兵庫芸術文化センター管弦楽団第147回定期演奏会「佐渡裕 マーラー交響曲第9番」
2024年1月14日(日)15:00開演 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール 佐渡裕指揮/兵庫芸術文化センター管弦楽団 マーラー/交響曲第9番 座席:A席 3階3A列41番 |
2024年の聴き初めです。佐渡裕が指揮する兵庫芸術文化センター管弦楽団の定期演奏会に行きました。元日に能登半島で大きな地震(令和6年能登半島地震)が発生して、おめでたい雰囲気が一瞬でふっとんだ異例の正月となりました。本公演は3日公演の最終日で、曲目はマーラー「交響曲第9番」です。この作品を演奏会で聴くのは、京都市交響楽団第510回定期演奏会(大友直人指揮)、京都大学交響楽団第190回定期演奏会「創立95周年記念特別公演」(井上道義指揮)に続いて、3回目です。
兵庫芸術文化センター管弦楽団のX(@hpac_orchestra)によると、リハーサルは1月8日(祝・月)から開始。10日(水)からKOBELCO大ホールで練習。11日(木)に公開リハーサルが行なわれ、12日(金)、13日(土)、14日(日)の3日公演でした。
チケットは、9月16日に先行予約で購入しました。2階席がよかったですが、いい席がなかったので3階席に。目の前の手すりが邪魔ですね。途中休憩なしとアナウンスされました。全席完売ではなかったようですが、ほぼ満席でした。
演奏前に佐渡裕がマイクを持って挨拶。まずはクラウドファンディングのお礼。運営費として活用するために昨年9月から10月にかけて実施しましたが、「500万円を目標にしたが、1000万円を超える支援があった」とのこと。本公演については 「次のシーズンは20年目になる。1月定期は阪神淡路大震災の犠牲者に手を合わせる未来に誓う曲目を選んできた。マーラーの9番は死を見つめた曲で、第1楽章のリズムはバーンスタインはマーラーが患っていた心臓の不静脈と言っていた 。二長調で書かれているのは、ベートーヴェンの第九やハレルヤコーラスと同じで、ポジティブだが自分との戦いがある。第2楽章は舞曲で子供や元気だったころの思い出。第3楽章は闘争で生きることへの戦い。第4楽章は天国の階段が見えてくる美しい終わり方」と聴きどころを解説しました。また「29年前の阪神淡路大震災の当日に、京響とマーラー9番を演奏して、募金活動を始めた」と語りました。まったく初耳だったので驚きましたが、この曲を指揮するのがそれ以来というのも意外です。「元日に能登地震が起こった。この芸術文化センターは心の復興をやってきた。復興のモデルのまちからの恩返しで、終演後にロビーで募金活動をしている。初日は80万円、2日目は120万円が集まった」と報告しました。
来シーズンのプログラムについて紹介し、「1月定期演奏会でマーラー8番をやる。千人は出演しないが、600人くらいを予定している。初めて取り組む」「8月は戦後80年なので、ブリテンの戦争レクイエムを演奏する」と語り、10分で終了しました。
メンバーが入場。弦楽器は左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。チェロの後ろにコントラバス。ティンパニは2台です。プログラムに名前が掲載されたメンバーは100名。コンサートマスターは豊嶋泰嗣。コアメンバーは45名で、半年前の第142回定期演奏会「井上道義 最後の火の鳥」は25名だったので、大幅に増えました。ゲスト・トップ・プレイヤー(他のオーケストラの首席奏者)は5名。スペシャル・プレイヤー(他のオーケストラの奏者)は6名。レジデント・プレイヤー(1年ごとにオーディションで選出)が6名。アフィリエイト・プレイヤー(芸術監督の推薦で選出)は4名、アソシエイト・プレイヤー(1年ごとにオーディションで選出)は5名、エキストラ・プレイヤーは28名でした。ゲスト・トップ・プレイヤーとして、ビルマン聡平(新日本フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席奏者)、スペシャル・プレイヤーでクリストフ・ハルトマン(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(!)オーボエ奏者)、中野陽一朗(京都市交響楽団首席バスーン奏者)、奥村隆雄(元京都市交響楽団首席奏者)などが出演しました。
演奏は期待以上の出来で、指揮者とオーケストラの一体感がありました。スコアは大変複雑ですが、技術的な困難さは感じません。なかなかの完成度で、管楽器と弦楽器がもっとブレンドされれば言うことなしです。木管ソロ(特にフルート)はブラボー。佐渡の解説を聞いたからかもしれませんが、暗い気持ちではなく、前向きになれる演奏でした。
第1楽章は、管楽器の音色の精度がいまいち。弦楽器はよくまとまっています。39小節に向けての盛り上がりは見事で、オーボエがよく聴こえました。39小節のホルンを強調。その後のホルンのゲシュトップを強調しました。ホルンは5人で左端でしたが、存在感が大きい。318小節のトロンボーンのffの後はパウゼのような間を空けました。320小節からホルンがベルアップ(スコアにSchalltr.auf.の指示)。337小節からの低音の鐘3(3 tiefe Glocken)は、雛壇右端で吊るされた鉄板を叩きました。382小節からのフルートとホルンの掛け合いは、ホルンのリズムが複雑です。
第2楽章は冒頭から音量大きめ。ワルツはなめらかさはなく、ややごつごつした感触。意外に長く感じました。第3楽章はクライマックスでティンパニが大乱打。よくそろっていて乱れません。最後も決まりました。
第4楽章は冒頭から音量が大きい。弦楽器のアンサンブルが壮観で、音程も揃っていて響きが清らか。佐渡が演奏前に話したように、死だけではなく、確かに明るさを感じる部分があります。パウゼを取りながら、超繊細なpppへ。最後の小節に「ersterbend(死に絶えるように)」と書かれていますが、死を感じさせない演奏でした。長い間の後に拍手。
カーテンコールでは写真撮影が可能でした。東京のオーケストラでは増えてきましたが、関西では珍しい。写真を撮っている人はあまりいませんでした。16:50に終演。終演後にはロビーで団員が募金箱を持って募金の呼びかけ。佐渡は募金箱ではなく大きなワイングラスのような容器を持っていました。能登半島地震舞台芸術活動支援募金として、3日間で約322万円の募金が集まったとのこと。なお、翌週には佐渡が第5代音楽監督を務める新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会(2024.1.19&20)を指揮しましたが、そこでも2日間で123万円の募金が集まったとのこと。有言実行ですばらしい。
佐渡裕と兵庫芸術文化センター管弦楽団は、マーラーの交響曲を継続して取り上げてきて、残すは交響曲第8番のみとなりました。演奏前に説明されたように、第156回定期演奏会(2025.1.17~19)で演奏されます。ぜひ交響曲第10番にも取り組んでほしいです。
(2024.2.28記)