京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.6「広上淳一×ローマ三部作」


  2025年11月15日(土)14:00開演
京都コンサートホール大ホール

広上淳一指揮/京都市交響楽団
石丸由佳(オルガン)

バーバー/オルガンとオーケストラのための祝典トッカータ
レスピーギ/交響詩「ローマの祭り」
レスピーギ/交響詩「ローマの噴水」
レスピーギ/交響詩「ローマの松」

座席:全席指定 3階C1列25番


広上淳一がレスピーギ「ローマ三部作」を指揮しました。本公演は「第29回京都の秋音楽祭」のイベントで、京都コンサートホール開館30周年記念事業としての開催です。広上淳一は2020年4月から2024年3月まで第4代京都コンサートホール館長を務め、2024年4月からは京都コンサートホールミュージックアドバイザーを務めているので、当然のごとく指揮を依頼されたということでしょう。広上淳一が京都市交響楽団を指揮するのは、京都市交響楽団第692回定期演奏会以来で、1年3ヶ月ぶりです。広上淳一は今年1月から3年の任期で、マレーシア・フィルハーモニー管弦楽団の第5代音楽監督を務めています。

『ぶらあぼ』2025年6月号に掲載された広上淳一のインタビュー記事によると、広上が「ローマ三部作」をまとめて指揮するのは、日本フィルハーモニー交響楽団の正指揮者就任記念演奏会以来で、実に34年ぶりとのこと。広上はローマ三部作について「管弦楽の壮大さと各曲のコンセプトが違う点が魅力。「祭り」はローマの明と暗、「松」はローマの歴史を描き、「噴水」は各地にある噴水に焦点を当てた柔らかめの作品と、異なる材料で連作的な物語を3つ作った点が凄いところ」と語っています。なお、上記の日本フィルとの演奏はCD化されています(1991.9.12,13 サントリーホール)。CDジャケットの広上淳一は髪の毛がフサフサしています。なお、「ローマ三部作」を聴くのは、芝交響楽団京都特別演奏会~すべての道は古都に通ず~以来で、今年2回目です。

京都コンサートホールのX(@KCH_Kyoto)によると、本番3日前の11月12日(水)に石丸由佳によるパイプオルガンのレジストレーションがあり、本番2日前から京都コンサートホールでリハーサルが行なわれました。なお、本公演の前日の夜には、本公演の関連イベントとして、「広上淳一ミュージックアドバイザーによるトークイベント」が前田珈琲京都コンサートホール店で行なわれました。京都コンサートホール・ロームシアター京都Club会員と京響友の会会員が対象で、参加費は無料・要ワンドリンク注文でしたが、定員は30名で、残念ながら落選しました。石丸由佳もゲストで登場したようです。

大ホールのホワイエで、本公演限定のコラボ商品として、京都生まれのデニッシュ食パン専門店「ANDE」(アンデ)のオリジナルデニッシュが販売されました。レスピーギ「ローマ三部作」の各曲をイメージしたとのことで、「ローマの噴水」は、レモンやオレンジの爽やかな甘さと香り溢れるデニッシュ、「ローマの松」は、マスカルポーネや珈琲を使用したティラミス風味のデニッシュ、「ローマの祭り」は、ソーセージやトマト、バジルを使用した食事系のデニッシュで、各120個限定販売で、3個セットで税込2,500円でした。広上淳一の写真入りの丸いラベルが貼られていました。ANDEのパンは、昨年の京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.5「井上道義×ブルックナー交響曲第8番」に続いて2年連続の販売ですが、今回は缶入りではないので、賞味期限が短く、12月3日まででした。なお、株式会社アンデは、京都市伏見区に本社があり、代表取締役社長は意外にも音楽評論も行なっている矢沢孝樹が務めています。

