京都市交響楽団第692回定期演奏会


  2024年8月24日(土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

広上淳一指揮/京都市交響楽団
藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)
京響コーラス(女声)、京都市少年合唱団

マーラー/交響曲第3番

座席:S席 3階C2列24番


広上淳一が京都市交響楽団を指揮して、ついにマーラー「交響曲第3番」を演奏しました。もともと広上淳一が京都市交響楽団第13代常任指揮者兼音楽顧問として指揮する最後の定期演奏会(京都市交響楽団第665回定期演奏会)で演奏される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で京都市少年合唱団の出演が困難になったため、マーラー「交響曲第1番「巨人」」他に変更されました。実に約2年半ぶりのリベンジとなります。広上淳一は現在は、オーケストラ・アンサンブル金沢アーティスティック・リーダー、日本フィルハーモニー交響楽団フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)、札幌交響楽団友情指揮者、京都市交響楽団 広上淳一、京都コンサートホールミュージックアドバイザー、東京音楽大学指揮科教授を務めています。いまだにプロフィールに「京都市交響楽団 広上淳一」と記載されていますね。

京都市交響楽団楽団長の松井孝治京都市長がX(@matsuikoji)で、本公演はホール練習を1日増やすと6月21日に報告していて、8月20日(火)に京都市交響楽団練習場でリハーサル初日、21日(水)と22日(木)は京都コンサートホールでリハーサル、23日(金)にゲネプロと1日目の本番となりました。23日(金)の「フライデー・ナイト・スペシャル」で、特別にフルボリューム(2日目の公演と同じプログラム)で、開演もいつもより30分早めて、19:00開演。1日目のチケットは8月10日に完売しましたが、2022年度から始まった「フライデー・ナイト・スペシャル」のチケットが完売したのは初めてです。私が聴いたのは2日公演の2日目で、チケットは早くも7月2日に完売しました。

京都市交響楽団の定期演奏会を聴くのは、4月(第688回定期演奏会)から5公演連続です。京響友の会「チケット会員」の「セレクト・セット会員(Sセット)」の4枚のクーポンは、前回の第691回定期演奏会で使い切ってしまったので、もう1セット購入しました。京都市交響楽団のホームページから申し込んで、所定の銀行口座に振り込むと、会員番号とクーポンIDが新しく届きました。ただし、プログラムの会員御芳名には「2口」とは書かれないし、毎月の郵送での公演情報の送付も1通だけで、意外に合理的です。いつものように「入場用QRコード」をスキャンして入場します。

14:00からプレトーク。「一人だとさびしい」ということで、広上淳一と音楽評論家の奥田佳道が登場。広上は水色の半袖Tシャツを着ていて、ヒゲは剃っていました。広上は「京都コンサートホール2024年度主催事業ラインアップ発表会」が行なわれた今年2月頃からヒゲをはやし始めて、7月の仙台フィルハーモニー管弦楽団第374回定期演奏会の頃はヒゲボーボーになっていましたが、8月13日の京響コーラスと京都市少年合唱団との合唱練習ではきれいに剃っていました。奥田佳道は「京都市交響楽団がリリースしたライブCDの解説を書いている」と自己紹介。続けて「マーラー第1番に変更になった2年5ヶ月前の第665回定期演奏会のプレトークで、第3番をいつ指揮できるかお話ししたが、広上は約束を守る指揮者」と広上を讃えました。確かに当時の広上は「2〜3年後に演奏したい」と話しているので、その通りになりました。広上は「沖澤さんの新しい時代になった。今思い返すと、代わりに尾高先生の合唱曲を演奏できたし、マーラー1番は京響の躍進のきっかけとなった曲で、あれは正解だった」と第665回定期演奏会の変更後のプログラムを振り返りました。また「藤村さんも今日は7分だけだが、「リュッケルトの詩による5つの歌曲」のほうがは20分で出番が多い」と話しました。

