京都市交響楽団第698回定期演奏会
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<京響友の会会員イベント>
2025年3月13日(木)15:00開演 15:00~16:00 「第698回定期演奏会」練習風景公開 藤倉大/ダブル協奏曲―ヴァイオリンとフルートのための <日本初演> 16:15~17:15 トークセッション 座席:自由 <京都市交響楽団第698回定期演奏会> 2025年3月15日(土)14:30開演 沖澤のどか指揮/京都市交響楽団 藤倉大/ダブル協奏曲―ヴァイオリンとフルートのための <日本初演> 座席:S席 3階C3列13番 |
沖澤のどかの京都市交響楽団常任指揮者就任2年目のシーズンの締めくくりです。沖澤は昨年11月の第695回定期演奏会を指揮する予定でしたが、第二子出産のため、鈴木雅明が代役で指揮しました。本公演は、産休明けの復帰公演となります。14日(金)の夜公演と、15日(土)昼の2日公演で、2日目に聴きに行きました。プログラムはR.シュトラウス「英雄の生涯」が共通で、1日目の「フライデー・ナイト・スペシャル」では、藤倉大作曲/ダブル協奏曲の代わりに、韓国出身の女性作曲家の陳銀淑(チン・ウンスク)作曲/スビト・コン・フォルツァ(Subito con forza)が演奏されました。なお、2022年度から始まった「フライデー・ナイト・スペシャル」は今回で終了します。また、本公演の翌日には、同じプログラムで、沖澤にとっては初めての西宮公演(兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール)が行なわれました。
沖澤は本公演を指揮する前には、2月20日から東京二期会オペラ劇場「カルメン」を4公演指揮(東京文化会館、オーケストラは読売日本交響楽団)した後、3月上旬にはオーケストラ・アンサンブル金沢の東京公演と浜松公演を含めて3公演指揮しました。
京都市交響楽団のX(@kyotosymphony)によると、本公演のリハーサルは、11日(火)から京都コンサートホールで始まりました。前月の第697回定期演奏会と同様に、京都市交響楽団練習場ではなく、最初から京都コンサートホールで4日間リハーサルが行なわれた後、14日(金)は「フライデー・ナイト・スペシャル」でした。
<京響友の会会員イベント> 3月13日(木)
リハーサルの3日目の13日(木)の午後に、「京響友の会会員イベント」が開催されました。「練習風景公開」と「トークセッション」の二本立てです。2月に封書で案内が届きました。2月14日までに申し込みフォームで申し込み。申し込み多数の場合は抽選になるとのことでしたが、2月末に招待状のハガキが届きました。平日の昼でしたが、なんとか有給休暇を取得して参加しました。
15:00~16:00 練習風景公開
京響の練習風景公開は、第694回定期演奏会を指揮したデイヴィッド・レイランド(2024.10.9 京都市交響楽団練習場)以来です。14:30開場でしたが、ホール前には行列ができて、けっこう人が多い。なお、京都コンサートホール・ロームシアター京都Club会員でも練習風景公開のみ参加できましたが、京響友の会会員の方が多い。入口で招待状のハガキを渡して、案内が書かれた紙と黄色のリストバンドを受け取りました。このリストバンドは、「Kyoto Symphony Orchestra」とプリントされていますが、英語表記が古いので、2019年度以前作成されたものですね。案内の紙には、着席範囲が図示されていましたが、これまでの練習風景公開では1階17列~31列でしたが、今回は8列~31列に拡大されて、いつもより前の席で聴けるようになりました。うれしい。なお、沖澤の意向で、リハーサルは通常通りマイクを使わずに進行すると書かれていました。また、ロビーで待機中にスタッフから録音を収録しているとのアナウンスがありました。お客さんは300人くらいでしょうか。平日の午後なので、あまり若い人はいません。