当日券が発売されて全席完売となりました。ポディウム席には客入れはせず畳まれていました。コンサートマスターは会田莉凡(ソロコンサートマスター)。泉原隆志はお休みでした。客演首席ヴィオラ奏者は柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ奏者)。客演首席トロンボーン奏者は桒田(くわた)晃(読売日本交響楽団首席トロンボーン奏者)。

プログラム1曲目は、バーバー作曲/オルガンとオーケストラのための祝典トッカータ。1960年にフィラデルフィア管弦楽団のホールに設置されたオルガンのお披露目のために作曲されました。オルガン独奏は石丸由佳。石丸を聴くのは、井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.3~道義×絶品フレンチと和のコラボ×大阪フィル~以来です。
オルガンの大きなリモートコンソールが指揮台の左側にあります。こんな配置を見るのは初めてで、オルガンがオーケストラと向かい合って演奏することが珍しい。オルガンの鍵盤は4段あり、チェンバロと同じく、白鍵と黒鍵がピアノと逆です。リモートコンソールがあるので、コンサートマスター(ヴァイオリン最前列)の会田が雛壇の一段目に上がっての演奏です。客席からは気がつかなかったのですが、京都コンサートホールのXに掲載された写真では、会田の左前方に映像モニターが置かれていました。オルガンのリモートコンソールがあるので、コンサートマスターから広上の指揮が見えないための措置ですが、こんな対応は初めて見ました。
石丸は細くて華奢な身体。赤のドレスで登場しました。オーケストラの序奏に続いて、オルガンがトランペットみたいな音色でバリバリ弾きます。続いて木管楽器の音色でしたが、これが後述のトークで話された尺八の音色でしょうか。オーケストラの音色はいつもより潤いがあり、広上はうなずきながら指揮。オルガンはオーケストラに負けない音量でした。中盤のカデンツァは石丸が足ペダルのみで低音を演奏。鍵盤は使わずに、両手はイスの両端を持って体勢を保ちます。すごく難しいのでしょうが、いとも簡単に弾くのがすごい。カデンツァの後半はかわいらしい音が聴けました。聴いている分には分かりませんでしたが、拍子が変わるので、演奏も簡単ではないでしょう。どっしりした前座でした。

オーケストラはいったん全員退場。広上が「舞台転換にかなり時間がかかるので」と言って、石丸とステージでトーク。広上が「先にコマーシャル」と言って、「アンデさんのパン」を紹介。「試食したが、おいしかった。ご賞味ください」とPRしました。広上が宣伝したので、休憩時間や終演後は大行列ができました。すごい宣伝効果です。
広上が「客席近くのコントローラーで、足技を見て欲しかった」と話すと、石丸は「本当は手で弾いてもいいが、足でと書いてある」と説明しました。カデンツァでの足さばきを間近で見てもらうために、わざわざこの配置にしたのですね。前座なのに手厚い対応です。石丸は「オルガンシューズは特別なシューズで、つま先とかかとの4ヶ所で弾けるので、足で和音も弾ける」と話しましたが、オルガン奏者の靴の話を聞いたのは初めてで新鮮でした。石丸は「京都コンサートホールのパイプオルガンはでかくて、尺八や篳篥のパイプがある。尺八はさきほど使った」「迫力がすごい。竹のパイプにあるシャッターが2種類使える」と絶賛。本公演の準備は「レジストレーションを前日に5~6時間かけた」「真っ白な楽譜に色塗りをしていくが、センスが問われる」と語りました。「この曲を演奏したのは2回目で、ブラスでも1回ある」とのこと。石丸由佳のYouTubeチャンネル「Organist Ishimaru Yuka(official)」(@YukaIshimaruorgan)に、2015年にシュトゥットガルト州立管弦楽団と共演した動画が掲載されています。
広上は、ローマ三部作について「30歳で日本フィルの正指揮者就任披露演奏会で指揮した。まとめてやるのはそれ以来」と語りました。京響については「2日間の練習は、誠に幸せな気持ちになった。京都市交響楽団は世界に発信できるレベル。おらが町のオーケストラを誇りにしていただきたい」と呼びかけました。

