ラフマニノフ生誕150周年記念 熱狂コンチェルト2023


  2023年7月29日(土)14:00開演
ザ・シンフォニーホール

現田茂夫指揮/日本センチュリー交響楽団
福間洸太朗、松田華音、上原彩子(ピアノ)

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第4番(1941年版)

座席:S席 2階AA列22番


ラフマニノフ生誕150年を記念して、3曲のピアノ協奏曲が一気に演奏されるコンサートが開催されました。ピアノ協奏曲第2番から第4番まで、1人が1曲ずつ分担して演奏します。注目は、上原彩子が弾くピアノ協奏曲第4番。第4番はめったに演奏されることはなく、なんと上原も初めて弾くとのこと。演奏順は、第2番→第3番→第4番ではなく、第3番(福間洸太朗)→第2番(松田華音)→第4番(上原彩子)の順でした。なお、チャイコ3連投!熱狂コンチェルト−2021−以来、ザ・シンフォニーホールでは協奏曲3曲で構成する演奏会がシリーズ化していて、ピアニストが3人も聴ける演奏会自体が珍しい。

ザ・シンフォニーホールは、館内プレイガイドに続いて、ついに3月からカフェが営業を再開しましたが、ショップはまだ休業中でした。チケットはWEB先行予約の初日に購入したので、鍵盤がよく見えるいい席でしたが、全席完売で、補助席も販売されました。お客さんは女性客が多い。開場中にピアノを調律していましたが、下手奥にも1台あり、2台を二人で調律していました。コンサートマスターは客演でしょうか。

プログラム1曲目は、ピアノ協奏曲第3番。ピアノ独奏は福間洸太朗。颯爽と登場。すらっとして背が高く、銀行員のような風貌です(失礼)。福間のTwitter(Xに改称、以下同じ)によると、「私にとって40歳最後の日本公演」とのこと。もっと若く見えたので意外です。スタンウェイのピアノで演奏。タッチが響きすぎで音符の輪郭があいまいで、もう少し打鍵が強くてもいいでしょう。あまり疲れた様子はなかったので、第26回京都の秋音楽祭開会記念コンサートの亀井聖矢よりもスタミナがあるかもしれません。
指揮は現田茂夫。神奈川フィルハーモニー管弦楽団の名誉指揮者を務めています。全曲指揮棒なしで指揮。京都市交響楽団練習風景公開で聴いて以来で、控えめな伴奏で、少し表面的に感じる部分もありましたが、良く言えばピアノが目立つようなサポートに徹して、まさにピアノが主役のオーケストラでした。
第1楽章カデンツァ前の頂点(Allegro molto. Alla breve)で、なぜかトランペットのファンファーレが強奏。カデンツァは上述したようにタッチが響きすぎでしたが、連符を速く弾きました。第1主題が3回目の回帰となるTempo Iは、起伏が少なく、枯れた味わい。第2楽章の中間部はやや速め。第3楽章のクライマックスの弦楽器はねっとりと演奏。

休憩後のプログラム2曲目は、ピアノ協奏曲第2番。ピアノ独奏は松田華音(かのん)。6歳からモスクワで研鑽を積み、27歳。上原彩子とは「ラフマニノフ ピアノ・デュオ・リサイタル」(2023.6.7 サントリーホール大ホール)で共演しました。鮮やかなピンクのドレスで登場。笑顔がかわいく、女優みたいです。腕が細く、気持ちよさそうに弾きます。たまに前屈みになって胸を鍵盤に近づけるようにして弾きますが、安定した演奏で、一流の風格があります。福間よりも好みの演奏ですが、終演後の拍手は少なめで、カーテンコールは意外にあっさり終了。
第1楽章はテンポを遅くするところで、オーケストラとピアノがずれるところがありました。第2楽章23小節からはじまるクラリネットのアルペジオが目立って、スコアでは第1クラリネットと第2クラリネットが交互に吹きますが、本公演では前半を第1クラリネット、後半を第2クラリネットで分担していました。カデンツァ前の120小節で、ピアノ独奏の低音の四分音符はスコアでは2回ですが、3回聴こえました(オリジナルの解釈?)。休みなく第3楽章へ。日本センチュリー交響楽団の伴奏は、音色の精度、音程、音符の処理など、京都市交響楽団よりも劣ってしまいます。

