIDを使ってしまうのはもったいないので、いつもの京都コンサートホール・ロームシアター京都Club会員割引で購入しました。プログラムにはちゃんと私の名前が掲載されています。
京都コンサートホールのスロープに飾られているサイン入り写真パネルも、広上淳一の左隣に沖澤のどかが追加されました。当日券が長蛇の列で、8割程度でなかなかの入り。「フライデー・ナイト・スペシャル」は本公演が4回目ですが、おそらく最多でしょう。沖澤は「観光客が当日に公演情報を知って聴きに来られるような開かれたオケになればいい」と語っていましたが、幸先の良いスタートです。ロビーには、鈴木優人、原田慶太楼、山田和樹の3名連名の花が飾られていました。3月13日からマスクの着用は個人の判断に委ねられました。これまでのことを思うと、ここまで緩和されるとは思いもしませんでした。なお、京響グッズの新商品として、「京響オリジナルマグネット」(3個セットで1,000円)が発売開始され、沖澤のどか常任指揮者 就任記念デザインもあったためか、完売しました。
19:00からプレトーク。沖澤のどかは「常任指揮者の就任披露公演ということで、とても気合いが入っている」「昨年9月からミュンヘン交響楽団のアーティスト・イン・レジデンスを務めているが、練習番号のKはKYOTOと言っている」と話しました。「リハーサルは3日間しっかりやった」と話し、「9月も来てください」と早くも次回に出演する第682回定期演奏会を宣伝。コネソンの管弦楽のための「コスミック・トリロジー」については、「現代音楽というよりも映画音楽とクラシック音楽のいいとこ取り」とアピール。「それまでに京響の練習場の場所をタクシーで言えるようにするのが目標」とじっかりオチをつけて10分ほどで終了しました。作品の紹介は後述します。
今年1月に掲載された京都市交響楽団のホームページに掲載された「新年のご挨拶」では、「2015年にドイツへ渡ってすぐにメンデルスゾーン基金の奨学生としてドイツ各地でメンデルスゾーンの軌跡を辿り、さらにライプツィヒでクルト・マズア先生のマスタークラスを受ける機会に恵まれました。それ以来メンデルスゾーンは大事な場面でいつも取り上げています。モーツァルトやメンデルスゾーンは、例えるならその土地の湧き水を味わうように、オーケストラの持っている音色や音の運び、流れ、アンサンブルを知るのにぴったりな作曲家だと感じるため、常任指揮者として初めての演奏会に選びました」と綴っています。さらに京都市交響楽団のYouTubeチャンネルに掲載された「常任指揮者 就任披露演奏会に向けて 沖澤のどか よりメッセージ」の動画でも、「まさか2度目の共演が常任指揮者としての登場となるとは思ってもみなかった」と語っています。
コンサートマスターは泉原隆志。オーケストラの配置は広上シフトではなく、むしろ奥まった配置でした。ティンパニは3曲ともバロックティンパニを使用しました。マスクをしてる団員が減った印象です。
プログラム1曲目は、モーツァルト作曲/歌劇「魔笛」序曲。プレトークで沖澤は「とても思い入れがある作品で、ドイツに留学してオペラの指揮を学んだときにじっくり取り組んだ。劇場のような響きを聴かせたい 。冒頭はスフォルツァンドだけ書いてあってダイナミクスは書かれていない。フルートが聴こえるバランスが難しい。京響の金管楽器は品があって整っている。まろやかな管楽器群をお楽しみいただける」と説明しました。YouTubeの動画でも「京響との新しい関係を始めるにあたって、その幕開けとなるにふさわしいEs-durの三和音から始まる何か期待感を与えるようなそういう始まりになるといいなと思って選びました」と語っています。
沖澤が大股て登場。背が低いためか、京都コンサートホールでいつも使われているグレーの指揮台ではなく、少し高い赤色の指揮台でした。無理のない鳴らし方でしたが、少しこじんまり。ソフトで京響らしさを生かした演奏と言えるでしょう。旋律の入りをはっきり聴かせて、重層的に旋律が重なるのがよく分かりました。フルートのバランスは本番の演奏はいまひとつだったように感じました。ラストは階段を上るように音量を大きくしていって盛り上げるのがオペラらしい。
プログラム2曲目は、
メンデルスゾーン作曲/序曲「ルイ・ブラス」。プレトークで沖澤は「メンデルスゾーンは3日で曲を仕上げた。ドラマチックな作品」と解説しました。魔笛よりも少しメンバーが増えました。いろいろな旋律が聴こえてくるので、沖澤はすごく耳がいいのでしょう。スコアに音符を書いた作曲家の思いを無駄にしないとも言えます。中音域がブレンドされてよくまとまっています。ヴァイオリンはいつもの京響よりも重みがあります。ラストはよく鳴りました。
読売日本交響楽団第32回大阪定期演奏会よりも楽しめました。
プログラム3曲目は、メンデルスゾーン作曲/交響曲第4番「イタリア」。プレトークで沖澤は「日本の春にぴったりなので選んだ。暗い冬を過ごしている人の憧れのイタリア。私は津軽出身なので、初めて沖縄に行ったときの日の高さに感激した。第2楽章は巡礼の歌。第4楽章は意外にも京響の性格に合っていて、内に秘めた情熱を感じた」と話しました。
今まで何十回もこの曲を聴きましたが、こんなに面白い聴きどころの多い作品だったとは気づきませんでした。正統派でわざとらしさはなく、自然に鳴らします。アクセントが必要以上に強くなく、ゴツゴツしないイタリアで、スコアの音符をいろいろ感じとれて、ヨーロッパのオーケストラかと思うほどのブレンド感です。オーケストラは窮屈そうでなく、楽に演奏できています。
第1楽章はホルンの語尾を聴かせるのが珍しい。第2楽章は音量を抑えてゆっくりしたテンポで厳か。メロディーが1つのスラーでできているように思えるほど、息長く聴かせます。コントラバスの八分音符の音型はスタッカートがついていますが、カクカクせずに作品に溶け込んでいます。第3楽章も歌わせ方が自然。93小節からの弦楽器のユニゾンでのコントラバスなど意外な聴きどころがありました。第4楽章はティンパニが控えめで、外面的な効果に頼らない音楽づくりですが、ゾクゾクする瞬間が多い。101小節はsfを効かせて決然とした表情もいい。122小節から始まる弦のアンサンブルを丁寧に聴かせます。148小節からの木管楽器ソロも意識的に同じ音量に揃えています。
演奏終了後は、ブラボーの声がちらほら。どうやらブラボーは解禁されたようですね。20:30に終演して、きっちり1時間の公演でした。
沖澤は2回目の共演でこのクオリティは驚きです。思えば広上淳一も
京都市交響楽団第511回定期演奏会「第12代常任指揮者就任披露演奏会」はいまひとつでしたが、沖澤は期待以上の演奏で、まさにただ者ではないといった印象です。YouTubeの動画でも沖澤は「常任指揮者としての一番の願いは、ぜひ継続して通っていただきたい」と話していましたが、沖澤が指揮する演奏会は全部聴きに行くしかないですね。9月と来年1月の定期演奏会が早くも楽しみです。
なお、翌日の15日(土)の公演は、メンデルスゾーンの2曲は共通で、「魔笛」序曲の代わりに、メインにブラームス「交響曲第3番」が演奏されました。nacoとのインタビュー動画では「常任指揮者として初めての演奏会は王道で勝負したかったので、ブラームスのシンフォニーの中でも特に演奏が難しいとされている3番をあえて選んだ」と語っています。終演後には、門川大作京都市長(京都市交響楽団長)から花束贈呈があったようです。