プログラム2曲目は、レスピーギ作曲/交響詩「ローマの祭り」。トーク中にパイプオルガンのコンソールが舞台下手から撤去されて、石丸はこの曲からはオルガンに面した演奏台で演奏。コンサートマスターのイスを雛壇から降ろして、オーケストラもいつものセッティングに戻りました。第1曲「チルチェンセス」冒頭のブッチーナは、パイプオルガンの左にある箱から、トランペット×3が立奏。よく響きます。広上の指揮は跳び跳ねたり躍動的。演奏がうまくいくと、左手の親指を立てて「グッド」を表すのも昔と同じです。第2曲「50年祭」も細部が磨かれて丁寧。82小節からのクライマックスも、弦楽器のみずみずしい音色などいろいろな音が聴こえます。第3曲「10月祭」はゆっくりしたテンポ。この曲でも弦楽器からいろいろな音が聴こえました。その後もゆっくり堂々とした演奏。52小節からのAllegretto Vivaceは、やや速めのテンポ。続く132小節からのヴァイオリンのメロディーが滑らかで最高。マンドリン独奏(大西功造)は、ヴィオラの最後列のステージ側の客席からよく見える位置で演奏しました。第4曲「公現祭」はやや遅めのテンポ。ratchetをよく聴かせます。強奏でも金管楽器の音色がソフト。176小節(Tempo di Saltarello)から普通のテンポ。205小節からのTempo pesante di Valzerでは、広上は3拍子に合わせて指揮台で踊りました。広上の表情がある指揮をひさびさに堪能しました。強奏は貫禄があり、ソロもミスなく見事に決まりました。さすが京響。416小節からのPrestを遅く演奏。広上が振り間違えたのかと思いましたが、ブレーキがかかったみたいな不思議な体験でした。これは広上独自の解釈で、上記の日本フィルを指揮したCDでは聴かれません。

休憩後のプログラム3曲目は、レスピーギ作曲/交響詩「ローマの噴水」。ハープ×2は松村衣里と多嘉代の姉妹でした。休憩後からは石丸由佳は黒い服に着替えて演奏。第1曲「夜明けのジュリア谷の噴水」は繊細。第3曲「真昼のトレヴィの噴水」は、オルガンのペダルのパートがよく聴こえました。第4曲「黄昏のメディチ荘の噴水」はチェレスタが強め。最後の鐘(チャイム)の響かせ方が芸術的でうまい。スコアにはppと記載されているだけですが、こんなに神々しく響いた演奏は初めてでした。宅間さんに拍手。

プログラム4曲目は、レスピーギ作曲/交響詩「ローマの松」。第1曲「ボルゲーゼ荘の松」の冒頭がみずみずしい。90小節からの弦楽器のメロディーとホルンの対旋律の掛け合いが楽しい。テンポアップしながら盛り上がります。第2曲「カタコンバ付近の松」は、5小節からのホルンのpppのsoliが見事。17小節からのトランペットソロはスコアでは舞台裏の指定ですが、「祭り」と同じく箱の中から演奏。ここを伴奏するヴァイオリンの響きがいい。やや速めのテンポで39小節のffへ、強奏はオーケストラは成熟した大人の響きですが、パイプオルガンの音量はもっと出てもよいです。第3曲「ジャニコロの松」は、クラリネットソロを伴奏するヴァイオリンと、フルートソロを伴奏するチェロをよく歌わせるのが広上流です。61小節からスピーカーからいろんな鳥の鳴き声が聴こえてきました。「ピヨピヨ」「クルクル」「チュンチュン」などバリエーションが多く、ナイチンゲール以外の鳥も含まれてそうです。第4曲「アッピア街道の松」のバンダは箱の中から演奏。左からトランペット×2(テナー・ビューグルのパート)、トランペット×2(ソプラノ・ビューグルのパート)、トロンボーン×2が整列しました。広上は跳び跳ねて指揮。終盤では右腕で強烈にパンチするような力がこもったアクション。クライマックスは打楽器が大きい。もう少し打楽器を抑えて、金管楽器を目立たせるほうが私の好みです。

