京都市交響楽団第511回定期演奏会「第12代常任指揮者就任披露演奏会」


   
      
2008年4月18日(金)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

広上淳一指揮/京都市交響楽団

コープランド/市民のためのファンファーレ
ハイドン/交響曲第104番「ロンドン」
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」

座席:S席 3階 C−2列27番


2008年4月から京都市交響楽団第12代常任指揮者に広上淳一が就任しました。都響プロムナードコンサートNo.305で広上の演奏をはじめて聴いて以来、広上淳一には関心を持っていました。京都市交響楽団第467回定期演奏会の名演も記憶に残っていますが、京都市交響楽団の常任指揮者に就任してくれるとは思いませんでした。うれしいです。京都市に住んでてよかった。広上淳一はアメリカのコロンバス交響楽団の音楽監督を2006年7月から務めていますが、日本のオーケストラで常任指揮者のポストを持つのは京響が初めてになります。
今年度の定期演奏会から、広上のアイデアで、開演前に「プレトーク」が行われます。また、広上が指揮する回では終演後に「レセプション」が行われるとのこと。

常任指揮者就任披露演奏会のプログラムは、コープランド、ハイドン、リムスキー=コルサコフという3曲が選ばれました。京都市交響楽団ではあまり取り上げられない作曲家なので、大友直人時代と違いを見せたかったのかもしれません。

開演に先立ち、18:40からステージ上でプレトーク。広上淳一が私服で登場。マイクで話しました。プレトークを企画した意図としては、「少しでもどんな人が振っているか知ってもらいたい」「(指揮者の)実際の声やしゃべる雰囲気を知ってもらいたい」と話しました。また、終演後のレセプションについても案内しました。続いて、パンフレットを見ながら、今年度の定期演奏会のプログラムを紹介。7月に登場する桂冠指揮者の大友直人とは同い年(1958年生まれ)で、「大友君」「広上君」と呼び合う仲とのことです。「桂冠指揮者と言ってもpoliceman(警官)ではありません」と言って笑わせました。8月に登場する沼尻竜典は「若手で一番期待されている」、11月に登場する下野竜也は「私の弟子。グルダの作品(チェロとブラス・オーケストラのための協奏曲)はおもしろい」と紹介しました。また、4月に就任した京響事務長(吉田真稚恵)と音楽主幹(新井浄)をステージに呼んで紹介。常任指揮者との3人を、毛利元就の「3本の矢」に例えて話しました。さらに、昨日京都でタクシーに乗ったときに、運転手に「楽器は何ですか」と聞かれたので「棒です」と答えた話などを披露。「5分もあれば着替えられます」と言い残して、ステージを後にしました。広上は意外にもよくしゃべりました。客は約8割の入りでした。

プログラム1曲目は、コープランド作曲/市民のためのファンファーレ。金管楽器と打楽器による演奏です。木管楽器の前のところに、左から、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ1の順に一列に並んで立奏しました。広上が登場して団員と一緒に一礼。広上は譜面台を置いて譜面をめくりながら指揮しました(残り2曲も同じ)。金管楽器の旋律は、和音を重視してしっかりハモらせました。朗々と歌う金管楽器と打楽器の鋭い打ち込みとをはっきり対比させました。演奏終了後は、拍手に応えて団員が再入場。

プログラム2曲目は、ハイドン作曲/交響曲第104番「ロンドン」。音量を抑えた演奏で、こじんまりまとまりました。管楽器は聴こえないほど音量が小さい。繊細な音楽作りと書いていいでしょう。広上は、音量よりも質(完成度)を重視したようですが、もっと響きが欲しいです。このアプローチは、残響が少ない京都コンサートホールでは厳しいかもしれません。また、随所でパウゼを長めにじゅうぶん取りました。第4楽章ではいろんな指揮法が飛び出しました。運動性豊かな指揮は見ていて楽しいです。

休憩後のプログラム3曲目は、リムスキー=コルサコフ作曲/交響組曲「シェエラザード」。前任の大友直人に比べると、旋律線をはっきり聴かせました。第1楽章「海とシンドバッドの船」8小節からの木管楽器の全音符の響きが美しい。また、第2楽章「カレンダー王子の物語」109小節のミュート付きトランペットも見事。ただ、もっと大胆に主張してもよいと感じました。同じ旋律が何回も現れる作品なので、もっと多彩な表情を楽しませて欲しいです。音色の引き出しを増やして、色っぽい音色が欲しいです。また、もっと濃厚に色鮮やかに聴かせて欲しいです。演奏技術が高いだけに、もっといろいろ求めたくなりました。

終演後に、大ホールホワイエでレセプションが行われました。どういうイベントなのかまったく分かりませんでしたが、まず団員4人でアンサンブルを演奏。昨年行なっていた開演前の「ロビーコンサート」と同じ形式です。ホール客席から出てきた聴衆は、ドリンクコーナーで買った飲み物を飲みながら、演奏を聴いたり談笑したりしました。500人くらい集まりました。料理はないので、音楽を聴きながら、一緒に演奏会に来た人や団員と交流を深めることが趣旨のようです。
1曲目は、打楽器、ユーフォニウム、ギター、ピアニカという編成。第2曲は「ぞうさん」のアレンジ。トランペット、トロンボーン、ホルン、ピアニカで演奏。もう1曲、全部で3曲演奏しました。その間、聴衆からカメラのフラッシュがたくさん焚かれていました。
広上淳一も私服で登場。打楽器と手拍子で演奏に参加しました。マイクを手にして挨拶。「お客を増やしてホールを満員にして、夢は2回(1プログラム2公演)やりたい」「月に1回レストランに行くみたいに、スケジュールに演奏会を入れて欲しい」と話しました。その後、ビールを片手に「おめでとうございました。乾杯!」と乾杯の音頭をとりました。演奏は3曲で終わり、歓談に入りました。演奏を終えた団員も参加。団員(先生)と楽器を習っている教え子との会話が多く見られました。広上の周りにはサインを求める行列ができていました。21:40頃にレセプションはお開きになりました。初めての取り組みで、日本のオーケストラでも珍しい試みですが、なかなか盛り上がりました。ファンサービスとして喜ばれるでしょう。

いつもの演奏会よりも、聴衆の咳が少なかったので、多くの聴衆は広上の指揮に見とれるように集中して聴いていたようです。「常任指揮者就任披露演奏会」ということで広上が強烈な個性を聴かせるかと思いましたが、期待したほどではありませんでした。やや手探り状態で、京都市交響楽団の課題が見えたように感じました。もっと鮮やかな色彩感が欲しいですし、表情豊かに演奏して欲しいです。まだまだ多くの可能性を秘めているように感じました。さらに充実した演奏が聴けることを期待します。
広上がレセプションで語った「1プログラム2公演」は決して実現不可能ではないでしょう。関西圏では大阪フィルが2公演、兵庫県立芸術文化センター管が3公演を行なっています。京都市交響楽団の魅力をマスコミを利用しながら多くの人に伝えていく必要があるでしょう。
広上の次回の定期演奏会の登場は2009年1月です。国内の他のオーケストラへの客演も多く、常任指揮者なのに京響を指揮する回数が少ないのが残念です。


(2008.4.21記)


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