京都コンサートホール・ロビーコンサートVol.17「松村衣里 ハープ・コンサート」


2024年10月14日(祝・月)11:00開演
京都コンサートホール1階エントランスホール

松村衣里(ハープ)

アンリエット・ルニエ/伝説~ルコント・ド・リールの「妖精」を読んで
チャールズ・オーベルチュール/蝶々
レスピーギ(グランジャニー編)/「リュートの為の古風な舞曲とアリア 第3組曲」より「シチリアーナ」
山根明季子/ピクシーダスト(ベックメッサーハープ独奏のための委嘱作品・世界初演)
フォーレ/即興曲

座席:自由


Vol.3「石上真由子 ヴァイオリンコンサート」以来、ひさびさに京都コンサートホールのロビーコンサートに行きました。2019年度から始まって、今年で6年目です。11:00開演で、40分間の無料コンサートです。コロナ禍では新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、事前申し込み制で限定50席で開催されたこともありましたが、中止されることなく地道に毎年3公演ずつ開催されているのは特筆すべき取り組みでしょう。

第17回の今回は「グランドハープとベックメッサーハープで贈る世界」のサブタイトルで、松村衣里によるハープ・コンサートでした。松村は京都市交響楽団のハープ奏者で、京都市交響楽団には2002年に入団しました。姉の松村多嘉代もハープ奏者で、姉妹で「デュオ・ファルファーレ」(イタリア語で蝶々の意味)としても活動しています。コロナ禍の京響メンバーによるアウトリーチコンサートでは率先して演奏に参加していたのが印象に残っています。本公演は「第28回京都の秋音楽祭」(9月14日~11月23日)にラインナップされました。

入場無料で事前申込不要で、整理券の配布はなく、定員(約100席)を超える場合は立ち見となりました。早めに京都コンサートホールに着いたところ、松村がピンク色の私服で一人でリハーサル中。エントランスホールの構造によるものか、ハープの音がむっちゃ響きます。こんなに大きな音量が出るとは知りませんでした。開場は10:30の予定でしたが、早くも10時前から行列ができたため、10:20に開場。プログラムと、松村による曲目解説が配布されました。約100席の座席はすぐに埋まって、エントランスホールを取り巻くスロープにも300人ほどが立ち見で聴きました(ブログ「ファルファーレのお部屋にようこそ!」によると、400名近いお客様だったとのこと)。

向かって左によく見かけるグランドハープが、右に少し小さいベックメッサーハープが置かれていました。松村が緑色のドレスで登場。オーケストラではいつもハープの後ろに隠れていて見えませんが、小柄です。楽曲解説を配布しているからか、トークはまったくありませんでした。

プログラム1曲目は、アンリエット・ルニエ作曲/伝説~ルコント・ド・リールの「妖精」を読んで。松村がグランドハープを暗譜で演奏。私の席からは、普段見えない足元のペダルがよく見られました。両足が意外に忙しい。楽器を身体側に傾けるときは重そうに見えますが、あまり上下に楽器を揺らしません。両手で弾いて大きなアクションで魅せます。楽曲解説の裏面に、ルコント・ド・リール「妖精」のポエムが松村衣里の翻訳で掲載されました。

プログラム2曲目は、チャールズ・オーベルチュール作曲/蝶々。やさしい気持ちになる作品。

プログラム3曲目は、レスピーギ作曲(グランジャニー編)/「リュートの為の古風な舞曲とアリア 第3組曲」より「シチリアーナ」。有名な作品ですが、ハープ奏者のマルセル・グランジャニーによる編曲は、ハープのいろいろな奏法が楽しめました。

プログラム4曲目は、山根明季子作曲/ピクシーダスト。この作品のみ小さなハープ(ベックメッサーハープ)を演奏しました。委嘱作品で世界初演です。ベックメッサーハープとは、ワーグナーがオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」で使用するために発案した楽器で、弦は20本で通常のハープよりも楽器のサイズが小さい。世界に13台しかないと言われていて、松村は2023年の同オペラのびわ湖ホールでの上演を機に、個人でドイツのメーカーに特注したとのこと。それだけでなく、この楽器で演奏する曲を、さまざまな作曲家に委嘱しているとのこと。おもしろい試みです。なお、ベックメッサーとはオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の登場人物の名前です。
作曲者の山根明季子(あきこ)は、1982年生まれで、京都市立芸術大学大学院修了。なんと川島素晴の元妻とのことでびっくり。松村は楽譜を見て演奏。ベックメッサーハープは、グランドハープとは音色が全然違います。松村によると「リュートの音色を模した」とのことですが、三味線やツィンバロンなどの東洋的な雰囲気に似た音色です。リズミカルに一定のテンポで演奏する作品です。演奏後に作曲者の山根が登場。ユニークな髪型でした。

プログラム5曲目は、フォーレ作曲/即興曲。ふたたびグランドハープでの演奏。左手で弦をなでつけるようにすると音が出るのが不思議です。左手と右手で音も奏法も違うことができて。表現力がある楽器だと感じました。

拍手に応えてアンコール。マルセル・トゥルニエ作曲/朝に。楽譜を見て演奏。あっという間の40分でした。

公演終了後は「ランチタイム・サービス」ということで、本公演のプログラムを見せると、公演当日のみ周辺の飲食店12店で割引サービスが受けられます。せっかくなので、2店をはしごしました。 

松村のX(@MieldOr8)によると、2025年5月25日(日)に大阪でベックメッサーハープのコンサートを開催するとのこと。どういうプログラムになるか楽しみです。また、本公演の後には、国宝の修復に使用される漆刷毛のためにヘアドネーションで髪の毛を切ったことがブログで報告されました。短いほうがお似合いですね(余計なお世話)。


グランドハープ(左)とベックメッサーハープ(右) アンコール曲

 

(2024.11.5記)

 

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