練習公開で演奏される曲は事前には案内されませんでしたが、藤倉大作曲/ダブル協奏曲―ヴァイオリンとフルートのためので、2日目の15日(土)に日本初演されます。14:45にホールへ入場。オーケストラは休憩中で、ステージにはあまり人がいません。そのうち、指揮台の左にヴァイオリンの金川真弓が登場。私服が若い。藤川は第679回定期演奏会でも聴きましたが、昨年9月にジョルジュ・エネスク国際コンクールヴァイオリン部門で優勝するなど、注目されています。指揮台の右にはフルート独奏のクレア・チェイス。アメリカ生まれで、ハーバード大学音楽学部の教授を務めています。女性ですが、髪が短いので男性に見えました。持ち替えのバス・フルートとピッコロの持ち替えがピアノ用のイスが置かれました。リハーサル前に録音スタッフがセッティング。
沖澤が登場。客席への挨拶なしで練習がスタート。初めにフルートのクレア・チェイスが指揮台の右で立って演奏するので、指揮者が見えるようにヴィオラ奏者のイスを移動。コンサートマスターの会田莉凡(特別客演コンサートマスター)が立ってチューニング。隣は泉原隆志(コンサートマスター)。本番同様に客席の照明を暗くしました。この曲はこの日が初めての練習だったようです。
沖澤は指揮台のイスに座って指揮して、最初に全曲を通して演奏。単一楽章の作品です。藤川のヴァイオリンソロとクレアのフルートソロから始まって、2人でアイコンタクトを取って演奏。フルートはフラッター奏法もあり、二人のソロの掛け合いが長く続きます。ヴァイオリンとフルートのメロディーが絡み合って呼応しますが、こんなにソロの比率が多い曲は珍しいでしょう。沖澤は聴いています。オーケストラは中編成で、長い音符や合いの手程度の出番です。クレアが中盤でピッコロに持ち替え。すごく短いピツィカートのような音を、速い息遣いで演奏。ヴァイオリンソロからチェロの弓さばきでリズミカルな変拍子へ。クレアが最後に持ち替えるバス・フルートは日本風の響きで懐かしい音色です。30分間一度も指揮を止めずに休みなしで演奏しました。団員から独奏の2人に拍手。沖澤も客席を振り返って拍手を促しました。
沖澤はあまり大きな声で話さないので、聞き取りにくいのが残念。日本語に続いてクレアのために英語でも話しました。まず「チェロに○小節目から入るのは合ってます」と譜面を確認。310小節のフェルマータのタイミングを練習して、「それでいきましょう。ありがとうございました」。「195小節のクレシェンドでスイング感を出したい」、「弦楽器はクレシェンドをもっと思い切って。デクレシェンドは遅めにしてください」、「管楽器は生き物の鳴き声の感じがほしい」。「314小節の伴奏は急いで行かないように。ちょっと滑る感じがする」と歌って指示。「アクセントはすごくやってもらう」。416小節から弦楽器だけで練習して、「管楽器が入ったら何かしら反応してみてください」。「伴奏のクレシェンドの入りはppなので、気がついたら出てる感じで」などと音量や表情づけを的確に指示しました。沖澤の指揮棒が降りると、団員間でよく話して、各パートでも確認しているのが印象的でした。最後まで終わると、沖澤が2人のソリストに確認して、「ありがとうございました」と15:55に練習が終了。客席から拍手。オーケストラはこの日の練習はこれで終わりで、流れ解散しました。
16:15~17:15 トークセッション
京都コンサートホール・ロームシアター京都Club会員は退席して、ここからは京響友の会限定のイベントです。昨年1月の第685回定期演奏会終演後の京響友の会会員イベントよりも人数が多く、200人くらいでしょうか。指揮台を下げて机とイスを設置。左に沖澤のどかが、右に会田莉凡が座りました。
