東京バレエ団「ザ・カブキ」


   
   

2024年10月18日(金)18:30開演
高槻城公園芸術文化劇場南館トリシマホール

演出・振付:モーリス・ベジャール
音楽:黛敏郎
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

柄本弾(由良之助)、中嶋智哉(直義)、樋口祐輝(塩冶判官)、上野水香(顔世御前)、山下湧吾(力弥、ヴァリエーション1)、鳥海創(高師直)、岡崎隼也(伴内)、池本祥真(勘平)、沖香菜子(おかる)、後藤健太朗(現代の勘平)、中沢恵理子(現代のおかる)、岡﨑司(定九郎)、本岡直也(薬師寺)、星野司佐(石堂)、三雲友里加(遊女)、山田眞央(与市兵衛)、伝田陽美(おかや)、政本絵美(お才)、生方隆之介(ヴァリエーション2)

ザ・カブキ(全2幕)

座席:S席 2階1列19番


東京バレエ団「ザ・カブキ」を初めて観ました。フランスの振付家のモーリス・ベジャール(1927年~2007年)が、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」をもとに、1986年に東京バレエ団のために創作したバレエで、音楽を黛敏郎が作曲したので興味を持っていました。東京バレエ団を観るのは、上野の森バレエホリデイ2018 東京バレエ団「真夏の夜の夢」「セレナーデ」以来です。東京バレエ団は1964年の創設で、今年の8月30日に創立60周年を迎えました。2024年8月から斎藤友佳理が団長に、佐野志織が芸術監督に就任しています。

今回の公演では、初演で芸術監督を務めた溝下司朗の指導を受けました。また、所作指導として花柳流家元花柳壽輔、所作指導助手として花柳源九郎がクレジットされています。プログラムに掲載された「「ザ・カブキ」全公演記録」によると、このバレエは1986年の初演以来、国内と海外(15ヵ国28都市)を合わせて206回も上演されました。日本よりも海外での上演のほうが多いとのこと。本公演は「創立60周年記念シリーズ10」として、10月12日(土)、13日(日)、14日(祝・月)に東京(東京文化会館)で3公演が行なわれた後、「高槻公演」として開催されました。よって、通算すると、この高槻公演は210回目の上演になりますね。国内では6年ぶり、海外公演を含むと5年ぶりの上演です。東京バレエ団は東京以外の公演が少ないので、近畿圏で観れて本当にラッキーでした。
東京公演では日によって出演するダンサーが入れ替わっていましたが、この高槻公演の出演者は東京公演1日目(10月12日)とほぼ共通しています。なお、東京公演3日目では、宮川新大(プリンシパル)が8代目由良之助としてデビューしました。本公演の主催は公益財団法人高槻市文化スポーツ振興事業団。高槻城公園芸術文化劇場にとっては、劇場の開館以来最大級の仕込みになったようです。

チケットは、高槻城公園芸術文化劇場ネット会員は、一般発売の8日前に購入できました。S席は1万円(公演プログラム付きのSS席12,000円もあり)。セブンイレブン発券手数料で110円かかりました。

9月30日(月)20:00~20:30には東京バレエ団のInstagram(@tokyoballet_official)でインスタライブが開催されました。当日に発表された「緊急決定」でしたが、顔世御前(かおよごぜん)を演じる上野水香(10月12日&10月18日)と榊優美枝(10月13日)がトークしました。リハーサルの様子などが話されましたが、書き込んだコメントが読まれることはなく、双方向性はありませんでした。30分だけでしたが、こういうイベントがあるのはいいですね。

高槻城公園芸術文化劇場南館トリシマホールに行くのは、高槻城公園芸術文化劇場オープンデー~ふらっと♪TAT~以来2ヶ月ぶりです。プログラムを2000円で購入しました。追分日出子が執筆した「ザ・カブキが誕生するまで」は必読です。2階席は高槻城公園芸術文化劇場開館記念 ベートーヴェン「第九」演奏会でも聴きましたが、位置が高くて見やすい。前後の座席間隔も広いのがいいです。赤い幕が下りていて、ステージの左右に舞台脇の花道があります。2階席は空席が多く、お客さんの入りは7割くらいでしょうか。女性客が圧倒的に多い。

