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2009年11月28日(土)14:30開演 京都コンサートホール大ホール 広上淳一指揮/京都市交響楽団 モーツァルト/歌劇「魔笛」序曲 座席:S席 3階C‐3列26番 |
京都市交響楽団の2008年最後の定期演奏会に、常任指揮者の広上淳一が登場しました。今回の演奏会は、公演2日前に全席完売。当日券が発売されませんでした。今年になって定期演奏会のチケットが完売したのは3回目(第526回定期演奏会(大野和士指揮)、第527回定期演奏会、今回)ですが、当日券が発売されなかったのは初めてです。京響定期演奏会のこれまでの歴史でもそんなにないでしょう。半額で購入できる後半券や学生券が発売されることなく前売りで完売したのは、京響の演奏が京都市民に浸透してきた証拠でしょう。「プレトーク」や「レセプション」などのファンサービスの効果も大きいと言えるでしょう。
14:10からステージでプレトーク。いつもは私服で登場する広上淳一ですが、今回は着替えて登場。「来年度の京響のプログラムを発表したいところですが、正式には12月18日に発表されます。ここで話してしまうと楽しみが半減してしまいますので」と話しました。いつものプレトークはこれから行なわれる京響の演奏会のPRがメインですが、この日はプログラムの話題がほとんどでした。作品の特徴とソリストのプロフィールを丁寧に紹介しました。「今日の演奏会のテーマは数字の3」とのこと。フリーメイソンをテーマとした魔笛、三重協奏曲、交響曲第3番の3曲で構成されました。詳しくは各曲のところで後述します。プレトークが始まった頃は客の入りは3割くらいでしたが、終わる頃には6割くらいにまで増えました。
プログラム1曲目は、モーツァルト作曲/歌劇「魔笛」序曲。プレトークで広上は「市民のために書かれたオペラ。フリーメイソンの自由、平等、博愛がテーマ。♭が3つの調性で書かれていて、和音も3つ、旋律も3回出てくる」と解説しました。「3番というと長嶋茂雄の背番号で、ラッキーナンバー」と言って笑わせました。
前座扱いで、肩慣らし程度の軽い演奏。力いっぱい鳴らさないで、どの楽器もでしゃばりません。強奏でも鳴らしきらないので、もっと濃厚に響いて欲しいです。
プログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/ヴァイオリン、チェロ、ピアノのための三重協奏曲。ヴァイオリン独奏は堀米ゆず子、チェロ独奏は宮田大、ピアノ独奏はアブデル・ラーマン・エル=バシャ。プレトークで広上は「めった演奏されることがない曲。なぜならソリストを3人呼ぶのにお金がかかるから。今日は大変お得な演奏会」と話しました。チェロ独奏の宮田大は23歳。11月7日にパリで行なわれた「ロストロポーヴィチ・コンクール」として日本人として初めて優勝しました。本当にタイムリーな出演となりました。広上は「大変な才能」「チェロパートは非常に難しいが、すばらしい技巧」と練習の感想を述べました。ピアノのエル=バシャは、広上と同い年とのこと。ヴァイオリンの堀米も広上とほぼ同じ世代。「若いときからエネルギーを持ち続けるのが難しい」「私の尊敬する音楽家」と紹介しました。堀米がステージに呼ばれて広上と対談。堀米は「ほとんどストップせずに練習が進んだ」と話しました。ヴァイオリンパートについては「ピアニスティックに書かれているので難しい」。京響については「うまくなった」と話しました。
ソリスト3人は広上の後ろで演奏。ステージ向かって右から、ピアノ、チェロ、ヴァイオリンの順。ピアノは客席右側を向いて、チェロは客席正面を向いて、ヴァイオリンは立って演奏しました。演奏頻度が少ないためか、ソリスト用の譜面がセットされていました。
独奏者で心惹かれたのは、宮田大のチェロ。格調高い音色で、高級感があります。まだ若いですが、すでにベテランの風格があります。高音も伸びやかできれい。左右に少し揺れながら演奏します。エル=バシャのピアノはつややか。堀米は赤と茶色のまだらのドレス。明るい音色ですが、高音が少しきつい。3人のソリストはうまく調和していて、それぞれのキャラクターが楽しめました。
京響の伴奏もうまい。広上はこの曲のみ指揮棒なしで指揮。第1楽章前奏から息を大きく吸ったり、うなり声を上げたり激しい指揮。独奏をうまく引き立てました。
