セイジ・オザワ 松本フェスティバル スクリーンコンサート
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2025年6月6日(金)14:00開演 京都コンサートホールアンサンブルホールムラタ
第1部 小澤征爾永世総監督 松本で紡いだ奇跡
第2部 ブラームス/交響曲第1番 ブラームス/交響曲第2番 沖澤のどか指揮/サイトウ・キネン・オーケストラ
座席:全席自由
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昨年のセイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)で、沖澤のどかがサイトウ・キネン・オーケストラを指揮した演奏を上映するスクリーンコンサートが開催されました。スクリーンコンサートの主催は、セイジ・オザワ 松本フェスティバル実行委員会、松本市国際音楽祭推進団体協議会。沖澤のどかは、2024年2月にセイジ・オザワ 松本フェスティバルの首席客演指揮者に就任しました。
このスクリーンコンサートは、「セイジ・オザワ 松本フェスティバルの開幕に先駆け、大きな反響を呼んだ昨年の熱演を上映」ということで、青森市(2025.5.13 リンクモア平安閣市民ホール)、京都市(本公演)、名古屋市(2026.6.21 Hisaya odoriPark メディアヒロバ)、豊中市(2025.6.27 豊中市立ローズ文化ホール)の全国4ヶ所で行なわれました。青森市。京都市、名古屋市では初めての開催とのこと。豊中市のみ上映される映像が異なり、小澤征爾が指揮した映像の抜粋でした。
入場は無料でしたが、京都会場では整理券が必要でした。定員は500名で、4月19日から京都コンサートホールのチケットカウンターで配布されました。
京都市交響楽団第699回定期演奏会で行ったときに、チラシを見つけて、すぐに整理券をもらいました。沖澤のどかは再来週に「京都市交響楽団第701回定期演奏会」(2025.6.20&21)を指揮しますが、その前の週(来週)には東京交響楽団を2公演指揮するために、そろそろ来日する頃で、もしかしたら沖澤のどか本人がサプライズで登場するかもしれないと思ったのですが、残念ながら沖澤のどか本人の出演はありませんでした。
当日券も配布されましたが、平日の午後なのにけっこうお客さんは集まって、7割くらい。やはり京響で常任指揮者を務める沖澤のどかへの関心が高いということでしょう。ロビーには写真パネルも展示され、OMFのグッズも販売されました。アンサンブルホールムラタのステージ奥に、スクリーンとその左右にスピーカーが設置されました。映像制作は長野朝日放送。客席の照明が消えて上映開始。
第1部は「小澤征爾永世総監督 松本で紡いだ奇跡」。女性のナレーションで映像が進行。1992年に小澤征爾がサイトウ・キネン・フェスティバル松本を立ち上げて総監督になり、2015年に「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」改称しました。小澤征爾は2024年2月に88歳で亡くなり、松本市に献花台が設置されました。なお、小澤の肩書が「永世総監督」になったことが発表されたのは2025年3月です。
1999年に小澤が自宅で記者会見。この頃の小澤は髪も黒くて若い。フェスティバルを松本で開催することになった経緯について、小澤は「都会から離れた音楽祭を日本でやりたいと思った。開催地を募集したが、応募が来なかったが、観光地がある松本に選んだ」と話します。奈良も候補地だったことには触れられません。ここから「秘蔵映像を紹介」ということで、小澤征爾の松本でのオフショット映像。小澤はそばが好きなようで自分で蕎麦打ちに挑戦したり、オフの日にボーリングを楽しんだり、ボランティア研修会にサプライズで登場したり。フェスティバルの野外アンサンブルを聴いていた小澤が突然ステージに上がって指揮。小澤は「モーツァルトのディヴェルティメントを聴いて、斎藤先生を思い出した。次にいつ指揮できるか分からないから指揮した」と話します。