奥田が曲目解説。「6つの楽章があり、演奏時間は約100分。1楽章は30分あって長く、モーツァルトなどの交響曲1曲分くらいある。2楽章、4楽章、5楽章はとても短い。ソロがたくさん聴ける。京都市交響楽団が演奏するのは大野和士が指揮して以来」と説明。大野和士が第548回定期演奏会(2011.7.24)で指揮しましたが、広上は「やりたかったけど譲った」と明かしました。広上にとってマーラー3番は「首席客演指揮者を務めていたロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団で指揮して以来20年ぶりくらい。日本では昨日と今日が初めて」と話しました。ちなみに、広上淳一は京都市交響楽団と、マーラー「交響曲第8番「千人の交響曲」」は指揮しました(2017.3.25&26 第610回定期演奏会)。京都市交響楽団にとっても約13年ぶりの演奏ですが、広上は「リハーサルでは、晩年のカルロ・マリア・ジュリーニのように「ありがとう」と言ってるだけ。指揮台の上で何もしていない。もうできあがっている。世界クラスのオーケストラ」と絶賛しました。

最後にクラウドファンディングの案内。「2026年3月22日に京都市ジュニアオーケストラが石川県立音楽堂でチャリティーコンサートを開催する。京都コンサートホールのスタッフが企画してくれた。金沢では1~6月で600万集めたが、今回のクラウドファンディングは300万円を3ヶ月間で達成する目標で、募金箱がロビーにある」と紹介。ロビーで京都市ジュニアオーケストラのメンバーがクラウドファンディングの呼びかけをしていました。プレトークは20分で終了。開演前の客席の私語はなく、緊張感がありました。

コンサートマスターはひさびさの石田泰尚(特別客演コンサートマスター)。隣に泉原隆志(コンサートマスター)。客演首席ヴィオラ奏者は大野若菜。ソロ首席チェロ奏者の上村昇がひさびさのご出演。半円形の雛壇を客席に近づける広上シフトの4管編成で、ティンパニ×2やハープ×2など、ステージに並んでいる楽器やイスを見るだけでも壮観で、期待が高まります。広上はメガネをかけて指揮。

広上が常任指揮者を退任してから2年半経ちましたが、オーケストラとの一体感は以前と変わりません。広上は踊るような指揮で、指揮を見ているだけで楽しい。打楽器が以前より強めなのは沖澤の影響でしょうか。ヴァイオリンの後ろに配置されたハープ×2の存在感が大きくよく聴こえます。

第1楽章について、プレトークで奥田は「行進曲調で始まる。神と対話するトロンボーンソロがすばらしい」と解説。楽章全体で、トランペットと木管楽器のフレーズとホルンのメロディーの3つの動機が有機的に絡み合います。何回も登場するので耳に残りました。91小節からのトロンボーンのグリッサンドを聴かせます。132小節からのフルートとヴァイオリンの繊細な響きが京響らしい。166小節からトロンボーンの長いソロ。今年3月に岡本哲が退団して、首席トロンボーン奏者が空席になっているため、トロンボーン奏者の戸澤淳が演奏しましたが、ブラボー。2025年4月採用で首席トロンボーン奏者1名を募集中ですが、彼でいいのではないでしょうか。315小節(練習番号26、Schwungvoll)から、ポディウム席の後ろ(パイプオルガンの前)の指揮者の対面に、小太鼓(Kleine Trommel)×3が置かれていて、3名の奏者が登場。演奏が終わると帰りました。この3名の出番はこれだけでした。スコアでは舞台裏で演奏するように指示があるようですが、3台で演奏したのは、広上のオリジナルの解釈でしょう。863小節(練習番号75、Drängend)からは見事な合奏力。

第1楽章が終わると、合唱団がポディウム席に入場。前2列が京都市少年合唱団。選抜グループの「響(ひびき)」で、中学3年から小学5年までの35名が出演。男子よりも女子のほうが多い。後ろ2列が京響コーラス(女声)で、ソプラノ27名、アルト22名。オーケストラはチューニング。

第2楽章は、ヴァイオリンがなめらかな響き。広上はテンポを揺らしましたが、オーケストラが指揮によくついていっています。第2楽章が終わると、またチューニング。藤村実穂子が紫のドレスで登場。指揮台の左前のイスに座りました。

第3楽章について、プレトークで広上は「ポストホルンは演奏するのが難しい楽器」と説明。奥田は「トランペット副首席奏者の稲垣路子が演奏する。どこから聴こえてくるかお楽しみに」と話しましたが、前日のプレトークでは広上がネタバレしてしまったようです。ポストホルンは255小節から出番で、上手の舞台裏から聴こえました。スコアの指定はpppですが、やや大きめ。トランペットと同じ伸びやかな音色でしたが、演奏する姿が見たかったです。稲垣にブラボー。バランスなどはホール練習のたまものでしょう。557小節(練習番号32、Sofort wieder Tempo I (Nicht eilen))からの終結部がすばらしい。