演奏を終えた広上淳一が、ゆっくりと舞台袖に帰っていく姿が懐かしい。16:15に終演。定期演奏会と違って、団員によるお見送りはありませんでした。

上記の日本フィルを指揮したCDは、テンポも速めで、血気盛んで音色も荒々しい。京響を指揮するときもこれくらいハイテンションのほうがいいかもしれません。響きが太くて濃厚ですが、京響のほうが響きに透明感がありました。広上淳一が次に京響を指揮するのは、京都市交響楽団第707回定期演奏会(2026.1.23&24)の予定です。

京都コンサートホール開館30周年を記念して、10月27日に音楽エッセイ本『超楽器』(世界思想社、2200円)が刊行されました。鷲田清一(第5代京都コンサートホール館長)と高野裕子(京都コンサートホールプロデューサー)が編者を務め、16名の文章が掲載されています。表紙が銀色でびっくり。「超楽器」とは、京都コンサートホールを設計した磯崎新の言葉で、「コンサートホールとは、それ自体が響きを生み出すひとつの大きな楽器です」と、2020年の開館25周年のメッセージで寄せていたとのこと。磯崎は2022年に91歳で亡くなりました。
「執筆者にはコンサートホールをふくめたそれぞれの音楽の経験について自由な視点から書いていただいた」とのことで、広上淳一も「指揮者としての原点」という文章を寄せています。小学校や中学校で何度も転校したことや、中学校では吹奏楽クラブでティンパニを叩いていたこと、東京藝術大学を受験するために二浪したことなど、あまり語られていなかったことが書かれていて大変興味深い。なお、京都コンサートホールや京都市交響楽団については何も触れていません。また、沖澤のどかは「果てしない音楽の旅」で、京都市交響楽団を初めて指揮した京都市交響楽団第661回定期演奏会前後の心境が綴られていて、読んでいてうれしくなりました。
残念ながら、京都コンサートホールの開館に大きくかかわった井上道義からの寄稿はありません。まさか打診しないとは考えられないので、本人が固辞したのでしょうか。とても残念ですが、通崎睦美の「京都が生み出す、木琴の音色」に少しだけ登場します。岡田暁生は「コンサートホールの「ざわめき」を考える」の最後に想像がすごく膨らんで、すごいことを書いていますが、コンサートホールをこういう感性で捉えている人は珍しいでしょう。佐渡裕は「第九から始まる心と街の復興」で、阪神・淡路大震災後にドイツでチャリティーコンサートの指揮を依頼されて、ベートーヴェンの「第九」を指揮したことが書かれています。京都コンサートホールが建設された経緯や設計については、五十嵐太郎「磯崎新の建築における音楽空間」と豊田泰久「磯崎新さんと京都コンサートホール」に詳しい。高野裕子「京都コンサートホールのこれまでとこれから」には、2025年に開館以来の来場者が700万人を超えたと書かれています。他にも、山極壽一「ジャングルとコンサートホール」、堀江敏幸「一度しかない出来事を繰り返すよろこび」、三宅香帆「奏でるよりも聴くことで」、彬子女王「神々に届く音」、岸田繁「魔法の音楽」、小沼純一「ゆらいとみらい、旋律の」、金剛永謹「ワーグナーの楽劇から広がる世界」、鷲田清一「楽器を超える楽器」を収録しています。京都コンサートホールや京都市交響楽団を愛する方には必読の一冊です。

ANDE(京都生まれのデニッシュ食パン) ANDE販売の行列 Re.Nova北山(リノヴァ北山)から京都コンサートホールを望む ANDEコラボデニッシュ ANDEコラボデニッシュ

(2025.12.18記)


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