関西フィルハーモニー管弦楽団住友生命いずみホールシリーズVol.60「鈴木優人のベートーヴェン・ヒストリー1」


  2025年6月7日(土)15:00開演
住友生命いずみホール

鈴木優人指揮/関西フィルハーモニー管弦楽団
上原彩子(フォルテピアノ)

ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番
ベートーヴェン/交響曲第1番

座席:S席 O列12番


関西フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者の鈴木優人が、ベートーヴェンの交響曲全曲を演奏するシリーズ「鈴木優人のベートーヴェン・ヒストリー」が始まりました。鈴木優人は2023年4月に首席客演指揮者に就任しましたが、2027年のベートーヴェン没後200年に向けて、今回から3年間をかけて全曲を演奏します。全9回シリーズで、今年度の3回では、交響曲第1番から第3番までを順番に取り上げます。また、一緒にピアノ協奏曲の第1番から第3番まで演奏されますが、古楽器のフォルテピアノで演奏されるのが注目されます。古楽器でも活躍する鈴木ならではの企画です。なお、奇しくも、今年度は、大阪フィルハーモニー交響楽団と日本センチュリー交響楽団でもベートーヴェンの交響曲を取り上げます。

鈴木優人が指揮するベートーヴェンの交響曲は、関西フィルハーモニー管弦楽団「第九」特別演奏会で第九を聴きました。関西フィルは、関西フィルハーモニー管弦楽団第354回定期演奏会「グロリオーザ…ローマの栄光&神尾真由子の十八番」に続いて聴きます。チケットは、関西フィルWEBチケットで購入して、ファミリーマートで発券できました(手数料は150円)。

ホールではフォルテピアノが調律中でした。続いてオーケストラのメンバーが音出し。お客さんの入りは8割くらい。オーケストラのメンバーが入場してから、鈴木優人が登場してプレトーク。プログラムにも「指揮&お話」となっていて、京都市交響楽団第656回定期演奏会でも感じましたが、鈴木はトークがうまい。上原彩子もトークに登場してびっくり。各曲の解説は後述します。鈴木は「今日ここに来た人だけに、2公演のセット券が割り引きで販売される」とプラカードを持ってアピール。「後で売れているか確認しに行く」と言って笑わせました。当初から3公演セット券も発売されましたが、本公演のお客さんをさらに囲い込もうというねらいで、商売がうまい。「最後まで一緒に走ってください」と全曲鑑賞をさりげなく呼びかけました。

コンサートマスターは木村悦子(コンサートマスター)。その隣に堀江恵太(アソシエイト・コンサートマスター)。弦楽器は、左から、第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンの対向配置。コントラバス×4を雛壇の最後列に1列で並べました。ホルン×4がコントラバスの左。第2ヴァイオリンの後ろにトランペット×2。その後ろにトロンボーン×3。ティンパニはトランペットの奥で、バロックティンパニを使用しました。

プログラム1曲目は、ベートーヴェン作曲/序曲「レオノーレ」第3番。プレトークで鈴木は「ピアノ協奏曲第1番と交響曲第1番と同じハ長調で書かれている。自分が14歳で初めてオーケストラを指揮した曲なので感慨深い。ベートーヴェンには珍しくトロンボーンが加わるので、幕開けにふさわしい」とコメント。
次の曲で使うフォルテピアノを置いたままフタを閉めて演奏。ピリオド奏法ではなくスタンダードな演奏解釈ですが、弦楽器と管楽器があまりハマっていません。木管楽器のソロが少し硬い。中盤のトランペットソロ(スコアではTromba in B auf dem Theator. )は舞台裏ではなく、下手正面のバルコニーから演奏しました。

プログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/ピアノ協奏曲第1番。フォルテピアノは、上原彩子。プレトークで鈴木は「関西フィルは初めてフォルテピアノと演奏する」と話して、「事前に話はつけてある」ということで、上原彩子が私服で登場。上原は声がかわいい。「関西フィルとは7年くらい前に皇帝をモダンピアノで演奏した」と話しましたが、「Meet the Classic Vol.36」(2018.1.19 いずみホール)で、藤岡幸夫の指揮で共演しました。さらに、鈴木は「上原とはチャイコフスキーの協奏曲で共演したことがある」と話したのでびっくり。調べたところ、九大フィルハーモニー・オーケストラ特別記念演奏会(2018.8.18 サントリーホール)で共演していますが、どんな演奏だったのか気になります。鈴木からモダンピアノとフォルテピアノの違いについて聞かれると、上原は「音量が違う。耳に繊細に広がる 。音が軽やかで18世紀の感覚がよみがえる」と話しました。鈴木も「耳が研ぎ澄まされて、家に新しいペットが来た感覚。どう扱えばよいか」とユニークな例えで表現しました。
使用するフォルテピアノは、プログラムによると、シュタインモデル ドイツ ノイペルト社1989年製。楽器の製作年代はそんなに古くありません。楽器の色も黒色ではなく木の色のままで、鍵盤は白鍵と黒鍵の色が逆です。プログラムに印刷されたQRコードを読み込むと、梅岡楽器サービスのレンタル用フォルテピアノのページが表示されました。5オクターブで61鍵で、いつものピアノよりも鍵盤が少ない。足で踏むペダルはありませんが、膝レバーが2本あるとのこと(どこにあるのか分かりませんでした)。
オーケストラのメンバーが少し減って、上原がエメラルドグリーンのドレスで登場。オーケストラは意識的にビブラートが少なめで、超繊細な音楽づくり。音量は小さめで、スピード感をつけて演奏しました。フォルテピアノはモダンピアノと音色がまるで違います。深みがなく、大正琴みたいな音色です。チェンバロに似ていて、聴いたことがないような音色で戸惑いましたが、作曲当時はこのくらいの音量で演奏されていたということでしょう。上原はカデンツァもスラスラと弾いていきます。第2楽章はいつものグランドピアノのほうが表現の幅が広い。続けて第3楽章は、速めのテンポで上原が弾きはじめて、強めの打鍵が炸裂。ピアノとオーケストラが一緒に音楽を作っていく生演奏のよさや、楽しいコミュニケーションを堪能できました。このくらいの中規模ホールで聴けたのもよかったです。上原彩子はX(@ayako_uehara_pf)で、「モダンピアノでは浮かんでこない色や表現が、フォルテピアノだと溢れてきますね」と綴っています。

拍手に応えて、上原がアンコール。ベートーヴェン作曲/ピアノ・ソナタ第14番「月光」第3楽章。速めのテンポで勢いよく演奏。響きが少ないので、作品の構造が分かりやすく、ムダなものがありません。上原は2024年から8年間をかけて、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会が進行中です。休憩中にフォルテピアノを撤収しましたが、楽器に車輪がついていないので、男性3人が持ち上げて撤収しました。ピアノが撤去されると、指揮台の側面の「Supported by 阪急電鉄株式会社」のラベリングがお目見えしました。

休憩後のプログラム3曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第1番。プレトークで鈴木は「当時の聴衆はびっくりした。それはハ長調なのに最初の和音がヘ長調だから」と解説しました。ビブラートはいつも通りですが、響きがスマートで、このホールの響きにあった演奏。ただし、フルートはもう少し音量を落としてもいいでしょう。第2楽章も風通しがよく、音程も揃って、流麗な響き。第3楽章は速めのテンポ。続けて第4楽章はやや速めのテンポで躍動感があります。不純物がありませんが、もう少し細部をデフォルメしてもよいでしょう。最後はややリタルダンド気味に終わりました。
カーテンコールの最後は、鈴木とオーケストラメンバーが全員で礼。17:00に終演。

関西フィルハーモニー管弦楽団は、2004年から「いずみホールシリーズ」を開催しています。ホールのキャパシティに合っていて心地よい響きでした。この「鈴木優人のベートーヴェン・ヒストリー」は、日本センチュリー交響楽団が完走した「ハイドンマラソン」のように演奏が向上する効果が期待できるでしょう。横の流れを重視した演奏でしたが、もう少しユニークさも欲しいです。ちなみに、本公演の翌日の6月8日が総監督・首席指揮者を務める藤岡幸夫の誕生日のようで、関西フィルハーモニー管弦楽団のX(@kansaiphil)には、鈴木が指揮する壮大な「ハッピーバースデートゥーユー」の演奏動画が掲載されました。練習拠点の門真市民文化会館ルミエールホール大ホールで撮影されていて、オーケストラ全体がいい雰囲気で、ほほえましいです。なお、鈴木は翌週には京都市交響楽団オーケストラ・ディスカバリー2025 「発見!メモリアルイヤーの作曲家」第1回「音楽と物語と」を指揮しました。

 

ケヤキ並木 住友生命いずみホール モニター映像(開演前) 本日のアンコール曲

(2025.6.16記)

 

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