芸術文化センター管弦楽団第41回定期演奏会「岩村力×林英哲 和洋の響宴」


   
      
2011年3月19日(土)15:00開演
兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

岩村力/兵庫芸術文化センター管弦楽団
林英哲(太鼓)

伊福部昭/SF交響ファンタジー第1番
山下洋輔/プレイゾーン組曲(管弦楽版)
武満徹/鳥は星形の庭に降りる
松下功/和太鼓協奏曲「飛天遊」

座席:A席 3階3A列28番


3月11日に発生した「東北地方太平洋沖地震」の影響で、計画停電が実施されている関東地方では、演奏会は公演中止が相次いでいます。被災された方にお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復興をお祈りいたします。

兵庫芸術文化センター管弦楽団が邦人作品のプログラムを組みました。指揮は、2010年1月からレジデント・コンダクターに就任した岩村力。岩村の指揮は初めて聴きます。太鼓奏者の林英哲との共演も注目です。兵庫芸術文化センター管弦楽団の定期演奏会は、同一プログラムで金・土・日の3日間も行なわれているので、この日は2日目です。
チケットを購入したのが遅かったこともあり、初めて3階席にしました。3階席の最前列で、ぎりぎり雨宿り席ではありません。視覚的にもステージ全体が見渡せるので、なかなかいい席です。客の入りは8割ほど。

開演前にプレトーク。京都市交響楽団の定期演奏会でも行なわれていますが、京響は開演時間前に行なわれているのに対して、兵庫芸術文化センター管弦楽団では開演時間になってから行なわれます。岩村力がステージに登場。「8日前に発生した東日本大震災の被害に遭われた方に謹んでお悔やみ申し上げます。その日は青森にいた。ホテルの部屋で、4分間宙を舞う思いをした。決死の思いでなんとか移動できた」「今日はPAC(兵庫芸術文化センター管弦楽団)の演奏がいつも以上にみなさまの心に届くように」と話しました。「期せずして今回のプログラムは、日本人の曲が4曲」とプログラムの紹介。「武満さんの作品は繊細な時間が流れる」「共演する林英哲さんはバイタリティーあふれる演奏。松下さんの曲はダイナミックな曲。山下さんの曲はもともとは室内楽編成だが、今回はオーケストラ編曲で世界初演となる」と解説。伊福部昭の「SF交響ファンタジー第1番」について、「ゴジラの音楽は、生々しくておどろおどろしい。地震を連想させる重苦しい曲を演奏していいのか、プログラムから降ろすべきではないのかというディスカッションがあった」と明かしました。「純音楽的にきちんと演奏すべきと考えた。ゴジラは戦いがテーマではなく、伊福部さんは反戦争と反核兵器を訴えている」と話しました。リハーサルをした感想は、「やっぱり日本のメロディーはいい。日本人の根っこにつながる部分がある」と話しました。難しい状況の中にもかかわらず非常にいいスピーチで、心に染みました。

拍手に迎えられて、団員が入場。プログラム1曲目は、伊福部昭作曲/SF交響ファンタジー第1番。生でこの曲を聴くのは初めてですが、やっぱり生オケはいい。弦楽器がよく洗練されていました。金管楽器と打楽器が十分鳴って迫力もある。ただし、3階席だと打楽器が響きすぎて打点が見えない。また、アインザッツがあまりそろわなかったのが残念。岩村の指揮棒の振りや体の動きが大きいからでしょうか。