全2幕で、第1幕が70分、休憩20分、第2幕が45分です。音楽は特別録音による音源を使用したので、オーケストラピットはありません。プログラムによると、演奏は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団で、1985年12月28日に尚美学園のホールで黛敏郎の指揮で録音して、ベジャールも立ち会ったことを、初演で音響を務めた市川文武が綴っています。余談ですが、黛敏郎は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の永久芸術顧問です。

全体的な感想は、「仮名手本忠臣蔵」に沿ったストーリーですが、登場人物が多い。また、ミュージカルと違って、バレエにはセリフがないので、ストーリーがやや難解です。音楽と照明で演出しますが、今にも出演者が話したり歌いそうな雰囲気がありました(なお、掛け声は少しだけあります)。ダンサーの歩き方が独特で、男は時代劇的な歩き方です。すりあしで腰を落として水平移動して、バレリーナとは思えません。舞台セットが大がかりで楽しめました。2024年度全国共同制作オペラ 歌劇「ラ・ボエーム」とは違いますね。小道具が多く、少ししか使わないものもたくさんありました。衣装はポルトガルのデザイナーのヌーノ・コルテ=レアル(初演と同じ)。

ストーリーとしては、こんなに死ぬ人が多いバレエも珍しいのではないでしょうか。全部で52人が亡くなります(高師直+塩冶判官+与市兵衛+勘平+伴内+討ち入り47人)。また、忠臣蔵と言うと、大石内蔵助、浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)と吉良上野介(きらこうずけのすけ)が有名ですが、本作には登場しません。理由は「仮名手本忠臣蔵」は江戸時代に成立していて、江戸幕府を直接的に批判することを避けたためで、か太平記の時代に設定して、大石内蔵助を由良之助に、浅野内匠頭を塩冶判官(えんやはんがん)に、吉良上野介を高師直(こうのもろのう)に置き換えているためです。

出演者では、由良之助役の柄本弾(つかもとだん、プリンシパル)は安定した演技。5代目由良之助として、2010年(20歳)から演じています。今年で35歳で「バレエ・スタッフ」を兼任して、指導も担当しているようです。なお、10月14日の東京公演3日目には高師直役で出演しました。7日間で3公演とはタフです。顔世御前役の上野水香(ゲスト・プリンシパル)が存在感がありました。上野の森バレエホリデイ2018 東京バレエ団「真夏の夜の夢」「セレナーデ」のWOWOW「バレエ☆プルミエール」公開収録でのトークを聞いて興味が惹かれました。上野は2004年に東京バレエ団に入団し、モーリス・ベジャールから「ボレロ」を踊ることを許された唯一の日本人女性です。東京バレエ団の定年が45歳のため、2023年3月でプリンシパルの契約が満了しましたが、2023年4月からバレエ団が新たに設けた「ゲスト・プリンシパル」のポストになりました。今年で46歳ですが、顔世御前を2008年から踊っているようで、ただ歩いているだけのシーンでも立ち居振舞いが違って、風格があります。白レオタードの衣装がエロすぎる。ちなみに、NBS(公益財団法人日本舞台芸術振興会)のメールマガジンによると、上野水香は過去には四十七士として出演したことがあるとのこと。どういうシチュエーションでそうなったのか謎ですが、一回見てみたいですね。現代のおかる役の中沢恵理子(ソリスト)が美人。

ベジャールから任せられて、黛敏郎が全11段を2幕9場に構成したとのこと。各幕の始まりに義太夫節を入れたり、歌舞伎の下座音楽を使うことをベジャールに提案したのも黛とのことで、本作への貢献度が高い。黛の音楽は重量感があって最高。何度か鳥肌が立ちました。今こんな曲を書ける日本人がいるでしょうか。後半で使用される「涅槃交響曲」はなんと1958年の作曲です。黛敏郎は1997年に68歳で亡くなりましたが、亡くなるのが早すぎましたね。本当に惜しい。もっと評価されてよいでしょう。もっとも今ご存命なら、衆議院議員選挙に出馬しそうですが。
演奏は生演奏ではなく、特別録音でしたが、無理を承知で合唱付きの生演奏で聴いてみたいですね。実際に演奏すると「涅槃交響曲」ではオーケストラは2群のバンダと男声合唱が必要で、それに加えて、義太夫節や三味線や笛なども必要になります。まあ難しいですかね…。
上手の袖(客席からギリギリ見える位置)で演奏される附け打ちが陰の主役と言える活躍ぶり。おじいさんがステージの床に置いた附け板を2本の附け木で叩きます。実際の歌舞伎でも用いられる演出とのことですが、よく響いて効果が絶大でした。残念ながらプログラムに名前は記載されていませんが、カーテンコールで出てきて欲しかったです。