京都市交響楽団営業・マーケティング係長の田渕洋二郎の司会で進行。沖澤の過去のインタビュー記事を覚えていて、沖澤本人がびっくりしていました。会田莉凡はヴァイオリンを持っていて、沖澤は本公演のメインで演奏するR.シュトラウス「英雄の生涯」の聴きどころを紹介。沖澤が「急に合奏が止まってこれが聴こえてくる」と前振りして、会田がソロを披露。沖澤は「とにかく美しい。ぱっと場面が変わる。低音パートがとろけていく」と解説。会田は「英雄の生涯は、コンサートマスターにとってギフト。指揮者もコンサートマスターも女子なのは珍しい。変なことを起こすと、大きな絵画にサインペンで書くくらいのダメージ」とおもしろい表現で説明。続いて「英雄の敵」なども演奏して、会田は「挑戦的なシーン」などと話しました。
ここで、登壇者の3人とも関西出身ではないのでということで、「京響(きょうきょう)」のイントネーションをお客さんに教えてもらう試み。お客さんが一斉に「京響」と言いましたが、ひとそれぞれのようですね。続いて、京響の2年目の印象について、沖澤は「変わらない印象としてはおもろいオケ。明るくて前向き」「うまくいかない箇所は絶対に放置しない」「向上心が強い」と話し、特別客演コンサートマスター5年目の会田は「沖澤が初めて指揮した(第661回定期演奏会)ときの練習で、沖澤がおもしろいことを言ってみんなが突っ込んで、沖澤が「シーッ!」と言った」」というエピソードを披露。また「他のセクションからも教えてくれる」と団員内の人間関係がいいようですね。
沖澤は「初日からホールで練習ができたのは、松井市長の力添えがあった」と話すと、会田は「2日目に異例の「英雄の生涯」の弦分奏があった」と紹介。沖澤は「管楽器が入るのと、弦楽器が力んで音が固くなるので、弦楽器だけでこのホールを響かせたかった。みんないつもよりさらってくるので効果抜群だった」と話しました。沖澤は「ブレスは吸った息をどう吐くかが大事と下野竜也に教わった」と明かしました。京都のお気に入りスポットは、沖澤は「嵐山のモンキーパーク」という意外な答え。動物園や植物園にも行って、今宮神社の餅を子供も食べたとのこと。会田は「祇園のバー巡り。神社でお守りを買う」。ベルリンと京都の違いについて、沖澤は「ベルリンは公共交通機関の乱れがひどい。自転車での移動が確実」「似ているところは、いろんな文化が雑多にある」。札幌交響楽団コンサートマスターを兼任している会田は、札幌と京都の違いについて、「食べ物が両方おいしい。1年で7キロ太ったことがある。札響は札幌に他にオーケストラがないので、競わなくていいのでおおらか」と話しました。京都のお土産については、沖澤は「オオサンショウウオのグッズ」という意外過ぎる答え。阿闍梨餅は今日会田に差し入れしたとのこと。司会の田渕が「沖澤は京都新聞で連載を持っていて文才がある」と持ち上げましたが、沖澤は「文章を書くのが苦手。エバーノート(Evernote)というアプリに書くことを貯めておく。本を読むのが好きだったが、文字が目に入ると読んでしまうので、ホテルでは文字を隠すようにしている」と話して、「もう時効なのでいいと思うが、井上道義のゴーストライターを一回だけやった。指揮は誉めてもらえなかったが、文章は誉められた。父親が警察官で、ミステリーはよく読んだ」と話しました。会田は「一気に読まないと気がすまない。沖澤のリハーサルはみんなが分かる話で毎日感動している」と話しました。
