京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科第169回定期演奏会


   
    2022年12月2日(金)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

広上淳一指揮/京都市立芸術大学音楽学部 ・大学院管弦楽団
京都市立芸術大学音楽学部合唱団
三舩優子(ピアノ)、佐藤もなみ(ソプラノⅠ)、伊吹日向子(ソプラノⅡ)、柚木玲衣加(アルト)、向井洋輔(テノールⅠ)、井上弘也(テノールⅡ)、池野辰海(バス)

ベートーヴェン/「コリオラン」序曲
ブルックナー/モテット「この場所は神によって造られた」
ブルックナー/モテット「見よ、大いなる司祭を」
ベートーヴェン/合唱幻想曲
ベルリオーズ/幻想交響曲

座席:全席自由


前日の立命館大学交響楽団第128回定期演奏会に続いて、京都市立芸術大学の定期演奏会に行きました。当初は行くつもりはなかったのですが、JUN'ICHI'S Café~京都コンサートホール館長の音楽談義~Vol.3「広上淳一館長の『音楽づくり』に迫る」で広上淳一の指揮を見て、やはり行きたくなりました。
広上淳一は2013年度から京都市立芸術大学の客員教授を務めていて、京都市立芸術大学音楽学部第136回定期演奏会「更なる復活」京都ライオンズクラブ創立60周年記念チャリティーコンサートを指揮しました。広上淳一が京都コンサートホール大ホールで指揮するのは、京都市交響楽団の常任指揮者を退任した京都市交響楽団第665回定期演奏会以来です。

チケットは全席自由で1200円。ポディウム席とその両サイドのエリアは客入れせず、客は7割程度の入り。ロビーに『第169回定演のトリセツ!~音楽楽専攻生とその仲間たちによる音楽への誘い~』の冊子が置かれていました。音楽学専攻の授業「音楽学演習b」の履修生が、定期演奏会の開催ごとに発行しているとのこと。カラー印刷で、三舩優子のインタビューや、作曲家や作品に関するコラムが掲載されていて、いい試みです。欲を言えば、本日演奏される作品の歌詞対訳があればもっとよかったでしょう。ステージには、すでにピアノが置かれていました。なお、客演奏者が数名いましたが、教員は演奏に加わりません。

プログラム1曲目は、ベートーヴェン作曲/「コリオラン」序曲。広上淳一がゆっくり登場。メガネをかけてスコアをめくりながら指揮しました。二管編成での演奏。弦楽器がどっしりした響きで、一体感もすばらしい。1曲目から完成度が高く、さすが芸大生です。暗転してオーケストラは退場。

プログラム2曲目は、ブルックナー作曲/モテット「この場所は神によって造られた」。ポディウム席に合唱団が入場。約50人で、左が女声、右が男声ですが、圧倒的に女声が多い。マスクなしで、一席空けて座りました。オーケストラはなく無伴奏で、ステージには広上のみ。指揮台にのみスポットライトが当たりました。指揮棒なしで指揮。賛美歌のようで、合唱団は、人数以上に豊かに響きます。

プログラム3曲目は、ブルックナー作曲/モテット「見よ、大いなる司祭を」。パイプオルガンと、ステージ正面のバンダ・ボックスに、トロンボーン3人が立って演奏。合唱のハーモニーが美しく、音量全開のオルガンに負けない声量で、堂々とした歌唱 。トロンボーン3はオルガンの補助のような役割ですが、あまり聴こえません。中間部はユニゾンの無伴奏合唱で、グレゴリオ聖歌のような雰囲気 。ブルックナーにこんな曲があったとは知りませんでした。もう一度聴きたい名曲です。カーテンコールでは、指導教員の上野洋子(声楽専攻准教授)が呼ばれました。

プログラム4曲目は、ベートーヴェン作曲/合唱幻想曲。ピアノ独奏と独唱者6人と合唱団を必要とする作品で、演奏機会は少ない作品です。ポディウム席に加えて、ステージ後列の2列にも合唱団約30人が並びました。二管編成のオーケストラも加わります。ピアノ独奏は三舩優子京都新聞トマト倶楽部「京響コンサート」以来で、2021年度から京都市立芸術大学ピアノ専攻准教授を務めています。
この作品を初めて聴きましたが、3部続けて演奏され、なんと第1部はピアノ独奏のみ。ピアノソナタかと思うほど長いソロで、こんなに大勢の出演者がいるのに贅沢な作品です。三舩のピアノは音色が軽く、スタニスラフ・ブーニンに似ています。第2部で少しずつオーケストラが加わって、次第にピアノ協奏曲のような趣に。硬いマレットで叩かれるティンパニがバロックティンパニのようでいい。第3部で合唱団が起立して、ようやく独唱と合唱の出番。広上の対面のステージに独唱者6人(左から、ソプラノⅠ、ソプラノⅡ、アルト、テノールⅠ、テノールⅡ、バス)がマスクなしで歌いました。学内オーディションで選ばれたとのことですが、独唱者の出番が少ない。それ以外の合唱団(ポディウム席を含む)はマスクを着けて歌いましたが、やはり少し歌いにくいのか、たまにマスクを触っている学生もいました。