第4楽章から第6楽章まで休みなく続けて演奏されます。第4楽章について、プレトークで奥田が「藤村実穂子がニーチェのツァラトゥストラの歌詞で、いきなり「おお人間よ」と歌う」と紹介。広上も「今の人類に語りかけている。藤村の美声に酔いしれる」と話しました。もともとアルトが独唱しますが、藤村実穂子はメゾ・ソプラノで58歳ですが、よく通る声で若々しく声量も十分でした。イングリッシュホルンとオーボエが悩ましげにグリッサンド(スコアに「hinaufziehen(引っぱり上げる)」の指示があります)。

第5楽章は、プレトークで奥田は「京響コーラスの女声三部合唱と京都市少年合唱団が「ビンバン」と鐘の音を歌う」と解説。合唱団が起立して「ビンバン」と歌います。グロッケンシュピールや鐘も加わって華やか。45小節(練習番号4)から、藤村は交響曲第4番の第4楽章と同じメロディーを歌いました。最後はフルート×4が全員ピッコロに持ちかえて演奏。

第6楽章は弦楽器のアダージョで開始。74小節からのホルンとヴァイオリンの掛け合いで高揚して、広上は指揮台を左右に激しく動きました。プレトークで奥田は「昨日は広上が指揮台から落ちそうだったので、今日は指揮台の後ろに柵がついた」と話していましたが、それもうなづけるほどで、広上は両腕で持ち上げるようなアクションで力一杯の指揮。1つの曲とは思えないほど楽章によってだいぶ曲想が異なり、第6楽章はマーラー「交響曲第9番」の第4楽章に似ています。280小節には第2ヴァイオリンとヴィオラに2拍5連符も登場します。マーラー9番を広上の指揮で聴きたくなりました。ティンパニ×2が華々しく叩かれて、フェルマータの余韻が消えたあとに拍手。この沈黙に広上と京響の14年間が詰まっているように感じて、ぐっときました。まさに広上と京響の集大成と言える演奏でした。

カーテンコールでは稲垣がポストホルンを持って登場。ものすごく小さい楽器で、頭と同じくらいの大きさです。合唱指揮の浅井隆仁も登場しました。16:30に終演。気がつきませんでしたが、松井市長もお見送りに立たれていたようです。

演奏時間が長い上に、4管編成のオーケストラが必要で、ポストホルンは第3楽章だけ、独唱は第4楽章と第5楽章だけ、女声合唱と児童合唱は第5楽章だけというように、コストパフォーマンスが悪いので、頻繁に演奏されるとは思えないので、貴重な経験をしました。聴けてよかったです。上述したようにホール練習を1日増やしたこともあって、バランスなどの細部にも行き届いた名演でした。

なお、地下鉄北山駅にJEUGIAが設置した楽器の自動販売機では、マーラー「交響曲第3番」のミニチュアスコアが販売されていました。京都市交響楽団のX(@kyotosymphony)によると、広上淳一も見つけて「おおすごい!」と喜んだようですが、この日の開演前にすでに売り切れでした。小太鼓やポストホルンなどの演出効果も含めて、この作品に興味を持った人がおられたようです(私もその一人)。

余談ですが、『音楽の友』2024年9月号に、「あなたが選ぶ クラシック・ベストテン2024」が掲載されました。読者アンケートの投票の結果、なんと石田泰尚が「好きなクラシック音楽家」と「好きなヴァイオリニスト」と「好きな日本人ヴァイオリニスト」の3項目で1位に輝きました(「好きなクラシック音楽家」はベートーヴェン(!)と並んで同率1位)。「好きな室内楽グループ」でも石田組が1位で、『音楽の友』購買層では人気のすさまじさを示しています。ちなみに、京都市交響楽団は「好きなオーケストラ」16位、「好きな日本のオーケストラ」9位(関西のオーケストラでは1位)。広上淳一は「好きな指揮者」17位、「好きな日本人指揮者」8位。沖澤のどかは「好きな日本人指揮者」9位でした。

 

(2024.9.3記)

 

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