幕が上がって、開演。第1幕の最初は、プロローグ「現代の東京」。5拍子の電子音が流れます。黛敏郎の電子音楽全曲上演会で聴きましたが、現代の東京を表現するにはさすがに音楽は古く感じます。後半では電子音の合唱も入ります。中央のモニターに白い丸が表示されて、上下ともに白い服の男がたくさんいます。ステージの左右にたくさん置かれたモニターにいろいろな映像が映ります。映る映像はモニターによってバラバラで、後方のスクリーンには地下鉄の駅名標が目まぐるしく映ります。このプロローグ映像はセルゲイ・フョードロフが制作しました。ステージの男たちは、ランニングしたり忙しそうに動きますが、その間をスクーターに乗った男が通ります(これは後述するDVDにはないので、近年取り入れられたものでしょう)。中央ではネクタイを着けた男(柄本弾)が踊ります。現代の若者たちのリーダーの位置づけで、曲の最後ですべてのモニターが日の丸になります。柄本以外の男がモニターを自分で移動させてステージ左右に退場しました。
ここで、三味線と男の歌声(義太夫節)が流れます。三味線の演奏は鶴澤清治。男声は(パンフレットでは「浄瑠璃」と記載)は豊竹呂大夫(五代目)。歌はストーリーの重要な部分を語っていますが、独特の節回しで一聴では理解できませんでした。なお、Wikipedia「ザ・カブキ」には掲載されています。由良之助が黒子から刀を受け取るとタイムスリップ。後方から赤い着物を着た直義(足利尊氏の弟)たちが登場。

柄本が去り、オーケストラが勇壮に響いて、そのまま第一場「兜改め」。舞台は鶴岡八幡宮ということで、ステージ後方に足利氏の「黒丸に二本線」の家紋の幕が張られています。水色の着物を着た女性たちがゆっくり登場。続いて顔世御前役の上野水香が登場。顔はおしろいで真っ白です。紫色の着物を着ていて、美人です。顔世御前が水色の着物の女から兜(客席からは花束のように見えました)を受け取ります。直義(足利尊氏の弟)が兜を持って踊ります。オーケストラは派手に鳴って盛り上げます。

柄本が定式幕(黒、萌葱色、柿色の縦じまの幕)を上手から下手に引いて、第二場「おかる、勘平」。幕の前に現代の勘平(後藤健太朗)と現代のおかる(中沢恵理子)が登場。二人は恋人です。義太夫節に続いて、幕が開くと、ステージ後方にふすまが置かれています。現代の勘平とおかるが迷い込んで、客席からはあっという間に衣装チェンジしたように見えましたが、勘平(池本翔真=プリンシパル)とおかる(沖香菜子=プリンシパル)が二人で薄着で踊ります。おかるは顔世御前の腰元です。音楽はメロディーに電子音を使用しますが、由良之助が勘平やおかるに触れるシーンでは無音です。ステージ中央で入れ替わった紫色の着物の現代のおかると黒着物の現代の勘平が踊り、拍子木が鳴って、定式幕が上手から下手に引かれます。義太夫節が流れ、幕の前に3人の男が登場。

第三場「殿中松の間」。幕が下手から上手に開けられると、ステージ後方に松の屏風が置かれています。オーケストラとチェロ独奏で5拍子の音楽で、塩冶判官(青い衣装の男)が師直(黒い衣装の男)をなぐりました。刀を抜いて師直を斬ったということで、いろんな人が走って出てきて目まぐるしい。義太夫節が流れて、附け打ちが舞台右端で床に叩かれて、海辺が描かれた幕の前で、勘平とおかると伴内の3人が踊ります。幕が右から左に少しずつ移動。幕の右端には富士山が描かれていました。