2025年シーズンの聴きどころについて、沖澤は「北山を出ていろんなところに行くので、一緒に行きませんか?」と9月に行なう国内ツアーの勧誘。会田も同行してコンマス3人体制になるとのことで、会田は「沖澤の故郷の青森で演奏できるのがうれしい」と話しました。また「6月のマ・メール・ロワはN響とやったが、すごく大事にしてる曲。次の3月のコジ・ファン・トゥッテは、笑えるオペラ」と紹介しました。会田は「6月定期に登場するヴァイオリニストのアラベラ・美歩・シュタインバッハーはいつも完璧」と絶賛。また、石田泰尚と会田莉凡が、4月から特別客演コンサートマスターからソロコンサートマスターになることが報告されました。会田は「自分から取ってくださいとは言えなかった」と、客演が取れてうれしそう。沖澤も「われらのコンサートマスター」と強調しました。
最後に大抽選会。入場時に回収した招待状のハガキを沖澤と会田が引きました。商品は京響の演奏を聴かせた酒3本でしたが、残念ながら私は当たりませんでした。沖澤と会田から贈呈。最後に全員で写真撮影。ポディウム席から撮影されて、京都市交響楽団のXに掲載されましたが、私も写っています。17:15に終了しました。
なお、前日の3月12日(水)には、松井孝治楽団長(京都市長)が同席して、「2025-26ラインナップ及び70周年事業等に関する記者発表」が開催されました。国内6か所のツアーの実施や、京都コンサートホールでの練習回数を増やして、ホールリハーサル公開が5回開催されます。ホールリハーサル公開は小学生以上の200名で、料金は500円と発表されています。
<京都市交響楽団第698回定期演奏会> 3月15日(土)
上述したように2日公演の2日目です。チケットは、京響友の会「チケット会員」の「セレクト・セット会員(Sセット)」の「クーポンID」を使用しました。これで4枚目で、セレクト・セット会員(Sセット)の2セット目を使い切りました。今シーズンは定期演奏会と第九コンサートで、ちょうど8公演を聴きました。チケットは2月25日に全席完売しました。なお、前日の「フライデー・ナイト・スペシャル」は、当日券が発売されました。リハーサルに続いて、本番も収録する案内がロビーに掲示されました。詳細は未定とのことですが、マイクやカメラが設置されました。また、先月の第697回定期演奏会でも行なわれた京響70周年ロゴの投票が、今回もロビーで行なわれました。ロゴ候補②→ロゴ候補①→ロゴ候補③の順で貼られているシールが多い。また、第691回定期演奏会に続いて、辻徳の「SIFORI」の販売ブースも出ました。
14:00からプレトーク。沖澤が「11月にお休みしたが、無事に出産した」と報告。「上の子は3歳で、二人とも京響を聴いている京響ベイビー」と紹介しました。続いて「リハーサルは3日間で、いつもは練習場で2日と、ホールで1日だが、松井市長の力添えがあり、3日間ホールで練習できた。中期的な取り組みどころか効果てきめんで、大きく音が変わった。ホールがよく鳴って、響きがどんどん豊かになった」と練習の成果を報告。「リハーサル公開は、4月から始まるので、お申し込みください」と10分間何も持たずにスラスラよくしゃべりました。各曲の紹介は後述します。
プログラム1曲目は、藤倉大作曲/ダブル協奏曲―ヴァイオリンとフルートのための。本公演が日本初演です。コレギウム・ムジクム・ヴィンタートゥール、オランダ公共放送局(NTR)、アンサンブル・レゾナンツ、京響の四者による共同委嘱作品です。藤倉は大阪府摂津市生まれで47歳。2024年10月から急逝した西村朗の後任で、いずみシンフォニエッタ大阪の音楽監督に就任しました。プログラムの藤倉の解説によると、ヴァイオリニストのパトリシア・コパチンスカヤが藤倉大に電話で作曲を依頼したようです。その後に沖澤から日本初演したいという連絡があったとのこと。世界初演は、2025年1月11日にオランダのコンセルトヘボウで行なわれました。オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団を首席指揮者のカリーナ・カネラキス(女性)が指揮。ヴァイオリン独奏はもちろんコパンチンスカヤの予定でしたが、諏訪内晶子が代役を務めました。フルート独奏は本公演と同じクレア・チェイスです。なお、藤倉大のYouTubeチャンネル(@fujikuramusic)に、3月5日に動画が掲載されました。演奏は世界初演ではなく、ヴィンバイ・カジボニが指揮するコレギウム・ムジクム・ヴィンタートゥールで、リーラ・ジョセフォウィッツのヴァイオリンと、フルート独奏は本公演と同じクレア・チェイスです。やや冗長に感じてしまったので、本公演の演奏のほうがよかったです。
