高槻城公園芸術文化劇場開館記念 ベートーヴェン「第九」演奏会


  2023年5月8日(日)15:00開演
高槻城公園芸術文化劇場南館トリシマホール

石川征太郎指揮/京都市交響楽団
森麻季(ソプラノ)、林美智子(アルト)、錦織健(テノール)、平野和(バリトン)
高槻城公園芸術文化劇場開館記念「第九」合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル

中村滋延/交響詩「歴史幻想 たかつき」(新作初演)
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付き」

座席:全席指定 2階3列20番


今年3月18日に開館した高槻城公園芸術文化劇場に初めて行きました。高槻市では高槻城公園の整備計画を進めていて、「北エリア」の高槻市民会館(1964年開館)は、老朽化のため昨年7月末で閉館しました。高槻城公園芸術文化劇場の南館は、新たに高槻城二の丸跡の「中央エリア」に建設されました。総事業費は約140億円。わざわざ「高槻城」と名付けていますが、高槻城は高山右近が城主を務めたことがありますが、あまり有名ではありません。なお、高槻城公園芸術文化劇場のオープンには、高槻市文化スポーツ振興事業団顧問の蔭山陽太が携わっています。蔭山はロームシアター京都支配人(ロームシアター京都 プレイ!シアター in Summerを参照)を務めた後、THEATRE E9 KYOTOの支配人を務めていますが、2021年10月から京都芸術大学芸術学部美術工芸学科アートプロデュースコースの准教授にも就任してびっくり。こけら落としは、4月1日(土)に「大阪フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会」が行なわれました(指揮:尾高忠明、ピアノ:仲道郁代)。仲道は3歳まで高槻に住んでいたようです。

本公演は大阪フィルに続くオーケストラ公演で、ゴールデンウィークの最終日に開催されました。意識されてないと思われますが、5月7日は「第九」が初演された日です。チケットは、高槻城公園芸術文化劇場ネット会員は一般会員よりも1週間早く購入できました。セブンイレブン発券(発券手数料110円)にしましたが、電子チケット(れすQ)は手数料無料だったようです。チケットは全席完売でした。
なお、本公演に先立つ4月16日(日)に開催された「「第九」演奏会プレイベント ~指揮者と現代作曲家の語らい~」では、石川征太郎と中村滋延が出演し、「指揮者が語る「第九」の魅力と聞きどころ」と「作曲家に聞く新作初演曲について」のトークイベントが行なわれました(太陽ファルマテックホール、500円)。

高槻城公園芸術文化劇場の南館は、阪急高槻市駅から徒歩8分。高槻城二の丸跡を意識してか、堀や築地塀に囲まれて、木橋を渡って入場するなど、まさに高槻城を再現したかのような外観がユニークです。地上3階、地下2階で、この日は雨だったこともあり、1階エントランスのニューヨーク発祥のカフェ「THE CITY BAKERY」は大盛況でした。トリシマホール(大ホール)は南館1階の奥にあります。トリシマホールのネーミングライツは、株式会社酉島製作所(本社:高槻市)が10年間所有しています。座席数は1505席で、北摂地域で最大規模です。2階席にしましたが、ステージが近くて全体が見渡せて、視覚的にいい。座席の前後間隔は、余裕があってゆったりしています。2階席の通路の階段は、グレーの石でした。黒色の壁に、茶色の正方形の小さな木材(木製のキューブ)が27,000個も設置されています。木材は大阪府産とのことで、アクリエひめじ大ホールのレンガと同じく、凸凹をつけて音を分散させる役割があるのでしょう。開演前のチャイムがロームシアター京都と同じでした(アクリエひめじとも同じ?)。

オーケストラは対向配置で、第1ヴァイオリン12~コントラバス5の中編成での演奏。打楽器は上手側に配置。ステージ後方に合唱団を入れるため、前方の座席を撤去してステージを拡張していました。そのため、両ヴァイオリンはせりだしたステージで演奏しました。コンサートマスターは泉原隆志。指揮は石川征太郎。今年で37歳で、2021年5月に石川星太郎から石川征太郎に改名しました。

プログラム1曲目は、中村滋延(しげのぶ)作曲/交響詩「歴史幻想 たかつき」(新作初演)。中村は高槻市出身で高槻市在住。九州大学大学院芸術工学院教授を経て、現在は九州大学名誉教授です。高槻城公園芸術文化劇場南館のすぐ隣の高槻市立第一中学校に通っていたとのこと。本作品は新作初演で、中村がプログラムに寄せた曲目解説によると、「高槻市の歴史の音楽による描写」で、7つの楽章から成り、切れ目なく続けて演奏されます。20分ほどの作品。映画音楽のような作品で、メロディーがシンプルで分かりやすい。演奏も作品の特徴をとらえて分かりやすい。ホールは美しくよく響いて、強奏でも混濁しません。
第1楽章「男大迹王(おほどのおおきみ)」に続いて、第2楽章「平安京」ではフルートが龍笛のようなソロに、スレイベル(鈴)が伴奏 。第3楽章「源平の戦い」では、コンガをスティックで叩いて和太鼓のような響き。中間部はチェロのソロ。第4楽章「聖者右近」はキリシタンが歌ったであろう聖歌のようなメロディーを弦楽器が演奏。第5楽章「天下分け目の戦い」に続いて、第6楽章「淀川」ではフルートソロ。第7楽章「希望と栄光の町」では、高槻市歌(1947年制定、西川得了作曲)が演奏されましたが、客席がざわざわした感じもなかったので、あまり知られていないのかもしれません。演奏終了後は、作曲者の中村が1階席で聴いていたようで、石川が立たせたようですが、2階席からは見えませんでした。