プログラム2曲目は、山下洋輔作曲/プレイゾーン組曲(管弦楽版)。林英哲とベルリン・シャルーン・アンサンブル(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーで構成)のために作曲されて、2002年に初演されました。今回は、兵庫芸術文化センター管弦楽団が委嘱した管弦楽編曲での演奏で、世界初演となります。ホールの入口に、山下洋輔からの花が飾られていました。オーケストレーションは挾間美帆。芸術文化センター管弦楽団第21回定期演奏会で演奏された、山下洋輔作曲/ピアノ協奏曲第3番「エクスプローラー」も挾間美帆が手がけています。
太鼓独奏は、林英哲。ステージ後方から登場。袴のような衣装でした。1952年生まれなので今年で60歳近いですが、見た目は若く、30歳くらいに見えます。ステージ後方中央に設置された高い台で演奏します。正面に大太鼓が置かれていて、その周囲には種類が異なる小太鼓がぐるっと並んでいます。
作品は6つのパートからなります。第1曲「ビギニング」は、管楽器が音を出さずに息の音をさせたり、コントラバス奏者が手で楽器を叩いたり、いやらしい雰囲気で始まります。男性の声も聴こえましたが、林でしょうか。林は小太鼓を叩くときはイスに座るのではなく、立ったまま中腰のようです。第2曲「イントゥー・ザ・ゾーン」は、小太鼓や木琴を叩きます。また、吊られたサヌカイト(讃岐岩から作られた打楽器)が民族楽器のような不思議な音色で同じパッセージを繰り返します。第3曲「ダイアログ」は、テンポが速くなって林も忙しくなります。第4曲「ダンス」は、伴奏音型を叩き続けます。林は暑くなってきたのか上着を外しました。肩や腕が見えるようになりましたが、すごい筋肉でした。第5曲「チェイス」まで来ると曲想が似てきましたが、第6曲「ゾーン・プロミネンス」で、ついに大太鼓を使用。重い音色がホール全体に響き渡ります。客席からは背中を見せて叩く格好ですが、大太鼓の下にモニターに指揮者が映し出されていて、テンポを合わせていました。難しい部分もいとも簡単そうに演奏します。機械のようにテンポも正確で乱れません。小太鼓も大きくバチを振り上げて叩きます。連打が続いて、休みなく叩き続けます。「ヤッ!」「ハッ!」などの林の掛け声も聴こえました。

休憩後のプログラム3曲目は、武満徹作曲/鳥は星形の庭に降りる。意外に大きな音で演奏されました。打楽器も大きめ。フレーズの勢いもよく、スピードをつけて演奏しましたが、もっとゆったり遅いテンポで聴きたい気がしました。また、木管楽器の音程が悪く、武満徹ならではの和音が聴けませんでした。

プログラム4曲目は、松下功作曲/和太鼓協奏曲「飛天遊」。太鼓独奏の林英哲がふたたび登場。「プレイゾーン組曲」とは着ている袴の色が違いました。マレットの天地を逆にして(持つところをひっくり返して)叩く奏法がありました。弱奏で長いソロがあり、次第に激しさを増します。「ヤー!」という掛け声の後、オーケストラが加わって速いテンポに突入。太鼓の音に埋もれて、オーケストラのメロディーは聴こえません。ふたたび、林のソロの後、「イヤー!」という全員の掛け声の後、全奏。そのまま轟音で終わります。和太鼓の魅力は伝わりますが、作品の音楽的な魅力は劣るでしょう。

カーテンコールの後、指揮台の後ろに、小さな和太鼓が搬入されました。岩村が「すべての思いを込めてアンコールをお届けしたい」と挨拶。林英哲が「八丈島の太鼓のお囃子の歌「太鼓を打つ子ら」を演奏したい。私が歌詞をつけた。大震災ではこどもたちも犠牲になった」と涙声で話しました。「もともとアンコールとして用意していた曲だが、祈りの気持ちと子供たちが前向きに生きられるように」と話し、民謡「太鼓打つ子ら」を演奏。林は太鼓を叩きながら歌いました。客席からは鼻をすする音が聴こえたので、阪神大震災を思い出した方がおられたようです。兵庫県立芸術文化センターが震災の復興のシンボルとして建てられたのでなおさらでしょう。しんみりとしたアンコールでした。

兵庫芸術文化センター管弦楽団の演奏を聴いたのは、芸術文化センター管弦楽団第21回定期演奏会以来でしたが、弦楽器などは演奏がレベルアップしたようです。

(2011.3.22記)


山下洋輔からの花



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