プログラム3曲目は、ピアノ協奏曲第4番(1941年版)。ピアノ独奏は上原彩子。上原彩子のラフマニノフは小澤征爾×新日本フィルハーモニー交響楽団特別演奏会で第3番を聴きました。Twitterによると、翌日の7月30日が誕生日のようで、「42歳最後のコンサートでした」と綴っています。また、「初めてのラフマニノフ4番、緊張しながらも幸せでした!こんなにドキドキできるのも、幸せだなって😉」と感想を述べています。
ピアノを下手奥に置かれていたピアノと入れ替え。同じスタンウェイでしたが、デビュー20周年×ザ・シンフォニーホール開館40周年 上原彩子プレミアム・リサイタルで弾いたピアノかもしれません。黒のドレスで登場。前座の二人との格の違いを見せつける演奏で、音符の粒がはっきり聴こえて、3人の中で打鍵が一番はっきりしています。そもそもこの曲を暗譜で演奏すること自体がすごい挑戦です。
第2番と第3番に比べると、圧倒的に第4番は知名度が低いですが、 鈴木英史作曲の吹奏楽曲「セルゲイ・モンタージュ」(2009年)で断片的に使われています。ラフマニノフのオーケストラの使い方は下手になったとは言わないでも、複雑すぎて唐突なところがあり、音楽の流れが断ち切られそうなところがあります。オーケストラは弦楽器が埋もれがちで、メロディーがもっとしっかり聴こえてほしかった箇所がありました。打楽器は5人とティンパニの6人でした。
第1楽章200小節(Tempo precedente)からはオーケストラがもっと暴れてほしい。最後の2小節は、上原がややリタルダンドで演奏。第2楽章は上原のソロだけでも聴けるレベルです。48小節でホルンが爆発。休みなく第3楽章へ(スコア通り)。398小節からの上昇音型×3回がブルドーザーのような威力。
カーテンコールでは、福間、松田、上原と現田がそろって登場。16:30に終演しました。

上原彩子は、「上原彩子 ピアノ・リサイタル」(2023.11.23 ザ・シンフォニーホール)でオール・ラフマニノフ・プログラムを演奏します。また、来年3月から「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会」がスタートします。上原彩子がベートーヴェンを弾くとは期待が膨らみます。

ラフマニノフのピアノ協奏曲は、過去には、横山幸雄が一人で3曲(第2番、第3番、パガニーニの主題による狂詩曲)を演奏したことがあり(2021.11.20 横山幸雄 ドラマティック・コンチェルト ~魅惑のオール・ラフマニノフ~)、十分すごいと思いますが、なんと今年9月に、パガニーニの主題による狂詩曲を入れて5曲を1人で演奏するピアニストが2人もいます。一人目は、ミハイル・プレトニョフで、「ミハイル・プレトニョフ ラフマニノフピアノ協奏曲全曲演奏会」(2023.9.13&21 東京オペラシティコンサートホール)で、2日間かけて5曲を演奏(高関健指揮、東京フィルハーモニー交響楽団)。二人目は阪田知樹で、「阪田知樹 ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会」(2023.9.17 サントリーホール)で、なんと1日(2回休憩を入れて3時間)で5曲を演奏します(大井剛史指揮、東京フィルハーモニー交響楽団)。チケットはどちらも全席完売のようです。どちらも主催はジャパン・アーツですが、企画がユニークですね。上には上がいて恐ろしい。第1番は魅力的で好きなので、5曲が演奏される機会があるのは大歓迎です。

 


ザ・シンフォニーホール

(2023.8.3記)

 
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