第四場は「判官切腹」(パンフレットの表記が間違い)。ショスタコーヴィチ「交響曲第5番」第1楽章冒頭のようなモティーフの曲が流れ、次第に高揚します。切腹を命じられた塩冶判官が浅野家の家紋の前で踊り、白装束を着て切腹しました。すごく日本らしいシーンと言えます。由良之助も見届けます。天井から白幕に血がついた幕が降りてきます。続いて、それがめくれると、黒字でいろは歌(いろはにほへとちりぬるを~ゑひもせす)を縦書きで七字区切りで書かれた幕に変わります。いろは四十七文字と赤穂浪士四十七士を関連させる忠臣蔵にはよくある演出で、「仮名手本忠臣蔵」にも記載があります。
幕の前で、笛と鼓の音楽で、顔が白塗りの伴内(師直の家臣)が踊ります(客席からは女性に見えました)。続いて、女性ダンサーが二人組で4組登場。三味線、笛と鼓で音楽に乗せて踊ります。着物を持つための黒子も4人いました。顔世御前が白装束で登場。

幕が上がって、第五場は「城明け渡し」。白い衣装で左胸に血がついた由良之助が刀を持って踊ります。周りの青服の男たちが「ハッ」と掛け声。附け打ちが叩かれて、横一列に並んだ男たちの前に、白い布が左から右に転がされて、みんなで持ちました。どういう意味か分かりませんでしたが、これは血判状で、仇討ちの盟約をしたということです。由良之助がセンターで踊り、最後は全員でセンターに集まり「ハッ」の掛け声で気合を入れます。幕が上手から下手に引かれて、幕の前で伴内が義太夫節で踊ります。

幕が開いて、第六場「山崎街道」。現代の勘平とおかるが舞台袖から現れますが、ステージには勘平とおかるがいて、共存しています。この辺りは解釈が難しいとされているようです。ステージの右奥には、女性ダンサーが緑色の衣装で枝を持って木を表現。「コンチキチン」と祇園祭を思わせる鉦の音が聴こえてきます。ステージの左奥にはちょうちんが釣られた門があります。黒い衣装の定九郎(塩冶家の元家臣)が笠をかぶった与市兵衛(おかるの父)を刀で刺して殺害。イノシンのような動物が突然現れて走り回り、勘平が猪を捕らえるために撃った鉄砲で、定九郎が殺されます。展開が急なので、事前にストーリーを知っていないと理解できないでしょう。お金(財布)を渡すシーンがありますが、客席からはよく分からず。義太夫節が流れ、おかるが籠に乗って退場して、祇園へ身売りに。与市兵衛の死体が運ばれてきて、それを見た勘平は自分が鉄砲で撃ったと勘違いしてすぐに切腹。
最後は、由良之助が現れて一人で踊ります。このソロが長く、「決意のヴァリエーション」と呼ばれ、7分半もあるとのこと。音楽はゆっくりしたテンポですが、尺八(三橋貴風)のソロを交えながら激しさを増します。舞台床の照明も赤い。
ここまでが第1幕で、20分休憩。

第2幕は第七場「一力茶屋」から。幕が上がって、拍子木でスタート。オルゴールのようなやや妖しい音楽が流れ、由良之助が祇園の一力茶屋でくつろいでいます。ステージ前方の天井には小さなちょうちんがたくさん吊ってあります。着物の女性がたくさん登場。伴内がステージ左奥の障子に囲まれた部屋にいて、由良之助が息子力弥から渡された手紙を床下から盗み見ますが、由良之助が斬ります。斬られた後の伴内は、下手袖から黒い目隠しの幕が出てきて撤収されます。芸が細かいですが、これは「仮名手本忠臣蔵」でも、その場で殺していないので、それを反映させたものでしょう。遊女となったおかるがステージ右奥に登場。由良之助とデュエット。ともに黒子に持ち上げられながら踊ります。

幕が上手から下手に引かれ、幕の前に赤いふんどしと赤いハチマキをつけた8人の男がゆっくりと上手から登場。その後ろを顔世御前がうつむいたまま下手から上手にゆっくり通ります。幕が開くとそのままステージへ。第八場は「雪の別れ」ですが、雪は降っていません。顔世御前は紫色の着物(打掛)を羽織って、白いレオタードで踊ります。黒子を3人従えていましたが、上野水香のInstagram(@mizukaueno)に掲載されたリハーサル動画によると黒子は女性のようです。太鼓の音が聴こえますが、意図的かどうか分かりませんが、開場中にも聴こえていました。ステージ奥には浅野家の家紋が描かれた板が置かれています。由良之助が黒い服で踊ります。顔世御前(塩冶判官の妻)も紫色の着物を脱いで白いレオタードで踊ります。第四場「判官切腹」と同じショスタコーヴィチ「交響曲第5番」に似たテーマが流れ、白いお面をつけた白装束の男が登場。これは塩冶判官の亡霊で、刀を持ちますが、黒い幕で隠されます。
赤穂浪士ならぬ塩冶浪士が左右の舞台袖から交互に走って登場。由良之助を頂点に9列で三角形▽に整列。全員で47人で、客席から拍手が起きました。この討ち入りの衣装(火事装束と言うらしい)を着ている効果が大きい。