プレトークで、沖澤は「日本初演が大好き。クレアとはフルート協奏曲をベルリンで演奏した。藤倉大の作品は音響が美しい無駄な音がない。ホールの音響を活かすのに長けている。今日は作曲者本人は来ていない。タンポポの綿毛を吹くようにとかの指示がスコアに書かれている。抽象的なイメージをふくらませながら、聴いていただけたら。青森は白鳥が来るが、自然の情景や北欧のヘビメタをイメージする」と話しました。
弦楽器は中編成。コンサートマスターは会田莉凡(特別客演コンサートマスター)。その隣は泉原隆志(コンサートマスター)。客演首席ヴィオラ奏者は柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ奏者)。特別首席チェロ奏者の山本裕康がひさびさにご出演。管楽器は弦楽器の後ろに、左から、ホルン、オーボエ、クラリネット、ファゴットの4人だけです。指揮台の左に、ヴァイオリンの金川真弓が紺色のドレス。指揮台の右に、フルートのクレア・チェイス。クレアの衣装は、黒のズボンに青のシャツで、上述したYouTubeの演奏動画と同じです。2人とも譜面台つきで演奏。
演奏は13日(木)のリハーサルよりも音圧が強く、ノッて演奏しました。2人とは思えないほど響きが豊かで、ヴァイオリンとフルートで一体感があり、2人でひとつのメロディーのように聴こえます。ヴァイオリンのみやフルートのみのソロが少なく、2人でひとつと言えます。ホールでの練習はソリストにもいい影響があったようで、よく響いて、リハーサルよりも表情が豊かです。クレアがピッコロに持ち替え。ピッコロに息を吹きかけながら楽器を回しました。ヴァイオリンとピッコロで長いソロの後に再びフルートに持ち替え。コントラバスとチェロが弓で弦を叩いて、最後のバス・フルートはオカリナのような癒し系の音色です。いろいろな奏法が出てきて、楽器の持ち替えもあるので、フルート奏者は演奏したくなる曲でしょう。オーケストラも奥行きが増して立体感があります。ヴァイオリン伴奏は高音でキュイーンという音が多い。沖澤は第691回定期演奏会と同じく、黒いSIFORIの髪止めをつけて指揮しました。
なお、クレア・チェイスは、3月19日(水)に藤倉大作曲/冷泉~アルトフルートと三味線のための(2021年作曲)をHakuju Hallで日本初演しました(「クレア・チェイス&本條秀慈郎 フルートと三味線による新しい音を求めて」)。Hakuju Hallとクレア・チェイスの共同委嘱作品で、新曲の初演に積極的です。
休憩後のプログラム2曲目は、R.シュトラウス作曲/交響詩「英雄の生涯」。京響では前首席客演指揮者のジョン・アクセルロッドが第662回定期演奏会(2021.11.27&28)で指揮しましたが、沖澤曰く「ドイツなら常任指揮者が必ず指揮する曲」とのこと。私は東京フィルハーモニー交響楽団京都公演で聴いて以来、あまり好きではない曲でした。
プレトークで、沖澤は「コンサートマスターのヴァイオリンのソロが有名で、仕上がりが変わる」と話し、会田莉凡を「4月からは客演が取れてソロコンサートマスターになる「うちの会田莉凡」」と紹介。「英雄の生涯の思い出は、10年前にベルリンの音楽大学を受験して、ペトルーシュカを指揮したあとにクラシックのイントロクイズを課された。日本語で英雄の生涯と思い浮かんだが、ドイツ語が思い浮かばず「ヒーローズライフ」と答えたら大爆笑された」というエピソードを紹介。「英訳では「the」じゃなくて定まっていない「a」で、ある一人の英雄という訳になる。ちなみに、「魔笛」という日本語訳が好き」と話しました。