休憩後のプログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱付き」。オーケストラはホールの空間によく溶け込んで、自然に響きます。演奏者は気が抜けないかもしれませんが、楽器の遠近感や奥行きが聴いていて伝わるのがいい。石川の指揮は両手両足を広げて大きなアクションですが、打点は緩め。
第1楽章から速めのテンポ。ティンパニを硬めのマレットで強調。513小節からも速い。第2楽章もやや速め。石川はスピード感がある指揮で、指揮棒が飛んでいってしまうのではないかと思うほどでした。反復記号は全てスコア通り。ティンパニが272小節だけ3連符×3になっているところを強調しました。今まで意識したことがなかったので、新しい発見でした。第3楽章は25小節(Andante moderato)からやや速め。151小節の第1ヴァイオリンの3連符×6がむっちゃ速い。
第4楽章の前に、合唱団はステージ後方の雛壇に7列で並びました。左が女声、右が男声で、椅子がないので立ったままです。マスクはなし。高槻城公園芸術文化劇場開館記念「第九」合唱団は、「第九」の合唱経験がある18歳以上が対象のオーディションで選ばれて。1月から16回の練習を経て本番に臨んだようです。プログラムに掲載されたメンバー表によると、ソプラノ18、アルト17.テノール15、バス12の編成。また、賛助出演として、びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーの加わりました(ソプラノ6、アルト5、テノール5、バス4)。衣装は同じなので、見た目は分かりません。独唱者4人も登場。指揮台の前の椅子に座りました。
第4楽章は驚くほどの速さ。終演時間を気にしているのではないかと思えるほどで、落ち着かない感じでしたが、チェロとコントラバスがメロディーを演奏する92小節(Allegro assai)からはさすがに普通のテンポ。いつもは年末に聴いているこのメロディーを春に聴くのは不思議な気持ちになりました。331小節(Allegro assai vivace)が速い。こんな速いテンポは東京交響楽団川崎プレ定期演奏会第1回「音楽監督就任記念 ユベール・スダーンへの期待」に匹敵か、それ以上でしょう。655小節(Allegro energico, sempre ben marcato)からは遅いテンポ。ここを遅くする解釈は初めてかもしれません。バリトン独唱の平野和(やすし)は十分すぎるほどの声量。ソプラノの森麻季は美人ですが、50代と知ってびっくり。テノールの錦織健は、顔を上下に揺らして一生懸命歌います。合唱団は健闘で、音量は十分ですが少し響きすぎで、歌詞がはっきり聴こえるとよいでしょう。832小節の合唱の「Menschen!」は短く切りました。
カーテンコールでは合唱指揮の女性も登場しました。

トリシマホールはあまりステージは広くありませんが、音響的にも視覚的にもいいホールです。大阪フィルが8月に夏休みファミリーコンサートを開催しますが、在阪のオーケストラは定期公演を開催してもいいでしょう。南館にはトリシマホールの他に、小ホール(太陽ファルマテックホール、205席)もあります。また、「北エリア」の高槻市民会館のうち、大ホール(1564席)は閉館しました。まだ建物は残っていましたが、今後は解体されて、高槻城の跡地として門や櫓が建てられるようです。同じ「北エリア」の文化ホール地階の中ホール(602席)は、ひきつづき高槻城公園芸術文化劇場の「北館」として運用されています。高槻城公園の「南エリア」には、模擬天守台や、高槻市立しろあと歴史館もあり、晴れていたらそれなりに散歩できます。

本公演の翌週の5月13日(土)と14日(日)に、将棋の名人戦第3局が開催され、渡辺明名人と藤井聡太六冠が対局しました。対局室は南館の中スタジオ1。大盤解説会はトリシマホールで行なわれましたが、1500席が満員になったとのこと。すごい人気です。2024年秋には関西将棋会館がJR高槻駅前に移転予定で、「将棋のまち」として活性化が期待されています。なお、対局前日の12日(金)には、渡辺名人と藤井六冠が、近くの高槻市立しろあと歴史館に展示されている江戸時代の将棋駒を見学しました。入場無料です。

大阪府内では、豊中市立文化芸術センター(2016年1月開館、大ホール=1344席、センチュリー豊中名曲シリーズVol.17を参照) 、フェニーチェ堺(2019年10月開館、大ホール=2000席、避難訓練コンサートを参照)の他にも、東大阪市文化創造館(2019年9月開館、大ホール=1500席)、箕面市立文化芸能劇場(2021年8月1日開館、大ホール=1401席)、枚⽅市総合⽂化芸術センター(2021年8月30日開館、関西医大 大ホール=1468席)などが続々と開館していますが、高槻城公園芸術文化劇場のトリシマホールは、期待以上の音響でした。また行きたいです。

 

建設中の高槻城公園芸術文化劇場南館(2022年7月撮影) 高槻城公園芸術文化劇場南館 高槻城の紹介 南館を堀から望む エントランス広場 エントランスロビー 1階通路を南から望む トリシマホール入口 旧高槻市民会館と高槻城公園芸術文化劇場北館 高槻市立しろあと歴史館 高槻城跡の石碑 高槻城跡の石碑 高山右近像

(2023.5.23記)

 

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