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2007年12月9日(日)15:00開演 日比谷公会堂 井上道義指揮/新日本フィルハーモニー交響楽団 ショスタコーヴィチ/交響曲第8番 座席:指定席 階上 A列 24番 |
井上道義がショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏会を指揮しました。主催は、井上道義が音楽監督を務める「日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト2007」実行委員会。京都市交響楽団第497回定期演奏会でショスタコーヴィチ全曲演奏会の企画を井上道義がアナウンスしていたので、かなり前から注目していました。本当は全曲を聴きたかったのですが、平日公演もあったので無理でした。悩んだ結果、最終日の演奏会(第8番と第15番)を選択しました。チケットは全席3,000円(青少年1,500円)という破格の安さ。カジモト・イープラス会員限定の先行受付で、チケットを購入しました。8回セット券の売れ行きも好調だったようです。
井上が全曲指揮しましたが、オーケストラは演奏曲によって変わりました。今回のオーケストラは、井上道義がかつて音楽監督を務めた新日本フィルハーモニー交響楽団です。
ちなみに、全曲演奏会のプログラムは以下の通りです。
11月3日(祝・土) 第1番、第2番「十月革命に捧ぐ」、第3番「5月1日(メーデー)」 サンクトペテルブルク交響楽団
11月4日(日) 第5番、第6番 サンクトペテルブルク交響楽団
11月10日(土) 第7番「レニングラード」 サンクトペテルブルク交響楽団
11月11日(日) 第10番、第13番 サンクトペテルブルク交響楽団
11月18日(日) 第9番、第14番 広島交響楽団
12月1日(土) 第4番 東京フィルハーモニー交響楽団
12月5日(水) 第11番「1905年」、第12番「1912年」 名古屋フィルハーモニー交響楽団
12月9日(日) 第8番、第15番 新日本フィルハーモニー交響楽団
全曲の演奏会場をあえて日比谷公会堂にしたのも驚きでした。かつては多くの来日演奏家が日比谷公会堂で演奏会を開きました。カラヤンも2回指揮しています(1954年 NHK交響楽団、1957年 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)。ショスタコーヴィチ交響曲(第5番、第7番〜第12番)の日本初演も行なわれました。しかし、東京文化会館やNHKホールが開館するとめっきりクラシックの演奏会が行なわれる回数が減ってしまい、今ではクラシックの演奏会はまったくと言っていいほど開かれていません。このプロジェクトは、日比谷公会堂の歴史的・社会的役割を見直すという目的も持っていて、趣旨に賛同した著名人が上述の実行委員会を結成しました。委員長の黒柳徹子を筆頭に、マルタ・アルゲリッチ、オノ・ヨーコ、ユーリ・テミルカーノフ、篠田正浩、吉松隆など豪華な顔ぶれです。また、全曲演奏会に先立つプレ・イヴェントとして、日比谷公会堂で「日比谷公会堂と野外音楽堂の未来を語る会(シンポジウム)」が7月29日(日)に行なわれました。
日比谷公会堂は日比谷公園の中にあります。周囲に高層ビルが立ち並ぶなかで、日比谷公会堂の外観は1929年に建設されただけあって古いです。開場前に当日券を買い求める長い行列ができていました。いつもの演奏会よりも年配の方が多かったですが、おそらくかつて日比谷公会堂に足を運んだことがある方でしょう。また、入口付近でロシアの菓子や食器などを販売していました。
14:30に開場。共通パンフレットを2,000円で購入しました。珍しい写真が多く掲載されていました。コートを預けようとしたところ、日比谷公会堂にはクロークがないことが判明。コートはひざの上に置いて聴くことにしました。また、ドリンクコーナーがない代わりに、売店があります。ロビーにはこれまでの全曲演奏会のリハーサルと本番の風景を撮影した写真パネル(井上道義の直筆サイン入り)が展示されてあったので、かなり狭く感じました。
日比谷公会堂の音響はあまりよくないという話を聞いていたので、座席は階上(2階席)の最前列にしましたが、ステージとの距離が近くて驚きました。階下(1階席)と階上(1階席)の人数はほとんど同じなので、2階はかなり広いです。その代わり、1階は雨宿り席が多いです。ホールの内装は予想していたよりもきれいでした。ホールの入りはほとんど満席でした。
「千秋楽へようこそ」から始る携帯電話を切るように促すユニークな場内アナウンスの後、プログラム1曲目は、交響曲第8番。前後の第7番や第9番に比べると、演奏頻度が低い作品です。今までしっかり聴いたことはありませんでした。強弱の設定が極端にはっきりした作品と言えるでしょう。第1楽章中間の強奏は壮絶でした。