左にホルン×8を配置して、半円形の雛壇を客席に近づける広上シフトでの演奏。京都コンサートホールの乾燥した響き方では、濃厚なシュトラウスは向かないと思っていましたが、イメージが覆されました。ホール練習によって、京響の別の表情が引き出されました。ホールの響き方が自然で伸びやかで、客席をじゅうぶん満たすほどに鳴りました。井上道義は「指揮者ではなくホールがオーケストラを作る」と言っていましたが、まさにその通りだったと実証されました。井上は「このホールは後ろの席まで聴こえない」と言っていましたが、そんなことはなく、ホール練習をじゅうぶんすればカバーできることも証明されました。ホールで練習できる環境を作り出してくれた井上道義にも感謝しなくてはなりません。
第1部「英雄」は、速めのテンポ。英雄の主題のメロディーは滑らかに聴かせました。17小節からトランペットの八分音符の刻みを聴かせます。21小節からのコントラバスのピツィカートなどいろんなものが見えてくる演奏で、オーケストラが聴覚的にも近く感じます。48小節から続く木管楽器のソロや88小節からのトロンボーンのアクセントも鮮やか。
第2部「英雄の敵」は解像度が高い。ヴァイオリンはいつも以上に質感があって肌触りが違います。これはリハーサルでの弦分奏の成果でしょう。第3部「英雄の伴侶」の会田莉凡のヴァイオリンソロは、ガツガツ弾かないので、音がキンキンしないで、暖かみや温もりがあります。ソロは長いですが、大役を務めあげました。途中でトランペットの3人が退席。弦楽器のメロディーが豊かで音楽の流れが見える演奏で、ティンパニの後の332小節の弦楽器の引き締まった響きは、いつもの京響からは聴けませんでした。すばらしい。
第4部「戦場での英雄」は、369小節から下手舞台裏でトランペット×3が演奏。よく響きます。京都市交響楽団のInstagram(@kyotosymphonyorchestra)に掲載された写真によると、沖澤の指揮を映したモニターの前で演奏しています。433小節と434小節の間のダブルバーは、間を空けずに突っ込みました。管楽器がいつもよりよく響いて、交通整理ができています。631小節からの弦楽器メロディーのユニゾンが最高で、646小節の八分音符のアクセントで感極まるほどにぐっときました。第5部「英雄の業績」は速めのテンポで伸びやかで一体感があります。第6部「英雄の引退と死」は、すがすがしさがあります。最後の金管楽器の弱奏からの盛り上がりはゾクッとしました。
カーテンコールでは、3月末で退団するコントラバス奏者の江刺豊に沖澤から花束贈呈。メンバーからも寄せ書き?が渡されました。客席から大きな拍手。16:15に終演しました。なお、松井市長(楽団長)は、2日とも来場したようで、X(@matsuikoji)で、「バイエルン放送交響楽団の音でした」と沖澤に伝えたようですが、あながちオーバーではないでしょう。
来る2025-2026シーズンでは、2022年度から始まった「フライデー・ナイト・スペシャル」(19:30開演の休憩なし約1時間プログラム)が終了して、金曜夜公演は19:00開演で、プログラムも土曜昼公演と同じになります。沖澤のどかは、定期演奏会3公演(5日)と特別演奏会「第九コンサート」2公演、6月の名古屋公演と大阪公演、9月の東京公演、「オーケストラ・ディスカバリー2025」の2公演、9月の国内ツアーを指揮します。なお、沖澤のどかは令和6年度京都市芸術新人賞を受賞することが発表されました(洋楽(指揮)として)。さらに11月にボストン交響楽団を指揮することが発表されました。まさに世界をまたにかけた活躍ぶりです。京響に長くいてもらうように努力しないといけません。