休憩後のプログラム5曲目は、ベルリオーズ作曲/幻想交響曲。休憩中に、ティンパニをもう1セットと、大太鼓2を最後列の中央に配置するために、下手奥の雛壇に載せてエレベーター代わりにして楽器を上げました。こんな雛壇の使い方は初めて見ました。大編成での演奏。広上の指揮によくついていけています。広上は流れるような指揮で、演奏が終わった奏者に親指を立ててグーサインしました。表情づけのおもしろさでは、京都市交響楽団第670回定期演奏会の準・メルクルのほうがおもしろい解釈でした。
第1楽章「夢と情熱」冒頭の和音が合いませんでしたが、曲が始まってすぐは難しいんですね。続くヴァイオリンは絶品。165小節で繰り返しあり。358小節からのオーボエソロでゆっくりしたテンポから盛り上げます。410小節からもあまりテンポは速くありませんが、439小節(animez)からテンポアップ。
第2楽章「舞踏会」は、第1トランペット奏者(藤井虹太郎)がチェロの後ろ(コントラバスの横)に移動して立って演奏。トランペット(スコアでは、ピストン付きコルネット)は目立つ楽器ではありませんが、メロディーの裏で連符や対旋律などを演奏しました。これは広上オリジナルの解釈で、在学中に「第90回日本音楽コンクール」第1位などを受賞した学生を目立たせたかったのでしょうか。広上は主旋律以外の聴きどころを目立たせましたが、優雅さには乏しい。最後の1゚ tempo con fuocoもあまりテンポを上げません。
第3楽章「野の情景」は、スコアに「derrière la scène(舞台裏で)」の指示があるオーボエ独奏は、バンダ・ボックスで立って演奏。スポットライトが当たりました。 終わるといなくなり、オーケストラには戻りませんでした。106小節からの第1ティンパニを早くも二人で叩きました。広上はじっくり丁寧に聴かせました。最後は両ティンパニを二人ずつで演奏しましたが、雷鳴は弱め。第4楽章「断頭台への行進」は、意識的なのか楽器の生音を聴かせました。77小節での繰り返しあり。160小節付近で第2ティンパニを二人で演奏。最後の9小節は速いテンポ。
第5楽章「サバトの夜の夢」は、40小節からのクラリネットがうまい。102小節からのClochesは、バンダ・ボックスの下(パイプオルガンの左)のポディウム席の後部で、カリヨンを左右に並べて前かがみになって叩きました。天井のスピーカーからの音かと思うほどよく響きました。232小節から大太鼓2とティンパニ2が炸裂。364小節からのチェロはテヌート気味に始めました。414小節からの「怒りの日」は金管楽器がテヌートで高らかに鳴りました。最後の小節の付点二分音符(tenu)を倍以上長く伸ばしました。

カーテンコールで広上が挨拶。「サッカーのワールドカップでスペインに勝った。今日はすばらしい演奏をしてくれた。まだまだ日本は捨てたもんじゃない。勇気をいただきました。長友の言葉を借ります」と話し、「ブラボー!」と数回叫びました。21:25に終演。

普段は個人で研鑽を積む学生ですが、オーケストラの中での自分の立場を意識できるいい機会になりますね。なお、プログラムの出演者の名前にサクソフォン2名が掲載されていましたが、どこにいたのか分かりませんでした(誤植?)。なお、2日後に「オーケストラ・ディスカバリー2022「ザ・フォース・オブ・オーケストラ」第3回 オールウェイズ・ストリングス」で京都市交響楽団を指揮する原田慶太楼が聴きに来ていたようです。

京都市立芸術大学は今年で創立70周年を迎え、来年10月には京都駅東部エリアにキャンパスが移転します。キャンパス内に約800席の音楽ホール「堀場信吉記念ホール」ができる予定で、楽しみです。

京都コンサートホールのイルミネーション

 
(2022.12.18記)


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