サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団来日公演


   
      
2003年10月3日(金)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

ユーリ・テミルカーノフ指揮/サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団
エリソ・ヴィルサラーゼ(ピアノ)

〔プログラムA〕
リムスキー=コルサコフ/「見えざる町キーテジと聖女フェヴローニャの物語」序曲
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番
ムソルグスキー/ラヴェル編曲/組曲「展覧会の絵」

座席:A席 3階 C−4列14番


サンクトペテルブルク建都300年を記念し、芸術監督・首席指揮者のユーリ・テミルカーノフに率いられてサンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団がやってきました。頻繁に日本に来てくれるオーケストラで、これが2年ぶり8回目の来日です。このオーケストラは旧ソ連時代にはレニングラード・フィルハーモニー交響楽団の名称で、あのムラヴィンスキーが君臨していました。ロシアのオーケストラを生で聴くのは今回が初めてなので、大きな期待を持って聴きました。

プログラムを1000円で購入してホール内へ。客の入りは8割程度でした。オーケストラの配置は金管楽器をステージ右に固めて、前からホルン、トランペット、テューバ・トロンボーンの順。弦楽器は、ステージ左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンの順で、第1ヴァイオリンの奥にコントラバスという配置でした。チューニングの音からして、今まで聴いたことがない響きがしました。

プログラム1曲目は、リムスキー=コルサコフ作曲「見えざる町キーテジと聖女フェヴローニャの物語」序曲。初めて聴きましたが、静かな作品でした。リムスキー=コルサコフ晩年の作品ということですが、ラヴェルなどのフランス的な雰囲気を感じさせました。また夢見心地な弦楽器によるメロディーが美しい。演奏は弱奏による繊細な音楽作りで、バランスや音程なども適切。コントラバスの音の張りが演奏にアクセントを加えました。オーボエやフルートなどソロも透き通った音色でした。

プログラム2曲目は、ラフマニノフ作曲「ピアノ協奏曲第3番」。ピアノ独奏はエリソ・ヴィルサラーゼ。ステージに登場してビックリ。女性だったんですね。写真を見て男性だと思い込んでいました。
そのヴィルサラーゼのピアノは明るい音色でしたが、強弱や表情にあまり変化がなく、特にやわらかい音色に乏しいのが残念。弱奏では単調に感じました。オーケストラは控えめな演奏で、もう少し鳴って欲しい部分もありました。重みと力強さを感じさせる弦楽器主体の暗めの音色で、特にコントラバスの拍感が見事。テミルカーノフは積極的なリードとコントロールで、オーケストラを自由に歌わせていました。演奏終了後は盛大な拍手が巻き起こりましたが、個人的にはあまり感動しませんでした。この作品は技術的に全曲を一気に弾き通すのには大変な作品ですね。また、反復が多くダラダラと続く感じがするので、聴き手を引きつける演奏に仕上げるのは並大抵なことではありません。
第1楽章のピアノのカデンツァは全ての音を鳴らしきった力強い演奏でしたが、表情のつけ方にもうひと工夫必要でしょう。
第2楽章では、ヴィルサラーゼが足を踏みならすなど力で弾ききりましたが、気持ちとしては盛り上がりませんでした。後半はコミカルさが欲しいです。
第3楽章になると金管が鳴るようになってきましたが、たまに半拍ずれたりするなどあぶなっかしいところが多く、聴いていてハラハラさせられました。

休憩後のプログラム3曲目は、ムソルグスキー作曲/ラヴェル編曲「展覧会の絵」。全体的に速いテンポで進められました。明らかなミスもあったりしましたが、なかなかの名演になりました。アインザッツの甘い部分が多かったですが、テミルカーノフの指揮ぶりにも原因があるかも知れません。
冒頭の「プロムナード」から金管の力強さが際立ち、いかにもロシア的な演奏になりました。
「グノームス」もコントラファゴットと木琴を強く出すだけで、普段と違った雰囲気になりました。
「古城」は、弦楽器がスムーズな流れを作っていったのが意外。
つづく「プロムナード」のトランペットソロがいきなり音を派手に外すミス。惜しい。
「ビドロ」は期待通りの演奏。すばらしい盛り上がりを見せました。冒頭のソロはテューバではなくトロンボーン奏者が小バスで演奏。ただしどんどんテンポが前に行ってしまう(息が持たない?)などテンポキープできなかったのが残念。
「殻を付けた雛の踊り」でも、いつもは聞こえてこない意外な音が聴けました。
「ザムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」は、冒頭の弦楽器のユニゾンが重厚で見事。トランペットソロは小トランペットを使用していましたが、速いテンポにもかかわらず装飾音符まで完璧な演奏。すごい。
「リモージュの市場」は、色彩感が鮮やか。スピード感もすばらしい。
「カタコンベ、ローマ人の墓地」は、トロンボーン×4+テューバの厚みと伸びのある音がすごい。「重厚」という言葉はこういう演奏のためにあるのでしょう。ラヴェルが聴けばきっと驚くに違いありません。
「鶏の足の上に立つ小屋」は、金管と打楽器が全開。張りのある強奏を聴かせました。
「キエフの大門」がまさに圧巻。きらびやかで光り輝く門が立ち現れました。金管が鳴りまくりですばらしい。どうすればこんなサウンドが出てくるのでしょうか。ラストも大爆発で、ロシア音楽の醍醐味を味わいました。この演奏を聴けただけでも、演奏会を聴きに来た甲斐がありました。思わず「ブラボー」と叫びたくなるほど興奮しました。

拍手に応えてのアンコールは、チャイコフスキー作曲「くるみ割り人形組曲からパドゥドゥ」。興奮している聴衆に、繊細な演奏を聴かせるところがなんとも心憎いですね。つづくアンコール2曲目は同じくチャイコフスキー作曲「くるみ割り人形組曲からトレパック」。運動会のBGMでも使えそうな勢いと活力のある演奏でした。テミルカーノフは上機嫌で、客席に手をさしのべる仕草を繰り返してステージを去りました。

サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団は、さすがにムラヴィンスキーの流れを汲むだけあって、力強い金管楽器がすばらしい演奏を聴かせました。強奏で大きな音が出るとかいうだけではなく、繊細な演奏にも長けていてロシア音楽を伝える数少ない個性的なオーケストラだと思います。ただし、この京都公演が来日公演の初日で長旅の疲れが出たのかミスがやや多く、演奏の精度はあまり高いものではありませんでした。それでも「キエフの大門」で聴かせた金管楽器のすばらしい演奏は強く印象に残りました。次回の来日にも期待しましょう。

ユーリ・テミルカーノフは、今年65歳になるとのことですが、年齢をまったく感じさせない颯爽とした指揮ぶりでした。ただ、ムラヴィンスキーやスヴェトラーノフなどに比べると地味な印象がするのは否定できません。今後の活躍に期待したいです。

なお、演奏会当日に多大なご尽力をいただきました京都コンサートホール職員の方に心より感謝を申し上げます。

(2003.10.5記)


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