そのまま第九場「討ち入り」。まずヴァリエーション。わざわざ出演者がクレジットされているほど重要な役どころのようで、後ろで周りの男が見ている中で、中央でソロを1人ずつ2人が踊ります。音楽は打楽器が使われ、木琴や太鼓が使われてリズミカル。男全員での踊りを経て、由良之助が陣太鼓を叩きながら登場。陣太鼓を黒子が下手から上手にさっと走って回収するのもおもしろい。男たちがステージを左右に走り回り、躍動感のあるシーンに。音楽もティンパニとボンゴの二重奏など、緊迫感があります。男が走って障子を破ります(これやってみたい)。すごく練習しないとこの一連の動きはできません。すばらしい。
不協和音の音楽が流れますが、黛敏郎「涅槃交響曲」の第5楽章「カンパノロジーⅢ」の後半で、白ハチマキと白服の男たちが2列で登場。由良之助が登場すると、その場で跳び跳ねますが、由良之助の左手には師直の首を持っています。つまり討ち入りが成功したという意味ですが、客席からは小さくて分かりませんでした。後ろにいた白いお面をつけた塩冶判官の亡霊が首を持ち去ります。
続いて、お経のような歌が流れますが、黛敏郎「涅槃交響曲」の終曲(一心敬礼(いっしんきょうらい))」で、盛り上がり方は黛ならではで、金管楽器が加わり混濁していくのが最高。ホリゾントには赤い太陽が映り、最後は男たちが白装束で三角形▽に整列して、全員で切腹。衝撃的な終わり方でした。

カーテンコールでは、主役の柄本弾に大きな拍手。出演メンバーはすごい大人数で、東京バレエ団のInstagramの写真によると総勢67名の出演でしたが、何役か掛け持ちしてる人が多いですね。21:00に終演。

比較対象として、公演後にDVD「モーリス・ベジャール/東京バレエ団「ザ・カブキ」」(新書館)を観ました。2010年7月11日にミラノ・スカラ座でのライヴ映像で、東京バレエ団海外公演700回記念公演です。冒頭に外観やホール内が映りますが、西洋美術そのもので、ここでこのバレエを上演したのは歴史的に意義があるでしょう。由良之助を演じるのは、3代目由良之助の高岸直樹(現:アーティスティック・アソシエイト)。高岸は2010年に上野水香と結婚しましたが、その後離婚しました。演技中はすごい汗です。上野水香は、このDVDにも顔世御前役で出演しています。
本公演との違いを最も感じるのは、プロローグ「現代の東京」で、テレビが薄型液晶モニターではなく、当時はブラウン管でサイズが大きい。2010年頃はまだスマートフォンが流行する前でした。テレビに映っている映像が本公演とは違って、アニメーションやゴルフの映像などです。上述したようにDVDでは細かな小道具がよく見えるのがいい。義太夫節に字幕が表示されればなおよかったでしょう。カーテンコールでは「東京バレエ団海外公演700回 おめでとうございます」の幕が出て、出演者が何かを客席に向かって投げ入れています。

ベジャールは2004年に東京バレエ団の名誉芸術顧問に就任しましたが、2007年に80歳で亡くなりました。東京バレエ団はベジャール作品の22作品をレパートリーとして有しているとのこと。今度は黛敏郎の音楽が使われている「M」(1993年初演)を観たいですね。

 

高槻城公園芸術文化劇場南館 開場(トリシマホール) 「ザ・カブキ」(全2幕) 開演前のステージ(モニター映像)

(2024.11.19記)


京都コンサートホール・ロビーコンサートVol.17「松村衣里 ハープ・コンサート」 第8回 中学・高校吹奏楽部 公開レッスンコンサート 指揮・指導:寺岡清高