ただ、この作品はメロディーが魅力的ではありません。演奏が悪ければ退屈してしまったことでしょう。これだけすばらしい演奏なので、こんな曲を演奏するのは逆にもったいない気がしました。三重協奏曲ではなく、それぞれが1人で独奏する協奏曲を聴きたいですね。
休憩後のプログラム3曲目は、サン=サーンス作曲/交響曲第3番「オルガン交響曲」。オルガン独奏は桑山彩子。プレトークでは広上は「京都が生み出したすばらしいオルガニスト」「大変な逸材」と紹介。桑山がステージに呼ばれて広上と対談。桑山が留学していたリヨンについて、広上が「リヨンは美食の町ですね」と聞くと、桑山は「よくぞ聞いていただきました。食べ物がとてもおいしい」と答えました。広上が「オルガンとお酒とどっちがお好きですか?」と聞くと、桑山は「ここではオルガンということにしておきます」と笑って話しました。
演奏は京都市交響楽団大阪特別公演でのチャイコフスキー「悲愴」に匹敵する完成度でした。なかでも弦楽器と木管楽器がすばらしい。ブラボー。音色もよく磨かれています。広上が常任指揮者に就任して1年半になりますが、この演奏で一つの集大成を示したといっていいでしょう。「泣ける」レベルの演奏で、本当に胸が熱くなりました。この作品がこれだけ多彩な表情を持っていたとは知りませんでした。表情豊かに演奏されたからでしょう。この作品は日本フィル京都演奏会2002秋で聴いていますが、桑山はステージ上から遠隔操作でオルガンを演奏するのではなく、ポディウム席の後ろで座って演奏しました。左横にあるモニターを見て広上の指揮と合わせていました。オルガンは私の客席から正面なので、よく聴こえました。
第1楽章第1部はフルートが大健闘。第1楽章第2部は美しいメロディーですね。オルガンも優しい音色。第2楽章第2部の練習番号FF(Stringendo)は広上は両手を広げたまま指揮台の上でジャンプしまくり。まさに壮観。欲を言えば、金管楽器はもう少し中身が詰まった音色を聴かせて欲しい部分もありました。
カーテンコールの後、広上が挨拶。「2日ほど前に、河原町のマック(=マクドナルド)を徘徊していましたら、「京響を応援しています」と声をかけられました。本当にうれしかった。」「私の師である外山雄三先生に「王道を行け」と教えられた。京響はまさにオーケストラの王道を歩んでいる」と話し、京都市交響楽団のメンバーを立たせました。また、「今年3回目の満員御礼です。団員もとても喜んでいます。すでに世界水準のオーケストラですが、これからも白鵬のように全勝を続けたい」と話しました。さらに「指導している東京音大のオーケストラが12月1日に上洛させていただくことになりました。京都市立芸大と一緒に演奏することになったのも何かの縁」と話し、「東京音楽大学シンフォニーオーケストラ ユニセフ チャリティ演奏会」を紹介しました。
最後に「1曲プレゼントします」と話して、アンコール。「温かい弦のメロディーを」と話して、グリーグ作曲/2つの悲しき旋律から第2曲「過ぎにし春」を演奏。弦楽器のみの演奏です。同志社女子大学音楽学科管弦楽団大津演奏会で聴いたばかりです。まとまった響きを聴かせました。
終演後はホワイエでレセプション。前回の第527回定期演奏会よりも多くの客が集まりました。新井浄シニアマネージャーの司会で進行。堀米ゆず子とアブデル・ラーマン・エル=バシャが登場して挨拶。マイクの音量が小さいのと周囲の歓談の声が大きくて、話がほとんど聞き取れませんでした。残念。続いて、宮田大が登場。せっかくの機会なのでサインをもらいました。「Miyata Dai」というサインでした。アーティスト写真は少し暗くて気難しそうな印象を受けましたが、とてもさわやかな好青年でした。一人一人丁寧にお辞儀してサインに応じてくれました。演奏もすばらしいですが、人柄にも非常に好感が持てました。ファンになりそうです。少し遅れて、広上淳一が登場。「今日のように満席になると、我々のモチベーションも上がります。このペースを維持したい」と挨拶。続いて、桑山郁子は「いつもは一人で孤独に弾いていますが、今日はオーケストラと共演できて楽しめた」と話しました。桑山にもサインをもらいました。漢字で「桑山郁子」と書いていただきました。17:20にお開き。
京都市交響楽団はさらにうまくなりました。広上が「世界水準」と言ったのも嘘ではありません。オーケストラのレベルを短時間で引き上げる広上淳一の手腕はものすごいですね。お客さんもどんどん増えてきています。来年から定期会員になろうかどうか考え中です。来年度のプログラムが待ち遠しいです。
(2009.12.1記)