2010年のリハーサル。チャイコフスキーの弦楽セレナーデの第1楽章が始まりますが、この日は小澤征爾の75歳の誕生日で、途中で演奏が「ハッピーバースデートゥーユー」に変わります。小澤は指揮台で「なんだよー」と照れます。小澤は「フェスティバルを作ったときに、自分の誕生日(9月1日)が含まれていることを忘れていた。毎年すいません」と語ります。2016年の「こどものための音楽会」では、体育館でオーケストラを指揮して、小澤が「うさぎ追いしだよ」と促して、客のこどもたちが「ふるさと」を歌います。また、指揮レッスンを指導。「運命」第1楽章の冒頭で「耳で指揮する」と話します(どういうことでしょうか?)。コンサートマスターを務める矢部達哉のインタビューでは、「小澤は亡くなったが、見守られている」と話し、「小澤の指揮は必要な全情報が発信されている」と振り返ります。
フェスティバル史上初の首席客演指揮者に就任した沖澤のどかの2024年6月に行なわれた記者会見の映像。沖澤は「2022年にフィガロの結婚を指揮した後に小澤から言われた。小澤と斎藤先生が残したものをオーケストラと掘り下げていきたい」と語ります。小澤も生前のインタビュー映像で「何としてもフェスティバルを続けていきたい。次の人にバトンタッチする」と語っていて、その次の人が沖澤のどかだったというわけですね。ただし、沖澤のどかの肩書は総監督ではなく、首席客演指揮者なので、完全にバトンタッチできたわけではないでしょう。
そのまま第2部へ。第2部は、沖澤のどかがサイトウ・キネン・オーケストラを指揮したブラームスの交響曲第1番と第2番のライヴ映像です(2024.8.16 キッセイ文化ホール(松本市文化会館))。「オーケストラ コンサートBプログラム」(2024.8.16&17)の初日に演奏されました。このスクリーンコンサートでの説明はありませんでしたが、もともとこの演奏会は、アンドリス・ネルソンス(ボストン交響楽団⾳楽監督、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団ゲヴァントハウス・カペルマイスター)が第1番から第4番までの全曲を指揮する予定でしたが、ネルソンスが健康上の理由で降板したために、「オーケストラ コンサートAプログラム」(2024.8.10&11)を指揮した沖澤のどかが引き続いて、第1番と第2番を指揮することになりました。なお、本公演は2024年12月にCD化されていて、ロビーでも販売されました。ちなみに、「オーケストラ コンサートCプログラム」(2024.8.21&22)は、交響曲第3番を下野竜也が、第4番をラデク・バボラークが代役で指揮しました。沖澤のどかは
京都市交響楽団第677回定期演奏会「常任指揮者就任披露演奏会」の2日目で、ブラームス「交響曲第3番」を指揮しました。
プログラム1曲目は、ブラームス作曲/交響曲第1番。オーケストラの入場から収録されていて、拍手の中をメンバーが入場。コンサートマスターは豊嶋泰嗣(京都市特別名誉友情コンサートマスター)。京響関連では第2ヴァイオリンで会田莉凡(特別客演コンサートマスター)が沖澤の真正面で演奏。ヴィオラの店村眞積(ソロ首席ヴィオラ奏者)、チェロの山本裕康(特別首席チェロ奏者)が出演しています。他には、第1ヴァイオリンで林七奈(大阪交響楽団ソロコンサートマスター)、第2ヴァイオリンの直江智沙子(神奈川フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席奏者)がかわいい。ホルンのトップがラデク・バボラーク。クラリネットのトップがリカルド・モラレス(フィラデルフィア管弦楽団首席クラリネット奏者)は、スキンヘッドでメガネをかけていて、いかにも個性が強そう。メンバーは外国人も多く、まとめるのが大変でしょう。ステージはあまり広くないですが、客席は2000席もあって多い。