井上道義は指揮棒なしで指揮。スコアをめくりながら指揮していました。指揮の動きに気持ちが入っていて、確信を持って指揮しました。細部をおろそかにしない姿勢が好感を持てました。強奏では激しく動くので、着ているモーニングの白い裏地が見えました。新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏も完成度が高い。第2楽章の木管楽器のアンサンブルは聴きものでした。
ただし、ホールの音響がよくありません。ステージで響きが止まってしまって、客席に届いていません。普通のコンサートホールなら気にならないのでしょうが、音程の細かなズレが目立ちました。第4楽章の弦楽器の弱奏ももっと豊かに響いて欲しいです。
休憩後に、実行委員長を務める黒柳徹子と音楽監督の井上道義がステージに登場。黒柳は客として来ていてステージに上がる予定はなかったそうですが、さっき井上に言われたのでということで「地味な服装ですいません」みたいなことを言っていました。ちなみに黒柳は黒い衣装を着ていました。井上が「今日は晴れましたね。僕は雨男なので」と言うと、黒柳が「私は晴れ女」と答え、井上が「おかげさまで」と応じました。井上はこれまでの全曲演奏会で回収したアンケートの束を持っていました。アンケートにイスのことが多く書かれているようで、井上は「あっちのほう(1階席左側)はイスは傾いている」と話しました。日比谷公会堂について「個性的な音がするホール」「奏者一人一人の音がよく聴こえる」とコメントし、「僕にとっては大発見だった」「真実の音楽とは何かということを考えさせられる」「音楽にパワーがあればいいんだ」と語りました。また、期間中のカンパが100万円、入場者が1万人を超えたことを報告しました。
黒柳が日比谷公会堂との思い出を語りました。「私の父(黒柳守綱)は新交響楽団(現NHK交響楽団)のコンサートマスターで、日比谷公会堂で年末に「第九」の演奏会を行なった。その演奏会に私の母(黒柳朝)が合唱団員として参加していた。その後2人は結婚した。だから、日比谷公会堂とベートーヴェンがなければ、私は産まれてなかった」と話しました。黒柳が指揮台の後ろに立っている機械について、井上に「これは何ですか」と質問。井上が「マイクロフォンで実況CDを録音している。本当は天井から吊りたかったんだけど、壊れているので無理だった」「録音してるけど、CDはみんなが買ってくれないと出さない」と話しました。黒柳は「アンケートにCDを出してくださいと書きましょう」と聴衆に呼びかけていました。
プログラム2曲目は、交響曲第15番。第8番よりも演奏頻度が高いので、オーケストラも演奏し慣れていて、響きがまとまっていました。第1楽章から透明感のある音色がすばらしい。拍子が入れ替わりますが、井上は数ヶ所振り間違いました。オーケストラが間違った部分もありました。第2楽章192小節からはフルスタ(むち)が見事に決まりました。第3楽章はテンポが速いこともあってか、少し危なっかしい演奏。第4楽章は、17小節からのヴァイオリンの旋律はゆっくりしたテンポで演奏。294小節からはさらにゆっくり演奏しました。341小節から始まる弦楽器の全音符は本当に美しいですね。目頭が熱くなりました。342小節からのカスタネット、ウッドブロック、小太鼓によるリズム音型はもう少し遠景で響いて欲しいですが、打楽器はステージの最後列に配置されていたのでこれ以上は難しいでしょうか。井上はこの作品も指揮棒なしで指揮しました。
演奏終了後は、盛大な拍手が送られました。井上も指揮台で一回転するなど聴衆にサービスしました。また、客席から贈られたお酒を、スコアの最後のページに載っていたショスタコーヴィチの写真に飲ませていました。オーケストラが引き上げた後も拍手が続いて、井上が一人で写真パネルを持ってステージに呼び出されました。聴衆はスタンディング・オベーションで迎えました。井上が持っていた写真パネルはロビーに展示してあったもので、全公演セット券を購入した人に抽選で当たるとのこと。当選番号はロビーに掲示されていました。
井上道義のショスタコーヴィチは、交響曲第5番を大阪フィルハーモニー交響楽団京都特別演奏会で聴きましたが、今回は明らかに意気込みが違いました。CDがリリースされたら、他の交響曲の演奏もぜひ聴きたいです。
新日本フィルハーモニー交響楽団は、弦楽器と木管楽器が充実していました。慣れない演奏会場だったという点を差し引けば、健闘したと言えるでしょう。
日比谷公会堂の音響は、サントリーホールなどに比べると聴き劣りしますが、NHKホールやフェスティバルホールよりはいいと感じました。施設は古いですが、交通の便がよいことを考えれば、クラシックの演奏会でもまだ使えるでしょう。ただし、大規模管弦楽作品の演奏には向かないかもしれません。
(2007.12.15記)