沖澤がやや緊張気味に登場。
京都市交響楽団第691回定期演奏会でもつけていた辻徳の髪飾りを着けていました。沖澤は堂々とした指揮で、笑顔はなく、真剣で険しい表情です。カメラアングルは豊富ですが、トゥッティはマイクに演奏が収まっていないようで、混濁気味です。多種多様なメンバーの長所や個性を殺さない演奏で、響きが引き締まっています。聴きどころが多く、生演奏で聴きたいと思わせる演奏でした。
第1楽章は177小節からホルンが高らかに鳴ります。第2楽章も響きが分厚い。第4楽章は30小節からバボラークのソロが力強く高らかで威厳があります。オーケストラも興奮が抑えられないようで、燃焼度が高い。第4楽章の最後で沖澤はやっと笑顔になります。演奏後は沖澤の目が少し潤んでいます。客席は熱狂的な拍手喝采。カーテンコールの途中で映像はフェードアウトして、15分の休憩。静止画で2025年6月14日からチケット販売開始の案内が出ました。
休憩後のプログラム2曲目は、
ブラームス作曲/交響曲第2番。この曲もオーケストラの入場から始まりますが、沖澤も一緒に登場しました。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅦで小澤征爾もオーケストラと一緒に入場したことを思い出しました。沖澤とオーケストラが全員で礼。弦楽器は第1番から席替えして、コンサートマスターが矢部達哉に交代してチューニング。豊嶋泰嗣が第2ヴァイオリンのトップの席に移動。その隣が会田莉凡で、京響のコンサートマスター2人が第2ヴァイオリンで隣に並んでいるのが貴重です。管楽器は第1番と同じメンバーです。
沖澤のスタンスは第1番と変わりません。常設のオーケストラではなく、しかも代役の指揮できちんとまとめているのは評価できます。第1楽章は、コントラバスがよく聴こえて存在感がありますが、思いのほか長く感じました。第2楽章はもう少しスマートな響きのほうがよいでしょう。弦楽器はもう少し小編成でもよかったでしょうか。第3楽章は22小節と23小節の間や、218小節と219小節の間のフェルマータでしっかりパウゼを取りました。速いテンポは躍動的。第4楽章の冒頭はコントラバスの内声がよく聴こえます。やや速めのテンポで、パッションが弾けとぶような音色です。沖澤は最後はいい笑顔です。カーテンコールでは、沖澤はバボラークを真っ先に立たせました(第1番でもそうでした)。客席はスタンディングオベーションの盛り上がり。オーケストラが退席する途中で、映像はぶちっと終わりました。16:10に終演。
今年のセイジ・オザワ 松本フェスティバルで、沖澤のどかはブリテンのオペラ「夏の夜の夢」を指揮します(2025.8.17&20&24)。オーケストラコンサートは、アレクサンダー・ソディとクリストフ・エッシェンバッハが指揮します。なお、9月1日(月)に開催される予定だった東京特別公演「サイトウ・キネン・オーケストラ東京特別公演-小澤征爾生誕90年を祝うー」(すみだトリフォニーホール)は中止されることが5月14日に発表されました。中止の理由は「協賛金額が目標額に届かなかったため」とのことです。エッシェンバッハがマーラー「復活」を指揮する予定でしたが、やはり小澤征爾というネームバリューは大きかったので、亡くなった後も維持するのが少々大変なのかもしれません。京響ファンなら沖澤のどかを応援するしかないですが、京都から松本に行くのは時間がかかりますね…。大阪から3時間10分、名古屋からでも2時間かかるようです。
なお、この日はひさびさに京都コンサートホールに行きましたが、ホール北側のエリアが工事中でびっくり。どうやら住宅展示場が建設されるようですね。
マエストロ井上道義によるスペシャルトークイベントで、井上は「跡は公園になるようだが、変なものが建たないように祈っている」と話していたので、井上が知ったら嘆きそうです。京都府立総合資料館が取り壊されて、せっかく北山通りからの見晴らしがよくなったのに残念。